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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第十一章
338/515

出発

 関わり続けようと決めて、だけど今できることは少なくて……。

 マルに言われた通り、とにかく今は、出来ることを精一杯、することにした。

 いつか、機会が巡ってきた時に、ちゃんと、手を差し出せるように。


 アレクセイ殿との接点はある。

 孤児院と、カタリーナたち。

 だから、焦るな。まずは、ちゃんと、一歩ずつ。前に進むしかないんだ……。



 ◆




 翌日、午前中のうちにリヴィ様との商談も無事終わった。

 そうして今、俺たちは、セイバーンに帰還するための、準備を進めている。


「ワドへの手紙、頼んだ」

「うん」

「何も無いに越したことはないが、何かあればワドに言えよ。俺も極力、早めに帰るようにするけど……」

「慌てるなよ。今、女近衛の衣装関係は本店で進めた方が良いって、話し合ったばかりだろ」


 そう言うとギルは、視線を彷徨わせて口籠る。

 なんのかんのでリヴィ様を意識している感じで、俺としてはとても微笑ましい。

 慌ててセイバーンに戻ることはない。折角の機会なのだから、リヴィ様と思う存分触れ合ってほしいものだと思っている。


「をぃ……なんかしょうもねぇこと考えてる顔だぞ……」

「しょうもなくないよ。お仕事大変だなって、思ってただけだ」

「あのなぁ……なんもねぇからな⁉︎」

「余計なこと言っていると墓穴を掘るだけですよ」


 横合いから荷物を持って通ったハインに、しらっとそんな口を挟まれ、ギルがおいコラ待ちやがれ! と、喧嘩を買いに行き、それを見送っているとルーシーが、アルバートさんの細かい注意事項から耳を防御しつつ戻って来て……。


