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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第十一章
335/515

雀鷹

「仕掛けて来るだろうというのは、考えていらっしゃったのですか?」

「うん」


 訓練所に足を進めながら、このことはサヤには内密にと、約束を交わした。


 サヤのいない所でこんなことがあったなんて知られてしまえば、彼女は怒るし、自分を責める。

 今回の人物には、とにかくサヤを関わらせたくなかったものだから、上手いこと釣られてくれて、良かったと心底思っている。

 まぁ、思っていた以上の大物が、おまけについてきてしまった感じなんだけど。


 ホッと胸をなでおろしていると、クロードより……。


「それにしても……先程の輩は何故、諦めるに至ったのでしょう……」


 との質問が。


「懐に襟飾をしまっていたみたいだったから、ここで意識を手放したら、主人殿の身元が判明してしまうよって脅したからかな」


 そう答えると、少しの沈黙の後、また別の質問が返ってきた。


「…………何故襟飾がしまってあると思われたのです?」

「襟に跡が残っていたし、胸元を気にする素振りがあったし、他二人が意識を手放していないことを確認していたから、身元を証明する何かを所持していて、引くべきか否か思案しているんだと思ったんだけど」

「……………………ちょっと待ってください、あの場の判断なのですか?」


 信じがたいと言いたげなクロード。それにオブシズは苦笑気味だ。


「そもそも、なんで黒幕がいると思われたのです?」

「十一人の表情と緊張感に、ばらつきがあったからだよ。

 あの三人だけ、本気度合いが違ったし、担がれていた方の意思や思考を念頭に置いている節が無かったから。

 クロードのこと、分かっていたろうに、忠告ひとつしなかったし……、彼の方は、ただ言い訳としての、囮なんだろうなと」

「クロード様、レイシール様は読心に長けていらっしゃるので、ちょっと我々では気付き難いようなことも、推測できてしまうみたいなんですよ」

「読める範疇のことなのですか…………⁉︎ あの短時間で、十一人ですよ?」

「一人一人を確認してるんじゃないんだ。広の視点といって、全体をふんわりと把握する視界の取り方を、前にサヤが教えてくれてね。

 ずっと練習してきたから、だいぶん広い範囲が認識できるようになってきてて、それで状況把握が格段に早くなった」


 俺の説明に、二人は顔を見合わせて、オブシズは苦笑。クロードは困惑。

 だけどこれは本当で、読みに関しては、広の視点がすごぶる有効だったのだ。


 それまでの俺は、表情や視線の動きを判断材料にしていたのだけど、広の視点によって、ざっくりと大まかなものでよければ、場全体の雰囲気が掴めるようになった。

 一人に集中していられるならば、ちょっとした肩の揺れや、指の動きなど、全身を余すことなく網羅できるから、まるで少し先の未来が見えているかのような感覚なのだよな。

 つま先に体重がかかったことが分かれば、次は踏み込んでくるだろう……とか、肩が跳ねれば、図星なんだな……とか、表情と視線の動き、その答えを身体の動作が補足してくれる感じだ。

 コツを掴むまでが長かったけど、分かったら一気に楽になった。


「とは言っても、結局短剣じゃ、やれることが限られるし、宝の持ち腐れも良いところなんだけど」


 左手を使うようになって、剣を受けること自体は体力の続く限りできるようになったけれど、戦力としては、全くと言って良いほど、足しになっていない。


「さっきの彼の方。多分また来るのだろうなっていうのは、井戸の時の表情で分かっていたし……ああいう方の思考だと、今度は人目につかない、邪魔の入らない場所でって思うのだろうなって。それと、きっちりこちらの対応を教えておかないと、しつこく来そうだったから」


 洗礼が黙認されていることから、その返礼だってある程度目溢しされているのだろうことが推測できたし、流血沙汰だけ避ければ問題無いだろうと考え、あの喧嘩を買うことにしたのだけど、抜剣して、俺たちに怪我を負わせることを厭わなかったことで、これは洗礼に見せかけた妨害行為なんだろうという結論に至った。

 だから、脅すだけじゃなく、情報を極力引き出そうと思ったのだけど……。そちらは流石に、なかなか掴ませてはもらえそうになくて、ここで得られるものは得られたと思った段階で、ケリをつけたのだ。


