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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第十三章
377/515

前時代の遺物

 サヤが震える理由が分かった。

 もうマルも巫山戯ている場合では無いと、充分理解したよう。真剣な表情になり、サヤに問うた。


「何故今、その話を僕らにしようと思ったんです?」

「先程、オゼロが、ジェスルと繋がってるかもしれないって……マルさんがそう、おっしゃったからです……。

 腕時計だけならまだ……まだ何もできないって……そう思ってました。けど、元から電気に気付いていて、その製造法や、利用法を探していたなら……って。

 オゼロは、電気についてどこまで理解しているんでしょう……石鹸を作るための機械、それは確実に、二千年前のもの?

 苛性ソーダを作れているなら、塩素も……水素も作れてる……それが工業利用されてへんのやったら、一体どうなってる……? 危険な物質がどんどん溜め込まれているかもしれへん……ならオゼロはそれを使って、何を、しようとしてる⁉︎」


 最後の方は掠れた悲鳴になっていた……。

 だけどそれで余計に、サヤがそれほど危機感を持ち、慄いているのかが分かる……。俺たちに話しながらも彼女の思考は混乱し、恐怖に溺れ、助けを求めていた。

 だってそれは、サヤ自身が危険である。ということと、同義…………。

 その危険なものらを作るのと同じ技術を、サヤが所持していたということを、腕輪を盗んだ者は知っているのだ。


 自然と腕に力が篭った。


「…………大丈夫。守るよ…………絶対に守る……」


 必死で掻き抱くと、サヤも腕を俺の背中に回し、縋り付くように身を寄せてきた。

 この世界で、サヤが縋れるのは俺だけなのだ……。それを強く意識する。


「サヤくん、その腕時計というものの構造、描けますか?」


 相手が得たであろう情報をこちらでも確保しようと思ったのか、マルがサヤにそう問いかける。

 それに対しサヤは……。


「……外観は描けます。でも中の構造に関しては、無理です。正直、中身どころか……。

 自分の所持品でしたけど、継ぎ目がどこで、どうやって解体するかも、実は分かりません……。

 内部構造は相当複雑で、爪の先程もないような部品もあります。そして全て正確に組み上げなければ、動きません。

 また、水に濡らしただけで簡単に壊れます。あの腕時計はこちらに来た時に水に濡れ、動きを止めていましたから……一応、壊れていると思います」

「了解です。ならば、慌てずとも大丈夫。

 つまりそれは、現段階で、オゼロがサヤくんの腕時計を得たとしても、何に繋がるわけでもないということですよ。

 だから大丈夫。慌てなくて、大丈夫ですよ。

 それに、オゼロとジェスルが繋がっているかもしれない……というのは、あくまで僕の憶測のひとつ。言葉のままの意味でもありません。

 この二家が結託しているなんてことは、実際の可能性としては無いと考えてます」


 マルの噛んで含めるような言葉に、サヤは怯えつつ、視線をマルに向けた。

 それに対しマルも、彼にしては珍しく、表情を和らげ、サヤを刺激しないよう言葉を選ぶ。


「最も可能性が高いのは、神殿と、ジェスルの癒着です。この繋がりは、ほぼ確実かと。でもそうすると、神殿と繋がったジェスルと、オゼロの癒着はあり得ないとなるんですよね。

 オゼロは神殿と不仲なんですよ。あまり表立った対立は、していませんけれど。

 その理由のひとつが秘匿権にあります。

 神殿も案外色々な秘匿権を握っているのですけれど、その価値で言えば、然程のものがありません。

 何より神の加護を声高に叫ぶ彼らですから、前時代の遺物を殊の外欲しています。素晴らしいものは、神の奇跡であってほしい。自分たちの下にあるべきだと、思ってます。

 だから、不動の価値を持つ秘匿権を握るオゼロは、彼らには煙たい存在。長年秘匿権の寄進を望んでいるけれど、それを承知してくれないこともありまして、正直、王家以上に犬猿の仲なんですよ。