「もうっ分かってるから、いいってば!」

「きちんと聞きもしないで良いとはなんだ!」

「あらあらぁ、大丈夫よアル。ルーシーはお姉ちゃんになるのだもの。

 そりゃぁ、ひとりで頑張りたい。しっかりしたいって思うものよ。察してあげなさい」


 アリスさんがそんな風にとりなして、無事に兄弟が産まれたら、喜び勇んで帰ってくるわよと笑われるアルバートさん。

 家出で飛び出した娘をまた送り出すのだから、親としては小言の十や二十では足りない心境なのだろう。

 けれど、母親に窘められて、渋々引き下がる。

 まぁつまり、ギルは暫く本店に残るのだが、ルーシーは俺たちと一緒にセイバーンへと向かうのだ。


「アルバートさん。ルーシーは俺が責任を持ってお預かりしますから」

「レイくん……君は優しいから、遠慮してしまうのではと心配になるのだけどね……。

 ルーシーがダメなことをした時は、ちゃんと、怒ってくれて、構わないのだからね⁉︎」

「はい。心得てます」


 まるっきり幼子への対応みたいになってる……。


 顔には出さないように注意しつつ、内心では笑いを堪えるのに必死だった。酷使される腹筋が痛い。


「若様。荷物の積み込みは全て終了致しました」

「ありがとう。女中頭……家族へのお土産はちゃんと買いに行けた?」

「…………そのような心配はご無用ですわ」

「そうだね。でも、忘れている人がいるかもしれないから、一時間後に出発ってことで。各自休憩。みんな身の回りをもう一度確認してって伝えておいて」

「畏まりました」


 帰りは焦らなくて良いから、ゆっくり目に進むつもりだ。本日は昼からの出発だから、どうせ泊まるのは隣街。一時間くらいは余裕がある。

 俺も適当に暇つぶししようと思い、サヤを探した。


「サヤ」

「はい。どうされましたか?」

「出発は一時間後だから、少し付き合ってもらえる?」

「どちらへ?」

「俺の部屋」


 そう。

 今回は離れを丸々借りたから使わなかったのだけど、バート商会には俺の部屋がある。

 流石にもう片付けられ、なくなっているものと思い込んでいたのに、先程アリスさんから、まだちゃんと残してあるから、必要なものがあれば持って帰るようにと言われたのだ。

 とはいえ、もう三年半使ってない部屋だし、特別必要なものは無いと思うのだけど……整理くらいはしておこうかなと。


「ここなんだ」


 久しぶりの部屋は、本棚の場所ひとつ、変わっていなかった……。


 必要最低限の家具。生活感の薄い、与えられたものがそのまま置いてあるだけの部屋。

 色調は柔らかい薄緑に統一されていて、余計なものは一切置かれていない。

 それは、持ってはいけない俺への配慮。

 失くすことを恐れる俺が、怖がらなくて済むよう、気を使ってのこと……。


 三年以上、主人の訪れていなかった部屋なのに、ちゃんと掃除がされていて、いつでも俺が来れるようにと、ずっと、ずっと、整えられていた部屋……。

 執務机の引き出しを開けると、兵棋盤。衣装棚の隅には、木剣。そして寝台の脇にある小机の引き出しには、飾り紐が沢山……。


「全部、借りているだけのつもりでいたんだけどな……。やっぱりこうして見ると、愛着がある……」


 持ってはいけない俺だから、全部、借りていた。自分にそう言い聞かせていた。

 だけどここにある全ては、俺のために用意されたものだった。

 この飾り紐なんて……貴族である俺は、どうしたって髪が長く、邪魔になるからって……。下ろしっぱなしでも構わなかったのに、行く先々で、皆が買って来て、お土産だと、渡してくれた……。


「俺は、喜ばないって、分かっていたのに……」


 ありがとうございます。

 ただ、決まり文句のようにそう言うだけで、怖がって、受け取らない……。にこりともしなかったろう俺に、何度も何度も、笑顔で手渡されたお土産。

 引き出しの中がこうしていっぱいになるくらい、何度も、何度も……。


「……これ、持って帰ろうかなぁ……」


 使えるとしたら、来年の今頃までなのだ。

 そうしたら俺は、この長い髪を切ることになるから。


「俺が使わなくなっても、サヤが使ってくれると嬉しいんだけどな。

 男用に買ったものだから、可愛い色や飾りのものは、少ないんだけど……」


 そう言い振り返ると、とんと、胸にサヤが飛び込んできて。俺を抱きしめた。


「……どうした?」

「ううん。レイが……ここでちゃんと愛されとったんやなって、分かって、凄く…………嬉しくなっただけ」


 血の繋がりなんてないのに。

 ただ学舎で、触れ合っただけの俺を、この家族は本当に、大切に、家族の一員のように、接してくれていた。


「うん……こんなにも、大切にして貰ってた……。俺は、ほんと、幸せ者だった。

 ……いや、違うな。ずっと、幸せだったんだな……」


 何も言わず、王都を去っても、こうして大切にしてもらっていたのだ。ずっと。ずっと……。

 また俺が、ここに戻って来る保証なんて、無かったのに……。


「サヤ。……セイバーンに戻ったら、色々が始まるけど……。

 ひとつ、やりたいなって、思い付いたことが、あってさ……」


 腕の中のサヤを抱きしめて、その耳元に囁くようにして告げたのは、ちょっと恥ずかしかったからだ。


「孤児院の子供たち……には…………その……お、親が必要だと、思うんだよ」


 里親を見つけてやれれば良いのだけど、こればかりは巡り合わせもあるだろう。

 だけど、みんながちゃんと、ここが我が家だと、胸を張って言える場所が必要だと思うんだ。

 孤児であることを、引け目に感じてほしくない。不幸だと思ってほしくないんだ。


「孤児院に迎える子供ら全員を、俺たちの子にしないか。

 将来結婚する時も、父親と、母親として、ちゃんと俺たちの名を出せるように……。

 養子に迎えるわけじゃないし……ほんと、気休めみたいなもので、あまり、意味はないし……その……ただの独りよがりかもなって、ちょっと、思うんだけど……。

 親なんていない……って、言わせたくないなって……。皆、ちゃんと神の祝福を得て、生まれてきたんだから。

 孤児院の子らは、皆、セイバーンの子……だからその……サヤの名を……え、えっと……」


 血の繋がりなどなくても、俺は愛を注いでもらった。幸せだって思えるくらい、大切にしてもらったんだ。

 だからそれを、返したい。そんな気持ちだったのだ。

 だけど……。

 婚姻すら、まだ済ませてもいないのに、母親として名を使わせろって………………もしかして、物凄く、失礼なのでは……。


 そのことに今更思い至ってしまった。

 思いついた時はなんかもう、これだーっ! って、それしかなくて……っ。


「…………私の場合、サヤ・ツルギノ・セイバーン……に、なるんやろか……」


 胸に染み込む吐息の熱と、呟き。


 サヤ・ツルギノ・セイバーン……?


