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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第八章
250/515

終息報告 1

「報告書にもあったと思うのですが、荊縛の重篤化は、二つの病の連鎖でした。

 状況を説明しますと……荊縛によって肉体が疲弊したせいで抵抗力が低下してしまい、普段はほぼ無害な菌の攻撃すら、抵抗できなくなってしまった状態。……これが重篤化の理由です。

 幼子とご高齢者の死亡率が高いのは、肉体が未発達であったり、加齢により元々抵抗力が低下していたりするからではないかと。

 この病の連鎖。私の国の、インフルエンザという病に、酷似していまして。

 インフルエンザもかつて、連続する二つの病だと気付かず、沢山の犠牲を払った歴史がありました」


 サヤの説明に、マルとジーク、ナジェスタが感嘆の息を吐く。

 父上とガイウスは、難しい顔のまま聞き入っている様子。

 その他にも外野が沢山……。

 ここは館の中にある、一番大きな会議室だった。本日初めて使用する。昼からの急な呼びかけなのに、随分と人が集まった。

 ここに今、手の空いた使用人や騎士など、館中の人間がひしめいている。


 会議室の中心にはサヤと、ユスト。上座に父上と、ガイウスがいる。左隣に俺やマルなど、俺側の人間。右側には古参の配下たちが並んでいた。

 そしてサヤらを挟んで後方に、机が並び、そこにはナジェスタ医師と、ジークが。

 更にその後ろ側が、騎士や使用人らだ。

 まるで法廷さながら……。衆目に晒される状態のサヤが、心配でならない……。


 ここでサヤの語っている内容は、報告書でも受け取っているし、父上ら上役には既にお見せしているのだが、やはり文章ではいまいち内容の把握が難しく、細かい部分の聞き出しを行いたいとおっしゃったため、急遽説明会を開くことになった。

 そして、本日荊縛の終息がなったなら、関わった全ての者に出来うる限り経過を伝えよと仰せつかったため、このような状況になった。


「ちと良いか。この菌……というものが、よく分からぬ……。これは、元々体内にあるものなのか?」

「はい。というか、私の国では、そこら中に目に見えない菌が存在していると考えられています。

 普段、健康な状態の時は、そのような小さな敵に負けたりはしないのですけど、病と連戦を続けた後では、負けやすくなるんです」

「菌……これも悪魔の手だということか」

「いえ……悪いものもあれば、良いものもあるというか……一概に菌だから悪いわけでもありません。

 えっと……牛酪や乾酪など、発酵食品も菌の作用によって作り出されます。お酒ができるのや、麵麭がふっくらするのもそうなんです。

 私の国ではそういう、目に見えないほどに小さきもの……微生物が存在するという考え方が一般的なもので……。その……異端的な発想とお思いでしたら、申し訳ありません……」


 少し困った風にそう言ったのは、ガイウスの視線と、周りのざわめきを気にしてだろう。

 サヤの耳には、周りで囁かれている雑音も、言葉として届いているに違いない。

 その中には、きっとサヤの発言に対する否定的な意見も多いことだろう。

 こうなるのは分かっていたから……本当はこんな風には、したくなかった……。サヤを一人矢面に立たせるような、こんな場を作るだなんて……。

 父上の強引な命令に、俺は今、少々機嫌が悪い……。


 俺の妻となることを認めたサヤへの風当たりは、当然強くなっているだろう。その上で異端的な思想の人物と思われたのでは、更に厄介だ。

 周りの高まっていくざわめきに、俺のイライラは更に募り、それを横のマルが机の下から押し留めていた。


「落ち着きましょうよ……まだ序の口じゃないですか」

「序の口でこれだぞ」

「気にし過ぎですって、サヤくんはまだ大丈夫ですよ」


 まだ大丈夫なのと、傷付いていないのは、違うだろう⁉︎


 だがここで、ずっと黙ってサヤに任せていたユストが口を開く。


「異端的……との発言ですが、この考え方は我ら一門にも通じるところがあります。

 例えば我々は、酒精を傷の治療時に使うことで知られていますが、これは一般的には、治療に必要なことと認識されていません。

 患者方には手の毒を殺す……消毒のためだと説明します。

 よく誤解されるのですが、傷口に酒を掛けるのではなく、処置をする我々の手を酒精で清めるのですけどね。

 手には傷の害となる毒がある場合があります。本人にその意思はなくとも、傷口に毒を塗り込んでしまう……それを避けるための消毒なのですが、その毒……それが、彼女の言うところの菌なのだと解釈しています。

