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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第三章
52/515

分岐

「簡単なことなんですよ。レイ様の存在を国内に知らしめるだけです。

 誰かが傷付くわけじゃない。路頭に迷うわけでもない。

 みんなが幸せですよ。異母様達を抹殺したりもしませんし」


 無機質な声音で顔だけ笑ってマルが言う。

 だけど俺は、まるで悪魔に交渉を持ちかけられているような心地だった。


 マルの言うことが、そんなに簡単なことでないことは分かってる。しかし、なんの意図でもってそんなことを言っているのかが分からない。


「やる事も変わりませんよ。氾濫対策を進めるだけです。ひとつ重要なのは、きちんと成功させることですね。

 それさえ出来れば、工事の終わりに貴方はセイバーン家の二子なんてものではなく、レイシール・ハツェン・セイバーンとして存在を認められてます。

 そうするとあら不思議、異母様がたは貴方を日陰者に出来なくなるんですよ。下手をしたら貴方が領主に成り代わりかねない。けれど、そこは譲って差し上げれば良いんです。領主に相応しいのはフェルナン様ですと。

 建前の身分なんてどうでも良いので、名を捨て、実を取りましょう。一見、フェルナン様の元に貴方がいるという形で面目を保ちつつ、貴方がいなければ、フェルナン様が立ち行かない形に収めるんですよ」


 ペラペラと動く口が怖い。

 マルの言っていることの意味が分からない。俺の名を知らしめるって何? なんでそんなことが必要なの。


「あー……混乱されています? レイ様、なんだか蒼白になってますよ」

「なんっで、そんなこと……」

「なんでって、レイ様の境遇改善の為じゃないですか。変なんですよ? 持つこと、望むことを許されないって、正常なことじゃないんです。

 だいたい、妾腹出の方なんて山といるでしょう。ルオード様だってそうでしょうに」

「違う! 何故今、今この忙しい時にそんな……今になってそんなこと……!」

「何故って、やっと貴方が異母様に逆らうみたいですし、状況が良い具合に利用できそうでしたし……まあ、要は条件が揃ったからですよ。

 いつかはとは思ってましたけど、貴方の気持ちが伴わなければ意味が無いことですし」


 マルに何を聞いても、気持ち悪さが拭えなかった。

 怖い、マルは一体何を言っているんだ⁉︎ 俺はそんなこと、望んでない……。そんな、そんなことをしたら、どんな恐ろしい結果が招かれると思ってるんだ⁉︎


「駄目だ! そんなこと、しなくていい!

 余計なことは考えるな、状況をかき回すようなことをするな!

 俺はこのままで良いんだ。折角保っている均衡を、崩すような真似は……これ以上……これ以上、酷い状態にしないでくれ‼︎」


 頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 過去の自分が犯してしまった過ちが、マルや、ハインや、ギル、サヤに降りかかるさまが、恐ろしいほどの現実感をもって想像できてしまった俺は、もうほぼ飲み込まれかけていた。

 嫌だ! もう誰も壊したくない、失くしたくないのに‼︎ あんな風にしたくないのに‼︎


 いってごらんなさい。さあ、これをどうしたいの。

 あら、そんなにたいせつなの。あらあら。そんなにたいせつなのね。

 どうしましょう。わるいこのあなたが、なにかをてにできるとおもっているだなんて。

 あなたはなにももってはいけないの。あなたはうばってうまれたあくまのこ。

 うまれちゃいけなかったのにうまれたのよ。そんなあなたが、これいじょうなにがほしいというの、なんてあつかましいの。

 うすぎたないめかけばらのあくまのこ。あくまみたいなあのこむすめのこ。あのひとのちがあなたのなかにあるだなんて、ゆるせるとおもっているの。ゆるされるとでもおもっているの。

 なんどいえばわかるの。どうすればりかいするの。あなたはもってはいけないの。なにひとつのぞんではいけないの。それがわからないなんて、これだけいいきかせてもわからないなんて、どうやっておしえれば、りかいするの。もっといたければ、おぼえるのかしら。

 なんでわからないの、なんどめだとおもってるの。どうすれば、りかいするのかしら。

 あらあらかわいそう、あなたがもったばっかりに、あなたがのぞんだばっかりに、こんなことになってしまったのよ。

 ああぁぁかわいそう。あなたのてをとったばっかりに、こんなことになるなんて。

 かわいそうかわいそう、あなたがわからないばっかりに、りかいしないばっかりに、こんなことになるなんて。

 ほんとうしょうわるねぇ。あくまそのものね。これでいくつ、あなたのためになくなったのかしら?