「伯爵家以上か、もしくは長より上の役職……ってなると、もう大臣のどなたかしかいない感じだけど」

「ではやはり、オゼロ公爵様……⁉︎」

「どうかな。上の方だと思い込まされて、気が大きくなっていただけって可能性も大いにあるしね。

 あの三人も、顔を晒していたから、直属の上司を俺たちに知られることは、織り込み済みだと思うんだよ。だけど、懐の襟飾は気にした……」

「…………顔割れは厭わないのに、襟飾は駄目……? そんなことってありますかね」

「普通に考えれば無いけれど、使い分けているんだと思うんだよね」

「使い分ける?」

「表の職務と、裏の職務。仕えている相手が、違うんじゃないかな」

「っ⁉︎」


 まぁその辺りのことは、彼らの外見的特徴をマルに伝え、調べてもらおうと思っている。

 身の安全を優先し、深追いを避けたのも、こちらにマルという奥の手があるからだ。

 ここで無理してまで情報収集に躍起にならずとも、彼の分析があれば、あちらが想定している以上の情報が得られると、俺は確信を持っているから。


「だから今は、あそこら辺が妥当だったと思う。

 これで俺たちを簡単には処理できないって、裏の方には分かっていただけたろう。

 公爵家が関わっているかどうかは、次の対応で考察できると思う。今はここまで分かれば充分かな」


 あの程度では、俺たちは引き下がりはしないと、理解していただけたはずだ。

 今回殺気は無かったから、少々手傷を負わせ、脅しをかけるだけのつもりであったのだろうけど、次の出方しだいであちらの望みもだいぶん絞り込めると思う。

 そうすれば……もっと、視界が開けてくるはずだ。


 オゼロとは限らない。アギーやヴァーリンだって、一枚岩では無いだろうし。今の情報量でそこまで絞り込めるとは思っていない。

 ただ……影を持つ家なのだろうとは、考えていた。

 顔を共有し、表と裏に立場を持つなんて、組織で相当な工作を重ねなければ、成立させられないだろうから。


 だから、公爵四家と、ジェスル…………まずはこの五家が、候補の筆頭だ。


「マル、そろそろ終わってる?」


 無事訓練所まで到着し、マルとの合流を果たせた。

 思っていた通り、打ち合わせは終了していて、これから俺たちを探しに行こうかと考えていたらしい。


「どうやら単独行動は控えた方が良さそうだよ」

「おや。またちょっかいですか」

「うん。さっきの方だったけど、それを利用した別口」


 かいつまんで状況を説明し、襲撃者の特徴を伝えると、調べておきます。とのこと。

 リカルド様はご立腹であったけれど、今度は返り討ちにしたとお伝えしたら、溜飲が下がった様子。そんなに腹立たしかったんですね。


「でも、許したんですかぁ。お優しいですねぇ」

「焚きつけられたにせよ、二度目なんですから、役人に突き出してやっても良かったと思いますけどね。実際下手をしたら怪我じゃ済まなかったんですから」

「今回はあくまで、洗礼に対抗しただけとしておく方が、穏便かと思ったんだ。こっちが気付いてることは、当事者にだけ伝われば充分だろう?

 それに……実力差は歴然としていたし、皆大丈夫だと、思っていたから」


 二人とも、何を言わずとも鞘ごと剣を抜いたのだ。抜剣した者を相手取って、普段より重い鞘付きの剣を振るうなんて、実力と自信が伴わなければ、取れない行動だろう。

 まあ当然、三度目を許すつもりは無い。そこまではしてこないと思うけど。

 今度はちゃんと、陛下が直属の上司って伝えておいたし、更に上なんて存在しないから、担がれる心配も無いだろう。


 そんな風に話す俺たちから少し離れて交わされた、クロードとリカルド様の会話は、俺には届いていなかった。


「兄上……レイシール様は、予想外のお方でした……」

「なんだ、もう後悔しているのか?」

「いえ……思い違いをしていたのだと、気づいたのです。

 私は彼の方を、美しい声で歌う大瑠璃(オオルリ)だと思っておりました……。ですが彼の方は……ただ美声を響かせ鳴くだけの小鳥ではございませんね。強いて例えるなら……雀鷹(ツミ)……でしょうか。

