表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第十四章
402/515

ジェスル

「何故そこでジェスルの名を出した?」


 俺の言葉の内容より、ジェスルの名が出たことに、オゼロ側は過剰なほどの反応を見せた。

 ダウィート殿の表情は強張り、エルピディオ様は獰猛に歪んだ。まるで獲物を見つけたとでもいうように、笑う。


「語るに落ちたとはこのことだな。其方自らが、ジェスルに絡むと認めたか!」

「待ってください!」


 エルピディオ様の背後の戸棚が横にずれ、武装した者らが雪崩れ込んできた。

 正規の兵ではない者が多い。騎士の装いの者はごく一部に過ぎなかった。下男、従者、庭師、料理人……けれど殺気は本物。彼らはきっと影だ。吠狼と同じように、普段は仮姿で過ごしているのだろう。

 そこで、もう限界だとばかりに抜剣したオブシズ。俺は咄嗟に腕を掴み、止めた。

 飛び出そうとしたサヤの前にも腕を広げ、サヤに向かって小刀を投擲しようと構えた者の射線を、咄嗟に遮る。


 このまま戦闘になっては負けなのだ。この戦力差では、皆がどれだけ奮闘しようが、オゼロ官邸を抜けることもかなわず、俺たちは全員死ぬことになる。

 到底納得し難い死に様だ。ジェスルと誤解されてだなんて。

 けれど、入ってきた扉は開いていない。窓辺にも変化が見られない。

 つまりこれはまだ秘されている。挽回の余地はあるはずだ。


「エルピディオ様は、ジェスルの裏の姿をご存知なのですね」


 まだ動くなと、オブシズの腕を握る左手に、力を込めた。


「オゼロにジェスルの虫が潜むことも、ご存知なのですね⁉︎

 我々も同じでした。セイバーンに仕掛けられた策略は、少なくとも十五年より前から仕組まれておりました。

 俺は、三つの時から父の記憶に無い誓約を課せられ、身内との繋がりを絶たれて育ったのです。

 きっとあのまま、セイバーンに残っていたならば、俺も歪められ、手駒となっていたのでしょう……。

 そうならなかったのは、偶然に知り合い、俺を助けてくれた人がいたからです。

 運よく難を逃れ、学舎にやられて、セイバーンに起こっていることを知らないままに、十年を過ごしました」


 セイバーンの領主印が、俺の誓約に使われたことを考えると、四十年近く前から続いている策略の可能性もあるわけだが……。

 聖白石の加工法が漏れていると考えるよりも、そちらの方が可能性としては高いと思っている。が、まだそこに確証があるわけではない。

 それにこれは、セイバーン、アギー 、王家のみの秘密。ここで明かすわけにはいかない。


 俺の問いかけに、エルピディオ様は返事を返さなかった。

 不味いな……。なんとか反応を得なければ。興味を引かなければ。我々はジェスルではないと、伝えなければ!


「オゼロに潜る埋伏の虫はレイモンドだ。

 だから俺に、レイモンドを近付けた。同じ虫であれば、何かしら意思疎通を図るのではないかと思った。違いますか⁉︎」


 この状況が秘されているのは、ジェスル側にことを伝えないためだ。

 影を使っているのも、それが理由。ここにいる者らはエルピディオ様の信頼を得ている者らなのだろう。

 レイモンドの名に、周りの警戒が更に強まったのを感じた。

 それに合わせ、オブシズがグッと身体に殺気を纏わり付かせ、背後のジェイドが、飛びかかりそうな程に身を沈めるのを気配で察した。


「駄目だオブシズ、手を出すな!」

「だがお前っ」

「ジェイドも動くな! まだ俺の番だ!」


 オゼロの血を流してしまえば、もう取り返しがつかない。

 俺がジェスルではないと、認める術が無くなったのと同じ。

 それでは、皆の命を守れない。

 ジェスルではない。それを証明する術を、探せ。あるはずだ。何かが!