 とはいえ、オゼロは今後も、秘匿権の寄進には応じないでしょう。領地の運営は、神頼みでどうにかなるものじゃありませんからね」


 まぁ、病の発表で、今は王家も並びましたかねぇ。と、マル。

 サヤはそんなマルの言葉を、俺の腕の中で、ただじっと聞いている。


「だからこそのレイモンドなのだと、僕は考えています。

 きっと彼だけではなく、オゼロの中には、長年に渡り、ジェスルから沢山埋伏の虫が送り込まれているのではないでしょうか。

 宿主にその自覚があるかどうかも様々。

 因みにレイモンドは、そのどちらであったとしても端役でしょう」

「端役……」

「ええ。自覚の有無以前に、さしたる権限も与えられていないでしょう。

 彼のように我が強いと、命令なんて簡単に無視するでしょうし、自己顕示欲優先で行動するでしょうからね。頼りになんてしませんよ」

「…………なら、オゼロの使者は……」

「はい。腕輪を盗んだのがジェスルであったと仮定しても、レイモンドにはサヤくんの情報なんて与えられていないでしょう。サヤくんを狙ってきている可能性は、限りなく低いです」


 マルの言葉に、気が抜けたように、サヤが身体の力を抜いた。

 ぐったりと俺にもたれ掛かる、激しく体力を消耗した後のような、疲れ切った様子に、彼女がどれほどの恐怖と戦っていたかを思い知る……。


 サヤは……そんな可能性まで、考えていたのか……。


 でもそれを、極力伏せる気でいたのだろう。自分で対処しようとした。色々な問題でてんやわんやの俺たちを気遣って……。

 だけど自分一人ではどうにもならないほど、ことが大きくなりそうだと感じたのだろう。


 不安を感じた時点で相談してくれなかったことには、少々物申したかったけれど……。

 最後には俺たちを頼ってくれた。だから今回は、怒らないでおこう……。


「よく話してくれたね」


 そう言って頬をすり寄せると、安堵したように、少しだけ微笑んでくれた。


 遠慮なんてしなくて良いんだ。

 頼ってくれて良いんだよ……。


 そして、マルはああ言って誤魔化したけれど、彼女の危険が全く軽減していないことを、俺は胸の内に留めておこうと考えていた。

 レイモンド本人に権限は無くとも、彼の身の回りにジェスルが潜んでいる可能性は、充分にあるということだ。

 あの執事長のように、当たり前の顔をして、付き従っている可能性が……。

 多分マルは、あの腕輪はジェスルの手によって盗まれたと断定している。

 けれどそれが、ジェスルだけの意思によるものか、神殿の絡む案件か、そこを絞り込めていない……。

 アレクセイ殿をマルが警戒している理由も、きっとその辺りにあるのだと思う。


「レイ様的に、サヤくんの今の話を聞いて、オゼロ公爵の印象はどうです?

