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12話 妖精の悪戯

僕にとって有益な話を聞かせてもらったところで、ガイルさんに切り株の前に座ってもらう。


「どうぞ、食べてみてください」


そう言ってパンケーキを勧めたのだが。


「……」


レイがガイルさんの前にある皿をジトっとした目で見ていた。

 もしや、パンケーキが減るのが気に食わないのか、果てはガイルさんにまでジトっとした目を向ける。

 ほら、そんな顔しないの。

 パンケーキはまだたくさんあるし、足りないなら焼いてあげるから。

 ガイルさんも当然、そんなレイの視線がきにならないはずもない。


「なんか、そっちのチビには嫌われてるっぽいな」


「ハハ、すみませんね。人見知りなもので」


レイのは単なる食い意地だと言わずに、笑っておく。

 けれどきっかけはどうあれ、レイが感情を表すようになったのは成長の表れだろう。

 生体兵器なので普通の人の子どものように成長するのか不安だったが、この調子だと大丈夫そうだな。

 成長祝いの気持ちを込めて、レイの皿にベラの実を一個置いてやる。

 レイは僕とベラの実を交互に見てくるので、頷いてやるとパクリとベラの実を頬張った。

 大粒だったため、小さな口で一生懸命モグモグしている。

 うんうん、たくさん食べて大きくなろうな。

 そんな感じでレイの意識がベラの実に逸れたところで、ガイルさんに飲み物のタイム茶も付けて、再度食べるように促した。


「じゃあ、ありがたく頂こうか」


ガイルさんはフォークにパンケーキを刺すと、豪快に一口で頬張った。

 そして本当に味わっているのか? と言いたくなる速さでパンケーキを飲み込み、タイム茶をあおる。


「美味い!

 俺がさっき食べた、黒パンに水だけの朝メシとは大違いだ!」


「褒めてもらえて光栄です」


ガイルさんの言い方に、僕はお礼を言いながらも苦笑する。

 黒パンというのはライ麦パンのことで、僕も日本で食べたことがあるが、少々酸味があってとにかく硬い。

 食パンに慣れた口には石のように感じたものだ。

 あれと比べたら、確かにこのパンケーキは大違いだろう。

 というか、もしかしてこの辺りでは黒パン文化なのだろうか?

 毎食硬いパンとの格闘は、ちょっと勘弁してほしいんだけど。

 それとも、ガイルさんが冒険者だから、日持ちのいい黒パンを持っていただけなのか。

 これは人里に行けたら要チェック事項だな。

 そんな風に、僕の思考がパンの種類に飛んでいると。


「ところで、ここいらでなんか変わったこととかなかったか?」


「……変わったこと?」


急にそんな話を振られ、僕は嫌な予感がしつつもポーカーフェイスに努める。

 ガイルさんは僕の様子を気にした風でもなく、話を続けた。


「おう、ここの森で急に一直線に木が切り倒されただろう?

 近くの村から情報が入って、何事かってんで俺が調査に駆り出されたわけだ」


薄々そうだろうな、とは思っていた。

 やっぱりこれって異常事態だよね。

 そしてこのカマイタチさんは村近くまで行ってしまったのか。


「そうなんですね。

 僕は初めてこの森に入ったので、最初からこんなものかと考えてました。

 村に被害とかは?」


「いや、ないみたいだぞ?

 しいていえば家畜が興奮して暴れたくらいか。

 で、ここでテントを見つけたから、起きているなら話を聞いてみようかと思ったんだが、なんかしらんが近付けなくてなぁ」


「そうなんですね、不思議だなぁ」


僕は村に被害がなさそうなことにホッとしつつ、話の内容自体はスルーする。

 ここはなにも関係ないで押し通すんだ。

 だからレイ、こっちをじぃーっと見上げたらいけません。

 怪しまれるでしょうが。

 しかしガイルさんは、僕らのそんな様子をあまり気に留めなかったらしい。


「でも、木が倒れている以外は特になんにも異常がないし。

 これは妖精の悪戯かもな」


最後にはそんなことを言った。


「なんですか、妖精の悪戯?」


ガイルさんの口から出るには、ファンシーな響きだなぁ。

 そんな風に驚く僕に、ガイルさんの方も驚いていた。


「あ? お前の住んでたところだと言わねぇのか?

 意味の分からん現象のことを、このあたりじゃあ『妖精の悪戯』って言うんだ」


なるほど、それは今の僕にとって有り難い言葉があったものだ。


「なるほど、妖精の悪戯ですか。言い得て妙ですねぇ」


僕は「フフフ」と笑ってタイム茶を一口飲む。

 だからレイ、僕の脇を指でツンツンしてはいけません!

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