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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第一章
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館内

 またもや階段を降り、玄関前に到着すると、ハインがくるりとこちらに向き直る。


「では、説明致します。

 我々は、領主の館を本館。ここを別館と便宜上言い分けておりますが……」


 玄関を入ってすぐ右側に扉がある。つまり俺の部屋の下であり、階段の手前なのだが、ここは領内の仕事を一貫して行う、言わば仕事部屋だ。とりあえず執務室と呼んでいる。

 ガチャリと扉を開けると、壁一面が書棚。そして執務机が幾つか。それだけの殺風景な部屋だ。

 一応来客用の小部屋があったり、来客用の食器棚があったりしているが、使った試しは無い。普段はもっぱら、自分たちがお茶を飲むのに使ってる自分用の器しか出番がない状態だ。


 次は反対側。玄関から左側になる扉だ。ここは先ほど朝食を食べた食堂がある。 正直二人で食事をするには広すぎるのだが、その先の調理場と繋がる部屋はここしかないので、ここで食事をするしかない。


「調理場は先ほど入りましたからね、説明は省きます。

 奥に扉が三つありますが、一番左が勝手口。外には井戸と不浄場がございます」


 不浄場……簡潔に言うなら厠です。貴族はその辺、遠回しです。

 出さなきゃ生きていけないんだから、汚いとか思わず受け入れれば良いのにっていつも思うのだが。何故か拘るんだよな。


「中央の扉。こちらは貯蔵庫です。

 貯蔵より倉庫としての利用の方が多い気がしますが」


 二人分の食料を詰め込むにしては大きすぎるしな。

 今は、食料より、大人数対応の大きすぎる鍋や(たらい)などがここに片付けられ、食料より幅を利かせている。

 俺やハインが煮込めそうな大きさなのだ。

 そして、一番右の扉は廊下に繋がっている。そのまま進むと、玄関広間に通じているのだが、使用人が食堂を迂回しつつ、調理場に行くためのものだ。また、階級の低い見習いたち用だったろう小さな部屋がいくつか連なっていた。執務室の奥となるこの廊下の対岸も、反転しただけで同じ造りとなっている。


「一階で利用しているのはこれくらいですね。来客時のために、一部屋は片付けてありますが、使ったことはありません。サヤの部屋が今日中に準備できなければ利用しましょうか」


 あったのか、来客用の部屋⁉︎

 まさかそんな部屋が用意されていたとは……。

 俺までびっくりしたような顔をしたからだろう。ハインが溜息を吐きつつ「念のためですよ」と言う。


「では、次は二階ですね。その前に質問は? ……無いのですね。では向かいましょう。

 といっても、先程のレイシール様の部屋と、その向かいの私の部屋くらいしか利用がありません。紹介するまでもありませんね」

「そうだなぁ。俺の部屋の、すぐ斜め向かいの扉がハインの部屋だよ。

 後は適当に部屋を巡って、サヤが自分の部屋にしたいなと思う所を決めたら良いんじゃないか?」


 そう言いつつ二階に上がる。

 まさしく、つい先ほど出て来たばかりの俺の部屋と、斜め向かいの扉がハインの部屋だ。あとはハインの部屋の隣を物置として使っているが、それくらい。

 まずは俺のすぐ隣の部屋を開いた。

 俺の部屋に比べると少し狭くなるが、大きな部屋一つに、小ぶりな部屋が二つ付いた間取りは変わりない。この建物の二階は、奥に向かうにつれ、部屋のサイズが少し小さくなり、設備も少しずつ落ちていく。使用人の地位によって部屋が選びやすくなっているのだろうか……。


「とはいえ、サヤは女性だもんな……俺たちの部屋に隣接するのも嫌か」

「では、階段の反対側にしますか?

