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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第九章
261/515

欲情

 マルが戴冠式まで口外できないと言ったことで、何も明言しないまま、それでも何かあるのだという含みを感じた貴族方は、俺の扱いをより慎重にせざるを得なくなった。

 まぁね……急な後継者変更があり、初めてアギーの社交界へ呼ばれた上に、賓客扱い。

 病床に伏しているとなっていた領主が社交界に顔を出し、かと思えば他家との交流……血による関係性の強化を全部拒否。

 その上、姫様の戴冠まで伏せなければならない事柄に関わっていると匂わせている……。

 はてさて敵か味方か……どこから手をつけて良いやら……と、いった心境だろう。


 正直俺自身、客観的に受け止めようと努力しているけれど、こうして考えるともう逃げ出したい……。


 そんな中、比較的気軽に俺と関わろうとしてくるのは、学舎で縁のあった方々と……夏の氾濫対策における支持と支援金でやり取りしたことのある家だ。

 まあ、元々が学舎繋がりだし、マルが厳選し、資料を送り、その伝手で広がった縁であるから、正直安全を保証されているも同然なわけで、更には、先見の明を持つ方が多いという結果になる。

 そんなわけで、家のやり取りはマルと父上に任されていたが、学舎からの縁で繋がった交流に関しては、俺に振られることで落ち着いていた。

 とはいっても、これも春の発表を待たなければならないので、氾濫対策には成功したので、春から交易路計画に移行します。くらいを伝えるだけなのだが。


「じゃあ、次は春になったらか。良い話を期待している」

「はい。ありがとうございます。ではまた、戴冠式で」


 部屋を出て行く元学友を見送って、一息つく。

 皆、一様に俺の容姿の変貌に驚き、俺が後継となったことを喜んでくれ、ハイン以外の従者がいることにまた驚き、サヤに関心を示す。

 ハインがサヤを受け入れているという驚愕の事実と、彼女の珍しい黒髪。そして、サヤの強さに反比例した麗しさゆえだろう。

 サヤがディート殿とやりあえる猛者であるという話は、何故かあっという間に広まっていた……。

 口止めしていたわけではないからな……まぁ、仕方ないと思う。

 とはいえ、その噂を信じることができるかどうかは、また別問題である様子。

 サヤを見た人は不思議そうに首を傾げるのが大半だ。

 サヤが無手の使い手であるという部分が、より疑わしさを増してしまうのだろう。

 武器を持ったディート殿に素手で挑むってどう考えても無理そうなんだろうな……俺も自分の目で見てなければそう思うことだろう。


 サヤは一見、麗しいだけの少年だ。

 見る人が見れば、常に間合いを測って動いていることなどに気付けるだろうけれど、それが読めるのは一定以上の実力者だろう。

 そんな一定以上の実力者たちにしても、武器を構えるディート殿を前に、拳を握ったサヤにはおいおいとなったわけで……。

 見ていない人たちに理解せよという方が、無理な話であるということだ。


 そんなサヤが、実は女性であるだなんて……きっと誰にも分からないのだろうなぁ……。


「どうかしましたか?」


 じっとサヤに見入っていたら、茶器の片付けをしていたサヤが、俺を見ていた。

 どうもしないけれど……。


「サヤに触れたいなと思って見てた」


 そう言うと、途端に頬を染める。


「にっ、日中です」

「うん。分かってるから我慢して、見るだけにしてた」


 ちょっと意地悪くそう言う。

 我慢してます。という素振りを見せると、サヤは罪悪感にかられるのか……少し困った顔をするということに、この前気付いた。

 それ以上言い返せず、じっと見る俺に、ただ耐える。


 こんなに強いサヤが、実はとても愛らしいなんて、誰も知らない……。

 見つめるだけで頬を赤らめるし、少し触れるだけで恥じらうし、口づけした後のとろけてしまいそうな表情は危険な程艶めいている。

 あかん。と、言いながら、サヤが俺の口づけを拒むことは無く、最終的には受け入れ、その艶やかな表情を俺だけに見せるのだと思うと、独占欲が刺激されてしまう。