 戴冠式や任命式の話は聞きましたけど、今の話を踏まえて、前は意識しなかったけれど、今ならば……みたいなことって、ありますか?」


 マルから、急にそう話を振られ……。

 あの日一日のことを、今一度思い返してみたけれど……。


「ん……まだこれといっては……。

 彼の方が秘匿権をとても意識していたことは確かだし、俺に目をつけた理由が秘匿権絡みであることには確信を持ってる。そこに変化は無い」

「そうですか……。

 まぁ何か思いついたりしたら、またご報告くださいな」

「あぁ、分かった」

「しかし……デンキ……ですか。それがどういったものか、とても興味深いのですが……、サヤくん、これは聞いても良いものですか?」


 まぁマルはそこ、追求してくるよね……。


 つい苦笑が溢れた。

 普段ならサヤの精神面などお構い無しに食らいつくのを、一応配慮している……。サヤにお伺いを立てたことは、成長したと認めるべきか……。

 マルの質問に、サヤは少しだけ逡巡する素振りをみせたのだけど「電気自体は、皆さんも目にしたことが、ありますよ」と、か細い声で言葉が続いた。


「え……僕、見たことが、あるんです?」

「はい…………」

「……マルがじゃなくて、俺も?」

「はい。雨季を過ごされた方ならば、必ず目にしています」


 その言葉にマルはピンと来たようだ。


「あぁ、雷ですか!」

「はい。雷は、電気が視認できる姿にまで巨大になったものです。

 小さなものならば、私達の身体にも宿っています……」


 ……あ、そういえばサヤが、人が動くのも、キカイが動くのもデンキシンゴウが云々って、言ってたことがあった。


「羊毛の衣服がパチパチしたり、髪の毛がふんわり広がったりする、あれも電気の形です」

「あー……雷を捕まえたなら、確かに凄い動力になるのでしょうね……」

「雷は捕まえられません……。それを実験した国もありましたけど、実現しませんでした。

 けれど、空気中にある静電エネルギーを、集めることは可能なんです。

 水車からだって、高炉からだって、太陽からだって電気は得られます……」


 小声でポツポツと、囀るように囁かれる言葉。

 その言葉に、興味津々だったマルの表情が、次第に強張っていく……。


「……サヤくん、デンキというのは……今の我々でも、気付けば簡単に、得られるものなんですね?」

「はい……」

「…………それなのに、サヤくんの世界ですら……それを動力としたのは、二百年前……」

「はい……」

「それにより、十万以上の命が一瞬で消え失せるような危険なものも、作り出せてしまうのですね……」

「はい……。それだけでとは言いませんけれど、電気を動力とする手段を得てから、私の世界は……。

 たった二百年のうちに、空を飛ぶ方法すらも手に入れました。

 何十万という人が殺されるような戦争が起こりました。

 空の先……宇宙にだって、出ることができました。

 凄いものなんです。豊かになれる、画期的なものですけど…………」

「諸刃の剣……なのですね」

「私が特に懸念しているのは、苛性ソーダもですが……苛性ソーダを得る時にできる副産物、塩素です。

 私の世界でこれは、世界で一番初めにできた、化学兵器だと言われています。

 この世界に化学兵器という言葉は馴染みがないと思います……簡単に説明すると、致死量の毒を広範囲にばら撒く兵器。その土地に呪いを残すことすら厭わない、危険なものです」


 マルの表情が消えた。

 頭の中で、情報が激しく行き交い、膨大な知識が処理されているのだろう。

 そうしつつマルは、サヤにまた言葉を投げかけた。


「サヤくんは……カセイソーダなるものの製造方法を、ご存知なんですね……」

「………………………………理論上は」

「デンキの作り方も?」

「…………はい」

「デンキには、はい。なんですね……」

「……………………はぃ……」


 居た堪れないというように、腕の中のサヤが、身を縮こませ、顔を伏せた。

 それ以上聞いてほしくないと、サヤは、思ってる……。

 だけど、今これを話すことが必要だとも、思っている。

 もしオゼロが、秘匿権を危険なことに利用するため独占しているならば、サヤがここで話さなければ、それを阻止する者は現れない……。

 けれど、オゼロの握るものを晒すということは、それを狙う者が現れる可能性も、生み出すのだ。


 マルは知識の亡者。

 彼が知れば、もっと知りたくなる。追求したくなる。

 それを怖いと感じているけれど、頼みにもしているのだろう。彼ならば、この状況を理解してくれる。危険だと、分かってくれると。


「…………そうですね。今までのオゼロの歴史を鑑みて……オゼロが石鹸の量産を試みたことは、少なくとも二度。

 その二度とも失敗……というか、途中で断念しています。

 そしてその二回ともが、もうずっと過去のこと。それこそ二百年以上前の話になりますね。

 製造量を増やすことを求められたことも度々ありますが、その全てを跳ね除けています。

 価格維持のための策略……というにはいささか……。

 そう考えてみると不思議ですね……製造量を、増やすことも、減らすこともしていないように見受けられます。

 けれどどの代でも徹底しているのは、秘匿権の秘匿。職人に対する厚遇。そして……」


 そこでマルは、一度言葉を止めた。


「そういえばですね……オゼロには度々神隠しが起こるんですよ」


 急に話が飛んだな……。


 まぁ、マルの話が些か飛躍することも前からあることで、全然関係ないようでいてそうではない。

 だけどオゼロの石鹸の話から、なんで神隠しなんだ……。


「正確には、神隠しが起こっている節がある……でしょうか」

「………………?」


 サヤと二人顔を見合わせた。起こっている節があるって……それじゃなんでさっき、起こるって言ったんだよ?


