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10話 異世界二日目

そして、朝がきた。

 昨日は夕食を食べた後に片付けをしてテントに入り、荷物に寝袋もあったのでそれに包まると、僕はあっという間に寝てしまった。

 異世界でのなにもかもが初めて尽くしに、やはり肉体的にも精神的にも疲れていたんだろう。

 そして朝は小鳥のさえずりで起きるという気持ちの良い目覚めを迎えると、既に起きていたレイに至近距離で観察されていた。

 ……することなかったんだろうな。

 それに勝手にテントの外を歩き回らなかったのはエライけど。

 目を開けたらレイのドアップって、結構寝起きからドッキリしたよ。


「おはよう、レイ」


寝袋から這い出ながら挨拶すると、レイは首を傾げる。

 ああこれは、「おはよう」がなにを言われたのか分からないんだな。


「朝起きたら挨拶に、『おはよう』って言うんだぞ」


「……おはよう」


僕の説明で理解できたのかは定かではないが、レイも挨拶をしてくれる。

 精神年齢0歳児って話だし、見るもの聞くものすべてが初めてだと思って行動した方がいいな。

 味覚なんかは慣れ親しんだものが残っているっぽいけど。

 ミールブロックを嫌がらなかったし。

 けどそんなことはさておき、寝袋とテントを片付けた僕は、そういえば昨日は風呂も入らずに寝たことに気付く。

 日本だとどんなに疲れていても、風呂だけは欠かさなかったのに。

 身体を拭うことすらしなかったのだから、よほど疲れていたんだな。


「うーん、万が一人に会った時のために、清潔さは保つようにしたい」


キャンプなんかで短期間のアウトドアだったら、家に帰るまでの我慢だと思える。

 しかし異世界で定住先すらない今、旅暮らしを前提に考えるべきだろう。

 そしてもし困った時に、身汚いせいでチャンスをフイにしてしまうのは嫌だ。

 それにそう言えば、昨日は歯磨きすらしないで寝たな。

 せっかく歯磨きに使えそうな効果のある葉っぱを見つけていたのに。

 でも、かといって毎度風呂を沸かして入るのは現実的ではない。

 風呂釜とか大量のお湯をどうするんだって話だし。

 ……いや、案外風呂釜をどこかで手に入れて鞄に収納しておき、お湯を魔術で出せばイケるのか?

 まあこの計画は追々考えるとして、問題は今どうするかだ。

 僕だけならともかく、レイは身綺麗にさせておきたい。

 不潔は病気を呼ぶこともあるしね。


「それこそ、魔術でなんとかできないか?」


というわけで考えました。

 服ごと身体をまるっと洗浄しちゃう魔術を。

 イメージはミスト浴、汚れが分解されて除菌もできる効果をつけて。最後に乾燥してフィニッシュ。

 イメージできた、よしやってみよう!


「クリーン」


そう唱えると無事魔術は発動して、ちょっとべたついていた肌や髪がサラッとなり、汗臭さもなくなった。

 よし、成功だ!

 というわけで、レイにもクリーンをかけてやった。

 うむ、美幼児っぷりが増した気がする。

 お風呂に入る気持ち良さには敵わないが、これで最低限の清潔さは保たれるだろう。

 こうして朝の身支度が一瞬で終わったところで、朝食だ。

 予定通り、ミールブロックのパンケーキである。

 昨日のかまどに火をつけて、ミールブロックを粉状にする。

 レイは率先してミールブロックを粉砕するお手伝いをしてくれる。

 こうしていると、レイにも料理スキルがついたりしてな。

 スキルってのが増えるものなのかは知らないけれど。

 二度目で手慣れたこともあり、すぐに焼きあがった。

 ホカホカのパンケーキを前に、レイの表情が若干嬉しそうに見える。

 ベラの実をたっぷりと盛った皿を切り株に置き、タイム茶とアポルジュースも用意したところで、「いただきます」を言ったら食事開始だ。

 レイは早速、上手にフォークを使ってパンケーキにかぶりつく。

 あ、ちょっとへにゃっとした顔をしたな。


「レイ、美味しいかい?

 食べて口に合うことを、美味しいって言うんだよ」


美味しいの意味を知らないかもしれないと思い、解説をつけて聞いてみる。

 するとレイは、口いっぱいにほおばったパンケーキをごっくんと飲み込んで言った。


「……おいしい」


それはよかった。

 ミールブロックはまだまだたくさんあるから、いつでも作れるからな。

 それにそんなにパンケーキを気に入ったのなら、いつか材料を揃えてフワフワパンケーキを焼いてやろう。

 味覚がミールブロックに慣れているなら、美味しすぎてびっくりするだろうなぁ。

 こうして僕がレイの可愛さに癒され、朝からほのぼのとしていると。


「……!」


突然レイがその場に立ち上がり、どこかを睨みつけるように見る。

 気配察知になにか引っかかったのか?

 けれどレイはまだ食べかけの皿を握ったままで、転んだら地面に落とす未来は確実だ。

 僕はレイの手から皿をそっともらい受けて、切り株に置いてやると、レイが睨む方向に視線をやった。

 すると――


「あー、美味そうな匂いがするなぁ」


そう言いながら森の木々の隙間からカマイタチの道へ現れたのは、若い男だった。

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