表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第十一章
327/515

一滴

 交易路計画の資金調達は、大雑把にまとめるとこうなる。

 まずは秘匿権を確保するため、一般からの募集や、研究、開発を行う。

 秘匿権の確保を済ませたら次は、その品の製造、販売を行い、申請料等の回収と交易路資金を確保しつつ、売れ行きや利用者の層より分析を行い、一般開示が望ましいかどうかを検証。

 公開が望ましいとなれば、時期を見て国に譲渡ののち、無償開示。

 秘匿が必要と判断されれば国に譲渡後、管理者を選出する。


 つまり、無償開示された秘匿権からの資金調達は、元より念頭に無い。

 交易路計画の資金調達は、あくまで試験販売期間……検証期間に限られるのだ。


 今回無償開示されるふたつは、国が国民の生活向上を目的とし、政策を行なっているということを分かりやすく示すためのもの。王家への信頼度を勝ち取るための方策。

 王家の白が病であったとしても、王家は何も変わらず、民の安寧のために政を行う。これからもこういったことを随時行なって行くと伝えるために、文字通り利益は度外視して、無償で提供するのだ。


「秘匿権の利益を……捨てるというのか⁉︎」

「捨ててはおりませんよ。先ほど申しました通り、先行投資です。

 王家の病発表により起こる混乱を、最小限に食い止める必要がありますし、何があろうとも、国は今まで通り運営されていく……いや、今まで以上に発展するのだと、示さなくてはなりません。

 二千年、国を支えてきた壁を越えなければならないのです。生半可なものでは役に立たないでしょう。

 この秘匿権は、民らの安心を買うために支払う対価です。

 それがたったふたつならば、安いものではないですか」


 サラッと、何でもないことを口にするように、そう言ってみせる。

 これは演技込み。

 俺が地方行政官長という役職を賜った理由を、分かりやすく皆に刻みつけるための演技(パフォーマンス)だった。


 成人前の子供が物の価値を分かっていないから行えること。とでも、思ってくれれば幸いだと思っている。

 そうすれば、まずは当代だけの役職であるという、陛下のゴリ押しにも意味が出る。

 差し出される秘匿権は、全て俺の保有したものだ。他の貴族方には何の痛手も無い。

 俺が一人、秘匿権の価値も分からず投げ出すだけだと思えば、好きにさせてもらえるだろうから。


 騒然とする場に、俺は敢えて淡々と、説明を続けた。


 無償開示とは言えど、国の秘匿権を利用するからには練度を要求するし、販売金額にも制限を設ける……と。

 そのため、利用したい秘匿権に関しては、制作資格取得者より研修を受ける必要があり、練度を満たしたと見なされれば試験を受け、合格した者のみに製作資格が与えられる。

 また、製作資格者には登録番号が与えられ、製造品にはこれの明記が義務付けられる。品によっては、製造年の記載も義務付けられる。

 違反者には罰金、又は罰則が課される。悪質な者に関しては、名の公表や資格剥奪もある。

 また、ブンカケンの思想に同意し、登録を済ませた職人は、自身が秘匿権を得た場合はブンカケンにそれを進呈しなければならないが、その代わり、ブンカケンに登録される秘匿権の全てを閲覧、習得する権利を得られる。それは当然、無償開示が成されていないものも含まれる。


