表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第十九章
497/515

十日間のこと

 晩は、幾人かの獣人らも交えての会食を行い、俺の客とだけ説明したグラヴィスハイド様らに子供たちが群がっていたのだが……その光景はなんとも不思議なものだった。


「耳や尾を触っても良いかな?」

「痛くしない?」

「しないよ勿論。……うわぁ……ふかふかだね」

「くすぐったいっ」

「お兄さんは僕らが嫌じゃない?」

「嫌なものか。とても綺麗だと思うよ」

「お兄さんの友達のお兄さんも、優しいんだねぇ」


 物怖じしない子供らはグラヴィスハイド様に興味津々で群がり、護衛の方々も生きた心地がしない様子であったものの……そのうち段々と、微妙な表情になっていった。

 幼子らはただひたすら無邪気。生まれてすぐ捨てられてここに来るから、人の怖さを知らない者も多い。

 そして幼い子ほど、その傾向が強い。

 最近は特に、交換に出向いた先でも良くしてくれる人がいるものだから……普段以上に警戒の垣根が低かった。

 グラヴィスハイド様の表情が、とても柔らかかったことも関係しているだろう。

 内面が色で見えてしまうグラヴィスハイド様に、子供らはどう見えているのだろうな。


 護衛の方々もはじめはやはり表情が固く、緊張している様子ではあったけれど、武装した大人のいない場所で、子供相手に武器を抜くわけにもいかない。

 何より護衛対象のグラヴィスハイド様が率先して子供らに構うものだから、手や口を出しあぐねているようだった。

 その戯れる子供らと護衛の方々の間に、耳を一部切り落とされ、身体中が刃物傷だらけのウォルテールが座り、無言で食事を口に掻き込んでいるのを、なんともいえぬ顔で見ている。

 まさかアヴァロンでの獣化事件張本人ですよとも言えず、とりあえず放置してたのだけど……。


「海? 見たことあるよ」

「ほんとう⁉︎」

「塩味なの?」

「濃すぎる味がするかな……辛いと言うより、えぐい……苦い?」

「海全部がそんな味なの? お魚は苦くならないの?」


 ウォルテールが決して、心穏やかに食事を楽しんでいたわけではないことも、理解していたと思う。

 何も言わなくとも、万が一、子供らに危害を加えられぬよう、全身で緊張し、庇う位置に陣取っているのだと。

 それでも……子供らの好きにさせているのだと……。


 何も知らない……。

 この雪原の外を、一度も見たことがない。

 そんな子らがいるかと思えば、よく命があったと思わずにはいられないような、傷だらけの者もいる……。

 年寄りは存在せず、体の部位を欠損しているのが、俺一人なんてこともなく……。

 ここがどういう場所か、その目と耳と身体で、彼らは理解してくれたろう。



 ◆



「悪いね。獣になれる者も、橇も……貴重だろうに」

「グラヴィスハイド様が俺たちの命綱なんですから、無事にアギーまで到着していただかないと困るんですよ。

 それに、馬や徒歩じゃ何日掛かるか……」


 三頭の狼に、二人乗り用の橇が三つ用意された。

 ひとつにグラヴィスハイド様と護衛の方が。

 のこりふたつに荷物が乗せられ、二人の護衛の方がそれぞれ操縦する。


 翌日。午前中の数時間を橇の練習に使ってもらった。その間にサヤやクレフィリアが麺麭を焼いてくれ、肉類等の食料も準備してくれた。

 小雪はちらついているものの、吹雪というほどではない……。橇を引く狼も、この荒野では珍しいものではなくなった。だから、見咎められたとしても、狩猟民だと思われるだけだろう。


