分岐
「簡単なことなんですよ。レイ様の存在を国内に知らしめるだけです。
誰かが傷付くわけじゃない。路頭に迷うわけでもない。
みんなが幸せですよ。異母様達を抹殺したりもしませんし」
無機質な声音で顔だけ笑ってマルが言う。
だけど俺は、まるで悪魔に交渉を持ちかけられているような心地だった。
マルの言うことが、そんなに簡単なことでないことは分かってる。しかし、なんの意図でもってそんなことを言っているのかが分からない。
「やる事も変わりませんよ。氾濫対策を進めるだけです。ひとつ重要なのは、きちんと成功させることですね。
それさえ出来れば、工事の終わりに貴方はセイバーン家の二子なんてものではなく、レイシール・ハツェン・セイバーンとして存在を認められてます。
そうするとあら不思議、異母様がたは貴方を日陰者に出来なくなるんですよ。下手をしたら貴方が領主に成り代わりかねない。けれど、そこは譲って差し上げれば良いんです。領主に相応しいのはフェルナン様ですと。
建前の身分なんてどうでも良いので、名を捨て、実を取りましょう。一見、フェルナン様の元に貴方がいるという形で面目を保ちつつ、貴方がいなければ、フェルナン様が立ち行かない形に収めるんですよ」
ペラペラと動く口が怖い。
マルの言っていることの意味が分からない。俺の名を知らしめるって何? なんでそんなことが必要なの。
「あー……混乱されています? レイ様、なんだか蒼白になってますよ」
「なんっで、そんなこと……」
「なんでって、レイ様の境遇改善の為じゃないですか。変なんですよ? 持つこと、望むことを許されないって、正常なことじゃないんです。
だいたい、妾腹出の方なんて山といるでしょう。ルオード様だってそうでしょうに」
「違う! 何故今、今この忙しい時にそんな……今になってそんなこと……!」
「何故って、やっと貴方が異母様に逆らうみたいですし、状況が良い具合に利用できそうでしたし……まあ、要は条件が揃ったからですよ。
いつかはとは思ってましたけど、貴方の気持ちが伴わなければ意味が無いことですし」
マルに何を聞いても、気持ち悪さが拭えなかった。
怖い、マルは一体何を言っているんだ⁉︎ 俺はそんなこと、望んでない……。そんな、そんなことをしたら、どんな恐ろしい結果が招かれると思ってるんだ⁉︎
「駄目だ! そんなこと、しなくていい!
余計なことは考えるな、状況をかき回すようなことをするな!
俺はこのままで良いんだ。折角保っている均衡を、崩すような真似は……これ以上……これ以上、酷い状態にしないでくれ‼︎」
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
過去の自分が犯してしまった過ちが、マルや、ハインや、ギル、サヤに降りかかるさまが、恐ろしいほどの現実感をもって想像できてしまった俺は、もうほぼ飲み込まれかけていた。
嫌だ! もう誰も壊したくない、失くしたくないのに‼︎ あんな風にしたくないのに‼︎
いってごらんなさい。さあ、これをどうしたいの。
あら、そんなにたいせつなの。あらあら。そんなにたいせつなのね。
どうしましょう。わるいこのあなたが、なにかをてにできるとおもっているだなんて。
あなたはなにももってはいけないの。あなたはうばってうまれたあくまのこ。
うまれちゃいけなかったのにうまれたのよ。そんなあなたが、これいじょうなにがほしいというの、なんてあつかましいの。
うすぎたないめかけばらのあくまのこ。あくまみたいなあのこむすめのこ。あのひとのちがあなたのなかにあるだなんて、ゆるせるとおもっているの。ゆるされるとでもおもっているの。
なんどいえばわかるの。どうすればりかいするの。あなたはもってはいけないの。なにひとつのぞんではいけないの。それがわからないなんて、これだけいいきかせてもわからないなんて、どうやっておしえれば、りかいするの。もっといたければ、おぼえるのかしら。
なんでわからないの、なんどめだとおもってるの。どうすれば、りかいするのかしら。
あらあらかわいそう、あなたがもったばっかりに、あなたがのぞんだばっかりに、こんなことになってしまったのよ。
ああぁぁかわいそう。あなたのてをとったばっかりに、こんなことになるなんて。
かわいそうかわいそう、あなたがわからないばっかりに、りかいしないばっかりに、こんなことになるなんて。
ほんとうしょうわるねぇ。あくまそのものね。これでいくつ、あなたのためになくなったのかしら?