 話していくうちに場は随分と静まった。

 そうして最後に付け加えておいたのは……。


「現在開示を目指し確保している秘匿権は十以上ございます。来年度の開示が見込めるものも多数。研究段階のものも、多数確保しております。

 今年の春はこの二点のみ。そして、来年度も春に、新たな無償開示する秘匿権を用意すると布告します。

 また、無償開示だけでなく、有償開示の秘匿権も検討中。主に料理の秘匿権なのですが、こちらも三十品以上を確保しております」


 秘匿権だけで四十以上確保済み。と、いう言葉に、場が震撼した。

 まぁでも、大半がサヤの提供してくれた料理である。

 料理に関してはかなり少なめに自己申告した。本当はまだ倍くらいあるのだけど、それは流石に衝撃が大きすぎるだろうと判断したからだ。

 正直、既にあり得ない量なのだ。四十という時点で。数だけならば、いち貴族の所持する秘匿権の最高数を数倍凌駕している。

 それは、下手をすれば公爵家をも凌ぐ財を、男爵家如きが確保している可能性がある。とも取れる。場が静まってしまうのも当然だろう。

 俺の所持する秘匿権を調べていたらしいオゼロ公爵、エルピディオ様すらガタリと椅子を鳴らし、腰を浮かせた。流石に全てを把握していたわけではないらしいな。


「と、どうやって、そのような、数……」


 半ば惚けて、そう呟くエルピディオ様。

 俺はそれに、肩を竦めてみせた。そんなもの、答えはひとつしかない。


「研究の成果と、事業の賛同者からの善意……としか言いようがありません。

 とはいえ、全ての秘匿権が金の卵というわけではありません。利益を見込めないものも当然含まれますので」


 極力なんでもないことのようにそう口にしておく。

 役職に徹する態度を取っておく方が無難だろうから。


「これでお分かりいただけたでしょうか。

 交易路計画の資金調達は、無償開示を行うまでの、試験期間。

 セイバーン領内にあります私の研究施設、大災厄前文明文化研究所ブンカケンの収入より捻出いたします。

 今回ふたつの秘匿権を無償開示に踏み切りましたのも、今述べた通りの理由となります。

 ただ、無償開示だけでは今年の交易路計画費用が捻出できませんので、来年以降の開示を目指している秘匿権の中から、ひとつの秘匿権を検証中とし、その収入を費用に充てる予定です。

 また、製品の販売を任せる委託業者は既にいくつか選出しておりますが、これからも増やす予定です。国内に広く販売しなければならないので、各領地にもお邪魔させていただきますことを、ご了承ください。

 なお、次の開示は来年春を予定しております。

 春には秘匿権の無償開示……と、国民に浸透するよう、努力してまいりますので、どうぞ宜しくお願い致します」


 しんと静まってしまった会議室を見渡し。以上ですと切り上げ、席に戻る。

 成人前の下位貴族、たかだか男爵家の小倅が、口にするには少々おかしな内容だということは自覚している。

 だから、敢えてその違和感を最大限発揮するよう、発言させてもらった。

 何でこんなものを抜擢したのかと王家やアギーが責められぬよう、出だしは肝心だ。

 そうして、どこから突っ込めば良いやらと途方にくれる場に、くすりと響いたのは、姫様の笑い声。


「……レイシールよ。最後のひとつ……という秘匿権、まだこちらへの報告が来ておらぬな」


 それまで黙って話を聞いていた陛下が、瞳を爛々と輝かせ、早く話せと促してくる。

 ええ。当然、言葉だけで煙に巻けるだなんて、思っておりません。

 どうせ騎士団訓練所への設置が行われるあの品、ついでなのでここで一役以上をこなしてもらう所存です。


「は。これは王都に出発する直前に、早めの検証に踏み切るべきという結論に達しまして、申し訳ないのですが私の独断で決定させて頂きました。

 報告が遅れましたことは誠に申し訳ございません。式典も重なり、機会を逸しておりました。

 ただこの品、まだ試作機の製造のみで、世に出ていない品なのです。売上見込みも何も立っておりません。

 しかし私は、確実に需要が見込めると確信しております。

 ただ、少々精密な作業を必要としまして、製造にも時間が掛かり、量産体制は取れておりません。

 鍛治仕事であるため、作れる職人の確保がまだ充分ではなく、検証前なのですが、職人の確保を優先させていただきたく、他領からも鍛治職人をお預かりできないものかと、これから国に申請を……」