 隣には変わりありませんが、音などは伝わりにくくなるでしょうし」


 ハインがそう言って、玄関広間上の渡り廊下を挟んだ先。そこに見える扉を指差す。

 玄関広間の上部は吹き抜けになっていて、壁際に渡り廊下があるだけだ。

 ほどほど近く、だが離れている。出来るなら生活圏から離れすぎない方が不自由しないだろう。


 渡り廊下を進み、俺の対岸となる部屋の扉を開く。

 先程の部屋より大きく、俺の部屋よりは若干小さい。だが暖炉を据付けた石畳があり、日当たりも悪くない。大窓や露台も備えてある。

 確かここは、部屋が三つ付いてたんだっけな。そう思いつつ中を確認すると、扉が三つ、壁に並んでいる。ほぼ一年半ぶりに見たが、記憶違いでは無かったようだ。

 サヤを中に促し、部屋を確認するように言うと、恐る恐るというように入ってくる。

 ぐるりと部屋を見渡して、窓側の扉を開き、中を確認する。

 そして、次は真ん中の扉だ。


「あれ……この扉の部屋、小部屋同士でも繋がってるみたいです」


 明らかに隣の部屋がある場所に、もう一つ扉が付いているようだ。


「多分衣装部屋だと思いますよ。

 女中頭の部屋だったのかもしれませんね。……ほら」


 扉の中を確認したハインが、当たりでしたと場所を譲ったので、俺も中を確認する。

 とても小さな、部屋というより廊下のような狭い空間だ。

 そして、小部屋から扉を開けたサヤも顔を覗かせる。

 この小部屋には壁から壁に向けて鉄の棒が数本刺さっている。


「すごい、ハンガーラックが据え付けてあるんですね」


 ハンガーラック……? この鉄の棒のことだろうか……。


「衣装掛けですね。サヤの所ではそう言うのですか」

「はい、こんな作りの部屋を、ウォークスルークローゼットって言いますね。

 他の部屋と繋がってない場合はウォークインクローゼットです」

「なんでそんな長い名前なんだ……」


 サヤの世界と共通の言葉を使うのに、随分と内容に違いがあるようだ。何故そうなのか不思議でならない。

 とりあえず謎は解消されたので、先ほどサヤが見ていた窓側の小部屋も確認する。

 こちらは窓付の、普通の小部屋だった。なんの変哲もないなと思い、すぐに出る。

 するとサヤが、なんだかワクワクしたような……キラキラした瞳で部屋を見渡しているのが目についた。


 衣装部屋で気分が上がるのか? 女の子ってみんなそうなのかな……。


 それとも、この壁紙? 俺の部屋のは味気ない生成色に淡い緑の蔦柄だったけれど、ここは生成に水色で縦に線が引いてあるだけの壁紙だ。まあ、色合いが可愛いといえなくもないかな。


「ここにする?

 それとも、他の部屋も見てからにする?」


 俺がそう聞くと、サヤはハッとした表情になり、若干申し訳なさそうにしつつこう言った。


「あの、本当に……こんな良い部屋を使って良いんですか?」


 そう聞くのだが、顔は完全に期待する顔だ。


「ここを使ってくれるなら有難いですね。

 掃除する廊下が短くて済みます」


 現実的なハインは、サヤが廊下のずっと先の、離れた部屋を選ぶのではと懸念していたようだ。

 まあそうなったら……確かに、掃除する廊下は長くなる。長くなるが……問題点はそこなのか?

