9話 パンケーキを作ろう
料理スキルについてわかったところで、早速料理だ。
あの味気ないミールブロックを、ちょっとアレンジしてみることにする。
作るのはパンケーキ。
ミールブロックを砕いて水で溶かし、それをフライパンで焼くだけの簡単調理だ。
これは僕が学生時代、なにかの懸賞でカ〇リーメイト一年分を貰ってしまい、それをなんとか食べつくす過程で作ったものだ。
あれを食べれば食費が浮くけど、すぐに飽きたからな。
卵を混ぜればよりフワフワになるが、なくても十分だし。
「レイ、これをぐちゃぐちゃにしてくれる?」
ミールブロックを砕くのは、レイにも手伝ってもらう。
僕は見本を見せるために、ミールブロックを袋の上からそこいらから拾った石で叩き、砕いて見せる。
「やってみな。疲れたらやめていいからね」
僕がそう言ってレイの手で掴めそうな石とミールブロックの袋を手渡すと、早速真似し始めた。
子供ってこういうぐちゃぐちゃにする作業が好きそうなイメージだけど、レイは無言無表情でミールブロックを砕いている。
淡々と作業するその様子からは、楽しいのかはわからない。
そして鬼神スキルのおかげか、三歳児にしては力が強い。
いい感じに粉々になったミールブロックを深めの皿に入れ、水筒に汲んでいた「美味しい清水」を入れて混ぜる。
ここで試しに「攪拌」を使ってみると、とてもクリーミーなミールブロックの生地となった。
これはホイップクリームやメレンゲなんかを作る時に便利なんじゃないか?
実家にいる時、お菓子作りなんかが趣味な母さんに手伝わされて、よくメレンゲ作りとかに駆り出されたけど。
翌日腕が筋肉痛になってヒーヒー言ってたもんだ。
でもあの苦痛が無くなるのは素晴らしい。
フワフワのお菓子は結構好きだし、材料が手に張ったらぜひ試してみよう。
「よし、じゃあいよいよ焼くから、レイは火傷しないようにちょっと離れていような」
フライパンを取り出した僕は、油跳ねからレイを守るため、かまどからちょっと距離を取らせる。
するとレイは気になる様子だがちょっと後ろに下がった。
ではいよいよ焼こう。
まずは森で採取していた「オラの実」という、オリーブに似た実を手に取る。
これに「抽出」を使うと、思った通り透き通ったオイルが絞れた。
このオラの実オイルを熱したフライパンに回し入れると、オラの実のいい香りがした。
これはいいオイルだな、実のまま持っておけば持ち運びにも便利だし、見つけたら採っておくか。
そう考えながら、オイルが熱されたところでミールブロックの生地を注ぐ。
ジュワァァ……
生地の焼ける美味しそうな音と香りに、離れていたレイがちょっと距離を詰めてくる。
今日一日頑張ってたくさん歩いたし戦ったりしたから、お腹空いたよな。
そんな空腹にこの音と香りはちょっとしたテロだろう。
「すぐ焼けるから、もうちょっとの我慢だぞ~」
レイに声をかけながら、フライ返しがないので皿を使ってなんとかひっくり返し、両面焼けたところで皿に盛りつける。
これにベラの実をちょっと潰してジャムみたいにして添えれば、あの味気ないミールブロックがお洒落なパンケーキに変身だ。
「お、なかなか美味そうにできたな」
異世界初料理を失敗せずにできたので、ちょっとホッとする。
ドリンクもコップに出してナイフでカットしたベラの実を浮かべれば、スイーツに見えなくもない。
水分補給も大事だし、日が暮れだして冷えてきたので温かい飲み物が欲しい。
なのでお茶にいいのがないかと今日採ったものを見ていたら、薬草の中にタイムという日本のハーブのタイムそのままなのがあって。
「風邪、心身の疲労回復効果あり。お茶によい」とあったので、鍋でお茶にしてみた。
オレンジっぽい香りがして、なかなかいい感じである。
このタイムはお茶のために持っておこうかな。
こうして出来上がった食事をテーブル代わりの切り株に並べたら、レイと向かい合って座った。
「ようし、じゃあ『いただきます』をしような」
僕が手を合わせてそう言うと、レイは不思議そうな顔をする。
そういえばあの昼食兼朝食の時は心の中で唱えたから、レイは知らないか。
「ごはんを食べる前に、野菜なんかを育てた人への感謝だったり、僕らの糧となる命への感謝を込めて、いただきますって言うんだよ」
難しいかな、と思いつつもそう説明すると、レイはわかったような分からないような顔をしているものの、僕の真似をして手を合わせた。
「いただきます」
「……いただきます」
僕が言った後に続いたレイは、「これでいい?」と言いたげに見上げてくる。
それに笑顔で頷くと、レイは心持ち明るい顔になった。
お、ちょっとは感情が出るようになってきたか?
「じゃあ、食べようか」
僕がパンケーキの盛られた皿を手に持つと、レイも同じようにする。
うーん、一人二枚焼いたんだけど、レイにはちょっと量が多いか?
「食べきれなかったら残していいからな、僕が食べるし」
一応無理して食べないようにそう言い聞かせると、レイはふるふると首を横に振った。
どうやら「全部食べれるぞ」と言いたいらしい。
事実レイは食べ始めたら黙々と、しかし着実にパンケーキを削っていき、結局全部食べてしまった。
そして空の皿をじぃーっと見つめている。
多分美味しかったから名残惜しいのだろう。
作った僕としては嬉しい限りだ。
「明日の朝食も、これがいいか?」
そう尋ねると、レイがコクコクと頷いた。