「御託は良い。なんだそれは。それを先に述べよ」


 前口上を遮られた。

 折角、盾となるべく注目を集めるためにしているというのに……陛下は我儘が過ぎます。


「手押し式の汲み上げ機です」


 手押しポンプ……という名は、あまりに馴染みが無さすぎる。なので分かりやすくとサヤに注文して命名したのだけど……。


「……なんだそれは」


 やっぱり伝わりませんよねー……。


「井戸水を、かなり手軽に組み上げることが可能な機器です。

 丁度、お受けしている依頼にも関わる品で、こちらにもひとつ、試験的な設置をするためにお持ちしておりますので、お見せします」


 ガタリと音がした。

 見るとリカルド様が、瞳を見開き俺を見ている。お前それは……⁉︎ と、瞳が語っている。

 あ、はい。すいません。利用します。

 俺の事業、一手に何役を与えられるかが肝要なので。


「赤騎士団長リカルド様、騎士訓練所の井戸をお貸しいただけますか?」



 ◆



 今回王都に護衛として連れて来た騎士らは、前職や出身に拘った。

 身内に鍛治職人がいたり、一時期でも、何らかの形でそれに関わる職に就いていたり、携わっていたりした者だ。

 運が良かった。父上奪還に協力してくれ、今回騎士に昇格した者たちの中に、そんな前歴の者が二人もいたのだから。

 鍛治職人は管理を厳しく言い渡されている職なので、例え領主の都合といえど、簡単に連れ回すわけにはいかない。領地を出るなら尚更だ。

 なので今回も、設置のためとはいえ、王都に同行させるのは難しいと判断した。

 …………まぁ、それ以前の問題として、王宮に連れて行くなんて言ったら、一般の職人は泡を吹いて卒倒しかねないから、元々連れて来るつもりは無かったのだけど。


「お、俺たちだってさして変わりませんよ、心境は!」

「そうですよ! そもそも騎士ったって、なりたてなんですよ⁉︎」

「礼儀作法どうしよう⁉︎ 復習しとかないと手打ちとかなりかねないんじゃ⁉︎ ってか、考え直しましょうよ!」

「貴族出身の方で何とかできないもんなんですか⁉︎」

「ごめん。まず貴族出身がアーシュだけなんだ。

 それに貴族って、基本的に鍛治仕事に関われないからね?」

「…………そりゃそうなんですけどおおおぉぉぉ!」


 泣き言が止まらない騎士らを宥めすかして連れて来た。二人じゃ無理と咽び泣くので、手先が器用だからと無理やり引っ張り込まれた一人には大変申し訳なかったが、巻き込ませてもらった。

 そして今、彼らは騎士団訓練所の庭にある井戸で、手押し式汲み上げ機の設置を行なっている。

 許可は得たので大丈夫。存分にやってくれ! と、胸を叩いて告げたら、泣きそうな顔をされたけど。


「…………随分と妙なものだ……」

「あれでどうやって水を汲み上げると言うんだ?」


 騒めきがむしろ心地良い。あそこから水が出たらきっと阿鼻叫喚だろう。是非とも吠え面をかいてほしい。


 半ば無理やり気持ちを落ち着かせるため、敢えてそんな風に、不遜なことを考えてみた。

 試運転はセイバーンで済ましてある品であったし、井戸の水面までの配管もちゃんと足りた。真空とやらを保つための呼び水も、多めに汲み取ってある。

 後は、彼らがきちんと設置してくれさえすれば問題無いはずだ。


 会議室から騎士訓練場に場所を移した我々であったのだけど、陛下は陽の光を毒とする身。試運転の出席には一悶着あったのだけど、結局押し切ってここにいる。

 ただし、直接光の当たる場所はお控え下さいと、大きな傘が用意され、その下に陣取っていた。運び込まれた椅子に座り、ただ黙って状況を見守っている。

 その両横には近衛総長と、副総長ルオード様。

 お二人ともただ黙して、俺たちの作業を見守っていた。

 陛下らの視線を遮らぬよう、井戸を取り囲むように大臣や長らがおり、俺は陛下の眼前よりずっと先、井戸の手前に立っている。


 待合室で待機していた男装のサヤも、武官として連れてきたオブシズと共に作業に駆り出されているのだが、これは不測の事態が起き、汲み上げ機が機能しなかった場合、彼女ならば原因を追求できるかもしれないという、気持ちがあったから。ここの面々で、一番形状に詳しいのは彼女なのだから。

 ハインを王宮には連れてこれないので、必然的に従者はサヤになるわけだけど……黒髪から例の女近衛だと分かる者には分かっている。何故男装なのだ? と、そちらの視線がむしろ気になった。……サヤの体調が崩れやしないかと。


 女近衛の正装で来ることや、女性従者の試作品を使用することも考えたのだけど、成人前のため正式採用ではないし、呼ばれているわけでもない状況で、女近衛の格好をさせるのは問題視されてしまいそうだった。