「母の死により、セイバーンに呼び戻されてからも、俺はあそこで孤立していました。

 セイバーンの者が俺に近付くことは牽制されていた。だから俺からも、敢えて接触を図らなかった。

 領内の状況、父上のこと……俺は真実を知らないまま、ただ無難に領地を回すことのみを考えて、二年半を過ごしました。

 父の急病を訝しみ、密かに動いていたセイバーンの者が接触してこなかったら、その後も知らぬままだったでしょう。

 そんな状態だった俺が、手段を選んでいられたとお思いですか? ジェスルはそこまで甘い相手ではないと、エルピディオ様はご存知のはずだ!」


 エルピディオ様はクッと、口角を持ち上げた。


「面白いことを言う。男爵家のたかだか十六の小倅が、影と繋がっている。その異様さは棚に上げるのかい?

 ジェスルの下で、何事もなく二年半を無事に過ごしたと?

 あの狡猾な連中の目を掻い潜って、策略を巡らせることができたと言うのかい?

 疑いを逃れるため、適当な言い逃れを始めたとしか、見えないがね!」

「取れる手段を選んでいられなかったから、虚と取引をしたんです!

 失敗すればセイバーンは終わりという状況で、ジェスルの手の内で飼われていたも同然の俺が、その耳と目を掻い潜って動く。その最良が、彼らとの取引だったのです!」


 俺の言葉の矛盾にも、この方は気付いている。兇手の力を借りること自体が、生半なことではない。

 彼らに命を掛けてもらうためには、それなりの信頼を得ていなければならない。父上奪還だけの関係であるはずがないのだと。

 だけど……っ。

 これ以上は言えない。吠狼らを巻き込めない。極力、彼らとは一度きりの縁だと、しらを切り通さなければ……っ。


 状況は、決して思わしくなかった。

 けれど、やっと俺の言葉に反応を返した。エルピディオ様の興味は引けた!

 ならばまだ、繋げられる。

 そう思い身を乗り出したけれど、エルピディオ様の次の言葉で、俺は返す言葉を失った。


「疑わしさしか無いね。

 学舎に十年。その後直ぐに領地へと戻った其方に、いったいどこで虚と繋がる機会があったと言うんだい?」

「それは……っ」


 あの時の複雑な状況を、どう伝えれば良い? どう、誤魔化せば……。


「……答えられない? それが答えだよ。元から繋がっていたのだから、当然ということさ」


 違う! だけど……マルが虚と繋がっていたことも、口にはできないことだ……。

 マルは俺の参謀だ。ならば、俺が繋がっていたと言われるのも仕方がないか……。でも……彼らは確かに虚であったけれど、ただ無差別に殺しを請け負う集団ではなかった。ただの虚とは、違う。今はもう、殺しからは足だって洗ってるんだ!


「エルピディオ様っ、ジェスルの裏を知っておられるなら、俺たちは敵対すべきではないはずだ!」

「もう……虫を腹に収めておくことには辟易しているのだよ私は!

 御託も聞き飽きた。残念だよ。其方は捕らえることにする。それからじっくりと、話を聞こう。偽りを吐けなくなってから……好きなだけ囀れば良い。

 ……他の連中は黙らせて良い」

「エルピディオ様⁉︎」


 命が下った。エルピディオ様は本気だ、皆が殺されてしまう!

 刃を向けてくる集団。本気の殺意。焦りから、半ば無意識に右手を懐にやったら、抵抗と見なしたのだろう、俺の動きを封じようと、オゼロの影から小刀が放たれた。

 向かってくる刃を、歯痒い気持ちでただ呆然と見つめていたけれど、横から伸びた手が、それを空中で掴んで阻む。


「サヤ⁉︎」

「大丈夫。たいした傷やない……」


 指を伝う血。溢れるように湧いてくるそれが、擦り傷であるはずがなかった。

 けれどサヤは小刀を投げ捨て、巻袴を毟り取って、血で濡れた拳を握る。顔の高さに持ち上げられた腕から、袖の中に伝い、流れていく赤……。

 駄目だ、そんなのは……サヤを傷付けないでくれ!


「エルピディオ様! 投降します、ですから他の者に手出しはしないでください!」

「世迷言をぬかすな!」


 俺の腕を振り解こうとしたオブシズに、必死で喰らいついた。

 駄目だ、手を出すな。公爵家で剣を振るってしまえば、もう後には引けない!


