戦仕度
配置を伝えるマルを取り囲む長ら。その指示を待つ間に獣となれる者らに集まるよう声を掛けた。
「騎手は組でこちらに来い! お前たちには別任務がある」
乗り手のいない狼も当然多くいるが、彼らは一旦除外。必要なのは、騎狼に慣れた者らだ。
集まったのは十二組。その中にはイェーナの姿もあった。
それを見て一瞬心が揺らいだけれど……必要なことだと、自分を戒める。
ここの皆が、同じだ。彼女が特別ではない。近しかったことを特別にして良いはずがなく、それが許される状況でもない。
死の可能性が最も高い任務に就ける者ら……。けれど、死ぬことにも意味がある。
「五名ずつ、二部隊組んでもらう。長を任された経験のある者は?」
俺の言葉に、チラリと視線を巡らせお互いを推し量り、そのうちの二人が胸に手を当てた。
一人は熟練と思しき四十路の男だったが、もう一人は……若い女性。
「俺よりも経験数はこいつが上です」
男の方がそう言う。俺が彼女を侮ると考えたのだろう。
「そうか。ならば、この二部隊の長が貴女、副長が貴方とする。それぞれ五組で一部隊率い、私にも二組ついてもらおう。人選は長の二人が話し合って決めてくれ。
任せたいのは……今回の作戦の肝だ」
だから、その進言をそのまま受け入れた。実際、騎狼技術には相棒との相性がある。
この女性は、早くからその相性の良い相手に恵まれ、経験を重ねてきたのだろう。
雪の上に線を引き、ざっくりとした図を指して説明するのを、一同は黙って聞いたが……次第に長となった二人の表情が険しくなっていった……。
「以上だ。質問はあるか?」
「……主、それは、貴方も共に来るということか」
「そうだな」
「承諾しかねる。貴方は片手だ。その上騎狼経験が無い」
そう言った女性騎手に頷く男性騎手。
「だがこの作戦で肝心なのは私の存在だ」
その言葉にグッと、奥歯を噛む。
「騎狼できないとは言ってられないんだよ。橇では取り回しがきかないしな。
馬はいないし、いてもやはり、片手では無理だ。その点、お前たちは自ら思考し状況も見れるし、言葉を理解して指示を聞いてくれるから、なんとかなると思ってる」
そう言うと、違う、それ以前の問題だと言われた。
「分かってるよ……騎狼の難しさは、充分にね。
だから、下半身を胴に縛るなりなんなりして固定してもら……」
「我が主。お納めしたきものがございます」
そこで後方から声が掛かった。
振り返ると、鍛冶場で話があると言ってきた職人たちだ。
「例の報告か?」
「はい」
「少し待ってくれ。この話を終えてからにしよう」
「いえ……旦那にお聞きしましたところ、我々も作戦の肝だと申されましたもので」
そう言われ、再度振り返った。
「貴方様が片手を失われたと聞いた時に……皆で話し合ったのです。
この北の地で身体の欠損を抱えるのは、明日の死と同義……。ですからこれを。
どうかお役に立てていただければ……」
そう言って差し出されたのは、知るものとは似て非なる、革製品。
「……これ……は、鞍?」
の、ようには見える……? が、明らかに違った。形がおかしい。鞍自体妙に長く、後橋が高い……。
鎧が泥障に作り付けられていて、位置も高すぎる。これでは指示が出せないばかりか……。
そう思った時、その鞍自体が中衣のような形であることに気が付いた。
腹帯も複数本あり、首回りとなる鞍の上部に、固く鞣された革製の取手が上下に二つ付いている……?
更に不思議だったのは、その取っ手の下部、鎧より若干高い位置にある、出っ張りのようなものは……なんの用途があって付けられている?
なにより指示を出すために最も必要であるはずのもの……手綱と馬銜も無い……が、まさか……。
「…………まさか、狼用の鞍か?」
「これもアミのお導きでしょうか」
無神の民であるはずの獣人が、そう言って、微笑む。
まるでこのためにあつらえられたような……。俺が片手を失っていなければ、無かったはずのもの。それが今日までに、こうして形となっていた……!