 自覚はしておられぬようですが、我が主と定めた方は才器……炯眼の士です」

「大瑠璃。

 ……雀鷹………………くっ」


 急に笑いし出したリカルド様に、訓練所の皆がビクリと反応。しかしすぐ視線を逸らし、引きつった顔で見ないふり。

 俺は珍しいこともあるものだなぁと、楽しそうな二人につられ、口元が綻ぶ。


「弟の前だと、リカルド様も普通に笑うんだな」


 それに対し、マルとオブシズは、ちょっと意味ありげな微苦笑。


「……そうなんですかねぇ……」

「あれ絶対レイシール様案件だよ……」



 ◆



 マルと合流できたので、今度は最短距離で会議室に戻った。勿論、サヤには内緒だよと、マルとの口裏合わせも忘れていない。


「ただいま。皆は大丈夫だった?」

「おかえりなさーい。人払いされた会議室で大丈夫も何も無いですよ」

「それもそうか」


 女の子五人は問題無く過ごしていたようだ。ユーロディア殿が明るく迎えてくれ、サヤも笑顔を見せてくれた。

 じゃあここからは、俺たちもこの会議室での待機だな。


 そうして結局、陛下がお戻りになったのは、五時直前という頃合い……。


 サヤは音で分かっていたのだろう。いつの間にやらサッと移動していて、扉を開くと、疲れた様子の陛下、同じく疲弊してそうなリヴィ様が入室。更には副総長ルオード様と総長ファーツ様までご一緒だった。


「老害どもめ……」

「お疲れ様でしたわ陛下。でもこれで、一応一区切りつきましたし……」

「大ごとにならず良かった。民を無駄に混乱させずに済みましたよ陛下。よく耐えました」


 陛下のなんともやさぐれた表情。多分そうだろうなとは思っていたけれど、病の発表に対しての対応をしてきたのだと思う。

 そうであったならば、相当早く話に決着がついたようだ。本来なら、こんな数時間で終わるようなものじゃないだろうに。


「決定事項を確認していくことが主だったからね。

 もう発表されたものを覆せないし、我々の示した根拠が、病であると認めざるを得ない内容であったから……。

 だけどその分、事前連絡が無かったことを叩かれてしまったんだ」

「ふん! 握り潰されると分かっておってするわけなかろう!」


 それはそうだよな。

 本当に、待った無しの状態だったのだ。もう王家の血を繋げられる可能性は、陛下にしか残っていないのだから。


「もう少し時期を見ろってもなー。これ以上何を見ろって話よなぁ」

「どうせ全部言いがかりといちゃもんだ……」

「まぁ、後は大臣方にお任せして、陛下は少しお休みくださいまし。依頼の件は、私から伝えておきますから……」


 あ、まだ終わってなかったんですね……。

 つまり、陛下のやるべきことだけ一区切りつけて、半ば無理やり退散してきたのだろう。


「うううぅぅ、そうしてもらう。今日はもう、休む」


 だいぶんお疲れの様子の陛下を、ルオード様とファーツ様が送って行くと、部屋を出た。

 大臣方は話し合いを続行中ってことは、まだアレクセイ殿も中かもしれない。

 だけど……うーん……。


「レイ殿、お待たせして申し訳ございません。早速なのですが……」

「あの……半時間ほど、待っていていただけますか? 少し、人との約束がありまして」

「あら?」


 いない可能性は高い……けれど、確認だけはしておこうと思った。


「すぐ戻りますので、リヴィ様もその間、休憩しておいてください。……申し訳ない」

「いいえ。こちらがお待たせしていたのですもの。構いませんわ。どうぞ行ってらっしゃって」

「ありがとうございます。じゃあマルとオブシズ……」

「私も行きます!」


 クロードは公爵家の方だし、病についての話し合いの後ならなおのこと、顔を出さない方が良いだろうと思ったので、事前に待機をお願いしておいた。

 だけど、三人で行こうとすると、やっぱりサヤが食い下がってきて、まぁそうなるだろうなと思っていたのだけど……。


「…………サヤ……」

「アレクセイ様は、なんともないです」

「いや、いらっしゃらないかもしれないしさ、ちょっと確認に行くだけだから……」

「一緒に行きます。今度は留守番しません。そのために、さっきは我慢したんです!」


 マルのお迎え我慢。あれはこのための布石であったらしい……。

 ここを譲らないために、体調管理を優先したということ。

 どうりであっさり納得したはずだ……。いつもだったら折れないサヤが折れたんだから、何か考えてるって気付けよ俺……!