「荒野の外は、雪の時を選び移動する方が良いです。あと街や村では、彼らの身の安全が保証されません……。

 極力獣の特徴が薄い者たちを選んでますが、万が一がありますから……」

「無論、注意するさ。必ず皆、無事にお返しするとアギーの名の下に誓おう」


 そう言うグラヴィスハイド様に頷き返し、狼姿のフォギーの首を撫でて「この方をよろしく頼むよ」と言うと、フォギーは首筋を俺の左手に擦り付けた。

 この任務の長は彼女だ。もし万が一……グラヴィスハイド様の約束が守られなかった場合は命を落とす……。それが分かっていて、志願してくれた。

 また、無事であったならば、ついでにロジェ村の様子を見てきてくれるそうだ。


「大変だけど……宜しく頼むな」


 そうやり取りする俺の隣で、グラヴィスハイド様はもう一人とも言葉を交わす。


「……クレフィリアも、どうか息災で」

「はい。お会いできて嬉しゅうございました。

 グラヴィスハイド様もお気をつけて……」

「あまり無理をするのではないよ。身体を大事にしてくれ……」

「はい。でも大丈夫。存外充実した日々を過ごしておりますから」


 はにかみ笑うクレフィリアに目を細め、ふと思い立ったように、耳元に唇を寄せて何か囁くと、クレフィリアは一瞬で顔を真っ赤に染める。


「グラヴィスハイド様⁉︎」

「なんだ、身に覚えがあるようだね?」

「知りません!」


 元主従の戯れる姿は平和そのもので、オブシズが若干ソワソワして見えるものの、これからここが戦場になるなど考えられぬような光景だ。

 そうして犬橇へと足を向けた方々から……護衛のおひとりが俺の前で足を止めた。


「……私は、この程度のことで懐柔されはせぬし、其方も信用せぬ」


 敢えて言葉にされたことを受け止める。


「それでも、彼らを傷付けないでいただけたことに感謝致します」

「……冷酷無情とは其方のための言葉だな」


 そうだろうね……。

 敢えて幼い子らや敵意の少ない者らを選び、会食の席に同席させたのだ。

 彼らが傷付けられる可能性も大いにあったというのに。


 だけどここを乗り切るために、そうした。

 使える手段は全て使おう。情に訴えることだってしよう。とにかく全部、俺が決断して動くと、そう決めた。


 逃げたってどうせ、時は流れるから。


 決断しなかったとしたって、時は止まってくれず、結果は出てしまう。

 そうやって多くの命を失わせてしまったのだ。

 だからせめて、責任くらいは負わなければ。

 死なせるならば、俺が俺の責任で死なせる。そう覚悟した。


 走り去る三機を見送り、見えなくなる前に背を向けた。

 まだ他にもやらなければいけないことが山とあるから、感傷に浸っている時間は無い。


「サヤ、集めた村の情報を持ってきてもらえるか」

「はい……」


 さぁ、次の手を打とう。



 ◆



 交換に行く村々で、ある情報を集めるよう、吠狼の者たちには指示していた。

 まずは外装の強度、住人数、そして備蓄状況だ。

 外装はともかく、備蓄状況は聞いて答えてくれるようなものではないから、当然潜伏、もしくは侵入して調査することになる。

 当然本来はしてはならないことだけれど、今回は強行させてもらうことにした。

 グラヴィスハイド様らに対応している間に、それは着々と集められており……。


「勿論、山脈沿いの村が最優先だ。

 大きな街は後回しで良い。特に門衛を切らさない規模なら除外。

 最優先は外壁の劣化が激しく、村民、備蓄が少ない村。ここの守りを補強する」


 二十四時間門に見張りを置けるほどに経済力がある街は捨てた。その余力があるならば備蓄も申し分ないだろうし、なによりスヴェトラン側も初めは狙えないだろう。

 一応ギリギリで忠告を投げるくらいのことはするが、自分の身は自分で守ってもらう。

 危険なのは規模が小さく貧しい村だ。

 防衛力など無いに等しいだろうし、人数が少ないならば殲滅しやすい。だから村民を皆殺しにして入れ替わることも可能だ。

 まずは拠点となる村を確保しに走るだろうし、その村は問答無用で攻められるだろう。その数をとにかく減らす必要がある。


「パッと見て攻めにくそうだな……と、思わせることが重要になる。

 だから外装を補強して回るのと、その手解きをする。とはいえ……スヴェトランのことはまだ秘しておく。下手に刺激して予測外の動きをされても困るから」

「……なぁ、外装を補強っつってもお前……資材がねぇンじゃどうにもなんねぇだろ……」