薄ら笑いを浮かべて、俺の所為だと言い含めて、また刈り取るために、拳が、刃が、振り上げられる……⁉︎
「レイ」
座り込みそうになった俺を、サヤが抱きとめてくれ、頭に手が回された。更にもう一つ、添えられたサヤより大きな手が、背をゆっくりとさする。
「レイシール様、部屋に戻りましょう。すこし、休憩された方がよろしいかと。
歩けないなら、担ぎ上げていきますが、如何なさいますか」
淡々と、冷静な声音でハインはそんな風に問うてきた。
優しくなく、けれど冷たくもない。俺がどんな風であっても関係ない、いつも通りにするハインに、不思議と気持ちが救われる。
「……ある……け、る……」
「そうですか。ではサヤ、反対側を支えて下さい。部屋に戻ります」
右腕をハインに掴まれ、左は、サヤの肩に回された。サヤの身体が、俺に添うように寄せられて、行きましょうと、優しく声を掛けられた。
そのままギルと、マルを置いてきぼりにして、逃げるように応接室を出た。
部屋まで無言で歩き、ハインが扉を開けて中に促す。そのまま寝台に運ばれて、縁に座らさせたと思ったら、背中に羽織が掛けられた。
サヤがそっと離れ、お茶の準備をしてきますと部屋を後にする。
しばらく沈黙のまま時間を過ごし、頃合いを見計らったかのように、ハインが俺の前に膝をついて、顔を覗き込んできた。
「レイシール様、私も、もう耐えられません。
貴方は何も仰って下さらない。だから私達は、貴方が何を恐れているのかが分かりませんし、このままで良いという考えにも納得ができません。
このままで良い訳がないでしょう。
貴方はどんどんそうやって、崖っぷちに身を寄せていく。それを私たちは、いつまで黙って、見守っていれば良いというのです?」
お前まで、そんなこと言うのか……。
聞きたくなくて、顔を背けると、両側から顔を掴まれて、無理やり前を向かされた。
目を瞑ると、開けないならこじ開けますが、と、冷たい声で否を突きつけられる。
嫌々、仕方なしに薄目を開けると、ハインはいつもの怖い顔ではなく、眉の下がった、泣きそうな顔をしていて、冷たい声とは裏腹な、慰めるような眼差しで俺を見ていた。
「貴方が私たちを傷付けたくないと、そう考えて下さっているのは、重々承知しております。
ですが、私たちの気持ちを、貴方は理解して下さいませんね。私たちが、同じように思っていると、何故気付いて下さらないのです?
二年前もそうでした。私を置いていく。新しい主人を探すからと言われた私の気持ちを、貴方は考えましたか……。身体さえ無事なら、良いとでも言うのですか?
私は……心臓を引き千切られる心地でしたよ」
ハインの言う二年前が、俺の脳裏に鮮明に蘇った。
セイバーンには連れ帰らない。ここで新しい主人を見つけるからと言った時だ。
俺以外に仕える気は無い、要らぬなら、短剣で喉を突けと、ハインは言った。
手を煩わせるなら、自分で処理をすると腰の剣を引き抜いて、首に当てたのだ。
慌てて止めた。なにを考えているんだと怒った。しかしハインは冷笑を浮かべて言ったのだ。「貴方が要らないというなら、それまでなのです。私の命は、本来ならとうに、終わっていますから」と。
あれは、脅しでもなんでもなく、ハインの、本気だったのだと、俺は今更気が付いた。
本気で死ぬつもりだったのだ。俺に全部を捧げているというのは、言葉通り、本当に全てだったのだ。
目を見開いた俺に、ハインはやっと分かったのかとでも言うかのように溜息をつき、目を細めた。そして、優しい、微笑みを浮かべたような顔で、恐ろしいことを当たり前のように言う。
「そして今も、そうですよ。
このままで良い筈がないのに、このままで良いと言う貴方が憎い。
私たちは、まだ苦しまなければいけませんか。私は九年、ギルは十二年です。まだ苦しみ足りませんか。貴方が恙無く、笑って過ごせるようにと望むことが、そんなにいけないことですか」
勝手に涙が溢れてきた。
