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三グルデンの少女

「いやいや、いい働きだったぞ」


 ファラが差し出した金鎖を数えながら、ペトロ・コステロは緩む口元を隠しもせずにそう言った。


「そう」


 ペトロの興奮気味な様子とは反対に、ファラは流した髪を後ろ手に結い上げながら興味なさそうに返事をした。


「ちっ、もう少し喜んだらどうだ? たったの一仕事でこれだけの金だぞ。あとどれだけこの土地で稼げるか考えたら……ゾクゾクするな」


 ペトロは金鎖に口づけをすると、いそいそと鎖の束を懐にしまい込んだ。

 この髭に白いものの混じった禿頭の男ペトロはファラの所属する旅芸人一座、コステロ一家の団長であり、また彼女の所有者でもあった。


「まったく、お前はいい買い物だった。三グルテンがこうも大化けするとは、てめぇの親でも思いはするめぇ」


 笑うペトロから顔をそむけ、ファラは窓から外を見た。

 夜宴の奏楽が聴こえる。ファラとペトロがいる控えの小部屋からは、一座の仲間が火吹きの曲芸を披露している姿が見えた。炎が一瞬膨らんで、夜闇を開いてまた閉じる。

 コステロ一家は大砂漠を渡り、北の地からここインティ・パチャを訪れていた。大砂漠に隔てられた南北の交流は、砂漠の民の活動を介して古くから続いていたが、直接の交流はほとんどなく、南の地に北の人間がやってくるなど滅多にないことだった。

 そのため北の地の、さらに芸人という珍しい人々の訪れを知った、この地の(カパック)トゥパク・ユパンキは彼らを宴の余興として宮殿に招いたのだ。


「苦労して砂漠を越えた甲斐があったってもんだ。途中で死んだバルクやユーリアは運が足りなかったな」


 答えないファラに構うことなくペトロはその肩に手を乗せ、並んで窓に立つ。


「ファラ、お前は本当に運がいい。トゥパク様は北の娘をいたく気に入られたようだ」


 ファラがペトロの顔を見上げる。ペトロは黄ばんだ歯を見せ笑い、節くれだった指でファラの髪を撫でた。


「今夜はもう一仕事してもらうぞ」


 月に照らされるファラの顔は(しろ)く、ただ無言にペトロの武骨な手で髪を撫でられ続けた。

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