「サヤ…………」

「留守番はしません」

「サヤあのね……」

「しません!」

「………………分かった。でも、無理はしない。絶対に」

「はい!」


「折れたね」「やはりカカア天下でござろうか」とか言っている方々は敢えて無視した。

 今、真面目なところなんですよ……。お願いしますから黙っててください。

 渋々、サヤを伴って会議室を出て、一つ息を吐く。

 ここから渡り廊下なら、すれ違う人もそういないだろうし、この時間になれば、働く官らも多少減っているだろう。


「本当に、ちょっとでも体調悪いと思ったら、ちゃんと自己申告しなきゃ駄目だからね」

「分かってます」


 念を押してみたけれど、不安は拭えない……。でも、アレクセイ殿がいらっしゃらない可能性の方が高いしなと、無理やり自分を納得させた。


 階段を降りて、二階の廊下をほんの少しだけ奥へと進み、渡り廊下へ。

 踏み込んだところで、先ほど俺たちが座していた場所に、白い影があるのが分かった……。観念するしかないらしい……。


 今一度、溜息と共に雑念を捨て、とにかく今は、集中しろと自分に言い聞かせた。

 アレクセイ殿から、なんでも良いから、拾う。これから俺たちが進めていこうとしていること……獣人を人だと証明することは、王家の白を病だと公表したこと以上の反発を招くこと……神殿を、確実に敵に回す行為だ。

 だから、少しでも、判断材料が欲しい。ほんの些細なものでも構わない、一つずつで良いから、とにかくそれを、拾い集める。

 マルと目配せしあって、足を進めた。


「……申し訳ありません。お待たせしましたか?」

「いえ、私も今しがた来たところです」


 笑顔を作りそう声を掛けると、同じく笑顔が返ってきた。

 たったお一人。他の司教方は会議中なのかな。どうやって、抜けてきたのだろう……?

 司教冠は外され、傍に置いてある。

 だから、陛下と同じ白い髪が……晒されていた…………。

 俺のその視線に気付いたのか、一層深く笑ったアレクセイ殿。


「もう、隠す必要も、ないみたいなので」

「そう、ですね……」


 視線を庭に逸らし、呟くようにそう言ったから、俺も相槌を返した。


 肩ですっぱりと切り揃えられた白髪。そういえば、髪型も陛下と同じだと気付いた。

 男性で、成人しているのに長めの髪は、少し珍しい。まるで、敢えて王家に……陛下になぞらえているみたいだよなと、そう考えて、その思考を頭から振り払う。

 陛下の権威を、王家の白を、尊きものとされていたそれを利用するため、敢えて似せていたのかなと……。だけどまさかな。あまりにも勘ぐりすぎだと思ったのだ。

 彼の髪は生まれつきではないし、性別だって違う。瞳の色だって……。

 そこまで考えた時、アレクセイ殿が、こちらを見た。

 口角を持ち上げたその表情が、まるで俺を挑発するかのように見えて、一瞬ゾクリと、肌が泡立つような感覚が、背筋を走る。


「レイシール様には、いつも驚かされますね」

「え?」

「少年……貴女も女性であったとは」


 驚いて……いるのかな?

