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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第十三章
370/515

遺跡都市 カルヴァーレ

 そうして、順調に日が進み、雨季が目前となった本日。


「レイシール様!」

「ん⁉︎ あれ、呼んだ?」

「放心している場合じゃないんですよ……早く手元の書類を確認していただけませんか」

「うえ⁉︎ ごめん、気付いてなかった!」


 アーシュに冷ややかな視線を向けられ、俺は慌てて仕事に戻った。

 危ない……。つい頭があの会議の時に戻ってしまう。俺には全く分からない話。マルとサヤで行われていた、知識の共有に。


 何度も繰り返されてきた主要人物による会議なのだけど、先日のものは今までの予定を大きく変更せねばならない可能性が露呈した、重要な内容だったのだ。

 ……だったのだ、なんて、分かった風に言っているが……正直俺は話の内容をとんと理解できていないのだけど。


「現場の撤収は本日で完了致しました。他領からの視察も、皆さん帰路に着かれましたことを報告いたします。

 ……これも先程お伝えしたことなのですが」

「ごめん……聞いてなかった……。

 ……うん、了解。じゃあ、現場の騎士らは去年と同様になる。内容ははこっちの資料にまとめてあるから、一度現場の責任者と目を通しておいてほしい。

 で、これが去年、近衛の方々によって測定された内容。これをこのまま、今年も継続してもらうことになる。

 測定してもらうのは、一時間ごとの雨量と、川の水位だけど……」

「……これをすることに、一体なんの意味が?」

「うん。今は特に、意味は無い。というか、これは百年くらい続けないと、意味が出てこないかもしれないことだよ」

「………………は?」


 それまで不機嫌そうな表情で、俺の話を聞いていたアーシュが、ぽかんとした顔になりそう返す。

 彼には珍しい表情だよね。うんまぁ、意味がないなんて言われるとそうなる。


「近々には意味が発生しないということだよ。

 だけど、年数を重ねるごとに、意味が出てくる。

 例えばアーシュ、雨季全体の、セイバーン周辺に降る降雨量って、どれくらいか分かる?」

「………………分かる人がいるとでも?」

「うん。実は去年のは分かる。そこに書いてあるから」

「………………っえっ、ど、どう……⁉︎」

「セイバーン全土じゃないよ。セイバーン村の、定められた場所に置かれた直径十(センチ)の硝子管に振った雨の量。だけど、この量を、セイバーン村の面積に拡大すると推測はできるということだよ」


 気を動転させたアーシュに、笑ってそう付け加えた。

 まぁね、分かるわけがないと思ってたんだよ、去年までの俺も。だけど実際、分かる。


「今まで、雨季にどれだけの雨が降っているか、それを知る人はいなかった。だけど、それでは自然災害に太刀打ちできない場合がある。

 例えば、セイバーン村における、川の氾濫。これは雨季の長雨が原因と言われているが、実際はそうでない可能性があると、それを見て知った。

 だけど、確認するための情報が無いんだ。今までそれが残されていない。曖昧な表現の言葉しか、記されてこなかったから。

 だから……何十年後かに、もしかしたら、必要になるかもしれないから、これを毎年綴っていくことにした。それがお前たちにやってもらう職務となる。

 正確さが重要だ。適当にやっていいことじゃない。行動の結果が、五十年後、百年後に出ることになる。

 この作業に価値が出るかどうかは、これに関わる者たちの真剣さしだい。

 これの価値は、塵にも、宝石にもなるんだよ」


 そう言い資料を手渡すと、まずはそれを手に取り、視線を落とすアーシュ。

 視線が資料の上を流れ、指が頁を繰る。


「まあ、それを見るだけでも、分かる人には分かるかもしれない。

 見ての通り、雨量と水位が合致していない」

「……………………はぃ…………必ずしも……合っていない……」

「その原因を探るために、集めるんだ。理解してもらえたか?」

「…………それは、また氾濫が、起こるということですか……?」

「分からないよ。絶対に起こらないとは言えない。何事でもそうだろう?