「オブシズ、エルピディオ様は俺が説得する。それまで何とか、時間を稼いでくれ! ジェイド、サヤを守って! だけど誰も傷付けないでくれ、お願いだから!」

「巫山戯てンのか⁉︎」

「レイ、もう無理や!」

「まだだ! 争っては駄目だ、俺たちは……っ」

「レイシール様に虚を繋げたのは僕ですよ、オゼロ様」


 その時不意に、これまで黙っていたマルが、口を挟んだ。

 全く態勢を変えず、長椅子に座り続けていたマルが、貴族相手に認められていない発言を行うという、愚を犯したのだ。

 当然、周りの視線が彼に集中した。

 それをどこか諦念の滲む瞳で見つめ返し、マルはまるで物語を語るように、言葉を紡ぎだした。


「僕は北の荒野の生まれです。役人のもとに生まれた僕は、貴族でこそありませんでしたが、それなりのことを知ることのできる立場を得ていました。

 虚との縁を繋いでいたのは僕です。北の地にはその土壌がある。オゼロ様はそれを、ご存知ですよね?」


 自らに虚との繋がりがあることを仄めかす発言を、まるで日常ごとを語るみたいに口にしたマル。

 周りの殺気立った雰囲気など気にもしていないという風に、言葉を続けた。


「無名の僕がこの地で名を馳せるには、貴族の伝手は必須。学舎で知り合ったこの方は、僕にとって、うってつけの逸材でした。

 この方が王家との縁を、それとは知らずに得ていることも、僕は知っておりましたからね。

 セイバーンにジェスルが巣食っていることも、薄々察していました。

 レイシール様がセイバーンに戻ると知った時、僕はその伝手を失いたくなかったので、この方に手を差し伸べることにしました。

 虚との縁は、レイシール様に選択の余地が無い状況を選んで、僕が提供し、選ばざるを得ないように仕向けたんです」

「……王家との縁だと? この後に及んで、何の冗談だ」


 また、男爵家の成人前に相応しくない言葉が出てきたと、表情を歪め、世迷言は沢山だとばかりに吐き捨てたエルピディオ様。

 けれどそれに対しマルは、にんまりと笑みを浮かべた。


「陛下が男装し、学舎に忍んで在籍されていた時期があることは、オゼロ様もご存知ではないですか」


 それは、本来上位貴族の中ですら、少数の者しか知り得ないこと。

 平民のマルがそれを口にしたことで、エルピディオ様は口を噤んだ。

 その情報を掴んでいることが、ただの平民ではあり得ない。


「レイシール様は、その当時から陛下のお気に入りだったのですよ。

 替え玉を務めるほどに気に入られておりましてね、散々行事ごとや茶会に駆り出されておりましたよ。

 ヴァーリンとの縁もそこで掴みました。この方は己の血筋の縁など必要としなかった。自らの力でそれを勝ち取ったのです」


 世迷言だと、無碍にできない。それだけの実績が俺にはある。

 何故か、王家とアギーからの推挙を受け、成人すらしていないのに長を賜った。

 何故か、リカルド様に気に入られており、弟のクロードを配下にした。

 この二家との縁が、学舎在籍中にあったと言う。

 怪しげな謎であったことに、理由が見つかった。


 言葉を返せないエルピディオ様。

 それを満足そうに見て、マルはさらに言葉を重ねた。


「全て本当ですよ。この方のおっしゃっていたことは。

 レイシール様は、学舎に入学された当初、六歳という幼さでしたが、ジェスルの仕打ちにより、自我の崩壊寸前の、本当に危うい状態でした。

 まるで精巧な蝋人形のようでね。僕の興味を引くには充分な、とても惨い有様でしたよ。

 よくこのような状態まで追い込まれたのに、あのジェスルの手を逃れて来れたものだと、そう思いました。

 だから、この方は赤子からやり直したようなものなのです。

 もう一度生まれた頃から生き直すことで、自我を新たに築き上げた。そうやって、ジェスルの鎖に今日まで、なんとか抗い続けてきたのです。

 しかもこれには、オゼロが無関係ではない。

 十三年前、レイシール様をジェスルの手から救い上げたのは、バルカルセ家のヴィルジール。

 その名をオゼロ様は、ご存知ですよね?」


 バルカルセの名がマルの口から上がったことで、劇的な変化があった。

 瞳を溢れんばかりに見張って、口を開いたまま、呆然と動きを止めたエルピディオ様と、ダウィート殿。

 その姿を見据えて、マルは「生きてますよ」と、言葉を続ける。


「ヴィルジール様は、生きておられますよ。今もなお、レイシール様をお守り下さってますよ。

 よく見てください。ほら……そこな武官の持つ小剣に、見覚えはございませんか? 髪色に、見覚えはございませんか?

