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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第十二章
344/515

閑話 白い娘

 クロードたちがセイバーンに到着したのは更に翌日。


「ようこそセイバーンへ。

 私はこの村の責任者、レイシール・ハツェン・セイバーンと言うんだ。宜しくね」


 しゃがんで目線を合わせて、まずは自己紹介から。

 クロードの娘である彼女は、名をシルビアと言った。

 刺繍をふんだんにあしらった紺色の陽除け外套を纏い、手には白い絹手袋。晒されている肌は鼻から下のみという出で立ちだったのだけど、館の中へと招き、陽除け外套を外した少女は、雪のような肌と、雪のような髪の持ち主だった。

 お人形さんのように愛らしい子だ。

 迎えの騎士らを含め、皆が唖然と瞳を見開いている。

 まぁ、そんな反応になってしまうのは致し方ないとしても、ちゃんと歓迎してるのだって伝えなきゃ、幼い子は不安になってしまう。


「馬車の旅は初めてだったのだろう? 長く揺られて、大変じゃなかったかな?」


 なんのかんので白い方と接した経験が豊富な俺は、彼女の白さを目にしても、然程衝撃を受けはしなかった。

 陛下の髪は本当に純白といった感じなのだけど、この娘のふんわりとうねった白髪は、少し黄味掛かり、乳白色に見える。瞳は真昼の空のような淡青。

 同じ白でも、やっぱり個性があるのだなと感心した。どちらかというと、アレクセイ殿の髪色に近い気がするな。


 急に話しかけてきた俺に、シルビアははじめ、びっくりした様子で固まっていたのだけど、我に帰った途端、サッと母親の背中に逃げ込んだ。どうやら警戒されてしまったようだ……。