 俺と将来を共に歩むと言ってくれたのだ、この女神が。

 それを考えると、えもいわれぬ幸福を感じる。


 そんなサヤを……。


 皆の前に晒すなんて、嫌だなぁと、今更……思っている。


「もうっ! そんなにじっくり見ないでください!」

「見足りないのに」

「いつも見てるじゃないですか!」

「まだ満足するまでサヤを堪能してないんだ。本当は触れたいの、我慢してるし……なかなか満たされないんだよ」


 困り顔を作ってそういうと、いよいよどうしようみたいな顔になるから内心で笑ってしまう。そんな反応が楽しくってつい、演技を続ける誘惑が優ってしまった。

 そうして、じっと見ている俺に困り果てて、最後にサヤは譲歩する……。


「……ちょっとだけなら、良いですよ?」

「どこまでがちょっと?」

「…………ギュって、するだけなら……」


 恥ずかしそうに頬を染めて、両手を広げる。

 まるで、俺を丸ごと受け入れようとしているみたいだよ、それ。

 その愛らしい存在を腕の中に抱き込んで、本人に分からないよう、髪に掠めるような口づけをした。

 心労も吹き飛んでしまう。幸せだなと思う気持ちが、より一層膨らんで、頑張ろうって思えるのだ……。


「だいぶん、戻ってきた気がする」


 サヤの抱き心地。


 背中を撫でてそう言うと、「頑張って食べてます」という返答。

 これなら、唇だってもう、ふくふくかな。と、そう思ってしまうと、むくむくと誘惑が膨れ上がってきた……。


「サヤ、好きだよ」

「えっ……」

「愛してる」

「あ、あのっ⁉︎」

「サヤは俺の宝物だよ。唯一無二。女神だ……」

「や、やめっ、なんで急に褒め殺すん⁉︎」

「真実と本心を口にしてるだけだよ。サヤは俺の…………」

「も、もうええから!」


 慌てたサヤが、両手で俺の口を塞ぐ。

 その手を取って、指先や、掌、手首と口づけをすると、より一層慌てふためく。

 両腕を俺に取られてしまって、口づけされて、もういっぱいいっぱいになったサヤがはくはくと、混乱した頭で何かを言おうと必死になるから、最後にその唇を塞いで、もう何も考えなくて良いように仕向けた。

 唇を軽く啄むと、ピクリと体が跳ねて、そのまま深く唇を重ねると……。


「んぅ……!」


 まだ何か言おうとするから、その言葉ごと、舌で絡め取った。

 思えば……多分俺は、サヤが俺に両腕を広げた姿で既に、ぐらりときてしまっていたんだろう。

 舌で唇をなぞり、歯列をなぞり……そうしていくとだんだんサヤの呼吸が荒くなって、身体の力が抜けていく。膝が崩れる寸前に、腰に腕を回して抱き寄せた。

 上顎の裏を舌先でゆっくり撫でていくと、小さく震えて熱い吐息が零れ、それにまた劣情を刺激され、より一層深く繋がりを求め、彼女の舌を絡めて吸い上げると、身体が反射でびくりと跳ねる。


 こんなのじゃ足りない……。


 普段なら自分で抑制する部分。

 なのに、そんな思考は働かなかった。

 自分の右手がサヤの頬を撫で、首筋を撫で、それに反応が返る度に余計煽られて、もう頭は沸騰してしまっていた。

 補整着に阻まれて、豊かな膨らみに触れられないことを少し残念に思い、けれどこの愛しい存在が腕の中にあるだけで、俺は満足できると思う。この人が俺のものになるなら……。


 ガタン!


 と、大きな音を立て、椅子が倒れた瞬間に、冷水を浴びた心地で我に返ると、サヤがどこか怯えを滲ませた瞳に熱を浮かせて、掠れた呼吸を繰り返していて……。

 サヤに覆いかぶさるようにして、彼女を机に押し付けている自分に愕然とした。

 反応してしまっている俺自身の身体にも。

 だけどサヤの瞳の色が、滲み零れそうになっている水滴が、まだどこか熱に翻弄されている俺の思考を、かろうじて繫ぎ止めてくれた。


「…………っ、ごめんっ。悪ふざけが、過ぎた」


 気力を総動員してサヤから両手をもぎ離し、部屋の隅に退避して……。


「部屋に、帰って良い。少し、休んで……」


 なんとかそう言って、俺自身も自分にあてがわれた寝室へと逃げ込んだ。


 やばい、なんてもんじゃ、ない……。

 理性が飛ぶって、ああいう……? 全然歯止めが……っ、今だって、全く、衝動がおさまらない⁉︎

 今すぐにでもサヤを追いかけて、組み敷いてしまいたい。もう一度口づけを、彼女の甘い声を聞きたい!