 女従者の従者服に至っては、従者だと判断してもらえず締め出される可能性があった。

 それで結局、いつもの男装に落ち着いたわけだ。


 その俺の心配を察してくれているオブシズが、髪を整え瞳を晒し、サヤに集まる視線をそれとなく散らしてくれており、その辺の連携が随分とこなれてきたなぁと思う。


「レイシール様、設置完了いたしました」

「分かった。試運転、始めようか」

「はい」


 報告に来たサヤが、きりりと引き締まった表情で頷き、踵を返す。

 昨日のあれは引きずっていない様子でホッとする。

 無論、全力で謝って許してもらったのだけど、結局あの後は少々お互い意識し過ぎて、踏み込んだ話もできなかったのだ。


 汲み上げ機を覗き込み、握りを上下させて重みを確認したサヤが、呼び水を上部の開き口から注ぎ込む。

 あれから多少改良された汲み上げ機の弁は、現在鹿革の袋に収められている。これは当然磨耗するので、ある程度使った後は交換が必要なのだけど、密閉度は格段に改善されたと聞いていた。


 先程サヤが動かした時は、スカスカと軽く動いていた握りであったのだけど、今度はガチャン。と、重みを感じさせる音。

 ゴボボと空気の抜ける音も重なる中、サヤが騎士らに呼び水を追加で注ぐように指示。

 今回、井戸内の水面が少々低かったので、はじめに入れた分では足りないと判断したのだろうか。


「水を出すんじゃないのか?」

「注げば水が出て来るのか? それは水が出ていると言えるのかな?」

「注いだ分は出るんじゃないか?」

「違いない」


 俺の背後から、そんな会話が耳に飛び込んできた。

 水を出そうとしているのに何をしているのだろうと、失笑している者もいる。

 笑っていればいい。その分、結果が出ればその感情は、ひっくり返るだろうから。

 そう思うものの、俺の手は拳を握っていた……。

 失敗は許されないと、サヤも、勿論騎士の皆も、理解している。だから、周りの声を意識しつつも歯を食いしばり、作業に集中していた。


 出ろ。出てくれ……!


 無言で様子を見守っていたのだけど、真剣な顔で握りを上げ下げしていたサヤが、少し眉を寄せ、握りを上下する速度を緩めた。

 何か問題があったのかもしれない! 咄嗟に一歩が前に出たのだけど、次の瞬間、彼女はふんわりと、優しく微笑み……。


「桶を」

「はいっ!」

「盥と樽も用意してください。直ぐに溢れますから。出ます!」


 その宣言が終わるより先に、注ぎ口から水が溢れた!


 桶は一瞬で満たされてしまい、大きな盥の上に置かれた樽が、慌てて桶の下に差し込まれた。

 それでも間に合わず、少量が盥に溢れてしまった。

 でもそれを気にせずサヤは、握りを動かし続ける。

 呼び水として注いだ分は、桶から溢れた時点でとっくに超えた。

 唖然とし、言葉を失くす大臣や長らを前に、サヤが握りの上下を止めた後も、水は暫く出続けた。盥からも溢れ、水場を濡らしてしまったのもご愛嬌だろう。


 最高の結果だ。

 自然と顔が綻ぶ。握っていた拳を、つい振り上げそうになって、慌てて止めた。

 その代わり、期待に応えてくれた皆に向かい、俺は声を張り上げ、叫ぶ。


「良くやった!」


 その声にホッとした表情だった騎士らがこちらを見て、何故か慌てて顔を伏せ、礼の姿勢になった。

 陛下や大臣らの前で粗相を控えるためだろうか? それにしては、随分顔が赤い気がしたけれど、まぁ……こんな注目を集める場では、顔に血が上ってしまうのも仕方がないだろう。