「申し訳ございません、あまり人馴れしていないものですから……」

「いえ、幼いのですから、そんなものですよ。

 奥方も、よくお越しくださいました。本当に田舎で、びっくりされてないと良いのですが……」

「風光明媚な地だとお伺いしておりました。その通りで、空気から美味だと感じましたわ。

 でもこの村には驚かされました。村……で、合っているのですよね?」


 どこか自信なさげに言う奥方、セレイナ殿。まぁね、もう村って言い張るのは少々難しいくらいの様相だものな。


「ええ。交易路計画の、資材管理のための拠点村……ということになっているのですが、私の研究施設も兼ねているもので、ちょっと村らしくなくなってきてしまいました。

 この村全体が、大災厄前文明文化研究所……通称ブンカケンとなります」


 そう言うと、白い少女が母親の袴の端から、少しだけ顔を覗かせる。


「今日から住む借家もね、お父様のお仕事場なんだよ。面白いだろう?」


 覗き込んでそう話し掛けると、またぴゅっと、引っ込んでしまった。小動物みたいで可愛いなぁ。


「この村全体が、職場……驚く規模ですわ……」

「まぁでも、生活する分には普通の村ですから、あまり難しく考えないでください。簡単に説明すると、ここは職人村なのです。

 大災厄前の文明研究もしているのですが、活動の大半は秘匿権を得た発明品の生産でね。

 その販売で、交易路費用と、新たな研究を行う、言わば商店の集合体のようなものなのですよ」


 そんなやりとりをしている間に、お茶の準備が整った様子。

 サヤが知らせてくれたので、暫くここで寛いでくださいと、席へ案内した。

 セレイナ殿の袴の影から、シルビアが興味津々にサヤを見ている。きっと黒髪が珍しいのだろうな。


 只今クロードは、荷馬車と共に借家の確認に向かっている。

 シルビアは陽の光が毒となる体質であるから、家の中がある程度片付くまで、この館で待っていてもらうことにしていた。

 さて。もう少し慣れてもらえるよう、交流を図るとしよう。


「シルビア、これはここで皆が好むお茶なんだ。乳茶というのだけどね、甘くて美味しいよ。

 それとこっちはね、桜桃マフィンと言うのだけど、これらはこのお姉さんの故郷のお菓子なんだ」


 牛乳茶は牛という言葉に驚かれてしまうので、名を乳茶と改名しました。

 まぁそれはともかく、お菓子で懐柔する作戦に出てみたのだけど、シルビアの興味は菓子よりサヤの黒髪であったよう。


「………………。……黒い、の?」


 細くて高い、小鳥の囀りのような声。初めて喋ってくれた。


「うん、そうだよ」


 そう答えると、シルビアだけでなく、セレイナ殿も驚きの声を上げた。


「まぁ! 光の加減ではなく、本当に黒いのですか⁉︎」

「はい。私の故郷では、珍しくもない色なのですが」


 にこりと笑ってサヤ。

 母親の影に隠れるのも忘れた様子で、シルビアはサヤの髪に興味津々の様子。

 触ってみる? と、尻尾のように纏めた髪を、肩からさらりと胸の前に垂らしたサヤに、抗いきれない魅力を感じたようだ。

 意を決して、おずおずと近づいて行く。


「……触っても良いの?」

「構いません。どうぞ」

「………………どうして、こんなにツヤツヤキラキラしてるのかしら……」

「お手入れしています。洗ったり、櫛で梳いたりして」

「…………あのお兄さんも、キラキラしてるから、お揃いの白い髪なのかと、思ったの」

「レイシール様は銀色をしてらっしゃいます。とても長くて綺麗でしょう?」

「うん」


 なんか微笑ましいな。

 白と黒で、対比が美しいし、とても絵になる光景だ。


 初めて故郷を離れ、遠い地への移住。今まで隠されてきた白髪をも晒すのだから、セレイナ殿も、きっと少なからず緊張していたことだろう。

 けれど、微笑ましい娘とサヤとのやりとりに、表情が、幾分か和らいだ。

 だから、これを機にと、周りの皆にも聞こえるよう、言葉を発する。


「……初めはやはり……皆が白に驚くと思うのだけど……。これからゆっくり、全部を当たり前にしていこうと思っています。

 ここにはご覧の通り、髪の黒いサヤもいますし、他にも、結構珍しい肌色や瞳色をしている者がおりますから、皆が慣れるのも案外早いと思うのですよね。

 色々不便も多いでしょうが、気兼ねなく、過ごしていただけたらと思います」


 白は特別。今までそう教わり、過ごしてきたのだから、その意識が簡単に抜けないのは仕方がない。

 けれど、もう王家の白は病と知られ、王家以外にも白が生まれて当然なのだと周知がなされた。だから皆も、白を特別視するのじゃなく、サヤや、オブシズや、シザーと同じように、受け入れてやってほしい。そんな、気持ちを込めて。


「田舎ですけど、珍しいものもだけには事欠きませんから、案外楽しめると思いますよ」


 そう言葉を添えると、やっと微笑んでくれた。


「有難う存じます。娘も私も、今日まで人目を憚ってまいりましたので、このように人前に身を晒すことから不慣れで……。

 何かと至らぬことも多いと思うのですが、どうぞ宜しくお願い致します」



 ◆



 そんなこんなで寛いでいたのだけど、クロードが戻るより先に、ナジェスタたちが到着した。

 ついでだから、待っている間に顔合わせを行うことにして、部屋に呼び、この村の居着き医師であるナジェスタと、医官のユストゥスだと紹介したのだけど。

 折角サヤに慣れてきていたシルビアは、新たな大人の登場にまた緊張してしまい、母親の影に隠れてしまった。

 聞けば医師には、何かと怖い思い出が多いらしい。

 長老の存命時、彼の主治医であった老医師が、シルビアの主治医も兼任していたそうなのだけど、態度も横柄で、居丈高であったそう。

 とはいえ、病に罹りやすかったシルビアは、その医師の世話にならざるをえなかったのだという。


「あー、ありがち! 特に貴族お抱えの医師ってそうなりがち!

 薬もねー、苦くて渋いやつ選びがち。なんか効きそうって、老人受けは良いのよね効能はともかく。

 子供は舌が敏感だから、余計に苦いって思っちゃうのに、配慮欠けがち!