 言葉が突き刺さった。心臓に。


 ブワッと膨れ上がった興奮? 高揚感? それと一緒に、背筋をゾクゾクとした、何かえもいわれぬ衝撃が、駆け登った。目の前がキラキラしてみえる。

 何故かブルブルと震える手で、サヤの肩を押し退けて、びっくりした様子のサヤの顔を、両手で包み込んだ。


「レイ?……れっ…………⁉︎」


 いや、するだろう⁉︎ 口づけ! しないでいられるわけがないだろう⁉︎

 三年先なのは分かってる。だけど、サヤが、俺の妻になることを、受け入れてくれているんだなって、だから名前を……。ツルギノサヤと、いつも名乗るのに、サヤ・ツルギノに、セイバーンを付けてくれたのだって、そう思ったらもう!


 サヤの腰が砕けるまで口づけしたら、その後で物凄く怒られた……。



 ◆



 セイバーンに帰り着いたのは、月が巡ってから。


 五の月。もう春も半ば。

 麦畑は既に青い海原となるまでに成長しており、暫くすれば、黄金色に色付いてくる。

 そう。そろそろサヤと出会って、一年が巡ろうとしていた……。



 ◆



「と、いうわけで。

 今年無償開示になったのは、硝子筆と、洗濯板。

 これを習得している者は、受講者に、その技術指導を行ってもらうことになるわけだ。

 現在、この技術はこの拠点村にしか無いから、君たちしか、指導者がいない。当然時間を割かなければならないし、製造がままならなくなる。

 そのことで、収入が大幅に落ちることを懸念していると思うが、安心してほしい。収入が大きく落ちるようなことにはならない」

「え……でも、指導に時間を割いていれば当然、製造時間は減る。納品できる品も減りますよね」


 職人から上がった質問に、俺はコクリと頷いた。うん。指導に時間を取られれば、当然製造速度は落ちるだろう。だけど……。


「まず、指導期間に製作された品の納品だが、これの利益は全額指導者へ入る。受講者の製作した品も含めてだ。

 指導に使う道具や材料費は指導者負担になるからね。受講者に賃金は発生しない。

 腕二本で作っていたのが、四本で作れるわけだから、納品数はさほど落ちないと思っている。実際には一度で複数人同時指導することになるだろうし、むしろ増えるかな。

 ただし、品質が悪ければ当然買い取れないので、粗悪品となるものを極力作らないことが大切だよ。

 丁寧に、しっかりと技術を伝えることを念頭に置くように。速さよりも、正確さだ」


 技術が身につけば、速さは後からついてくる。

 受講者は、この村にいる間にしか指導を受けられない。遠いこの地まで、何度も通うことだってできやしない。

 だから、地元に戻ってから困ったりしないよう、焦らずじっくり、育ててやってほしい。


「まぁ、初めはどうしても、一時的に収入が落ちるだろうが、焦らなくても大丈夫。職人がきちんと技術を身に付け、試験に合格した場合、担当した指導者には、指導料も支払われるから。万が一収入が落ちていたとしても、ある程度それで賄えるだろう。

 つまり、速く上手く技術を伝え、合格させることができれば、むしろ収入は上る。

 ただし……もしその職人が粗悪品を製造しているとなった場合は、指導者にも責任が問われる。その時は再指導が義務付けられている」


 現在、近々始まる技術指導に関しての説明会を行なっている。

 全ての職人を集めているのは、この先無償開示が決まれば、どのみち全員、指導側に立たなければならなくなるからだ。

 今年は二件のみだけど、来年は何件出すか分からないから、皆真剣に聞いている。


 本日、まずは職人たちに、ブンカケンの運営方法が定まったことが報告されたのだけど、今までに所属してもらっている職人らの条件は、今まで通り。ここに所属している彼らは、秘匿権の全てを閲覧、使用できる。で、変化は無いと説明された。