 薄ら笑いを浮かべて、俺の所為だと言い含めて、また刈り取るために、拳が、刃が、振り上げられる……⁉︎


「レイ」


 座り込みそうになった俺を、サヤが抱きとめてくれ、頭に手が回された。更にもう一つ、添えられたサヤより大きな手が、背をゆっくりとさする。


「レイシール様、部屋に戻りましょう。すこし、休憩された方がよろしいかと。

 歩けないなら、担ぎ上げていきますが、如何なさいますか」


 淡々と、冷静な声音でハインはそんな風に問うてきた。

 優しくなく、けれど冷たくもない。俺がどんな風であっても関係ない、いつも通りにするハインに、不思議と気持ちが救われる。


「……ある……け、る……」

「そうですか。ではサヤ、反対側を支えて下さい。部屋に戻ります」


 右腕をハインに掴まれ、左は、サヤの肩に回された。サヤの身体が、俺に添うように寄せられて、行きましょうと、優しく声を掛けられた。

 そのままギルと、マルを置いてきぼりにして、逃げるように応接室を出た。

 部屋まで無言で歩き、ハインが扉を開けて中に促す。そのまま寝台に運ばれて、縁に座らさせたと思ったら、背中に羽織が掛けられた。

 サヤがそっと離れ、お茶の準備をしてきますと部屋を後にする。

 しばらく沈黙のまま時間を過ごし、頃合いを見計らったかのように、ハインが俺の前に膝をついて、顔を覗き込んできた。


「レイシール様、私も、もう耐えられません。

 貴方は何も仰って下さらない。だから私達は、貴方が何を恐れているのかが分かりませんし、このままで良いという考えにも納得ができません。

 このままで良い訳がないでしょう。

貴方はどんどんそうやって、崖っぷちに身を寄せていく。それを私たちは、いつまで黙って、見守っていれば良いというのです?」


 お前まで、そんなこと言うのか……。


 聞きたくなくて、顔を背けると、両側から顔を掴まれて、無理やり前を向かされた。

 目を瞑ると、開けないならこじ開けますが、と、冷たい声で否を突きつけられる。

 嫌々、仕方なしに薄目を開けると、ハインはいつもの怖い顔ではなく、眉の下がった、泣きそうな顔をしていて、冷たい声とは裏腹な、慰めるような眼差しで俺を見ていた。


「貴方が私たちを傷付けたくないと、そう考えて下さっているのは、重々承知しております。

ですが、私たちの気持ちを、貴方は理解して下さいませんね。私たちが、同じように思っていると、何故気付いて下さらないのです?

 二年前もそうでした。私を置いていく。新しい主人を探すからと言われた私の気持ちを、貴方は考えましたか……。身体さえ無事なら、良いとでも言うのですか?

 私は……心臓を引き千切られる心地でしたよ」


 ハインの言う二年前が、俺の脳裏に鮮明に蘇った。

 セイバーンには連れ帰らない。ここで新しい主人を見つけるからと言った時だ。

 俺以外に仕える気は無い、要らぬなら、短剣で喉を突けと、ハインは言った。

 手を煩わせるなら、自分で処理をすると腰の剣を引き抜いて、首に当てたのだ。

 慌てて止めた。なにを考えているんだと怒った。しかしハインは冷笑を浮かべて言ったのだ。「貴方が要らないというなら、それまでなのです。私の命は、本来ならとうに、終わっていますから」と。


 あれは、脅しでもなんでもなく、ハインの、本気だったのだと、俺は今更気が付いた。

 本気で死ぬつもりだったのだ。俺に全部を捧げているというのは、言葉通り、本当に全てだったのだ。

 目を見開いた俺に、ハインはやっと分かったのかとでも言うかのように溜息をつき、目を細めた。そして、優しい、微笑みを浮かべたような顔で、恐ろしいことを当たり前のように言う。


「そして今も、そうですよ。

 このままで良い筈がないのに、このままで良いと言う貴方が憎い。

 私たちは、まだ苦しまなければいけませんか。私は九年、ギルは十二年です。まだ苦しみ足りませんか。貴方が恙無く、笑って過ごせるようにと望むことが、そんなにいけないことですか」