 だけど大丈夫! 顔しわくちゃで怖いおじいちゃん医師じゃなくて、これからは、この若くて可愛いお姉さん医師が、貴女の主治医だよっ」

「姉貴っ! 言葉慎んでっ、公爵家の奥方様とご息女様だって説明しただろ⁉︎」


 安定のナジェスタさんです。

 ピャッと驚いた様子を見るに、すっかり失念していたようだ。

 だって子供は上から目線より同列目線の方が落ち着くんだよ? それで不敬で首が飛んだら本末転倒だよな⁉︎ と、修羅場に雪崩れ込んでいるのを、ぽかんと瞳を見開いたシルビアが凝視している。うん……楽しい人たちでしょう?


「えー……ナジェスタなのですが、マティアス医師の愛弟子でして、ちょっと気さくなだけの、良い人ですよ。

 女性ですが、腕は師に匹敵するほどと言われています。まぁ一応、ちゃんと仕事をすれば、まともなので……」


 うん。まずは仕事してるところを見てもらおうか。


「はーい、お口を大きくアーンして」


 ナジェスタにそう言われ、後方で助手の二人が揃ってアーンと大きく口を開くと、釣られてシルビアも口を開く。

 さっきのごちゃごちゃで、恐怖心は薄れた様子。助手の二人が年齢的に近いのも、緊張をほぐした要因だと思う。

 すかさず金属のヘラを口内に入れて、喉の奥を確認するナジェスタ。けれどそれはさっと引き抜かれ、恐いと思う間もなく終了した。

 更に、顎の辺りや首を手で触り、何かを確認して……。


「ちょっと風邪気味だったかな? 道中で咳などされてましたか?」

「はい……夜間少し……」

「もう治りかけてますし、全然平気ですから、ご安心くださいな。だけど、喉が潤うお茶を、寝る前に飲んで寝るようにしましょうか。

 目が少々充血してますし、咳で少し、寝不足になってると思うの。十日間ほどで良いですよ。

 シルビアちゃんは、甘いのと、さっぱりしたの、どっちのお茶が好きかな?」


 うん、診察はこの通り、まともです!


 その後、シルビアの好みを聞いて、薬を調節したナジェスタ。処方箋を受け取った助手が、一人走って薬師の元へ向かった。また後でお家に薬湯を届けますねと伝えて、診察も無事終了。


「有難うございました」

「お大事になさってくださいな」


 これにて、主治医となるナジェスタとの顔合わせも無事終了。


「何も痛くなかった。怖くなかったわ……」

「そう。良かったわね」


 小声でそんなやりとりをする親子を見て、ユストが安堵の息を吐き、胃の辺りをさすっていた。

 はじめの失態も無事に取り返せたようで良かったな。

 まぁ、貴族対応はさておき、幼い子供を相手にする場合、ナジェスタの選択の方が正しいと、俺は思う。不敬どうこうより、子供を不安にさせまいと動くのは、ナジェスタの良いところだ。…………まぁ、少々、時と場合は選ぶ方が良いけど。