確かにこれは、作戦の肝だ。
「……使わせてもらおう。……ありがとう、本当に」
片手の俺が、狼に乗るためのもの。俺のためだけに作られたもの。
皆の心が嬉しかった。指示など無くとも、サヤの知識を得ずとも、皆が知恵を絞ってこれを作ってくれた。
それに狼ならば、馬のように首が高くない。俺がこの義手を振り回しても、首を後方から傷つけることはないだろう。
だから迷わず、彼を呼んだ。俺が一番慣れ、時間を共有した狼。
「ウォルテールを呼んでくれるか」
これを頼めるのは、彼しかいない。
◆
鞍と籠手に慣れるのに、一日を費やした。その中でウォルテールといくつかの合図や動き方を決め、即座に動けるよう連携を組み合わせていく。
早駆けする時は体勢を低くし極力身体を密着させ、奥側の取手を掴む。
剣を振る場合は手前側の取っ手で、上体を起こすなどだ。
鎧の前にあった謎の突起が膝置きで、そこに膝を乗せて腹を挟んでおけば、狼の背でもある程度体勢が安定する仕様になっていたのには感動した。一瞬ならば両手を離すことすら可能だ。
「俺がどの位置の取っ手を握っているか、走りながらでも分かるのか?」
「重さの掛かる位置で分かる」
「じゃあ両手を離した時減速したのは……」
「投擲だと思って」
良いぞ。これならいける。
俺が騎狼訓練に使っていたその一日を、マルは準備に使い、山脈の中にとある罠を仕掛けた。
騎狼できない者は歩いて移動するしかなく、先回りして配置に着いておかなければならない。けれど頻繁に風向きが変わる山は、匂いが流れて察知されてしまうだろう。それが一つ、大きな懸念事項だったのだが……。
しかしその対策は、サヤが前日から夜を徹して行っていてくれていた。
「樹皮の煮汁でシーツを煮込み乾かしました。これを外套の上に羽織ってください」
山に自生した木々の樹皮を煮詰めたもので、敷布を更に数時間煮込んだのだそう。
「私の世界の猟師さんが、人や鉄の匂いを消すためにしていたことなんですけど……」
貴重な薪も、これを惜しんで敗北したのでは意味が無いと、使われた。
協力を名乗り出てくれた家庭全てでそれが行われ、暖炉のある部屋には敷布がずらりと干されたらしい。
敷布は樹皮と煮込んだことで、多少色が付き、斑になってしまっていたのだが……。
「この方が良いんですよ。迷彩的効果がありますから。
風景に同化できるので、動いても気付かれにくいんです」
山に自生した木々の自然な匂いと、風景に溶け込む色。これで敵を欺ける可能性が飛躍的に高まった。
敷布は夫人らの手作業で紐が縫い付けられ、首元や足首で括れるようにもなっており、強い風ではためいてしまうこともない。
「これくらいのことしかできなくて、歯痒いですけど……少しでも身の守りになれば幸いです」
騎狼する者ら以外、皆がこれを貰った。本日到着した五十名の増援にもだ。
こちらには幼い子供らも数名含まれていたが、彼らもユストと共に怪我人の手当てを担当する、重要な戦力だ。
そうやって一日が準備に費やされ、翌日は作戦の再確認と、情報収集。そして休めるものから休まされ、腹いっぱいになるまで食事が振る舞われた。
「冬山での体温維持には思っている以上のカロリーが必要です。雪の中は通常時の三倍食べても、量が足りません」
そう言いつつ食事に来た皆に、小さな油紙に包まれたものが配られたのだが……。
「たいして足しにはならない量ですけど……懐にしまっておいてください。それでも無いよりは良いかと思うので」
「なんだこれ……?」
「キャラメルって言います。山羊乳と砂糖と牛酪で作る、甘いお菓子ですよ」
一人三粒。たったそれだけだったけれど、全ての材料がこの時期にはとんでもない貴重品だ。
「どうか皆さん、疲れたらひとつずつ、食べてください。元気になれる魔法のお菓子です。
そうしてちゃんとここに、帰ってきてくださいね」
一生懸命笑ってサヤは、そう言った。
皆がどこに向かうのかは当然分かっている。今食事をしている者らの、一体幾人がここに戻って来れるか……。