 この氾濫だって、かつて無かったものが発生するようになったんだから。

 それで、今は無いからって、備えておかないなんて馬鹿らしいことを、俺はする気はない。

 気付いたからには、準備しておきたいんだよ」

「心得ました。作業に携わる者にも、徹底させます」

「うん、任せた。宜しく頼む」


 一礼して下がるアーシュを見送って、放心していたために進んでいない、手元の作業を再開することにした。

 暫く続けていたのだけど……。

 駄目だ……。全然集中できない……ちょっと休憩しよう。


「ハイン、お茶をお願い。少し休む……」


 そう言うと、手元の作業を止めたハインが席を立つ。

 退室するハインを見送って、俺は休憩用の長椅子に場所を移した。そうして、また思考に耽ることにする。

 先日の、会議の内容に……。



 ◆




 オゼロの都、カルヴァーレには異名がある。

 カルヴァーレという都市名よりも、その異名の方が轟いているため、人は大抵、カルヴァーレより先に、その異名でもってその都市の名を挙げる。

 そのカルヴァーレが、かつて何があった地であるか、それですぐに察することができるのだ。


 遺跡都市、カルヴァーレ。


 二千年より更に前。ここはフェルドナレンが興る前にあった大国の、首都だったそう。

 北寄りのあの地に何故、首都があったのか……。今となっては不思議でしかないけれど、二千年前に失ってしまった文明は、相当な発展を遂げていたのであろう。その片鱗は未だ、カルヴァーレのそこかしこに残されている。


 それは、オゼロの抱える秘匿権にも現れていて、それを作るために、遺産が重要な役割を果たしており、例え秘匿権など無くても、ここでしか製造できないとされているものもあるくらいだ。

 その代表的なものが、石鹸。

 石鹸は、かなり特殊なあるものを作り上げなければ製造できないものらしく、その過程は秘中の秘。マルすらも知らないことが含まれていたのだけど……。

 その秘中の秘をサヤは、あっさりと推測した。


「苛性ソーダの製造過程についてでしょうか……。

 あれは劇薬って、私の国でも言われていました。性能の良い石鹸を作るためには、苛性ソーダが必要不可欠と言えます。

 学校の授業で石鹸作りを体験したこともあるのですけど、苛性ソーダを扱う時は、ゴーグルにマスク、手袋必須で、失敗は絶対に駄目だって、念を押されたんです。

 服に付けることも、ましてや揮発したものを吸い込む、目に入れる、飲むなどしたら、失明や肌がただれるでは済まない……場合によっては死ぬからなって……先生にも散々脅されましたし」


 その劇薬とやらをなんで生徒に触らせるんだよ⁉︎


「二千年前に滅んだ文明……私たちの世界くらいの技術を持っていたのでしょうか……?

 と、なると……木炭を作っている設備というのも、私が想定していたものより高性能なものかもしれません」


 サヤの言葉にゴクリと唾を飲むユスト。サヤの世界の知識を耳にし、それに恐れ慄いているのだろう。

 彼女が異界の住人だということを、こういう時、本当に実感する。


「その二千年前の文明国、名をラクルテルと言ったんですけどね、あんな北よりの地に都市を作ったのには理由があったようなんですよ」

「資源的な理由ですか?」

「ご明察。ただ、それが何かは謎です。

 空中から魔素を取り出して利用していたなんて話もありますし、水や土を別のものに作り変える錬金術を駆使していたとも言われています。まぁ、神話の時代の話になりますが」

「…………」

「思い当たるものがあるといったお顔ですねぇ」

「…………再現は、難しいです。今の、この世界の文明は、まだその段階にない……と、思いますし、私だって、その知識を有してない……。

 それに……文明の技術とは、良いものばかりでは、ないですよ。それによってとんでもない殺戮兵器が生まれたりも、しましたから……」


 そのとんでもない殺戮兵器を知っているといった口ぶり。


「参考までに聞きますけど、その殺戮兵器って、火玉の……比じゃないんですねぇ……」

「下手したら、国が一瞬で消し飛びますよ。建物も何もかもが瓦解し、人だって灰塵にしてしまいます。私の世界でも、今から七十年以上前に、とある兵器一つで、都市が一瞬にして消えるような戦争がありました。

 ただ死を招くだけじゃないんです。その地には呪いのように毒が残されて、足を踏み入れれば汚染され、身を不治の病に蝕まれ、死に至ります。

 その兵器により、十四万人が死亡したと言われています」


 人が、灰に……?

 火葬したって、骨は残る……。なのに、全てが灰になるというのか?

 更に、呪いまで残るって?