 勝手に涙が溢れてきた。

 ギルやハインに申し訳なくて……自分のことしか考えてなかった自分の不甲斐なさに、罪悪感に、涙が止まらなくなった。

 そんな俺を見つめたまま、ハインは言うのだ。


「止めても構いませんよ。貴方が本当に、心からそう願っているのなら、私が止めます。

この計画を全て無しにして差し上げますよ。そのかわりに、私は、ずっと、苦しいままです。貴方を救える機会を台無しにしたことを、ずっと後悔して苦しむでしょうね。

ですが、それでも貴方が望むことなら、叶えます。貴方の言う通りにします。私は、その為に生きているので」


 本当にこいつ、悪魔か。なんで悪辣な取引を持ちかけてくるんだ。

 なんでそんな、普段滅多にしない優しい顔で、そんな恐ろしいことを言うんだ。

 返事ができない俺を、優しい笑顔のまま見上げてくるハインが憎かった。

 みんなどうしてしまったんだ。

 なんで急に、そんな風に、俺の望まない話を、押し付けてくるんだ。

 こんな風に脅して、苦しめようとしてくるんだ。

 俺は、みんなを苦しめたくないだけなんだ。失くしたくないだけなんだ。なのになんで分かってくれないんだ。


 こんこんと、訪を告げる音がして、扉が開かれた。

 サヤだ。盆に乗せた茶器を持って部屋に入ってくると、机に盆を置き、急須からお茶を注ぐ。香草茶であったようで、優しい香りがふんわりと部屋を満たしていく。

 そしてサヤにお礼を言って湯呑を受け取ったハインが、それを俺の両手に握らせた。


「お返事は、明日で構いません。ゆっくり考えて下さい。

 今日は、もうお休み下さい。明日の朝食は、こちらにお持ちします」


 皆と顔を合わせたくないでしょうから……と、優しく気遣う。

 もう、やめてくれ……。

 ハインはそのまま一礼して、自室に身を引いた。

 サヤだけが部屋に残り、沈黙が続く。

 そのまま黙って、手の中の湯呑みを見つめ続けていると、手元に影が落ちた。

 サヤだ。先程のハインと同じように、俺の前にしゃがみこんで、手拭いで涙を拭ってくれた。

 さっきは相当ご立腹だったと思うのに、いつものおっとりふんわりしたサヤに戻っていた。そのことに少しだけホッとする。

 だけど困った。涙が止まらない……恐怖と、罪悪感と、何かもう色々がぐちゃぐちゃで、頭が思う様に動いてくれない。

 人目を憚る余裕もない。サヤの前だと言うのに、なんて情けない姿か。

 けれど、サヤは気にしていないようだった。涙の止まらない俺にしばらく逡巡していたけれど、ぽすんと、俺の横に座る。そして、温もりが伝わるようにとでもいうように、ピタリと俺に身を寄せた。


「……ハインさん、ほんまレイのこと、大切やて思うてはるんやね」


 肩が震えた。

 びくりと身を竦ませた俺に、サヤは眉の下がった笑顔を向けてくる。


「……もの凄ぅ、優しいなぁ……。

 ああ言えば、レイは、承知するしかない。ハインさんに脅されて仕方なくって、言い訳できる様に……仕向けてはるんやね」


 そう言われ、余計涙腺が緩んだ。

 ああ、そうだよ。分かってた。ハインがわざと、あんな言い方したんだって。

 そして、あいつは本気なんだ。俺が止めろと言えば、ギルやマルに逆らってでも、止めさせる。どれだけ二人に恨まれようが、俺のためにって、そうするんだ。

 絶対に納得出来ていないのに、自分の気持ちは捻じ曲げて、ちゃんと俺に逃げ場を用意するんだ。

 俺の為ならと、自分の気持ちも、身体も、いくらでも削っていくんだ。

 もう、耐えられませんって言ったのも嘘。あいつは、いつまでだって耐える。血反吐を吐いたって耐える。だけど、俺が縋れるように、自分がしんどいんだって、嘘をつくんだ。


 滂沱の涙を垂れ流すしかない俺に、サヤは黙って身を寄せてくれた。

 手の中のお茶が冷めきってしまうまで、ずっとそうしておいてくれた。

 触れ合う肩が、ずっと、じんわりと温かい。

 ただそうしておいてくれる、細やかな優しさが、腹の底に沈んだ重たい記憶にゆっくりと染み渡っていく。

 俺はどうしたいんだろう……。

 三人に、あんな風に言われた俺は、どうすればいいんだ?