 そう思い視線を巡らしたら、いつの間にか戻っていた様子のクロードが、ニコニコと笑顔で立っていた。

 診察の様子を黙って見ていたらしい。見つけたシルビアが、あっという間に駆け寄って、飛びついて、それをクロードは優しく抱き上げる。


 ずっと触れ合ってこれなかった親子だって聞いていたけど……シルビアはちゃんと、両親二人に気を許している様子。

 年月じゃないよな……どれだけ自分を想ってくれているか、大切にしてくれているか。そういったものは、ちゃんと伝わっているってことだ。


「おかえりクロード。借家の方、どうだったかな?」

「使用人に、荷物の方は任せてまいりました。

 あの、ありがとうございます。帳といい、(ひさし)といい……借家ですのに、あのように配慮していただいて……。

 それから、荷解きの手伝いまで手配していただいたそうで」


 恐縮した様子でクロード。

 借家の帳は、全て絹の暗色と、薄布を重ねた作りのものを設置しておいた。光量の調節ができて良いんだ。

 あと、居間の大窓前には(ひさし)と縁側を増築した。陽の光が居間に入りすぎないようにするためだ。


「シルビアの体調が最優先だから。

 それに帳は、完成した屋敷でまた使えば良いし、庇だって、あって文句の出るものじゃないからね。

 荷解きの手伝いは、女中頭が申し出てくれたんだ。

 ここの村は設備ひとつとっても特殊だから、説明無しでは扱いにくいって。

 手伝いは、その説明のついでだから気にしないで」


 何せ風呂やらカバタやら、特殊な設備だらけだからな。説明無しでは何も始まらないのだ。

 この村に来た職人も、大抵それで大騒ぎし、先人がちょっと自慢げに扱い方を教えるというのが恒例になっている。

 おかげで近隣との交流が自然と始まる、良い流れとなっているのだ。


 さて。とりあえずこれで全員が揃ったことだし……。


「じゃあ、白化の病に関する情報交換、これからの日々の過ごし方にも関係してくるし、始めようか。

 セレイナ殿も、シルビアも、一緒に聞いてもらえるかな? 特にシルビア、自分の身体のことだから、難しくても、聞いておく方が良いと思う。

 これから君は、ここで生活していく。できることが沢山増える。その分、危険なことも増える。

 だから、ちゃんと知って、できることを、安全に行えるようになろう」


 正しい知識を得て、皆と同じように生活してほしい。

 笑って、泣いて、勉強して、友を得て、一生ものの親友を作って、人生を、楽しんで。

 俺はそれを学舎で得た。だからシルビア、君はここで。沢山の出会いと経験を、得てほしい。


「セイバーン医官のユストゥスと申します。ではまず私から、この病について説明させていただきます。

 まずこの病は血の中に種を宿すもので……」



 ◆



 ユストにより、白化の病について、王家より発表されたと同じ内容が、改めてセレイナ殿と、シルビアに伝えられた。

 この病は、血に種を宿す者同士の婚姻により、子に受け継がれ、開花する病であること。

 種を持たない者との婚姻ならば、絶対に開花しない。つまり、陛下は種を持たないとされる伴侶を得たため、王家の白も、次代では絶たれると予想されているのだ。

 ただし、この種は何百年もの長きに渡り、公爵家と王家で交わり続け、強化されてきた。たとえ開花せずとも、血の中には種は残り続ける。

 更に、王家と公爵家は近親での婚姻を繰り返してきており、血の濃度も高まっている。これを薄めるには相当な年数を要するだろうとのこと。一代、二代、他家と婚姻したくらいでは、この種の所持者を減らせない。

 これを根絶しようと思ったら親から受け継ぐ設計図を自ら選別するくらいのことが必要で、それは神にしかできない所業だ。

 だから、時間をかけて血を薄め、種の保持者を減らしていき、病の発言率を下げていくことが、今できる最大限のこと。本当の意味で殲滅するのは、正直無理だと考えるしかない。


 まぁ、そこはまだまだ先の話だ。シルビアは七歳だし、婚姻なんてずっと先のことだ。今はここでの生活について話そう。


 この病の特徴は、光の毒を体外へ排除するものであるはずの、メラニンというものが、身体で生成されないということ。

 シルビアはそのため、光の毒を全て身体に受け入れてしまう。本来なら日焼けで済むものが、火傷となってしまう体質なのだ。

 また、瞳にも病の特徴は出ていて、一般の者たちより、彼女は光を強く感じる。我々が普通に過ごす日常の光でも、彼女には眩しすぎるのだ。

 更に、光の毒を体内に溜め込みすぎた場合、斑の病……肌に黒いシミが広がり死に至る、皮膚癌という病を引き起こす可能性が、高まる。


「今まで、陽の光には極力触れぬように過ごして来られたのですね?」


 サヤの問いかけに、セレイナ殿はこくんと頷いた。


「意識していたわけではありませんが、人目に触れることが叶わぬ身でありましたので……」


 そう答えたセレイナ殿は、不憫そうに娘を抱き寄せ、眉を寄せる……。

 サヤは、暫く考え込むように俯いて。


「では、多分……シルビア様は、少量のメラニンならば生成できているのだと思います。白髪と言うよりはプラチナ……髪の色が淡く黄味掛かっていらっしゃいますし、瞳にも色がありますから」

「そうなのですか⁉︎」

「はい、とはいえ、一般の方々よりは、格段に少ないです。

 今まで通り、陽の光は極力控えて生活していただけたらと思いますが、きちんと対策を取れば、それほど重篤なことにはならないかと。

 もうお伝えしてあると思いますが、光の毒を取り込むのを抑制する働きがあるものとして、衣服は極力絹物、色は濃い目の色を使うよう心掛けていただければ、外出も然程難しく考えなくても行えると思います。