「成る程。それは聞くべきじゃないんでしょうね」

「聞かれても説明できません……。ただ、そういったものが存在する。人の手によって作り出すことができるとだけ……。

 私の国は、かつてその兵器が使われた側の国です。私の住んでいた京都にも、その兵器が使われる予定だったそうです。

 でも……天候が悪く、雲で地形を視認できなかったため、他に上がっていた候補の地に、その兵器は落とされました。

 確か……爆心地は四千度とか言われていますね。鉄を溶解できる温度が千五百度ですから、それを考えると……」

「……落とした?」

「私の世界では、人も機械に乗って飛べますから。

 …………っ、やめましょう、この話は。そうじゃなくて、オゼロのお話でしたよね。木炭を作る施設の話……」

「……そうでしたね」


 秘匿権の無償開示により、フェルドナレンという国が大きく動く。

 そして、その過程で必ずぶつかるであろう問題があり、それにどう対処するかを、話し合っている。

 それは燃料という問題。

 これを製造できる領地が、ひとつしかない……という問題についてだ。


 木炭の秘匿権を握っているのはオゼロ。

 オゼロは、特別で特殊な秘匿権を、多く抱えた領地だ。それを長年に渡り保有し続けている。

 類似品の無い、至高の金の卵と言われる、特別な秘匿権。

 それが、石鹸であり、木炭。

 オゼロにとって、石鹸が最も価値のある秘匿権で、次が木炭と言われているが、一番金を生んでいるのは、この木炭の方だろう。


「まあつまりね、オゼロが木炭の秘匿権を握っているのは、この遺産を利用してその木炭を製造していたからなんですよ。

 二千年以上前の遺物と侮るなかれ、ということです。

 当然、現在その遺跡が担っているのは、製造される木炭の一部だけです。

 その遺産を基にして、木炭製造に特化した集落が形成されて、今はそちらが主流。ただし、その遺跡も未だ現役です。

 あぁ、そうそう。秘匿権というものが提案されたのは、この模倣技術を守るためだったのではないか……という話があるんですよね。

 ただ、模倣に成功したのは、木炭のみでした。

 石鹸は更に特殊であったようで、木炭のように、新たに模倣することもできなかったと言われています。

 だから石鹸の流通は、木炭のように広げられていません。あくまで嗜好品。特別な道具なんですよ、石鹸は」

「石鹸は模倣できなかったけれど、木炭はできた……。

 できたものと、できなかったものがある……ですか。

 そして、今も、使える…………」


 サヤの顔が、とても真剣だ……。


「恐らく、この設備を維持できる技術が本来の要なのだと思われます。

 だから、木炭の製造過程は僕でも調べ上げられたんでしょう」

「マルさんは、その設備を見たことが?」

「見たことはないですが、外観を模写したであろう絵は、確認したことがあります」

「……描けますか?」

「物凄い複雑だったんでねぇ……絵心あったって描けるかどうか……」


 マルと、サヤの会話が、分からない……。

 それは、ここに居合わせている全員がそうだろう。

 ハインは言わずもがな、そもそも聞いていないので省くとして、オブシズはどこか空の彼方を見上げるみたいな視線を壁に向けているし、シザーはオロオロしっぱなし。

 ユストはもう、現実を放り投げたいような顔をしているし……。


「模倣……ではないと思います。

 いえ、模倣されたのだと思うのですけど……木炭は本来、作ることがそんなに難しくないものなんです。

 言ってしまえば、陶器を焼くのと大差ない設備で作れます。知っての通り、鍋でも作れてしまうんですから」

「あれは本当、びっくりしましたけどね……まさかあの設備を鍋の中で再現されたのかと……」

「私の鍋も、きっと模倣の範疇なのだと思いますよ。

 重要なのは原理。素材を蒸し焼きにしてしまえる環境ですから。

 だから……この、遺産……本当に機能しているのか、正直、疑わしいです……。

 見たところ、これは相当複雑な設備ですし……本当は、もう機能していないのではないでしょうか」

「何故そんなことが言えるんです?」

「……この設備を動かすことのできる燃料です。何かを動かすには、必ずエネルギー……動力が必要です。勝手に動いているなんてことは、ありません。

 だから、この設備も動かすためにの燃料が必要で、これを木炭で動かせるとは思えないです……。そして、その燃料はもう失われているはずです。もしその燃料を得ることができるなら、木炭なんて製造する必要ありません。その燃料を作る方法を、模索すると思うんです」