 越冬中はどこも流通が止まる。例えば外壁の修繕をしようにも、木材が手に入らないことが多い。

 というか、北の村であれば余計木材は貴重品だ。

 ジェイドにそう言われたけれど、資材なら目星をつけていた。


「小麦の袋はどの村にもそれなりにあると思うぞ」


 毎年袋ごと、必ず大量に買い付けることになる小麦。それはどこの村でも同じだろう。

 また、貧しい村だと袋もいちいち取ってあることが多い。麻袋の内側に引っ付いた小麦の粒だってちまちま取って食卓に並べるのだ。彼らは一粒も無駄になんてしない。


「この際土である必要は無いからね……。小麦用の麻袋に雪を積めて土嚢壁にする。その方法を指導するんだ。

 どうせこの時期は溶けないし、万が一火矢で射られても燃えない。吹雪けば勝手に、雪で更に補強される。

 冬眠し損ね人を食った熊が村を襲う事件が起きているから、念のため補強しようと言えば、彼らはきっと受け入れるよ」

「成る程……」


 雪は腐るほどにあるし、カチカチの地面を掘るよりずっと楽だろう。

 春になれば溶けてしまうが、雪深いこの地方はそれも遅れる。フェルドナレン内の流通が再開されるまでは充分持ち堪えられる。


「袋が足りなければ、雪を積んで踏み固めても良い。

 河川工事みたいにきっちりである必要もないしね。

 とにかく崩れないよう積み上げれば充分だ。なんなら雪や水で適当に補強して」


 そんなわけで、交換品荷物の中に、ここで余っていた麻袋も詰め込まれた。春になったら天幕の壁材に使うため残してあるったのだが、今回は無事春を迎えるために使わせてもらう。今の命を繋ぐことが優先だ。


「外装補強は率先して行ってくれたら良いよ。俺たちの印象も良くなるし……」

「分かってら。せいぜい気に入られてくりゃ良いンだろ?」


 ……とはいえ。リアルガーの群れが担当している範囲は広い荒野の一部だ……。

 荒野はいくつかの領地を跨ぎ広がっていて、その一部はジェスルにも伸びている。

 ジェスルの側は、疑いを逸らすためにも選ばれないだろう……と、思っているが……。


 所詮は俺の憶測でしかない……。


 実際に軍を指揮した経験なんて無い。学舎で学んだだけの、浅い知識を元にしているだけ……。

 そもそも雪の中の演習は、命の危険があるということで行われなかった。


 そんな俺が、色々を決断して良いのか……。


 そういう葛藤は、常にあったけれど……。それでも俺が、やるしかない。


 隠せると言われた期日までは、そうやって村々の補強と情報収集に明け暮れた。

 集落の獣人らには訝しげな顔をされたけれど、また若旦那がなんかやってら……という、どこか慣れのような雰囲気も見られ、リアルガーが承知してるなら良いんだろ。と、割り切ってくれたよう。

 なんなら手伝おうかと声をかけてくれた者もいたけれど、時期が来たらお願いすると言って誤魔化しておいた。

 そうして……。


「只今戻りました」


 十日ぶりに戻ったマルは、西の群れを束ねる主と長の代表者を連れ帰り、共に、橇に大量の戦利品を確保してきていた……。



 ◆



 マルの持ち帰った荷物は主に武器類。橇三台にたっぷりと積まれていた。

 よくこの時期にこれだけ確保してきたものだと呆気に取られていたのだが……。

 その中に見慣れない構造のものがいくつかあり、まずはそれのひとつを手に取った。


「……弓?」


 弓の一種なのは分かる。だが胴体は極端に小さく、中心に長い棒状の部品が取り付けられていた。金具が幾つか飛び出した不思議な構造。

 形としては弩に近いが、それにしては小さく…………って、これは……。


「サヤの国の武器?」

「クロスボウと言うそうですよ。まだ試作品なんですけど、構造は意外と簡単なものだったので、なんとかひとつ間に合わせました」


 いやぁ、鋳造できると色々が楽で良いですよねぇと、当たり前のように言ったけれど……っ。


「アヴァロンまで行ってきたのか⁉︎」


 い、いや……それでは十日だと頑張っても片道分だし……そもそも俺たちはお尋ね者状態。行けば捕縛は免れなかったろう。

 だけど鋳造のできる炉がある場所って、そうそう無いよな⁉︎

 なにせ耐火煉瓦は言ってもまだ高価だし、そもそも石炭は必ずオゼロから購入しなければならない。そうなれば当然目立つわけで…………っ!


「そんなわけないじゃないですか。これは、近くのとある町から確保してきました」

「…………町」


 近くにそんな町、あったか?