 自身が何かしら秘匿件を得られる技術を、発明した場合も変化なし。それはブンカケンに譲渡となる。

 ただし、生活に大きく貢献するような品には、褒賞が与えられる可能性が追加され、それには皆が喜びの声を上げた。


 更に。ブンカケン所属者には、技術指導という新たな義務が生じることとなった。

 無償開示が行われた品の製造が可能な者は、受講者が現れれば持ち回りで指導を行う。それに関する説明が、先程の内容だ。


 この拠点村の変化としては、秘匿権無償開示となった品だけ習いにくる職人……受講者の受け入れが行われること。

 受講者は、その無償開示された品のみを習得したら、故郷に戻る。


 この受講者は、試験に合格したら、指導者の登録番号から派生した番号が、授与されることとなる。

 例えば、サヤが教えて新たな職人が育った場合、『サヤの番号ー試験合格者番号』となるのだ。

 試験合格者は、この番号を製造品に必ず添付する義務を負う。違反が甚だしい場合、合格が取り消されるので、必ず守ってもらう必要があった。

 また、番号により指導した者も、一目瞭然で分かってしまう。

 もしその番号を持っている者が粗悪品を作っているとみなされた場合、再指導も受け持たなければならない。


「あの……じゃあ俺が合格させた人も、地元に帰って指導をしたら、指導料がもらえて、更にに番号が続く……んですか?」

「いや、今のところ指導ができるのはブンカケン所属者だけだよ。試験も当面はここでしか受けられない。

 地元で試験合格者から修練を積んでくることはできるが、自らの試験の時は改めて、この村で指導者についてもらい、まずはちゃんと練度に達しているかを確認してもらう。

 その上で試験に挑んでもらうんだ。

 そこで指導するから、指導料も当然発生する。試験だけ受けて帰ることはできない」


 国の製造基準に達した品を作ってもらわなければならないのだ。きちんとした基礎知識や能力が備わっているかを確認させてもらうことは当然のこと。

 だから試験は、ただ目的の品が作れることだけでなく、その職業の基本的な技術の練度確認も組み込まれている。


 俺の説明に、職人らはなんとか納得ができた様子。


「そっか……指導をしても、ちゃんとそれが収入になるんだ……」

「まぁ儲かってるし、当面の生活費は大丈夫だと思ってたんだけど……なんかホッとしたぁ」


 と、表情を和ませる。


「うん。指導に時間を取られて、生活できないなんてことにはならないし、しない。君らが頑張ってくれてこそのブンカケンなんだから。

 だけど、それだけの責任を伴うことになる。そこは忘れないでくれ」


 受講者は、技術を習うことは無償だが、習っている間の生活費、試験の費用は当然自腹。

 こんな田舎まで、大金をはたいて技術習得に来るのだ。全員、きちんとしたものを身につけて帰ってほしい。


「他に質問がある者はいるかな。いたら手を挙げてくれ!

 ……では、これで一旦説明会は終了とする。また質問等思いついた場合は、直接確認に来てくれれば、その都度回答するからね。

 あ、まだ終わりじゃないから帰らないで!