 分かってるんだ。三人とも、俺の為にって、考えてくれたことを。動いてくれていることを。

 下手を打てば命に関わる。冗談抜きで危険なのに……当たり前のことみたいに、俺なんかの為に、手を差し伸べてくれるんだ……。

 なのに……俺はそれに、触れられない……。


 初めは小鳥だった。

 父上に送られた、小さな黄色い小鳥。あてがわれた部屋の窓辺で、鳥籠に入れて声を愛でていたのに、羽根を撒き散らして消えた。

 庭の隅で子を産んでいた猫、跳ね回っていた愛くるしい子猫たちも。

 持ってはいけないことを躾けるために処分された。

 最後の子猫、あの子だけはと庇ったら、恐ろしいほどの力で殴り飛ばされ、蹴られ、結局子猫は腕の中でぐにゃぐにゃになってしまった。

 まだ分からないのかと、何度言えば理解するのかと、朦朧とする意識の中で、そう繰り返され、俺が初めから持たなければ、みんな普通にしていられたのだと、認めるしかなかった。

 俺が見てしまったから、みんな儚くなった。愛おしいと思ってしまったから、命を奪われた。

 俺は持ってはいけない。望んではいけない。執着を知られてしまったら、また奪われる。

 もうなにも望まないと決め、感情を表に出さない術を必死で学んだ。

 微動だにしてはいけない。気持ちひとつ動かしてはいけない。言われることだけを淡々と。それが唯一の正解。たまに癇癪や八つ当たりで手酷くやられてしまうけれど、あれは仕方がない。天気と一緒。耐えれば通り過ぎる嵐。


 あやつられるまで、うごかない。それが、ぼくがだれもきずつけない、たったひとつのせいかい。

 ちゃんとやります。だから、どうか、もうまきこまないで。


「っ‼︎」


 頭の隅を、灰色の外套の、皮肉気な笑顔が過ぎり、悲鳴を押し殺した。

 恐怖と罪悪感に目頭がまた熱くなる。ごめんなさい、ごめんなさい、甘えてしまったばっかりに。

 一番思い出したくない記憶。あの人が、あの後どうなったのかを考えたくない。

 事情を知らず、俺に構ったばっかりに、儚くなってしまったかもしれない人。

 皆をあんな風にしたくない。だから、手を取るべきじゃない。


 俺はこれからもずっと、独りでいなきゃ……。


「誘拐未遂の後……。

 私な、なんもかんもが怖ぁて、部屋に閉じこもってたんや……」


 ぽつりと、ずっと黙っていたサヤが、前を向いたまま、急に語り出したので、俺の思考は止まってしまった。


「全部信じられへんかった。

 ニコニコ笑うてる大人も、無関心に、すれ違うだけの人も、大丈夫? って、心配してくれる素振りの人すらな、疑い出したらキリが無うて……。

 外に行かへん私を、おばあちゃん、心配してくれはってな。独りが嫌やったら、一緒に行こかて、ちょっとずつ練習すれば、怖ぁなくなるて、根気強くそう、話し掛けてくれてんけどな……それすら煩わしかった……。

 おばあちゃんには、私の怖さ、分からへんやろて、思うてた。誰も分かってくれへん……。でも分かられたくもないんやわ。あんな恥ずかしい、いやらしい……こと、理解されたない……知られたないって……思うてた。