 だけど……それがどれほど甘美な誘惑でも、駄目だ。違う。今はまだ、その時じゃない。三年耐えなきゃ、サヤとの婚姻自体が、無かったことになりかねないんだぞ!

 たかだかこの程度の誘惑に負けて、彼女を失うのか⁉︎ と、自分に言い聞かせて、必死で欲情を押し殺した。

 それを考えれば、我慢くらいできる。できなければ彼女を失う。

 これはそう、運動が足りてないだけ。ちょっと怠け過ぎていたんだ。うん。鍛錬して疲れれば、こんなものはすぐに発散できる。

 サヤのちょっとした仕草が可愛くて愛しくて仕方がないのはいつものこと。気持ちが乱されるのは、俺の個人的な問題。

 今までだって触れてきた、口づけで充分耐えられた。なのに今それができない道理なんて無い。

 大丈夫、できる。俺は、耐えられる。あぁ、だけど……触れないように、近付き過ぎないようにしないと……いや、違う。あまり押し殺すと、逆に我慢が……振り切れてしまわないように……。


 思考回路すら混乱して、安全圏の線引きができない自分に愕然とした。

 慌てて、とにかく一旦寝よう! と、意識を切り離すことにする。

 サヤの表情を思い出せ。怖がっていた。涙まで滲ませていた。あんな表情、望んでやしないだろう?

 そうやって必死に欲情の頭を押さえつけて、俺はとにかく、あの衝動を無かったことにした。



 ◆



 部屋から出れない……。

 衝動を抑え込み、なんとか正常な思考を取り戻したのだけど、そうすると恥ずかしさといたたまれなさ、そして恐怖で部屋を出るに出れない状況に陥った。


 人様の官邸内で、まさかサヤに欲情するとか……それをもろサヤにぶつけるとか、俺はなんてことを……もう婚姻は取りやめにしたいと言われかねない失態だよ⁉︎

 多分それをして拒まれたであろうカナくんという存在を知っていたのに、同じ轍を踏まないよう気をつけることもできないって、俺はどれだけ馬鹿なんだ……!

 サヤが俺を怖がるようになってたらどうしよう……いや、ならないはずがない。あんなことしたのに……許されるはずがない、もう敵認定だ!


 そう考えると恐ろしくて寝台からすら出られなかった。

 結果を知りたくない……サヤを失うなんて耐えられやしないのに、俺の馬鹿!

 謝って済む問題かな……だけど謝らないのは論外だよな……でも顔を見てまたムラってきたらどうすれば⁉︎


 どうやって許してもらおうかと必死で頭を悩ませていたら、 コンコンと寝室の扉が叩かれて、飛び上がった。


「あの……レイシール様」

「はっ、あ、あのっ、何⁉︎」


 何、じゃ、ないだろっ⁉︎

 思いがえない声が……サヤの声が聞こえてきたから、慌てて飛び上がった。

 開けても良いですか? と言うから、ちょっと待ってと必死で押しとどめ、自分におかしな場所がないかを確認する。

 少々髪は乱れたかもしれないけれど、肉体的な部分は……うん。大丈夫、サヤを見て大丈夫だと確信が持てない部分がなんとも際どいけど、一瞬なら全然……必死で無心になれ、心よ凪げと言い聞かせてどうぞと言うと、ひょこりとサヤが、顔を覗かせて……。


「あ、あの……ハインさんが、そろそろ起きてくださいって……」

「う、うん。もう、起きるから……今何時頃?」

「昼を、回ってます。昼食を早く召し上がってくださいと、怒ってらっしゃいます」

「分かった……」


 扉から入ってこようとはしない。けれど、表情に怯えは無いように思う……。どちらかというと、戸惑い?