「僕の生まれた町ですよ。まぁつまり……アヴァロンの飛び地です」

「と、飛び地⁉︎」


 聞いてないよ⁉︎


 あっさりと言われたけれど、全く記憶に無い。許可をした覚えも無い!

 ていうかそれ以前に他の領地に飛び地とか勝手に作っちゃ駄目だろ⁉︎


「領地ったって荒野は単にくっついてるだけの扱いですし良いんですよ。

 だいたい、今日に至るまで誰も何も言ってきませんし……」

「言われる時は領地侵害で訴えられる時だろ⁉︎」


 それはアヴァロンに敵を作った時だよ! 何してくれてんだよ、前からちょいちょいそういうのあったけども‼︎

 ここに来て頭を抱えることになるとは思わなかった……。どうしよう。なんて言い訳すれば良いんだ。他領に勝手に飛び地作ったって!


「どういうことか一応説明してくれるのかな⁉︎」

「はいはい。なに、簡単なことですよ。

 オゼロからアヴァロンって遠いじゃないですか。そして木炭と違い、石炭や耐火煉瓦の製造量は、まだ然程多くありません。

 それをいちいちアヴァロンまで送ってたのじゃ、人件費ばかり嵩むんですよ。

 それで……僕の町を集積地として、荷を一定量になるまで保管させてもらうことにしました。

 その手続きは当然しておりますし、レイ様に許可も頂いてます。保管費用もアヴァロンより支払ってましたよね」


 それは覚えている……。一定量が確保されるまで立地的に近いマルの出身地で倉庫を確保する方が、断然費用が抑えられたのだ。

 マルの出身地を利用したのも、信頼度の関係で。そしで荷物等の受け取りに不備はなかったし……特に問題も起きていなかったはず……。

 ならば石炭が送られる前で、たっぷり確保されていたのを、この際だからと利用したということなのだろう。

 だけど問題は耐火煉瓦だ。

 帳簿上は差異など出てなかったはず。マルが勝手に使っていた耐火煉瓦はどこから捻出された?


「送るったって全部まるっと運び出す必要無いんでねぇ。

 一部、倉庫にあることになってる分と、破損したとして破棄した分と……その辺りを使わせてもらいまして、理論上作れるはずの小型高温炉を試験的に作ってみちゃったというか」


 ちょろまかしてたのかよ⁉︎

 小型と言っても炉だろ、結構な量使うよな⁉︎


「前に、サヤくんが面白いことを教えてくれたんですよ。

 かつて彼女の世界では、半分地下に埋まった高温炉を利用していたらしいって。

 成る程と思ったんです。地下を利用して保温力を維持するとは流石だなと。高低差・温度差を利用して自然な空気の循環も起こりますし。

 で、北はセイバーンみたいに地下水等にも恵まれてませんからねぇ。と、いうことは、炉には適している。

 実際サヤくんの世界でも、緯度の高めの場所で、その炉は多く見つかっているそうで……。

 ただ、問題はやはり送風。自然の循環だけで足りるわけがありません。

 効率良く高音を維持するためには、更なる空気の循環が必要なんです」


 頭を抱える俺など意に介さず、マルは絶好調に言葉を並べた。


「で、相談しましたら、サヤくんの国では人力の吹子から、異国より伝来した水車を利用した吹子に切り替え、飛躍的に製鉄産業を活性化させたというじゃないですか。

 僕の町は谷間にあるので、ここら辺じゃ珍しく小規模ながら滝がある。山脈の雪解け水が地中を通って流れ出ているので、この季節でも凍りません。こりゃ使わないとと思いましてね!