ギルやハインに申し訳なくて……自分のことしか考えてなかった自分の不甲斐なさに、罪悪感に、涙が止まらなくなった。
そんな俺を見つめたまま、ハインは言うのだ。
「止めても構いませんよ。貴方が本当に、心からそう願っているのなら、私が止めます。
この計画を全て無しにして差し上げますよ。そのかわりに、私は、ずっと、苦しいままです。貴方を救える機会を台無しにしたことを、ずっと後悔して苦しむでしょうね。
ですが、それでも貴方が望むことなら、叶えます。貴方の言う通りにします。私は、その為に生きているので」
本当にこいつ、悪魔か。なんで悪辣な取引を持ちかけてくるんだ。
なんでそんな、普段滅多にしない優しい顔で、そんな恐ろしいことを言うんだ。
返事ができない俺を、優しい笑顔のまま見上げてくるハインが憎かった。
みんなどうしてしまったんだ。
なんで急に、そんな風に、俺の望まない話を、押し付けてくるんだ。
こんな風に脅して、苦しめようとしてくるんだ。
俺は、みんなを苦しめたくないだけなんだ。失くしたくないだけなんだ。なのになんで分かってくれないんだ。
こんこんと、訪を告げる音がして、扉が開かれた。
サヤだ。盆に乗せた茶器を持って部屋に入ってくると、机に盆を置き、急須からお茶を注ぐ。香草茶であったようで、優しい香りがふんわりと部屋を満たしていく。
そしてサヤにお礼を言って湯呑を受け取ったハインが、それを俺の両手に握らせた。
「お返事は、明日で構いません。ゆっくり考えて下さい。
今日は、もうお休み下さい。明日の朝食は、こちらにお持ちします」
皆と顔を合わせたくないでしょうから……と、優しく気遣う。
もう、やめてくれ……。
ハインはそのまま一礼して、自室に身を引いた。
サヤだけが部屋に残り、沈黙が続く。
そのまま黙って、手の中の湯呑みを見つめ続けていると、手元に影が落ちた。
サヤだ。先程のハインと同じように、俺の前にしゃがみこんで、手拭いで涙を拭ってくれた。
さっきは相当ご立腹だったと思うのに、いつものおっとりふんわりしたサヤに戻っていた。そのことに少しだけホッとする。
だけど困った。涙が止まらない……恐怖と、罪悪感と、何かもう色々がぐちゃぐちゃで、頭が思う様に動いてくれない。
人目を憚る余裕もない。サヤの前だと言うのに、なんて情けない姿か。
けれど、サヤは気にしていないようだった。涙の止まらない俺にしばらく逡巡していたけれど、ぽすんと、俺の横に座る。そして、温もりが伝わるようにとでもいうように、ピタリと俺に身を寄せた。
「……ハインさん、ほんまレイのこと、大切やて思うてはるんやね」
肩が震えた。
びくりと身を竦ませた俺に、サヤは眉の下がった笑顔を向けてくる。
「……もの凄ぅ、優しいなぁ……。
ああ言えば、レイは、承知するしかない。ハインさんに脅されて仕方なくって、言い訳できる様に……仕向けてはるんやね」
そう言われ、余計涙腺が緩んだ。
ああ、そうだよ。分かってた。ハインがわざと、あんな言い方したんだって。
そして、あいつは本気なんだ。俺が止めろと言えば、ギルやマルに逆らってでも、止めさせる。どれだけ二人に恨まれようが、俺のためにって、そうするんだ。
絶対に納得出来ていないのに、自分の気持ちは捻じ曲げて、ちゃんと俺に逃げ場を用意するんだ。
俺の為ならと、自分の気持ちも、身体も、いくらでも削っていくんだ。
もう、耐えられませんって言ったのも嘘。あいつは、いつまでだって耐える。血反吐を吐いたって耐える。だけど、俺が縋れるように、自分がしんどいんだって、嘘をつくんだ。
滂沱の涙を垂れ流すしかない俺に、サヤは黙って身を寄せてくれた。
手の中のお茶が冷めきってしまうまで、ずっとそうしておいてくれた。
触れ合う肩が、ずっと、じんわりと温かい。
ただそうしておいてくれる、細やかな優しさが、腹の底に沈んだ重たい記憶にゆっくりと染み渡っていく。
俺はどうしたいんだろう……。
三人に、あんな風に言われた俺は、どうすればいいんだ?