 少し視線を彷徨わせてから、では……と、言ったサヤを、咄嗟に呼び止めてしまってから、何を言うとも決めていなかったことに、余計混乱することとなった。


「あっ、あの……さっきは本当、ごめんっ! すまなかった‼︎ サヤを、傷付けようとか、そういうつもりは……っ」

「い、良いです。分かってますっ。…………そ、その……もう、聞きましたから……大丈夫です」


 ………………⁉︎

 ……………………誰に⁉︎ 何を⁉︎


 唖然としてそれ以上を言えず、ただ固まっていると、じゃあ、準備をして待っていますからと、サヤが部屋を後にする。


 頬が上気していたなとか、だけどさほど嫌そうにも見えなかったなとか、でも誰が何を吹き込んだ⁉︎ とか、頭を混乱させていたら、またもや訪いの音。


「若様。宜しいですか?」


 ……若様。

 それ、俺のこと?


 初めて聞く呼び方に、半ば呆けていたら、声の主は女中頭であった様子。部屋に入ってくるなりずんずんと大股で歩いてきて、目の前でピシリと姿勢を正し、俺を睨め付けるものだから震え上がった。

 なんとなくそれで、この人だと悟る。

 サヤに何か言ったの、この人だ……。


「若様……婚約してらっしゃるのに、サヤさんにその関係の何たるかを説明していらっしゃらないというのは、どういうことでしょう……」

「え……な、なんたる……か?」


 一通りは説明、してますけど……?


「ええそうですね。表面的な部分は全て伝えてらっしゃいました。

 ですが。

 そんな杓子定規な内容……今の時代にどこの誰が行なっているとおっしゃるんです?

 法的なことを守ろうとするのは良いのです。それだけサヤさんを大切に思ってらっしゃるんでしょうし。

 ですけど、もっとこちらの国の現状を詳しく伝えておくべきでしょう?

 それから、貴方様が、どういった状態であるかも」

「っ、違う。あれはつい……! そんなつもりじゃなくて、ちゃんと三年、俺は……っ!」


 俺がサヤに何をしようとしたのか、この人はサヤから聞き出してる……!

 それが分かって蒼白になった。

 さして面識も無いこの人に、それを相談するほどに、サヤを追い詰めてしまったのだと理解した。

 彼女には、それくらい恐ろしい経験だったのだ。俺のしたことは……っ!


「すまんっ、もう絶対に、あんなことは……。もう、触れない……怖がらせたいわけじゃなく、傷つけようなんて毛頭……っ!」


 離れよう。サヤと距離を置くべきだ。三年耐えると言った口で、彼女をもう少して汚してしまうところだった。

 これ以上はダメだ。サヤを怖がらせてしまえば、失ってしまう、そんなのは嫌だ!


 必死でそう言って身を乗り出したら、パン! と、目の前で手が打ち鳴らされた。


「できないことをやれなんて、言ってやしませんし、それは逆効果ではございません? サヤさんも周りも、余計な誤解をしてしまいます。

 そうではなくて……本来ならば、サヤさんと貴方はどういった状態が許されており、若様が何を我慢して、今の状況か。その部分の説明でございます。

 本来なら、旦那様がサヤさんを庇護に置き、今すぐサヤさんを妻に娶ることができるのですって部分です!

 世間では普通、そちらの手段が選ばれますし、庇護される女性側のことなんて考慮しやしません。

 身分差があれば尚更……女性の意思すら尊重されない場合が多々あります。

 でも若様は、サヤさんを縛ることは、少しだってしたくない。

 サヤさんの年齢と、気持ちが伴うまで……彼女の意思で行動の選択ができるようになるまで、待とうというお考えなのですね? ここまで間違っていませんか⁉︎」

「は、はいっ!」


 まくしたてられて咄嗟に首肯する。


「まぁでも、だからって欲求はございますわよね……。

 今回は、その部分が少し暴走してしまったと、そういうことですね⁉︎」

「お、おっしゃる通り……です…………あぁぁ」

「……まぁよく頑張っていらっしゃると思いますけれど……うちの息子らなんて……もっと本能に忠実ですよ」


 いや、だって女中頭の息子は貴族じゃないし。

 十五やそこらで嫁を取り、家庭を築く彼らだからそれが許されるんであってだね……。


 尚更自分の不甲斐なさと、自分のしでかしたことへの嫌悪感で顔が上げられない。

 そんな俺に、女中頭は……。


「サヤさん、待つとは言われたけれど、理由も状況も、何も分からないままで、法的な部分は説明を受けたけれど、それも途中で話を中断してしまったって……そうおっしゃってましたわ。