それでも皆は、必死に笑ってお菓子を差し出すサヤから、それを有難く受け取った。俺も、ウォルテールも、イェーナも……。
「メイフェイア……」
「サヤ様は、必ずお守りします」
紺の装束に身を包み、腰に短剣を結わえたメイフェイアは「ご武運を」と、言葉を続けた。
そうして翌日が、決戦の日とされた。
◆
今世で最後になるかもしれない、その日の夜……。
飲水を得るため、眠る前に暖炉の部屋に行くと、ウォルテールが人の姿でそこにいた。
今日は皆が休む部屋で一緒に休むことになっていた。明日早朝から動くためにだ。
「寝れないのか?」
まぁ、正直寝れる気分じゃないだろうが……な。
そう思いつつ声をかけると、彼は小さく首を横に振る。
「そういうわけじゃなく……人の家にいるのがなんか、不思議で……」
尾や、耳や、脚……。獣人の特徴がとても強く出ているのに、エリクスはウォルテールを家に入れた。他にも幾人かの獣人が、この家の中にいる。
体力を温存し、明日に備えるため……万全の状態で戦いに挑むためではあったけれど、獣人を家に招き入れるだなんて、前代未聞なことだ。
たった二日間の交流であったけれど……獣人と人の摩擦は、随分と和らいでいた……。
狩猟民だと思っていた者たちが、獣人で……しかもかつて、捨てた存在だったのだ。当然警戒したろうし、罪悪感も強くあったろう。
葛藤もあったはずなのに、獣人らが死地に赴くということが、人に越えられないはずの垣根を越えさせた……。
貴重な食材や薪を大盤振る舞いしたのも、気持ちの表れだったのだろう。
獣人の中には、実の親が名乗り出て、家へと招かれた者もいたほどだ……。
もう少し早く、もっと別の形でこうできていたら……。
少しそう、思わないでもなかったけれど……。
その思考を、ウォルテールの声が遮った。
「……エリクスの下の息子……なんかレイルみたいだったよな……。
あれくらいの歳だと、人も狼も、あんま変わらない……」
どうやら、さっきまでまとわりついていた幼子を思い起こしていたよう。
まだ二つと幼いその子は、ウォルテールの尾を気に入り、後ろをついて回って尾を掴もうと必死だったのだ。それに辟易したウォルテールが、獣化して怖がらせようとしたのだけど、逆に喜ばせてしまい、そうして結局飽きるまで遊びに付き合う羽目になって、最後は彼の腹の上で、眠りについた。
「まぁ、あいつが生きてりゃ、もっとでかくなってたか……」
そう言いつつ後悔を滲ませる瞳がたまらず、俺も腰掛けることにして、ウォルテールの隣を陣取った。
「……まだ死んだと決まったわけじゃない」
無駄だと思いつつ、そう口にした。
けれどそれに返事は返らず、暫く二人でただ、燃える薪を見つめていたのだけど……。
「…………なぁ、今更なんだけど……本当に、俺で良かったの?」
と、ウォルテール。
「何が?」
「…………俺に乗って、良いの? 俺、また縛られるかもしれないのに……」
「縛られないさ。お前はもう、そうはならない」
主との絆は相当強固だとは思う。だけどウォルテールは、もうきっとそれに屈しはしないだろう。
仲間の命の重さを、彼はもう自覚して背負っている。
「それよりも……お前は良かったのか?」
「何が?」
つい、問うてしまって……。
「……お前の兄弟が、あちら側にいるかもしれない……。そんな場所の最前線に連れ出すんだ。もし……」
出会うことに、なってしまったら…………。
兄弟の命を、その牙で狩り取ることに、なってしまったら…………。
結局、尻すぼみに言葉は途切れた。
それでも俺は、彼にそれをさせる。明日の勝利のために、最良と思う道を選ぶだろう。
問うても苦しめるだけ……余計辛くさせるだけの問いかけだったのに……。
「あぁ。全然平気。兄弟ったって、おんなじ奴の胤で、おんなじ器が産んだってだけで、全く関わり無かったから」
俺の心配を察したウォルテールは、軽くそう言った。仲間意識なんて、育つ場所じゃなかったと。
だけどそれにしては、姉への執着が強かったよな……?