 それから、瞳の保護に、つばの広い帽子や、色付きの眼鏡をご利用いただければ、更に目の保護ができると思うのですよね。

 瞳はやはり、皮膚のような膜の守りがない分、弱いので、あまり強い光に晒され続けると、視力の低下も早く招いてしまいますから……」


 ユストやナジェスタ立ち会いのもと、白化の病について、サヤの知識を今一度確認した。

 陛下が病について公表したことで、この病の知識は表に出た。でも、これがサヤの知識であるということは、おおっぴらに口外できない。

 神殿の目もあるし、その知識を欲する輩につけ狙われるかもしれないからだ。

 とはいえ、これからこの病については、もっと調査していかなければならないし、今を生きていくシルビアにとって、知識は命綱だ。だからサヤは、この一家に知識を晒すことを、自ら選んだ。

 一応、サヤからの知識であることは、伏せるようお願いしたけれど。


 サヤはこの日のために、色々と思い出す努力をした様子。

 鉄分を用いて色を変えた硝子で、瞳に入る紫外線も減らせると話した。これは今回初耳のこと。


「確か、ワイン……葡萄酒の酸化も、紫外線が理由だったと思うんです。一部のお酒などは、色付きの瓶に入れて酢になるのを防ぐでしょう?

 だから、緑や茶色……が、確か……鉄分で着色していたと思うんです。他にも混ぜれば、黒い硝子も作れたかと。

 私の国では、この黒や茶色い硝子で眼鏡を作り、瞳に入る光量を調節していました」


 酒には詳しくないのでいまいちピンとこなかったが、色付きの瓶が使われているものがあるのは、そういった理由なのか……。

 それにしてもサヤは、硝子を着色する手法まで知っているようだ。これも秘匿権ではないものの、口外が憚られる知識ではあるはずなんだけどなぁ……。


「サヤさん、メラニンが作れない人でも、髪が色付いている場合があるの?」

「はい。日焼けして、黄色く変色する場合があるんです。ですが、シルビアちゃんには色的にも、当てはまらないかと。その場合、光沢の無い黄色っぽい色になったと思うんです。

 ただ……私の知識は、知識でしかないので……実際に、白皮症の方を目にしたことはありませんし……あくまで多分……としか、言えなくて……」


 少し自信がないのだとサヤ。

 けれど、瞳に色が付いている以上、少量のメラニンが作られていることは確かであるそう。


「髪の色素も作れていたなら、瞳に色が付くだけよりは、もう少し生成量が多いとなるんです。

 本当はメラニンにも種類があったりするのですけど、そこは私もあまりちゃんと覚えてないので……。

 とにかく、色が濃くなればなるほど、メラニンの生成量は多いです」

「先王様は薄紫の瞳だったよね?」

「先王様は、シルビアちゃんよりはメラニン生成量が少ないのだと思います」

「……でも陛下の赤い濃い色は除外なの?」

「陛下の瞳は、本当は透明です。赤いのは、血管の色が透けて見えているからで、先王様の瞳が薄い紫だったのも、血管の色が若干透けていたのだと……」


 陛下の瞳が本当は透明……。なんとも底知れない知識だ。

 とにかくシルビアは、陽の光を直接、長時間浴びないようにすることが、大切であるという。


「陽除け外套よりも、つばの広い帽子の方が、本当は良いんです。顔に光が直接当たりませんから。

 でもこの国にはあまり、帽子が無いみたいなので……一回ルーシーさんに相談してみましょうか」

「そうだな。異国のもので、良いものがあれば仕入れてもらったら良いし、無くても……」

「はい。再現できると思います。形は然程、特殊ではないので。

 それから、夏の長袖は暑いですから、従者服等で採用した意匠を使って、少しでも涼しい衣服を模索できないかなって」

「あぁ、それは良いかもな!