分かってるんだ。三人とも、俺の為にって、考えてくれたことを。動いてくれていることを。
下手を打てば命に関わる。冗談抜きで危険なのに……当たり前のことみたいに、俺なんかの為に、手を差し伸べてくれるんだ……。
なのに……俺はそれに、触れられない……。
初めは小鳥だった。
父上に送られた、小さな黄色い小鳥。あてがわれた部屋の窓辺で、鳥籠に入れて声を愛でていたのに、羽根を撒き散らして消えた。
庭の隅で子を産んでいた猫、跳ね回っていた愛くるしい子猫たちも。
持ってはいけないことを躾けるために処分された。
最後の子猫、あの子だけはと庇ったら、恐ろしいほどの力で殴り飛ばされ、蹴られ、結局子猫は腕の中でぐにゃぐにゃになってしまった。
まだ分からないのかと、何度言えば理解するのかと、朦朧とする意識の中で、そう繰り返され、俺が初めから持たなければ、みんな普通にしていられたのだと、認めるしかなかった。
俺が見てしまったから、みんな儚くなった。愛おしいと思ってしまったから、命を奪われた。
俺は持ってはいけない。望んではいけない。執着を知られてしまったら、また奪われる。
もうなにも望まないと決め、感情を表に出さない術を必死で学んだ。
微動だにしてはいけない。気持ちひとつ動かしてはいけない。言われることだけを淡々と。それが唯一の正解。たまに癇癪や八つ当たりで手酷くやられてしまうけれど、あれは仕方がない。天気と一緒。耐えれば通り過ぎる嵐。
あやつられるまで、うごかない。それが、ぼくがだれもきずつけない、たったひとつのせいかい。
ちゃんとやります。だから、どうか、もうまきこまないで。
「っ‼︎」
頭の隅を、灰色の外套の、皮肉気な笑顔が過ぎり、悲鳴を押し殺した。
恐怖と罪悪感に目頭がまた熱くなる。ごめんなさい、ごめんなさい、甘えてしまったばっかりに。
一番思い出したくない記憶。あの人が、あの後どうなったのかを考えたくない。
事情を知らず、俺に構ったばっかりに、儚くなってしまったかもしれない人。
皆をあんな風にしたくない。だから、手を取るべきじゃない。
俺はこれからもずっと、独りでいなきゃ……。
「誘拐未遂の後……。
私な、なんもかんもが怖ぁて、部屋に閉じこもってたんや……」
ぽつりと、ずっと黙っていたサヤが、前を向いたまま、急に語り出したので、俺の思考は止まってしまった。
「全部信じられへんかった。
ニコニコ笑うてる大人も、無関心に、すれ違うだけの人も、大丈夫? って、心配してくれる素振りの人すらな、疑い出したらキリが無うて……。
外に行かへん私を、おばあちゃん、心配してくれはってな。独りが嫌やったら、一緒に行こかて、ちょっとずつ練習すれば、怖ぁなくなるて、根気強くそう、話し掛けてくれてんけどな……それすら煩わしかった……。
おばあちゃんには、私の怖さ、分からへんやろて、思うてた。誰も分かってくれへん……。でも分かられたくもないんやわ。あんな恥ずかしい、いやらしい……こと、理解されたない……知られたないって……思うてた。
それでおばあちゃんのことも無視してな、部屋に篭ってた」
小刻みな震えが、肩から伝わってくる。
思い出すのが辛い記憶の筈だ。なのに今サヤは、それを口にする。
「したら、ある日な。カナくんがうちに来て、あかんって言うてるのに、部屋の扉無理矢理開けてな、来いって手を、引っ張られたんやわ。
私、怖ぁて、凄い泣いたのに……引っ掻いたり叩いたりして、凄ぅ暴れて抵抗したのにな……全然、止めてくれへんかった。
それどころか、来んやったら、また虐めるて脅されて、引きずるみたいに引っ張っていかれたんがな、道場やった」
そっと、サヤを伺うと、まっすぐ前を見て、虚空を見据えていた。
凛々しい時のサヤだ。凛と背筋を伸ばし、姿勢を正して座っている。
「凄かった。ひょろひょろのおじいちゃんが、大きな男の人をポンって簡単に投げるし、殴ったり蹴ったりしてるのに、みんな笑うとるし……。まるでほんま、異世界やった」
そう言ってから、すっと、視線が動いて、俺を見た。俺を安心させるかの様に、微笑みを浮かべる。
「そしたらカナくんが……逃げるから怖いんやって……戦うてみたら、なんぼのもんでもない。強うなれば、怖ぁなくなるて、そう言うたんや」
少し紅潮した頬で、懐かしそうに目を細めて。
「あの時……無理矢理にでも引っ張っていかれへんかったら……多分私は、今ここにいいひん。
もしかしたら、まだ部屋に篭って、ずっとじっとしたまま、ただ震えとったかもしれへんなって思う」
湯呑を持ったままだった左手に、サヤの右手が重ねられた。
まだ微かに震える手が、少し力を入れて、俺の手を握る。
「なぁ、レイ。一緒やったら、ちょっと頑張れるような気ぃ、しいひん?