「……姉ちゃんは…………俺の姉ちゃんなんだって、生まれた時からそう、思ってたから……」
そう言ってウォルテールは、過去を懐かしむみたいに少し、瞳を細めた。
「姉ちゃんは……胤は同じだけど、器は違う。殆ど獣人が生まれる中で、珍しく人だった。
普通なら、姉ちゃんだって捨てられてたのに……。でも、俺たち狼で生まれた奴の世話をして、あそこにしがみついてた。
その中で俺を……自分が使える手駒にするために、きっと……」
悲しそうに眉を寄せてそう言う。分かっていたけれど……それでも、血の繋がりを求めた。慕っていたのだ……。
そうか。侍祭殿は、生きるために……。
一生懸命、組織で必要な存在になろうとしたのか。
けれどいざウォルテールが人の姿を得てしまうと……憎くてたまらなくなった……。
自分の存在を否定された心地だった。同じ胤を得ているはずなのに、こうも扱いが違う。なんで自分は、人になってしまったのか……。
彼女の心情は、実際のところ分からない……。アレクほど、関わりを持ってきていないしな……。
だけど獣人の血をあんな風に拒絶していたのは、それがあの娘の中で、大きな痼りとなっているからだろう。
じゃあ、アレクは……? 何故、彼は…………。
この一連の打ち手は、もう……アレクだと確信を持っていた。
だけど彼がこうなるに至った経緯は、全くまだ見えていない……。
アレクは、ウォルテールの姉とは違うだろう。施設生まれではなく、彼は貴族出身だ。そこには強く確信を抱いている。
彼の所作や思考。言葉の節々に、貴族であった形跡があるのだ。それはきっと、本人も自覚していない。
俺のような妾腹出ではなく、ちゃんと貴族として生を受け、その瞬間から教育を受けていた、生粋の貴族……。
本人の無意識に刷り込まれるくらい、溶け込み当然となるほどの、上位の血筋だと思う。
男爵家や子爵家じゃない。きっと……伯爵家以上。
だがそれなら何故、マルが彼の痕跡を見つけられないのだろう……。
貴族出身で神殿に身を置くことになる者は多い。事情を伏せられた者も多い。でもその程度ならば調べ上げてしまうだろうに、あのマルが、見つけられない。
何故、彼の痕跡は徹底的に消されているのだろう……。
そもそも、そんなことができるものだろうか?
人一人の存在を抹消するなんて、人にできることだとは思えない。マルも言っていたことだ。それは神の御技だと………………?
ふと、何か閃きかけた。
何か……それに近い話を、どこかで聞いた。
記憶を手繰るために、アレクのことをもっと深く、考えてみるべきか……。
そうだ、ウォルテールは、アレクのことをどこまで知っているのだろう……?
アレクに使われていた自覚はあるのだろうか?
それとも慎重な彼のことだし、ウォルテールと直接接することはしていないのだろうか……。
聞いてみたかったけれど、俺の近くに置くウォルテールに、あからさまな情報を残しているとは考えにくい。
それに施設についてを聞けば当然、彼を苦しめるだろう……。
そんなことを考えていたら、ウォルテールが身じろぎしたから、そちらに視線を移した。
狼の脚を両腕で引き寄せ、膝に顔を半分埋めるみたいにして座っていたウォルテールは……。
「あんたはいつもそれだ……。
あそこではもらえなかったものを、あんたが……あんたたちは、平然と俺にくれる……」
なんのことについて言っているのか分からず、首を傾げた。
けれどウォルテールはそれ以上を言わず、揺れる炎を見つめている……。
「あそこしか知らなかったから、あそこが全てだったんだ……」
不意にぽつりと、そう零した。
「血が濃いは、褒め言葉で、薄いは、価値の無いことで、濃い俺は、それで良いんだと思ってた。価値ある獣だ。そう思ってたのに……。
急に狭い場所に閉じ込められて、食事も貰えなくなって、なんでそうなったか分からなくて、気が狂いそうだった……。
そこを出された時はほっとした。だけど、価値が無くなったから処分されるって言われて……だから、できるとこを見せなきゃって、思って……」