 貴族女性も、肌の白い方が好まれる。白化の方用とせずとも、日焼け対策品とすれば、結構良い線で売れそうだ」


 意匠師がいる環境って凄いな。これって思ったものは即座に図案にできるのだから。


「私の国のアルビノの方は、学校に通って、結構普通に生活されているんです。

 だから、シルビア様も……毎日とはいかなくても、友達を作りやすい環境が得られるように、できたらなって」


 そんな風に優しく語るサヤが愛おしい。

 クロードたちにも、サヤの優しさは伝わっている様子。シルビアは、友達ができるかもしれないとあって、ソワソワと身を揺らし、セレイナ殿も少し涙ぐんでいた。


「まぁ色々と時間は掛かると思うんだけど、シルビアが過ごしやすくなる道具も開発していこうと思う。

 それもクロードの仕事の一環になるからね」

「はい。娘のためならば尚のこと、頑張れます!」


 明日から即仕事に携わりたいと主張するクロードに、もう一日くらいゆっくりしたら? と、伝えたのだけど、早く仕事を覚えたいし、現場も見たいと言う。リカルド様からも、圧巻だと聞いているらしい。


「そうだな。では明日、早速現場を確認してもらおうか。

 そろそろ各地から研修の者らも到着しだすと思うから、それまでにクロードにも、現場の采配を覚えておいてほしいしな。

 とはいっても、さして難しいことはないのだけどね。

 工事自体は土建組合に依頼してあるから、彼らに任せたら良い。こっちがしなくちゃいけないことは、正確な土嚢の作り方と、積み方を、騎士らの身体へ徹底的に叩き込むことだ。

 なにせ体力とコツの必要な作業なんだ。すぐに疲れて休んでいたんじゃ、作業も進まないし、有事の際にも使えない。

 個人としては、一定速度で一定の練度を保ち、できるだけ多くの土嚢を作り、積み上げること。

 軍隊としては、迅速に作業を進める連携的面の修練が必要になる」


 交易路を任せてある土建組合員には、前回の土嚢壁作りを担当してくれた若手が多く参加しているから、分からないことや、疑問に思ったことは、彼らに確認すると良いと、伝えておいた。それから、職務の同僚としてアーシュも紹介しておく。


「セイバーンの貴族出身者、二人だけだから、ちょっと大変だと思うんだけど……」

「どうぞ宜しくお願い致します」

「こちらこそ。

 ご承知と思いますが、職務上同僚です。どうかヴァーリンの名はお気になさらず。気兼ねなく接していただけたらと思います」


 クロードってほんとできた人だなと思う……。

 表面上や建前でそう言っているのじゃないのが凄いよな。


 夕刻近くになって、借家の整理がほぼ終了したと、女中が報告に来た。

 寝室と居間に関しては、生活できる環境に整ったとのこと。また、調理場等の使用方法も、使用人には伝えたそう。

 クロードの借家は貴族の方というのもあり、風呂付きのものを選んであったのだけど、それも本日より利用できるよう、準備も済ませたそうだ。


 さて、一応これで一通りのことは伝え終わったと思うのだけど、あとは……ここの村に関してだ。


「じゃぁ最後に、この村の構造について説明していこうと思う。勿論、セレイナ殿とシルビアも、聞いておくれね。

 ここの村、全体が大災厄前文明文化研究所という名の、研究施設となっているって、言ったろう?

 だもんだから、変わった規則や変な施設や、妙な設備が多いんだ。

 今日から暫く生活してもらう借家にも、その妙な設備が付随している。帰ってから戸惑わないように、先に使い方を伝えておくね。

 じゃ、とりあえず調理場と、風呂の順で巡るかな」

「…………え、風呂ですか?」

「うん。一定以上敷地を有する家屋には、借家でも風呂を設置してある。騎士訓練所に設けたものよりは小さめだけどね」

「えっ⁉︎ あれが借家にあるのですか⁉︎」


 うん。言うとみんなそんな反応になる。

 だけど、シルビアは体調の問題があるから言わずもがなとしても、クロードみたいな、貴族としての地位まで高い人に、一般人と一緒に湯屋を利用してもらうわけにはいかない。安全上の問題もさることながら、皆の心の平穏のためにもね。


「じゃ、ついて来て。きっと面白いから」


 そうして数分後。大興奮のシルビアが大いに叫び、笑い、キャッキャとはしゃいだのは、言うまでもない。

はいっ遅刻しましたっ。土下座します!

そしてこれより明日の文を執筆いたします!

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