 笑った表情と、その言葉。広を見る俺の目に、彼が驚いているとうかがわせる動きが、一切無い。


「それも……隠す必要が、なくなったのでしょうか?」


 それになんだろう……感情は読めないし、動きにも違和感は無いのだけど……何か肌をチリチリと炙るような、これは……。


 彼の言葉に、俺は少し後ろに立つサヤを振り返った。

 緊張した表情で、歯を食いしばっている。まるで断罪されているかのような、彼女の表情……。


「そう、です。…………彼女は、近い将来……私の妻となる。

 これからは、俺が守ると、決めたのです」


 自然とその言葉が口から溢れていた。

 驚いたように視線を上げたサヤの腰に手を回して、引き寄せる。


「二人で生きていくと、決めたのです。だからもう、隠さなくて良いんです」


 何故そんな風に言ったのか……言ってから分かった。

 アレクセイ殿に、サヤを渡したくないと、そう思ったからだと。

 何故、彼にサヤを、渡したくないと思ったのか……。多分それは、プローホルで見た、あの視線。あれがどうしても、頭から離れないからだ。

 サヤの全ては俺のものだ。

 サヤが選び、進んできた道は、この世界では、正しいとされる道ではなかった。

 だけと、この世界でただ独りきりの彼女は、自分ができることを全力でしてきただけだ。

 サヤが選んできた道だ。男装することも、この世界で生きていくことも。もう姿を、偽らないことも。

 周りがどれだけ彼女を否定しようと、俺は肯定する。サヤはここにいて良いのだと、好きにして良いのだと、全部俺が、認める。

 俺がずっと、共に行く。

 そう、俺自らの意思で決めた。

 だから、余計な口出しは無用。

 どんな理由をでっち上げてこようと、俺はサヤを離さない。

 例え、誰が相手であろうとも。


 頭の中を、熱が、支配していた。

 だけど。


「っ、…………申し訳、ありません!

 ちょっと私も、疲れているのか、言葉に棘がありましたね……」


 パチンと、目の前で手を打ち鳴らされたような感覚。張り詰めていたものが、プツリと切れていた。

 立ち上がり、頭を下げるアレクセイ殿。


「正直、心構えはしてきたつもりであったのですが、やはり……王家の白が病であるということが、どうにも受け止め難く……っ。

 いえ、それもただの言い訳です。心を乱すのは、私の未熟さでしかない。ただの八つ当たりでした。

 異国の方、事情がおありなのは、分かりきっていたことでしたのに……。

 まことに、失礼いたしました!」


 それで急激に、俺の緊張と怒りも萎んでしまった。彼からの意味不明な圧も、無くなっていたし……。

 そして、なんであんなに腹を立ててしまったんだろうと、たった今、自分がこの方に取った態度を思い返し……。


「い、いえ! 違います、私も、同じで!

 別段、腹を立てるほどのことではなかった……のに……つい、反発してしまい……!」


 俺も慌てて頭を下げた。その頭の中は、もう大混乱に陥っていたけれど。


 離さないってなんだ、渡さないって……⁉︎ アレクセイ殿はそんな風なこと、ひと言もおっしゃっていなかったのに!

 なんか今、なんでか急に腹が立って、サヤを見せつけるみたいに抱き寄せて……って、うわあああぁぁ!


「ごめんサヤ! 申し訳なかった!」


 無理やり抱き寄せたサヤを離し、必死で謝ったのは、彼女が怒った顔で真っ赤になっていたからだ。

 人前、しかも職務中に、そういうのは、あかん! と、表情に書いてある!

 そんな俺たちの様子に苦笑する一同であったけれど、気持ちを切り替えるように、アレクセイ殿が殊の外明るく、声を弾ませて……。


「おめでとうございます。では、華折の儀も近いのですね! その際は是非とも伺いたいものです」

「あっはいっ!……………………えっ⁉︎ い、いや、その……っ」

「お日取りは? 神にこの身を捧げておりますので、祝いの品を送ることはできませんが、せめて祝福は、私にお任せいただけると嬉しいですね。

 幸いにも司教を賜りましたし、管轄内だと主張できます。失礼のお詫びも兼ねて、お呼びいただけるならば、馳せ参じますが」

「えぇっ⁉︎」


 い、いや、そんな予定無いんですけど⁉︎


「まー、普通はそうですよねー……」


 なんとも仕方のないものを見る目で俺を見たマルが言い、オブシズが相槌を打つ。サヤはそんな二人を見て、俺を見て、こてんと小首を傾げて……。


「あの……はなおりのぎって、なんですか?」


 っ⁉︎

今週の更新を開始いたします。

今週は二万文字ほど書けておるので三話更新……あわよくば四話更新!

頑張ってまいります。ちょっと今週、内容が色々ハードですが、お付き合いいただければ幸いです。

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