 これから、一人ずつ名前を呼ぶから、呼ばれた者は前に出て来てくれ。

 ブンカケン所属者の商標と登録番号……登録証、身分証明書を渡す。これを失くすと仕事できないからね、大切に保管するように!」


 王都にいる間に完成したブンカケンの商標。

 これは、歯車を連ねた形に定まった。

 所属者には、この商標と、登録番号が刻まれた金属板と、地方行政官長の紋章印が押された登録証が渡される。

 この金属板は身分証明書。秘匿件閲覧の時も、これを見せれば管理室への入室が可能となるのだ。


「なんかすっげー!」

「かっこいい……これが私の番号……読めないけど。……これ記号?」

「登録証どこに置いておいたら良いかな……」


 キャッキャとはしゃぐ職人ら。

 これで一通り、俺の役割は終わりだ。後は他に任せて、護衛のシザーと共に、一旦館に戻ることにした。後は身分証明書と登録証を渡すだけだしな。


 俺たちが帰郷している最中に、王都では秘匿権無償開示の布告が行われた。

 秘匿権無償開示品は、地方行政官長より国に譲渡された後、現在は法務大臣の管理下に置かれている。

 多分今頃は、見本と資料が各組合へと持ち込まれ、検証や会議が行われているだろう。

 職人が派遣されてくるのは六の月に入る辺りと見込んでいる。

 とにかく、担当の法務官には、規約をきちんと読み上げた上で、同意書に署名捺印した者のみを、書類と共にセイバーンに派遣するよう、強く申し渡してあった。

 同意書が無かったり、規約を理解していない場合、受け入れ拒否もありうるので、ほんと、そこ、しっかりとお願いしたい。


 というわけで、館に戻ると、おかえりなさいませと使用人らから声が掛かる。

 それに返事をしながら奥に進むと、更に別の使用人からも。

 その先でルフスを見つけたので、父上は今どこかなと確認すると、執務室でガイウスと共に書類と格闘中とのこと。後で俺も手伝いに行くからと伝えた。


 俺たちが拠点村を離れている間に、吠狼らは上手く村に馴染み、使用人や女中、はたまた文官や衛兵、職人として、職務に携わっていた。

 俺にも誰が吠狼かいまいち分かってないのだけど……吠狼ら同士はちゃんお互いを知っているので、まぁ良いだろうと思っている。

 また、求人募集によりやって来た使用人も増えている。

 なんだか一気に村らしくなってきた感じだ。


「ただいま」

「おかえりなさいませ」

「お疲れ様です」


 地方行政官用の執務室。

 そちらに戻って来ると、ハインとユスト。そして雇われた使用人が忙しく手を動かしつつ、俺を迎え入れてくれた。


 うん。今ここは忙しい。交易路計画の方が進み出し、地方から研修にやって来る文官や、土嚢作りを習得するために派遣される騎士らの受け入れ態勢を整えることに大わらわ。

 それに加え、村の工事。大きな施設がいくつか完成していたり、一応の開業ができる程度にまで至っていたりする。

 孤児院の仮施設も整えられ、孤児の受け入れも始まっていた。


「あれ、マルは?」

「村の区画割りの確認に向かいました」

「そっか。ユスト、治療院の方はどうだった?」

「すっげぇ立派って姉貴が踊り狂ってましたよ……」

「それは良かった。まあでも……まだ半分。別棟はこれからだしな……」

「いやいや、凄いでしょあれは……診察室、待合室、治療室……分かれてる構造もすげぇのに、入院用に別棟まであるって……」

「荊縛みたいな病にだって対処できなきゃならないんだ。隔離病棟は必要だろ」

「やー……村なのにこの規模…………いや、要りますけどね。ほんと、有難いんですけどね」


 苦笑するユストが、まぁ、言わんとしていることは分かる。

 …………もう村って言い張るのが難しくなってきてるのは、なんとなく……うん。


 クロードがこちらに移住して来ることとなり、ついでに、上位貴族の来客にも対応できる迎賓館も建設されることとなった。

 それで結局、拠点村には新たな区画が作られ、また村が拡張される。出費もどんどん嵩んでいて怖い……。

 今後も貴族や士族で家庭を持つ者が増えるだろうし、貴族出身者からも、新たにこちらへ仕官を希望する者が現れるかもしれない。ということなのだが……。

 ……まぁ、仕官は流石にそうそう無いとは思うのだけどなぁ。


「ありますよ絶対。利に聡い人は配下の一人二人、潜り込ませようとして来るでしょうしね。

 まぁその辺は下調べさせてもらいますけど」

「ただいま戻りました。ウーヴェさんから書簡届いてましたよ」


 マルとサヤが揃って帰ってきた。

 本日サヤは、仮施設孤児院の家具移動を手伝いに行っていたのだ。

 女性用従者服も板についてきて、もう村の中では彼女を不思議そうに見る者はいない。

 身体を動かしてきたからか、上着を脱ぎ、短衣を袖まくりして、中衣、袴風細袴着用のサヤはとても快活そうに見える。

 帰ってきたばかりなのに、お茶を入れてきますね! と、部屋を出て行くサヤ。働き者だ。


「ウーヴェ、なんですって?」

「……十七日辺りに戻るって。良い職人を見つけたって書いてある」

「それは良かった。そうそう、アイルも近く戻るって連絡がありましたよ」

「あ、レイシール様、明日昼から時間空けられます」

「分かった。じゃあ川の方へは、俺とシザーと……」

「そういえば、メバックからの荷物って届くの明日の何時頃でした?」

「……今日って言ってなかったか?」

「えっ⁉︎ そうでしたかっ⁉︎」


 忙しい……。

 忙しいのだけど……。


「皆さーん! 少し休憩を挟みましょう。今日は試作お菓子があります。食べた人はこちらの質問票(アンケート)記入してくださいねー」


 茶器を乗せた台車を押してきたサヤが、パンパンと手を叩いて声を上げると、食べるー! と、複数の手が挙がる。


「机の上を空けた人から取りに来てくださーい!」


 笑顔のサヤがそう言い、書類提出に来ていた使用人が慌てて戻る。

 俺も片付けようとしたのだけど、怖い顔のハインが「こっちの書類は大至急です! 至急の文字が見えませんでしたか⁉︎」と、俺の片付けを阻止してきた。


 忙しい。

 本当、忙しいのだけど……。


 なんだかここは、今、とても楽しい。

今週最後の更新です。書けた……なんとか書けたよ⁉︎

来週も、金曜日の更新目指します。

次は閑話が来るかなと思っております……。

では、また来週お会いできるよう、頑張りまーす。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >>その……通常は…………き……生娘を相手と(以下略 何モノローグでどもってんのこの人……。 >>知れば、今まで以上に傷付くことになりかねない……。 そうやって腫れ物扱いすることが、最近…
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