 サヤの表情が、とても硬い。

 それだけ特別で、特殊な知識を必要とする話なのだと、その表情で伺える。


「けれど……この設備自体が、その前時代の技術で作られたもの。今の時代には再現できないもので構成されていて、それが利用できたのだとしたら、話が見えるかなって。

 例えば強度。そして耐火温度。この規模の設備ならば、相当数の耐火煉瓦が使用されていそうですし…………もしかしたら、内部を解体し、その煉瓦を使って炉を作った……?」

「……大変興味深いですね。続けてください」

「こちらの世界にも煉瓦は当然ありますよね。窯を作る時に使ってましたし……」


 より一層分からない話に移ってしまった……。

 サヤとマルが、何かを図にしつつ、話し込んでいるので、俺たちは一旦休憩することにした。

 ハインがお茶を用意しはじめたので、部屋の隅に移動。


「何を言ってるのか、全然分からん……」

「大丈夫。俺も分からない。とりあえずあちらの話に区切りが付かないと、先に進みそうにないから、少し俺たちは休憩な」

「……俺たち、理解できなくて良いんですか?」

「重要なことはマルが分かっていれば良いよ。俺たちに必要なのは、それがどれだけ荒唐無稽に思えても、信じること。それだけ。

 正直……本当に、異質に見えるけど……聞いていたろう? サヤの話しているものは、俺たちの世界にも、かつてあった可能性が高いってことだ。

 そしてそれは人が作れたものだったってこと。

 だから、恐れる必要は無いんだと思う」

「……今の会話でその結論に至れるんですね……」


 疲れたように長椅子に頭を預けて、ユスト。

 そうは言うけどなぁ……。


「俺からしたら、ユストだって人の手で再現できないようなことをしてしまう人だよ?」

「えっ⁉︎」

「マティアス医師の医術というのは、一般の医術とは全く異なるものだよな。

 それを、あの手この手で誤魔化して、この時代に沿った言葉に置き換えて、異端であることを逃れている……。

 つまりそういうことだよ」

「……あああぁぁ、なんか察してしまってる⁉︎」

「うん。だけど、重要なのは得られる結果だろう? だから、マティアス医師は守られているのだと、俺は思うよ」


 サヤの知識に触れていれば、自ずと見えてくるものがある。

 それは、知識というものがいかに重要であるかということ。

 全く関係ないもの、神憑っているとしか思えなかったものも、何かしらと繋がっていて存在できている。原理があり、結果があるということ。

 世の中はそういったもので構成され、それが積み重なることが奇跡に見えるということだ。


 そしてサヤは、その理屈を理解している。

 けれど我々の世界は、それを理解していたはずなのに……二千年前に、手放してしまったのだろう。


「……似たものがあるのじゃなく……文明の辿る経過というのは、同じ段階を踏むのかもしれないな……。

 これがなければ、これが成り立たない……。土嚢を積むみたいに、下から順々に積み上げていかないと、到達できない。

 サヤの世界は、それを続けて今があり、我々の世界は、それを一旦崩してしまった。

 もう一度、一番下のものを探し出すことから、始めなければならなかったけれど、それがどれで何か、もう、分からない……」

「……そう言われるとなんか、分かる気がします……」


 生きることに必死で、維持すべきものをそうできなかった。

 そう考えると、オゼロが残している秘匿権は、とてつもない価値を有するものなのだということが、分かる。

 エルピディオ様が、それをどれほど一生懸命守ろうとしてるかも、見えてくるのだよな……。


 とはいえ。

 今のままで良いとは、思わないのだ、俺は。

 守ることは大切だ。それは当然のことだと思う。

 だけど、それの先にあるのは、先細りの道……。新たに作り続けなければ、あるものを失い続けるだけなのだと、知っている。


「あああぁぁぁ! そういうことですかっ!

 じゃあやっぱりサヤくんの説が有力です。木炭の製造は、前文明の遺跡を利用しているわけではない!