 ラッセル様から聞かされてはおりませんでしたか。ご子息様の瞳の色について。

 彼の方は、物静かな方でしたけれど……こと息子のことにだけは饒舌で、表情を綻ばせすらした。そうでしたね?」


 マルの言葉に誘導されるように、お二人の視線がオブシズの握る小剣に向かった。

 当のオブシズは、動揺を隠せない瞳をマルに向けていた。彼の口から、二十年封印していた父親の名が出たからだろう。

 彼の握る小剣には、柄の部分に家紋が刻まれている……。刃を痛めても、刃のみ取り替え、柄を使い続けてきたから、それは摩耗して、傷が入り、少し擦れてしまっていた。

 拵え自体は上等。でも特別華美な宝飾等は施されておらず、家紋が刻まれている以外は、ごく簡素な意匠。

 一度、セイバーンで手放して、後に父上が、傭兵団宛で送り返した、彼が貴族であった頃から持ち続けている、唯一のもの……。


 俺は、オブシズの腕を掴んでいた手を緩めた。

 もう、周りの殺気は霧散しており、誰も動かないだろうと思えたから。

 そうして左腕を持ち上げた。

 オブシズの長い前髪……朝方隠すように伝えたそれを、掻き分ける。


「……オブシズの瞳は、蜜色で、縁の方から翡翠色が滲むような、美しい色合いをしています。

 オブシズというのは、十三年前から名乗り出した名です。

 ジェスルに縛り付けられていた俺を救うために無茶をしたせいで、名を捨てるなんてことを、させてしまった。

 俺は十二年、彼は死んだと思い込んで過ごしてきました。

 彼も十二年、セイバーンの地を踏みませんでした。きっと、オゼロにも、ジェスルにも踏み込んでいないのでしょうね……。

 戻るなと言った、お父上の言葉を守って、二十年……。傭兵をしてきたんだよな、オブシズ」


 その問いかけで、視線が動いた。茫然と俺を見つめるオブシズ。

 お父上が文官をしていたというのは知っていた彼だけれど、どこでどんな役職についていたかは、聞かされていなかったのかもしれない。

 地道な仕事を淡々とこなしていた、あまり生きることが上手くなかったというお父上は……、名を聞くだけで、エルピディオ様の表情を変えてしまえるような人だった。


「レイシール様はジェスルではありませんよ。

 もしそうであったなら、オゼロ様が無防備にしている今を、無駄にしやしません。

 そう思ったから、わざわざ隙を作って見せたのでしょう? そしてもう、結果は出ているはずです。

 これだけの殺気に囲まれて、それでも対話で場を収めようとする方が、ジェスルの操り人形であるわけがないのです」


 マルのその言葉で、ダウィート殿が動いた。

 よろけるように足を進めて、オブシズの前に。そして瞳を覗き込み、あぁ……と、掠れた歓喜の声を溢す。


「ラッセル様のおっしゃっていた通り、蒲公英の瞳……」


 蒲公英?


「……父を、ご存知か……」

「存じ上げております! ラッセル様ご存命の頃、私は見習いでしたが、彼の方の補佐についておりました。

 本当に良くしてくださったのです。平民のうえ、成人していなかった私は蔑まれるばかりで……けれどラッセル様だけは、私を人として扱い、仕事を褒め、労ってくださいました。