「それがですね、痕跡が残っていないのですよね。その人が神隠しにあったという証拠も無いというか、存在が消えます。

 生まれたことも、死んだことも、無いんですよ。

 とはいえ、人の痕跡全てを消すなど、それは神の御業。人の手にそれを完璧に実行することなど不可能です。

 だから、そこかしこに存在の残り香が、漂っているんです。

 ひとりだけの場合もあれば、家族ごと……といった雰囲気もあったり……。

 そしてそれは、どれも比較的高貴な血筋……」

「高貴な血筋?」

「一般にも神隠しは起こっているのかもしれませんけれど、そちらは更に痕跡が残りにくいんでしょうか。その残り香すら見当たりません。

 サヤくんは、これをどう見ます?」


 無表情のまま、マルが頭の図書館よりサヤに投げかけた、不思議な質問。

 それに対しサヤが思考に有したのは、ほんの瞬き程度の間だった。


「連想するのは、ダムナティオ・メモリアエでしょうか……」

「なんですかそれ?」

記録抹殺刑ダムナティオ・メモリアエ。記録の断罪とも言われていまして、私の世界の古い国で行われていた、最も厳格な処罰とされています。

 それこそ、その人の生まれも、死も、功績も……例えば貨幣一枚一枚に刻まれた名前も、壁画も、全て削られ、塗り潰され、存在したこと自体を消されるんです。

 テロリストやクーデター……えっと……裏切り行為や重大な犯罪を犯したとされる権力者に与えられる刑罰でした」


 そのサヤの返答に、マルはまた固まった……。

 聞くだけ聞いて答えも無し……? ちょっとそれは、なんかこっちも気持ちが悪い……。


「マル……なんで急に、その質問を?」


 つい我慢ができなくて、そう口にしたのだが。


 マルは、暫く沈黙した後……。


「実は僕の学舎在学中にも、ひとり神隠しにあっているかもしれない人が、いるんですよね」

「っ! えっ⁉︎」

「名はフェルディナンド。面識が無いのでお顔は存じ上げませんが、オゼロ公爵、第二夫人の末娘。その一子であったはずです。学舎は途中で退学しています。

 けれど……もうとっくに成人しているはずの彼の名が、今はどこにも上がってきません。

 その当時、僕が調べていた折には、オゼロの末端に名を連ねていたんです。けれど今、その名はありません。しかも母親ごとね……。

 オブシズの在学期間にも、彼の在学は重なっていたはずですが……オブシズはこの人の痕跡を、記憶に留めているでしょうか?」


 こてんと、マルの首が傾いだ。

 十八年の在学期間、その中の在学生全てを記憶していると言っていたマル。通常ならば、記憶違いだと笑い飛ばせるけれど、彼に関してそれは無い。

 覚えていると言ったならば、彼は本当に覚えている。調べていたと言うならば、それは意図して記憶されているのだ。


「確認しなければいけないことが増えましたね……。

 少し時間をいただきます。なので、今日はここまでとしましょう」

「分かった……」


 なんとも座りの悪い状態だけど……。

 俺はそれを受け入れた。



 ◆



 マルは情報の整理をしてくると退室。今日の会議はこれでお開きとなったのだけど……。

 サヤをこのまま部屋に返すのはしのびなくて……。サヤもまだ不安が拭いきれていない様子で、少しだけ話をしようかと、声を掛けた。

 時間が時間だし、半分は断られるかと思っていたのだけど……。


「はい……」


 腕の中に収まったままのサヤが、そんな風に素直に応じ、身を任せるものだから……。

 暫くは、そのままサヤを抱きしめて過ごした。


「…………怒ってる?」

「何を?」

「…………直ぐに、話さへんかったこと……」

「怒ってないよ。言いにくいことだったのは分かってるし、こうしてちゃんと、話してくれたし……」


 そう言うと、ホッとしたように、肩の力を抜く。

 けれど……サヤの心はまだ大きな不安に苛まれている。それは表情だけで、嫌でも察することができた。

 ……怖いのだろうな……と、それは分かるのだ。

 自分だけが抱える不安。サヤは今、それと戦っている……。


 こうして話してくれたけれど、俺はきっと、サヤの伝えようと思ったことの、半分すらも理解できていないのだと思う。

 カセイソーダというものが、どう危険なのか。エンソというものが、どう危ないのか。それすら分かっていない……。

 サヤにその危険性を聞けば良いのかもしれないが、聞いたところで理解できないのだろうと思う。