 まあハインらしいといえばらしいかな。

 苦笑しつつ、俺もサヤに言った。


「うん。誰も使ってないんだから文句も出ないよ。

 少なくとも、俺やハインではあの衣装部屋は使わないでいたろうから、使ってやったほうが部屋も嬉しいんじゃないかな?」


 俺がここに移り住んだとき、一応部屋を確認して回ったのに、全く衣裳部屋を意識してなかったしなぁ。

 俺の返事で、サヤの気持ちも固まったらしい。

 もう一回部屋を見渡してから、俺に向き直り――。


「ここが、良いです」


 その表情にドキッとしてしまった。

 泣いたり、困り顔が殆どだったサヤの表情が、今日一番、輝いていたのだ。

 うっすらとした微笑みではなく、ああ、嬉しいんだと、ちゃんと分かる笑顔。

 純粋に可愛いなぁと思い、俺に向けられた笑顔だと意識すると途端に恥ずかしくなってしまった。


 いかん。なんか、男を相手にするのと勝手が違うな……。

 学舎で人と接していた時は、こんなことなかったんだけどな……。


「じゃあ部屋は決まりましたね。

 家具の入っていない部屋で良かった。掃除が早く済みそうです。

 それでは、掃除道具を持ってきますから、ここから全員で掃除をしますよ」

「えっ? 全員……レイシール様もですか?」

「今日中に寝台くらいは入れないといけないし、俺、掃除はまあ得意だよ」

「使えるなら使います。ここは人手が足りないので」

「そういうこと」


 たった二人しかいないのだ。全部の掃除をハインにさせていたのでは間に合わない。

 それに、学舎では掃除のやり方も習うし、ハインという従者を持つまでは、寮の部屋も自分で掃除していたのだ。


「まず掃き掃除。そして床磨きですね。ひと段落したら客間の寝台を運び込みましょう。

 サヤのものは買い出しに行った時に注文することとなりますから」


 三人でせっせと手は動かす。

 まず上部の壁や梁から埃をざっと払い落とし、床を端から掃いていく。

 板張りの床は艶があり、痛んでいたり腐っていたりする部分も無い。

 当時の領主は、使用人の建物にとてもしっかりした材木を使ったようだ。築年数は長いのに、傷んだ部分はほとんど無い。会ったこともなければ名も覚えていないのだが、なんだか好感が持てる人だなぁと思う。

 使用人のために、値の張る木材を使用し、歪みがあるとはいえ、硝子まで使っている。

 全ての部屋ではないが、暖炉を置く場所まであったりする。使用人の生活を考えた上で作られた建物だと、きちんと感じる造りなのだ。


「あっ……」


 サヤの慌てた声で、思考は中断された。

 雑巾を絞っていたサヤが、何故か絞ったまま捻り千切ってしまったよう。

 ありえないというふうに愕然としている。


「サヤ、(ほうき)と交代しよう」


 俺がそう声をかけると、情けない顔で「違うんです、いつもはこんなじゃないんです……」と手の中の雑巾を申し訳なさそうにたたみ直す。

 だから俺は笑って「大丈夫。力加減に慣れてないだけだよ。そのうち出来るようになる」と言って、サヤに箒を手渡した。

 雑巾を絞る。この庶民なら当たり前のことができない貴族は多いのに、サヤは戸惑ったりもしなかった。

 それだけで、掃除ができると言ったサヤの言葉が嘘でないことは分かる。


「サヤの世界より、ここの世界のものが脆いだけなのかもしれない。

 サヤは、普段と違う感覚がするの?」

「ん……よく、分かりません……。

 力を入れると思いもよらない結果が出るというか……。

 人間は本来出せる力の半分以下しか使えないようになっているって習ったことがありますけど、そのリミッターが外れてしまっているような……」

「……普段は本来の力が使えないの?」

「全力を出すと、身体が負荷に耐えられなくて傷付いてしまうそうですよ。

 だから、それに構ってられない本当にピンチの時なんかは、リミッターが外れて力が出たりするそうです。火事場の馬鹿力って言われるものはそれだって」

「ふぅん……」

「……私、ピンチだって思ってるんでしょうか。だから、普段より力が出るのかも……」


 力を入れすぎないように意識しながらなのか、羽を扱うようにそっと箒を握ってサヤが言う。

 眉間にシワを寄せて、ハインみたいになってしまっている。


 若干分からない単語が含まれた会話だったが、なんとなく意味は伝わった。危険を感じているから、力の(たが)が外れているみたいな感じか?

 サヤはとても不安そうにしている。けど、そんな深刻に悩むことかな?

 それよりも……サヤって物凄い博識だったりするのかな? 難しそうなことを当たり前のように話す……。

 知識といい、勇者ばりの武術の腕といい、十六歳の少女にはあるまじき経験を積んでいるようだ。

 一年が三百七十日ではないのかな? 五百日くらいあるとか?


「まあ、そうだとしても、そうじゃないとしても……サヤはそんな、心配そうにしなくて良い。

 人よりちょっと力が強いってだけの話を、なんでそんなに気にするんだ?」

「だ、だって……やっぱり気持ち悪く、ないですか?」

「全然気持ち悪くない。おお、凄い。くらいは思うけど。

 まあもし不安なら、後で自分にどんな力があるのか、一通り試してみたら良いんじゃないかな?