 そうなると前提がひっくり返っちゃいますけど……えええぇぇぇ、どうしましょうかねえええぇぇぇ⁉︎」


 マルの切羽詰まったような、ひっくり返った声にギョッとして振り返った。

 あのマルが、どうしましょうかね⁉︎


「どうしましょうとは?」

「その遺跡を利用する方法を考えてたんですよ。うまく取引できるかなって。

 だけど、使えないとなると、目的のものをどうやって製造するかって話になるんですよ」

「遺跡が使えないことが、作れないことにはならないです」

「ですけど、耐火温度が想定していたものより低かったとしたら……」

「大丈夫です。日本はそれでも、タタラ場を機能させていました。

 私の世界でも、木炭を使って鋳造が行われていたんです。だから、木炭を大量に手に入れられる方法を得るでも、構わないと思います。

 確かに温度を維持するのは難しいと思いますけど……木炭でできないわけではない。だから……」


 …………駄目だ。一体何を言ってるのか、全然分からない……。

 頭を抱えかけたマルをサヤが落ち着かせ、また何かを検討し始めたってことしか理解できなかった。


「…………つくづく、あの二人は凄いと思う……」

「というか、なんでマルクスはサヤの話に付き合ってられるんですか……」

「逆です。マルの話にサヤが付き合えるのがおかしいのですよ」


 あれは変態ですよ。と、話に割って入ってきたハインがお茶を配りつつ言う。

 断言してきた……。いや、まぁ否定しないけど……。


「要は構造の問題なんです。燃焼の熱を、どうやって再利用するか。それによって得られる温度が違ってきます。

 その遺跡の構造が、それを形にしているのだとしたら、その遺跡は本来木炭を作るためのものではなかったということになるんです。

 私の世界で製鉄技術を初めて確立したのはヒッタイト人だと言われていますが、彼らは環境によって自然発生する強風を製鉄に利用していたとされていて、私の国のタタラ場ではこの送風技術が未熟であったために……」

「……つまり炉で発生した熱風を再利用すると言うことですか?

 でも熱は上に逃げていきますよね? それを下部に送るとなると……」

「……なので、高い煙突が必要で、その高低差による温度変化を利用して……」


 終わりそうにないので、暫く二人きりで話してもらうことにした。

 こういう時、力になれない自分の頭脳を恨めしく思う……。



 ◆



 まぁそんな感じで、前回の会議はそのままなし崩しで終わったのだ。

 マルの中に組み立てられていた作戦が一旦瓦解してしまい、それをまた組み直す必要があるという結論で。

 それでまぁ、それは良いのだけど……。後々になって気になりだしたのは、その時のサヤの表情。

 知識を引き出す時、その責任に、彼女はいつも緊張している。それは、確かにいつも通りなのだけど……。


 あの時の表情と、口調に、どうにも違和感が、残っている。

 その理由が分からず、かといってサヤに聞くのも憚られて、ずっと考えてしまっていた。


 あの時のサヤは……何か必死だった。

 何に必死だった? マルの作戦が意味をなさないものになってしまったから?

 だけど、彼女の表情が強張ったのは、その前からだという確信がある。

 オゼロの秘匿権……その話に入った辺りから、既に……。


「…………どれだ……」


 ひとつひとつ、会話を順に思い浮かべるけれど、たどり着けないのだ……。

 それは、きっと俺の中に情報が足りていないからで、サヤの話に結びつくものが、俺の中に無いからだと思う……。


 頭を抱えて悶々と考え続けていたのだけど、お茶が来たので思考を終えることにした。


「サヤは?」

「木炭作りです。まだ作業中ですね」

「本当に木炭が作れてしまってるな……。いや、竹炭で分かってたけど……」


 ちゃんと、木炭と言えるものができてしまっているのだよな……。


「次は違う方法を試すと言ってましたが……」


 サヤは今、とある作戦のために木炭を製造している。

 質はともかく、木炭といえるものを作れることが重要で、極力、一度に大量を作れるように、少しずつ規模を大きくしていっているのだ。

 もちろん、秘匿権の申請は、まだしていない……つまり、法を犯しているわけで、これは極秘に行われている。

 最終的に、拠点村の中では作れない規模になる予定で、その場合はどこでそれを行うかという話にもなっているのだが……もうそろそろ雨季だしな。雨季明けに先送りされるだろう。


「…………ハインは……サヤに違和感を感じる?」

「……今の所、特には……」

「そうか……。じゃぁ、もう少し待つかぁ……」


 周りに伏せておけないくらいに追い詰められているなら、こちらから動くべきかもしれない。

 だけど、サヤが言えると判断していないことを、無理やり聞き出したくない。だから、もう少し……。

 だけどサヤが戻ったら、ちゃんと元気かどうか、一旦確認してみよう。

 あまりギリギリになるまで、一人で頑張ってほしくないし……。


「匙加減が、難しい……」


 そう思いつつ、茶を啜った。

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