 そしてその知識の乖離が、また彼女に孤独を実感させてしまう。それがまた、サヤの負担になってしまう…………。


 あぁこれが、世界が違うと、いうことなのか……。


 ただそれを実感していた。

 サヤを孤独にしないと誓ったけれど、サヤは、今も、孤独なのだ……。


 だから、せめてもの慰めになればと、こうして腕に抱いている。

 一人きりで震えず済むように……温めてやれるように……。


 暫くの間、ただ言葉もなく、身体を触れ合わせていたのだけど……。


「大災厄前の文明……って、どんなものやったんか、レイは知ってる?」


 ポツリと呟くような小声で、サヤが問うてきた。


「ん……神話としてなら色々と読んだことがあるけど……内容も千差万別だし、結構荒唐無稽な感じかなぁ。

 正直な話、大災厄前の文献って、本当に少ないんだ。こういった神話も、大災厄後に、前の文献を基にして書かれたとされている……でも、その文献の殆どはもう、残されていないしね。

 マルはたくさん資料を持ってるけど……それも殆ど、大災厄後のものだと思う。王宮の図書館には前時代の文献もあると言われているけど、一般の閲覧は許されてないから、俺は見たことないし。

 まぁ、だいたい纏めるとね……ラクルテルは、この大陸の南の山脈から北の山脈まで、そのほぼ全土を統べていたと言われていて、そうなると、シエルストレームスやジェンティーローニもラクルテルだったことになる。

 豊かな国であったらしいよ。極彩色の花に囲まれ、食材に恵まれ、人々は笑顔を絶やさなかったって。

 世界は神のつくりたもうた循環の中で平和を謳歌し、死んでも生まれ変わって、また幸せに過ごすんだ。

 ただ、ある時から、そこに脅威となる者らが襲来した。それが獣人を従えた悪魔。

 彼らは循環の中に、その穢れた身を投じた。それによって循環は歪み、人と獣人の争いが始まった。

 彼らは北の山脈の切れ目……今はジェスルだね。そこから入り込んで来て国を荒らす、悪の眷属として語られてるよ。

 神は元々ひと柱であったのだけど、あるとき生まれ変わりを果たして、数多の神に別れたろう?

 その時溢れた神の欠片が、地上の穢れに落ちて、時間をかけて少しずつ育っていき、悪魔となった……とされる説が一般的」

「…………一般的?」

「諸説あるんだよ。元からふた柱であったというのもあるし、獣人の神だったっていうのもあるし、ある時突然地中から生まれ出たっていうのもあるし、異界から襲来したって話もある……時代や国で様々に別れてるから」

「…………異界……」


 ポツリと呟かれたサヤの言葉。それと同時に強張った身体……。

 それでサヤが、何を考えたのかを悟った。


「違うよ」


 だから、即座に否定する。

 そして、今まで以上に強く、サヤを抱き締めた。


「サヤとは、違う……」


 サヤが、意図せずこの世界に招かれてしまったことは、俺が一番、理解してる。

 だって、俺の手がサヤを、この世界へ引き込んだ。

 俺がサヤを求めたんだと、今は思ってる……。


「違うよ……。だってサヤは俺の、女神だもの。

 俺の宝で、俺の妻になってくれる人で、俺を幸せにしてくれる人……。

 セイバーンの民、フェルドナレンの民、みんなの幸せを願ってくれる、優しい人だ……。

 今までサヤが俺たちにしてきてくれたこと、与えてくれたもの、全部がそう。みんなを笑顔にしてくれたものばかりじゃないか。

 何ひとつ、この世界を穢してなんていない。だから、サヤは違うよ……」


 額に口づけ、目尻、頬へと唇を這わせた。サヤは無抵抗で……いつもならあかんって大騒ぎするのに、俺の愛撫を黙って受け入れた。

 それが……サヤが今、孤独だということだった。

 なんでも良い。縋りたい。必要とされていると、ここにいて良いのだと、感じたい、思いたい……。

 サヤがそう請い、俺に縋っているのだということを、俺は、理解していた……。


「サヤは、俺の愛しい人だ。それで良いんだよ……」


 頬を撫で、頤を持ち上げて、唇を塞いだ。

 孤独なサヤを少しでいい、癒すものであればと願って。

なんとかまぁ、書いたけども。

明日の分はまだ何もかけてません!

でもとりあえず明日も更新できるよう頑張る気持ちはまだあります!

と、いうわけで、明日に向けてこれから頑張るっす。

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