 全貌が見えないから不安なんだよ。

 きちんと把握すれば、怖くなんてなくなると思うよ」


 そう言ったものの、やはり不安そうなサヤ。

 その様子に、俺はちょっと、自分の弱みをチラつかせることにした。

 人は、頼られると嬉しい。俺が頼りにしてると思えば、サヤの不安も少しは救われるのじゃないかと思ったのだ。


「俺、右手が少し不自由なんだよ。

 生活に困るほどじゃないけど、重いものはあまり持てない。

 だから、サヤが力持ちだととても助かるけどな」


 九歳の時怪我をして、以来薬指が思うように動かないのだ。

 びっくりした。

 今まで当たり前にしていたことができなかったり、握れたはずの剣がきちんと握れず、手からすっぽ抜けたり……自分はどうなってしまったのかと、恐怖に駆られた。

 けれど、やれることを一通り確認して、納得できれば、そんな不安でもなくなったんだよな。

 人よりちょっと不便になったけれど、できないことばかりじゃない。少しずつ訓練して、多少は使えるようにもなった。

 今は不自由も感じていない。そのぶん、ハインが手を貸してくれる。有難いことだ。

 だから、自分をきちんと理解すれば、きっと怖くなくなると思う。


「まぁ、女の子に頼るのもどうかと思うんだけども」


 そう言って茶化すと、サヤは少し笑った。

 その向こうで、話を聞いていたハインの表情が険しくなる。

 ハインは俺の不便になってしまった右手の責任が、自分にあると思っているのだ。

 そんなことはないと、ずっと言ってるんだけど、自分で納得できない。だから、俺に自分の全部を捧げようとするのだ。

 指一本で全身捧げられてもなぁと、思うのだが、ハインはいたって真剣だ。

 言葉遣い一つ身に付いていない孤児の身から、数ヶ月で人並みの従者になり、あっという間になくてはならない存在になった。俺みたいな平凡な人間に、こんな優秀な従者がいて良いのかと思うほどに。


「そうだ。客間の寝台を運び込む時はお願いするよ。

 俺じゃ引きずっちゃうと思うんだ。

 さすがにあの大きさを、ハイン一人じゃ厳しいから」

「はい。私、頑張りますっ」


 少しやる気が出てきたサヤを頼もしく見守って、俺は雑巾掛けを終了させる。

 ハインのところに行き、「気にしてないって、分かってるだろ?」と、声をかけるが、ムスッとした顔だ。本当なのになぁ。


「よしっ、掃除はこれでひと段落かな。サヤ、寝台を運ぼう」

「はいっ」


 一階に降りて、ハインがいつの間にやら準備して、管理していた客間に向かう。

 寝台と小机、衣装棚が一つの、簡素な部屋だ。

 案の定、俺は寝台を持ち上げられなかった……。

 なのでサヤ、お願いします。


「えいっ」

「……どうですか?」

「えっと、思いの外軽いです。縦にできたら、一人で持てるかもしれません」

「じゃあ階段はサヤにお願いかな」


 ハインと二人で廊下に運んで、吹き抜けの階段で寝台の真ん中を肩に担ぐようにして持ち上げる。

 ……絵的にえげつないな……。華奢な女性が寝台を担いで平然としてるんだから。

 結構あっけなく階段を上ってしまい、寝台を下ろすサヤ。


「素晴らしいですね。これなら部屋の模様替えが簡単です。

 後でレイシール様の部屋も整理しましょうか……」


 何故かハインが別のことまでやる気になっているから、慌てて止めた。


「俺の部屋は今良いから、早くサヤの部屋にこれを入れよう」

「そうでしたね」


 とりあえず主室に寝台を入れた。

 窓辺が良いということで、部屋の一番奥、大窓の少し手前だ。


「大きさ的には問題無いかな。

 だけど、この部屋に入れる家具は、もうちょっと柔らかい色合いにしたいよな。女の子の部屋だし」

「そうですね。できるだけ色の淡い木材で探してみますか。

 飴色は艶があって好きですが、この部屋には重いですね」

「女の子って何が要るんだ? 鏡台? 姿見? 衣装棚はさっきの小部屋があるから要らないのかな?」

「私に聞いて分かるわけないでしょう。メバックに行くなら、ギルに相談すれば大体目星がつくのでは?