……誘導されたんだろう。食事や自由を絶って、彼の自我を追い詰めて。
駒として使う者すら追い詰めるような、そのやり口……。やっぱりアレクだ。俺はそれを、何度も見てる……。
「価値を示すなんて、簡単なことだと思ってたよ。俺は血が濃いから、誰よりも優先される立場だったから。俺が言えば、皆が従うだろうって。
なのにここは、みんな変な理由で変なことをした。俺の言うことを聞いてくれなくて、血が薄いくせに偉くて、濃い俺に反抗する……なんなんだよって思ってた……。
荊縛の時だって、苦しいも痛いも自分でなんとかするしかない、死ぬやつは使えないやつだって、そう思ってた。
なのに俺もそうなって、認めるしかなかった……。俺は……使えないやつになった……価値が無くなったからだって……。
そう、思ったのにさ……」
肩に両腕を回し、自らを抱きしめる。
苦しいだろうに、それを押し殺して、言葉を語る。
「…………あ、あんな風に、優しくしてくれるなんて、夢みたいだったんだ……」
そう言いながら、顔を伏せて、表情を膝と腕で隠してしまった。
「耳も尾も脚も、気持ち悪いって言わなかった……気にせず、触ってくれた……。頑張れって、死ぬなって言ってくれた。
狼でも、俺だって分かってくれた。首を擦り付けても逃げないでくれた……。狼の姿を好きだって、言ってくれた……。
あそこが、この人を欲しいって言う理由が、分かった気がした。
俺も欲しかった。だから、なんとしてでも、持って帰りたいって……。
……いや、本当は独り占めしたかったのかな……。連れて帰ったら、きっと取られてしまうって……」
やはりサヤを欲していたのか。
神殿は、サヤを得て、かつての栄光を取り戻そうとしていたのか?
なのに何故、それを諦めた……?
今は、何を狙っているんだ……?
「ここで、色々教えてもらった……。獣じゃないとも、言ってもらった……。
いつの間にか、帰りたくない、ここにいたいって思うようになってた。
だから……本当に、大切にしたいと、思ってたんだよ。
なのに俺…………どうしても、どうしても…………どうしても…………」
どうしても、姉に逆らえなかったのだと……。
失敗すれば、主である姉が困ることになると言われた。本当は一番、愛してほしい人だった。
愛を知ってしまったからこそ余計、愛してほしいと、褒めてほしいと願ってしまった。求めてしまった。
殺されそうになっていた時だって、抵抗しようとしなかったのは、どんな形でだって良い。役に立っていると、愛していると、言ってほしかった……。
でも……。
結局最後まで、姉の愛は得られなかった。
大切なものが、姉だけではなくなったことにも、気付いてしまった……。
「俺は、本当はここに居ちゃいけないし、八つ裂きにされても文句は言えない……。
それだけのことをしたって、分かってる。
だから明日は、死なせた人たちの分、俺が働く……。償いをする。前で、戦う。
絶対にもう、裏切らない……」
決意を滲ませた硬い声。
そんなウォルテールの頭に左腕を伸ばし、ぐしゃりと撫でた。そして引き寄せ、肩を抱く。
「…………そんな風には、しなくて良い」
お前は、お前として生きるために戦ってくれ……。
「過去じゃなく、明日のために、戦おう。一人でも多くが幸せになれるように。
お前だって、そうじゃなきゃ俺は……なんのための戦いかを、忘れてしまう……」
お前を人にするための戦いなんだ。
お前たちが、今より幸せだって思えるように、するための。
誰かのために使われるのじゃなく、自分や、自分の愛する者たちのために命を使う。そんな時代を創るためだ。
「なぁ、考えておいてくれ。この戦いが終わったら、何になりたいかを。
どんな仕事に就いて、どんな場所で暮らしたいか。
この戦いが終わったら、次はそれを叶えよう」
一日遅刻ごめんなさい。明日も正直難しそうっす……。
だけどとりあえず、もし書けたらまたアップ。無理だったら二話でごめんなさい。
三月は、後半から少し余裕が出ます。ラストスパートはマジで更新頑張りますっ。