 それでおばあちゃんのことも無視してな、部屋に篭ってた」


 小刻みな震えが、肩から伝わってくる。

 思い出すのが辛い記憶の筈だ。なのに今サヤは、それを口にする。


「したら、ある日な。カナくんがうちに来て、あかんって言うてるのに、部屋の扉無理矢理開けてな、来いって手を、引っ張られたんやわ。

 私、怖ぁて、凄い泣いたのに……引っ掻いたり叩いたりして、凄ぅ暴れて抵抗したのにな……全然、止めてくれへんかった。

 それどころか、来んやったら、また虐めるて脅されて、引きずるみたいに引っ張っていかれたんがな、道場やった」


 そっと、サヤを伺うと、まっすぐ前を見て、虚空を見据えていた。

 凛々しい時のサヤだ。凛と背筋を伸ばし、姿勢を正して座っている。


「凄かった。ひょろひょろのおじいちゃんが、大きな男の人をポンって簡単に投げるし、殴ったり蹴ったりしてるのに、みんな笑うとるし……。まるでほんま、異世界やった」


 そう言ってから、すっと、視線が動いて、俺を見た。俺を安心させるかの様に、微笑みを浮かべる。


「そしたらカナくんが……逃げるから怖いんやって……戦うてみたら、なんぼのもんでもない。強うなれば、怖ぁなくなるて、そう言うたんや」


 少し紅潮した頬で、懐かしそうに目を細めて。


「あの時……無理矢理にでも引っ張っていかれへんかったら……多分私は、今ここにいいひん。

 もしかしたら、まだ部屋に篭って、ずっとじっとしたまま、ただ震えとったかもしれへんなって思う」


 湯呑を持ったままだった左手に、サヤの右手が重ねられた。

 まだ微かに震える手が、少し力を入れて、俺の手を握る。


「なぁ、レイ。一緒やったら、ちょっと頑張れるような気ぃ、しいひん?

 怖ぁて、足が止まる時もな、多分ある思う……。せやけど、そん時は私がレイを守る。手え引っぱって、前に進む。

 私が怖い時は、レイが庇ってくらはるやろ? せやし私も、そうしたい」


 間近にあるサヤの顔が、美しくて凛々しい。

 微笑むサヤは女神の様なのに、とても力強く見えた。


「私、レイの罰と戦うて、言うたやろ? レイは一人で闘わんでもええんやて、言うたやろ?

 レイが私にしてくれたぶんを、私も返すんやで。レイが先にくれたんや。

 せやからな、頼って、レイ。一人で勝手に、決めんといて。さっきはほんま、腹が立ったし、悲しかった……。一言も相談してくれへんって、ないわ。

 教えて。レイは何が怖いて、思うてるん?

 私に望んで。ギルさんやハインさんや、マルさんを守ってって、レイの口で言うて。

 私、強いんやで? ちょっとやそっとのことでは負けへん。大丈夫や」


 そう言ってから、両手を広げた。

 そうして、俺の頭を、肩に引き寄せて……背中をポンポンと、優しく叩く。


 ありえない……女性に頼るって、男としてちょっと……あまりにも……。

 そう思いつつも、サヤにされるがまま、俺はサヤの肩に、額を押し付けた。

 胸が熱い。顔が熱い。さっきまで重くて苦しくて、どうしようもない気分だったのに。

 カナくんと言ったサヤに、胸が掻き毟られたのに、俺の為に蓋を開けて、苦しい過去を引っ張り出してくれたサヤに、魅了された。

 ああ、サヤだ。これがサヤだ。出会った時からこうだった。

 いつも慈しみを忘れない。どんな境遇でも、相手のことを思いやれる、気高い心の持ち主。

 こんな風になれたら……。俺も、こうあれたら……。そう思わずにはいられない。

 そして…………ギル。

 ギルの顔が浮かんだ。サヤを引っ張り出したのがカナくんなら、俺はギルだった。

 人形の殻に押し込められた俺を、叩き割って連れ出してくれた。そして今も、手を引いてくれている……。一緒になって笑って、怒って、苦しんでくれる……。


 人形に、戻りたいかと言われれば、否だ。

 ギルとの時間を無かったことにしたくない。なら俺は、進まなければならないのか。

 ここまでは手を引いてもらっていた。でもここからは、俺が踏み出さなくては、いけないんじゃないのか。

 いつまでも、ギルの背中に縋ってていいのか。

 ギルを親友だって、そう思うなら俺は……ギルの後ろではなく、隣に並ばなければ、ならないはずだ。


「サヤ……俺は多分、すぐに後悔すると思う。思い出す度に足が竦んでしまうと思う。

 そうしたら、叱ってくれるかな……自分で決めたことを、思い出させてほしい。

 俺は弱いし……。でも……自分で立ちたい……ような、気がする」


 つい逃げ腰な言葉になってしまい、早速後悔した。

 かっこ悪すぎる……気がするって……。しかもこの体勢で何言ってるんだ。

 不甲斐なさと、サヤの肩に縋ってる状態で戯言を述べている羞恥心で、よりいっそう顔が上げられなくなった。

 しかしサヤは、笑わなかった。こくりと頷く。


「うん」


 そう言ってから、背中をポンポンと、叩いたのだ。

セイバーンに進めませんでした……。次はセイバーンって、言ったのに…。

次も来週日曜日を予定していますが、難産過ぎてまだ何も書けていません。

とりあえず書き溜めれるよう、進みたいなと思います。

セイバーン…行きたいけれど……また宣言して行けないと困るので……無しで。

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