 貴方の話も沢山聞きました。春に生まれたから、春を閉じ込めた瞳をしている。……自慢の息子なのだと。

 美しい……蒲公英の瞳なのだと」


 オブシズの瞳を、春の花を閉じ込めていると表現したのか。

 オブシズのお父上にとってオブシズは、文字通り宝物だったんだな……。


 感極まったように、オブシズの手を握り、膝をついたダウィート殿。

 暫くそれを見つめていたエルピディオ様が、小さな声で「下がれ」と、影らに指示を飛ばした。

 その一言で、影の者らは剣を収め、棚の向こう側……多分隣室だと思われる場所に戻っていき、護衛と思われる武官二人のみが残る。

 本来は、武官を連れているのが当然のことだから、俺たちがボロを出すかもしれないと、敢えて隙を作っていたのだろう。


 そうしてエルピディオ様は、今一度オブシズを見た。

 次に、マルを見て、怪我を負ったサヤに視線が移った。

 眉間にシワを寄せて、ほんの少しだけ逡巡してから、諦めたように、長く息を吐く。


「……先ずは傷の手当てをいたそうか」


 それが、休戦の合図となった。



 ◆




 信頼が置けるという女中が呼ばれて、サヤの手の傷に、応急処置が施された。

 俺たちが誰もサヤに触れられなかったからだ。

 恐縮するサヤの手を、女中は丁寧に洗い、処置してくれた。女性のサヤが、深い傷を身に負ったことに、とても心を痛めてくれた。

 サヤが俺を庇い怪我をしたのは紛れもない事実で、エルピディオ様は、サヤに傷を負わせるに至ったことの詫びも述べてくださった。


 サヤの手の傷はやはり深く、飛来する刃を握り止めたせいで、指数本と掌を傷付けていた。当面左手は使っちゃ駄目だよと言い聞かせたけれど、自由にさせておくと、つい動かしてしまいそうだったから、肩から腕を吊る形で固定してもらう。


「何で握っちゃったんだよ……」

「咄嗟です」


 前にサヤは、飛来する矢を弾き飛ばしたことがあったけれど、この狭い場所で小刀を払っては、別の誰かを傷付けてしまうかもしれず、つい掴んでしまったとのこと。

 咄嗟で掴めるものじゃないのだけどな、本来は……。

 サヤだからこそできたことだけど、そのせいでまた、サヤを傷付けてしまった……。


「ごめん……ごめんな。いつも怪我をさせてばかりだ……」

「何を言ってるんですか。これが私の役目です」


 サヤはそう言い笑ってくれた。

 その笑顔を胸に掻き抱きたかったけれど、触れることすら、今はできない……。

 苦しいまま、拳を握りしめた。


 日を追うごとに、身の回りに危険が増えている気がする。

 こう何度もサヤを怪我させることになるだなんて……。

 俺たちはどんどん、危険な場所に踏み入っているのだろうか。だけど……俺たちの理想、俺たちの願いを形にするために、進むしか無い道でもあるのだ。

 サヤを守る方法を、もっとちゃんと考えなければ……。サヤだけじゃない、皆を危険に晒さない方法を。


「私は、レイシール様をお守りできたので、良かったですよ?」

「……サヤだって守られる立場になるんだからね?」


 だけど今回は、俺が皆に抵抗するなと言ったからこうなったのだ。

 村を襲撃された時もそうだった。俺はつい、みなの危険を顧みず、あんな無茶な命令を飛ばしてしまう……。


「皆もごめん……。皆の身の安全を考えたら、抵抗するななんて、無茶な話なのに……」

「あの時も今回も、最良を選んだ結果じゃないですか」

「そのおかげで大事には至らなかった。

 刃を交えていたら、途中で止めるなんて、きっとできなかったさ」


 サヤとオブシズはそう言ってくれたけれど、ジェイドはムスッとむくれ顔。小刀に、万が一毒でも塗ってあれば後悔じゃ済まなかったンだからな⁉︎ と怒られた。


 サヤの手当てが終わり、場が落ち着いたのを見計らって。


「……今一度、話を聞こうか……。

 どうやらお互い、もう少し腹を割って話す必要がありそうだ」


 エルピディオ様はそうおっしゃった。当然俺に否やは無い。

 武官の一人はずっとマルを警戒しており、彼が虚との繋がりがあると認めたことで、警戒対象が俺からマルに移ったのだと分かった。


 ジェイドはオゼロの目があるから、敢えて言及しなかったが、これは吠狼に対する裏切りと取られかねないことだ。

 万が一マルが捉えられ、吠狼らのことを自白させられでもしたら、彼らは身の破滅。

 だけどマルがそうしたのは、俺を庇うため。

 エルピディオ様が虚との取引を言及してくるかもしれないが、彼らはもう俺の血肉。必ず守ると心に誓った。


「はい」


 ジェスルの裏を知る者同士。お互い貴重な存在だろう。だからまずは、情報の共有を図る。

いつもご覧くださりありがとうございます。今週の更新開始です!

とはいえ……一話から書き直ししてます……分量的には二万くらい書けてるけど、ほぼ全部加筆修正。

が、がんばり、ます。今週も三話目指します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