 緊張が解けたら、現実に引き戻されたって感じかな。


 さて。皆は自身のやるべきことを成し遂げてくれた。

 続きは、俺の仕事だ。


「手押し式汲み上げ機、問題無く作動致しました。

 見ての通りです。井戸水を桶で組み上げるより格段に労力を減らし且つ、迅速に水を得ることが可能と、ご理解頂けたかと!」


 振り返り、声を張り上げる。

 陛下のところまで声を届けるためと、周りの皆に、状況を理解させるためだ。

 それにより、呆然としていた方々が、染み込む現実に騒めき出す。


「これを、来年度以降を目標とし、無償開示できるよう、改良を進めて参りたい所存です」


 そう言うと、悲鳴が上がった。

「無償開示だと⁉︎」「何を考えているんだ!」「気が狂ってる⁉︎」と、一気に混乱が広がる。

 だが俺はそれを無視し、とにかく陛下にご理解いただけるよう、言葉を尽くすことに専念した。


「私は、これからの世に、これは必ず必要となる品と、考えております。

 ですがまだ試作機。練度も低く、精密性にも不満が残る代物で、もっと数をこなし、工夫を重ねていかねばなりません。

 そのためにも検証期間に入ることを切望いたしておりました。売り上げの上がらぬ作業を延々と続けられるほど、ブンカケンの財力は潤沢ではないですから」


 特に鍛治仕事には金が掛かる。無論、主な出費は燃料費だ。

 秘匿権を得ている木炭を、湯水のように使うのだから。


「しかし、鍛治職人には制限が多い。そしてブンカケンに所属する以上、将来を天秤にかける決断をせねばなりません。

 ですからどうしても、職人が希望する数ほど集まりません。

 また、例えセイバーン全ての鍛治職人がこれに同意し、製造したとしても、その供給量は、需要に遠く及ばないと考えております」


 サヤの世界では、これが家庭の調理場にまであったと言っていた。つまり、それだけの需要が見込めると言うことだ。

 だからそう遠くない未来、貴族や富裕層はこれを屋敷中の井戸に設置するだろうし、大きな都市でも求められ、利用されるようになるだろう。

 だが、今のままでは明らかに職人不足。先程も述べた通り、セイバーン中の職人を駆り出して作り続けても、きっと足りない。

 それに、他領への輸送を考えると、費用が嵩みすぎる。それは到底、現実的ではない。


「つきましては、他領からも鍛治職人の募集を、許可していただきたいのです。将来的に、領内の需要は領内の職人で処理していけるように。

 ただし、先程述べました通り、無償開示前の秘匿権を閲覧、利用するためには、ブンカケンへの登録が必須。つまり、長期の研修期間が必要です。

 更にその職人は、今後秘匿権を得る発明をしたとしても、それをブンカケンに譲渡せねばなりません。

 言わば、自領の鍛治職人の将来を、我らの研究に使い潰すとも言えること。

 我々貴族が、なまなかな覚悟でこれを強要し、前途有望な職人を潰す。などということが、あってはなりません」


 当代だけの役職で、一時的なことだと思わないでほしい。

 一度登録をしたら、一生その約束に縛られるのだ。これは言わば、民にとっての誓約だ。

 そして俺は、当代のみでこの役職を終わらせる気など、毛頭無い。


 この構造をフェルドナレンに根付かせ、価値基準の改革を行わなければならない。

 それに合わせ、民の知識水準、識字率だって向上させていくつもりでいる。

 それは全て、将来獣人を、人であると認めさせるための、一手。

 まだ、ほんの小さな、水滴だ。

 それを重ねて、波紋から、波へと、育てていくのだ。

 俺が生きているうちに、獣人らを受け入れた世の中を作れたらと思う。

 けれど、もしそれが無理であったとしても……可能性を育てていくことを、やめてはいけない。

 だから、どれだけ時間がかかろうと、小さな一手、一滴を、続け、重ねていく。


「ですから、領主命令などではなく、職人本人の意思で、決めるべきと考えます。

 それを陛下より、確約していただきたいのです。

 我ら貴族は、彼らと立場が違う。我らが命じれば、民はそれを受け入れるしかない。

 それゆえ民の盾である陛下に、このことをお願いしたいと考えておりました」


 俺は口先だけの承諾などでは納得しない。

 知っている。命じられれば聞くしかない民の苦悩を。家族を盾に取られることだって、多々あるのだということを。

 だから、確実に実行してもらうために、民の意思を尊重してもらうために、我らの長……陛下の命令が必要なのだ。

間に合ったら明日も更新するかもです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