 サヤ、貴女は何か、必要だと思うものはありますか?」

「あの……私、客間にあった家具で充分です。しばらくあれをお貸し頂けますか?」


 え?


 今、色が合わないと言ったばかりなのに、何故かサヤがそう言ったので、俺たちは驚いてしまった。

 二人してサヤを振り返ると、両手をぎゅっと握って、小さくなったサヤが俯いている。

 しばらくまじまじと見つめていると、居た堪れなくなったのか、小さな声で「私物も特に無いですし……。家具は、まだ要らないかなって」と、言い訳のように言う。


 ……あ。そういうことか。


 ハインにも検討が付いたようだ。私が言いますと、俺を目で制してきた。

 はい。じゃあお願いします。


「サヤ。使用人は、主人の生活を整えるのが仕事です」

「はい」

「使用人が身だしなみを整えていなければ、それは主人の汚点となります。

 使用人の(しつけ)もきちんとできていないと言われるのですよ」


 いつもの眉間にシワの寄った怖い顔で、サヤを見下ろしながら言うものだから、威圧感が半端ない。

 サヤにはちょっと怖すぎるんじゃないかと思い、口を挟もうとしたら、ギロリと睨まれてしまった。はい、口出しは控えます……。


「つまり、サヤが身だしなみを整えるのは主人のためなのです。

 なのに、家具もまともに揃わない部屋で、それができるとお思いで?

 そこまでこの仕事は甘くございません」

「は、はい……申し訳ございません……」


 消え入りそうな声で謝罪するサヤ。

 それを確認してから、ハインはふっと肩の力を抜くようにして、声の調子を変える。


「それから、使用人を雇う時、必要なものを用意するのは、主人の義務でもあります。

 サヤは住み込みですから、当然家具も必要なものに含まれます。

 衣服も、化粧品も、職務に必要なものは全てです。

 遠慮などして仕事に支障を来すなどあってはなりません。

 それを肝に命じてください。必要なものは買い揃えます。良いですね?」

「は、はい」


 理路整然と家具が必要だと言質を取ったハイン。素晴らしい腕前です。

 そして多分、遠慮するであろう、服や化粧品に関しても納得させました。無駄がありません。

 これで良いですか? と、視線を向けてきたので、こくこくと頷いておいた。

 これはあれだな……後でサヤがゴネたら、あの時きちんと説明して納得したはずですが。と、威圧してくるに違いない。怖いから、サヤが遠慮しそうだったら注意してやらないと。


「納得したのなら宜しい。

 さて。部屋の準備が思いの外早く済みましたね。そろそろ昼食の準備に掛かりますか。

 サヤ、さっき仰ってた、ポテトサラダというのを教えて下さい」


 掃除をしてたら時間経過を忘れてしまっていた。

 窓から空を見上げると、太陽が中天に差しかかろうとしている。

 確かにもうじき昼だ。朝食が遅くなったからか、腹もあまり空いておらず、全然気づかなかった。

 料理の話になると、途端にハインの表情が柔らかくなる。


「材料は何が必要でしょう」

「ジャガイモ、卵、ベーコンは……あ、塩漬け肉で良いです。人参や胡瓜は? 人参は無いんですか……。いえ、無くても大丈夫です。玉葱を入れると少しピリリと引き締まった味になりますけど、使いますか?

 あとは塩、あれば胡椒。朝食で使ったマヨネーズの残りですね」


 途端にサヤもハキハキと答え出す。

 食事までどれくらい時間がかかりそうかと質問すると、半時間程度で良いと言う。

 じゃあ俺は、部屋に帰って少し休憩するよと伝えておいた。俺が調理場に入るのをハインは嫌がるのだ。何故かというと、手持ち無沙汰な俺がやたらと手伝おうとしたからなのだが……。


 サヤの部屋を出て、階段で別れて自室に戻る。

 書類仕事は朝に終えてしまっているし……やることが無いなぁ。


 それでふと目についた、学舎時代に使っていた教科書を書棚から取り出し、頭から読むことにした。

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異世界転移して最初に困るのは寝る場所(住居)だと思うので、レイシールさんのところで住み込みで雇ってもらえるのは本当にありがたいと思います(*'ω'*) しかも部屋も好きなところを選ばせてもらえたり、家…
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