怖ぁて、足が止まる時もな、多分ある思う……。せやけど、そん時は私がレイを守る。手え引っぱって、前に進む。
私が怖い時は、レイが庇ってくらはるやろ? せやし私も、そうしたい」
間近にあるサヤの顔が、美しくて凛々しい。
微笑むサヤは女神の様なのに、とても力強く見えた。
「私、レイの罰と戦うて、言うたやろ? レイは一人で闘わんでもええんやて、言うたやろ?
レイが私にしてくれたぶんを、私も返すんやで。レイが先にくれたんや。
せやからな、頼って、レイ。一人で勝手に、決めんといて。さっきはほんま、腹が立ったし、悲しかった……。一言も相談してくれへんって、ないわ。
教えて。レイは何が怖いて、思うてるん?
私に望んで。ギルさんやハインさんや、マルさんを守ってって、レイの口で言うて。
私、強いんやで? ちょっとやそっとのことでは負けへん。大丈夫や」
そう言ってから、両手を広げた。
そうして、俺の頭を、肩に引き寄せて……背中をポンポンと、優しく叩く。
ありえない……女性に頼るって、男としてちょっと……あまりにも……。
そう思いつつも、サヤにされるがまま、俺はサヤの肩に、額を押し付けた。
胸が熱い。顔が熱い。さっきまで重くて苦しくて、どうしようもない気分だったのに。
カナくんと言ったサヤに、胸が掻き毟られたのに、俺の為に蓋を開けて、苦しい過去を引っ張り出してくれたサヤに、魅了された。
ああ、サヤだ。これがサヤだ。出会った時からこうだった。
いつも慈しみを忘れない。どんな境遇でも、相手のことを思いやれる、気高い心の持ち主。
こんな風になれたら……。俺も、こうあれたら……。そう思わずにはいられない。
そして…………ギル。
ギルの顔が浮かんだ。サヤを引っ張り出したのがカナくんなら、俺はギルだった。
人形の殻に押し込められた俺を、叩き割って連れ出してくれた。そして今も、手を引いてくれている……。一緒になって笑って、怒って、苦しんでくれる……。
人形に、戻りたいかと言われれば、否だ。
ギルとの時間を無かったことにしたくない。なら俺は、進まなければならないのか。
ここまでは手を引いてもらっていた。でもここからは、俺が踏み出さなくては、いけないんじゃないのか。
いつまでも、ギルの背中に縋ってていいのか。
ギルを親友だって、そう思うなら俺は……ギルの後ろではなく、隣に並ばなければ、ならないはずだ。
「サヤ……俺は多分、すぐに後悔すると思う。思い出す度に足が竦んでしまうと思う。
そうしたら、叱ってくれるかな……自分で決めたことを、思い出させてほしい。
俺は弱いし……。でも……自分で立ちたい……ような、気がする」
つい逃げ腰な言葉になってしまい、早速後悔した。
かっこ悪すぎる……気がするって……。しかもこの体勢で何言ってるんだ。
不甲斐なさと、サヤの肩に縋ってる状態で戯言を述べている羞恥心で、よりいっそう顔が上げられなくなった。
しかしサヤは、笑わなかった。こくりと頷く。
「うん」
そう言ってから、背中をポンポンと、叩いたのだ。
セイバーンに進めませんでした……。次はセイバーンって、言ったのに…。
次も来週日曜日を予定していますが、難産過ぎてまだ何も書けていません。
とりあえず書き溜めれるよう、進みたいなと思います。
セイバーン…行きたいけれど……また宣言して行けないと困るので……無しで。