 あと僕って一応あそこじゃ名士扱いなんですよ。だから町では結構勝手ができるんです。

 セイバーンの威光も効くんですよ。なにせ自領の領主よりよっぽど利益をもたらしてくれますから。

 それで荒野の利点を活かして、色々進めさせてもらいました。アヴァロンに職人も研修に出してましたし。

 今はアヴァロンから避難した獣人の職人も匿ってもらってまして、働き手も確保できてるんですよねぇ」


 話してる規模的に、ここ最近のことじゃない……。これはかなり前から、色々をやらかしてる……。

 ていうか拠点村を興す時点からきっと着々と進められていたに違いない。

 研修の職人も、マルを頼り、マルも率先して受け入れていたのだろう。

 まぁ分かるよ。北が農耕に適さない地である以上、牧畜か、加工品で生活を支えていくしかないのに、立地が荒野だ。


 北の荒野は、スヴェトランとの国境沿いに東西へと横たわる山脈。その根本に広く、帯状に広がっている。

 面積としては広いが、実際に『北の荒野』という地域は存在しない。それぞれの領地の、領土の一部ということになっている。

 ようは見放された土地……ロジェ村のような、捨て場に近い扱いだった。

 山脈沿いに張り付いた、草しか生えない、役に立たない部分……。

 農耕に適さず、水源にも然程恵まれていない。雪は馬鹿みたいに降り、夏は短い……。

 山脈の根元に多少の森林があるものの、あとはだだっ広い草地が広がるだけの場所。間違っても住みやすい土地ではない。

 では何故人は荒野に住むのか……。


 荒野では土地の税金は求められない。住むのは勝手で、土地も好きに利用して良いからだ。

 だが、代わりに、領地からの援助も無い。牧畜を生業とするから、草地が必要だからそこにいるしかないだけだ。

 そして条件の良い場所を得られなかったのなら、行ける場所に行って住むしかない。


 狩猟民らから獣を買って食い繋ぐ村には、そんな村が幾つもあり、マルの出身地もそのうちのひとつだったはずだ。


「町の現在の代表者は僕の弟です。

 だから、弟が黙っていれば、領主は知りようがないんですよ」


 体格に恵まれず、地元では死ぬと判断されたマルの代わりに、役人であった親の家業を引き継いだのは、ひとつ下の弟と聞いていた。つまり……。


「町ぐるみってことか……」

「そういうことです」


 そんな規模にしてよく周りにバレてないな……。


 そう言いたかった俺の気持ちを、マルは言葉にせずとも汲んだらしい。

 にんまりと笑って。


「条件が揃った土地柄なんです」


 と……。

 全く反省してないな、これは……。

 だけど…………。


「……今回に関しては、良かった……と、思おう」


 割り切ることにした。どうせ今更嘆いたところで仕方がない。

 なにより鋳造のできる炉と、その燃料を確保できているというのは、相当な強みになる。

 それに今後、どうせ()()()()()()()()のことなのだ……ならば、遅いか早いかだけの話だ。

 無理矢理そう自分を納得させることにした。無理矢理である。なのにマルときたら……。


「レイ様の胆力、更に磨きがかかってきた感ありますねぇ」


 誰のせいだよ……っ!

 ていうか、勝手に研磨されていくんであって、磨いてるんじゃないからね⁉︎


「…………今度から実行するにしてももう少し早く、相談ないし報告して……」

「畏まりましたぁ」


 軽く言われたけれど、絶対に畏まってないやつだなというのは、表情を見なくても分かった……。

 まぁ良い……とにかく、これだけの武器を確保できたっていうのは大きい。

 これを足掛かりにして、他の狩猟民たちと取引できる。


「試作品の使用感は確認済み?」

「えぇ。そちらも問題無く。飛距離と威力、精度等は別紙に纏めています」

「分かった……じゃあまずは確認させてもらう。……有り難く使わせてもらうな……」

「はい。それから、材料がある限り、武器の製造は指示してきました。レイ様の仰った通り、遠距離武器に比重を置いて」

「うん」


 獣人らのこれからの生活を考え、ついでにスヴェトランからの進撃も防ぐため、マルの手に入れてきてくれた武器を使って交渉するのは、俺の役目だ。

 先ずはサヤを呼んで、この新たな武器について教えてもらうことにした。


「あと、レイ様の義手ですが、流石に本人無しで調節はできないとのことで、やっぱり出向くしかないみたいです」


 マルの言う伝手はつまり、マルの町だったらしい。

 そこで俺の義手も製作を進めていると……。


「……分かった。ここのことが一区切りついたら、出向けるよう調整しよう」


 早く手に入れたい。少しでも身体を慣らす時間を確保したいから。


「夜の会合……できるだけ早く決着がつくよう、頑張ってみよう」


 できれば一日で話を纏めたいんだがな……。

いつもご覧いただきありがとうございます。

今週の更新開始です。

一応二話書けてる……? 後半を大きく直しそうな二話だけど。でもとりあえず三話更新は確保できるだろう…………か、書きやすい部分だと良いけどな……はは……。

というわけで、今週も三話、運が良く筆が走れば四話目指して頑張ります。来週は仕事づくめだから頑張りたいなぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