 若様は待つとおっしゃいましたけど、でも契りを交わして耳飾を得ると聞いたから、婚約した以上、そういうことをするのだろうと思っていたって。

 だけど自分がそれをつい拒んでしまうから、本来はそういうことをして、耳に穴を開けるって聞いたのに、それすらまだできていないって……。

 そのうち愛想を尽かされてしまうのじゃないか、受け入れるべきことを拒んで婚約なんて許されるのかって。

 …………まぁ、若様の周りは若い人……しかも男性が多いですし、未婚者ばかりですもんね……貴族のご婦人との交流は無かったようですし……その辺のことに触れられる人、いませんね……」


 お、おっしゃる通りです……。

 ていうか、下手に話させると危険な人物の方が多い……マルとかハインとか、ジェイドにしたって多分、遠慮なしに言葉も選ばず結構なことを言いそうだ。


 そういえば……。サヤを娶りたいという話を、前にしたのだった。

 その時は……サヤが妻になる気は無いときっぱり拒否してきたし、契りを交わして耳飾を得ることは説明したけれど、俺にそのつもりは無いということを、はっきりとは言っていなかったかな。

 その後も、なんとなくもうその前提は伝えてあるつもりで……サヤがちゃんと理解しているかどうかも、確認してなかった……。


 そう、か……そういうことすら俺は、ちゃんとしてなかったんだ……。


 呆然とする俺に、女中頭は溜息を吐いて、すっと居住まいを正す。

 ご命令があればどうぞといったその姿勢に、彼女が俺の意を汲んでくれる気でいるのだと理解した。

 確かに俺の周りは、若手の男ばかりだ。既婚者もいないし……サヤへのそういった配慮ができていない。今からだって、きっと色々、抜け落ちてしまうと思う。

 どうしたって、俺たちに足りない部分……それは、彼女らセイバーンに仕える者らを、頼るべきなのだろう……。頼って良いのだと、彼女は、態度で示してくれているのだ……。


「…………あの、申し訳ないのだけど……。

 俺はサヤの成人まで、婚姻を進めるつもりは無くて、契りを交わすつもりも無くて、そのために色々、準備もした。

 だからその……サヤがそういうことを、焦って受け入れる必要は無いし、俺もそれを承知しているのだと、言っておいて、もらえるだろうか……。

 これは俺の気持ちだけの話ではなく、ちゃんと父上も承知している。領主の承認を得ていることだから。

 もし、周りでそのようなことをサヤに急いたり、言っている者がいた場合も、それを伝えてくれると、有難い。

 それで……俺もたまにその……こういう……っ。いや、今後はこんなこと、無いように、する。けど、万が一……っ。

 万が一が、もしあったって、それは俺の本意では無い!

 殴ってでも止めてくれ。ほんと、それは望んで無い。絶対に、望まないから……!」


 サヤとずっと一緒にいたい。何十年だって、共に歩みたい。

 そのための三年だ。

 改めて自分にそう言い聞かす。


「承りましたわ。

 若様から、サヤさんへの強要は本意では無い。

 周辺の野次馬も……立場的に、若様よりもサヤさんを槍玉に挙げるでしょうし、見かけた場合は私が盾となりましょう。

 若様……今後こういうことが絡む場合は、まず私めにご相談いただけますと、有難いですわ。

 こちらでも準備を必要とする場合が多々ありますし」

「……仕事を増やしてしまって、申し訳ない……」

「いいえ! むしろ遠慮は控えていただきたいですわ!

 もし、人数的な問題等で、無理などありましたら、私も遠慮なく、ご相談させていただきますから」


 そう言った女中頭に、ありがとうと頭を下げた。

 本当に、有難い。サヤの味方になってくれると、彼女はそう言ってくれたのだ……。

 身元の定かでないサヤだ。古参に睨まれているし、それが女中頭自身の不利になるかもしれないのに……。


 その考えが透けて見えたというように、女中頭は肩を竦めた。

 そうして婉然と微笑み……。


「今更ですわ」


 と、力強いお言葉。

 …………そうだった。この人、古参に手ぬぐいを投げつけた人だった……。女傑だ。

いつも見ていただいてありがとうございます。


今週の更新開始です。

す、すいません……結局一話分書くのでいっぱいいっぱいという……。

ちょっと今週も更新量が少なくなりそうです。明日もイベント……あああぁぁぁ。

とりあえず、明日が無理な場合、せめて明後日は更新したいなと……この一話だけで終わらないよう、なんとか頑張りたいです!

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