 我々の一門は、大災厄前より続いた医師団の流れをくむと言われていますから、この発想はかつての文明の、名残だと考えられます。

 聞けばサヤさんの国も古い歴史を持つ国だそうで、大災厄前の文明知識を、色濃く残している国である可能性があります。

 つまり、何が言いたいのかというと……彼女は決して、怪しい発言をしているのではないと、いうことです。我々医療者からすれば、尚のことというか……」


 ユストの言葉に、ナジェスタ医師も机をトントンと叩いて発言を求めた。


「私たち一門の元に治療を望み訪れる者は、二分されます。

 お金が無い貧乏人か、お金で解決できなかった病を抱えているか。

 信心で傷や病が治せればそれが一番だけど、我々一門は現実を見ろと、師に言われます。

 その結果が我々の治療方法なので、正直ご納得いただくしかないのよねぇ。

 だから、マティアス医師筆頭、我々一門は、サヤさんの発言を異端とは考えてない。と、心に留めておいてくださいな」


 ユストとナジェスタは、古い流れをくむ医師団所属という父上のもとで医師となった。

 その医師団自体はもう瓦解したも同然らしいのだが、彼の父、マティアス医師はその志を貫き通していらっしゃる稀有な方だ。

『命に貴賎は無い。国籍、民族、宗教、社会的地位または政治上の意見によるいかなる差別をせず、治療を行う』という、この時代にはいささか無理難題すぎる志なのだが、ユストもその志を引き継ぐ医師である。

 マティアス医師は、腕利きの医師であると有名だそうなのだが、偏屈な頑固者でも知られているらしい。貴族といえど、マティアス医師の志を理解しない者には治療を施さない。金があるなら他に行ってくれと言って憚らない人なのだそう。

 本来貴族にそれを言えば手打ちにされそうなものだが、そんな主張が許されているのは、彼の腕と、信頼の賜物だろう。


「まぁ、その菌云々は一般には理解し難いことだと思いますが、実際処置が間違ってなかったからこそ、この結果なわけでしょう?

 とりあえずはそれで良いのじゃないですか? 何が正しいかはともかく、結果は正しかったのですし。

 ……けどよくまぁ、それに気付きましたね。

 荊縛は、サヤくんの国には無い病だったのでしょう?」


 場の雰囲気がまた騒めきを大きくする前にと、マルがそう言葉を挟んでくる。

 話が切り替わってホッとした。


「はい……でも、荊縛自体がインフルエンザによく似てはいました。

 インフルエンザは、筋肉や関節に痛みを伴う場合があるんです。筋肉痛のような感じなんですけど。

 荊縛は、全身の神経に針を刺すみたいな痛みで……食事の時が特に辛くて……汁物すら、舌の痛みで食べられなかったんですよね……。

 だから、本来なら体力を付けて、抵抗力を上げなければいけないのに、そのための栄養摂取や、水分補給ができない……余計に衰弱が進み、抵抗力が低下し、肺炎にかかる……という悪循環を引き起こしているのだと思います。

 温かい物は特に痛いんです。でも、冷やしたものは比較的楽だったので、食事の時間を区切ったりせず、食せるときに食すように切り替えましたので、体力の低下もある程度抑制できたのだと思います」

「……この時期に、冷たい食事ですか?」

「盲点だったですよね……気付けたのはほんと、偶然です。

 私……飛び火した直後だと思うのですけど……熱いものに舌が痺れたような違和感を感じて……猫舌気味なので、それが原因かなってその時は思ったのですけど……たぶん痛みの兆候だったんです。

 他の作業をしている間に食事が冷めて……それを食べた時は、なんともなくて。

 だけど翌日から、熱と一緒に痛みが始まって……」


 そう言うとサヤは、その痛みを思い出したかのように、身を縮めて自身の肩をさすった。

 幻痛に悩まされているかもしれないと、ナジェスタが言っていたし、彼女にとってその痛みは、まだ身近なのかもしれない……そう思うと、いてもたってもいられなかった。

 こんな離れた場所ではなく、今こそサヤの隣にいてやりたいのに……くそっ、早く終われ。


「私……痛みには、強い方だと思っていたのですけど……。神経を直接刺されるようなあれは、本当に、辛くて……。

 インフルエンザはあんな痛みじゃないので、思ってたものとの落差に混乱してしまって……」


 はじめの二日間ほどは、ただ痛みに朦朧とするばかりであったという。

 眠ろうにも熟睡できず、半覚醒したような状況で耐えるしかない。

 食事など取る気も起きず、体力が落ちるから食べろと促され、口に入れられても痛みで反射的に吐き出してしまう。

 ほぼ補水液のみで四日ほど過ごして、そういえば補水液はあまり痛くない……と、やっと気付いたらしい。


「試しに冷めた汁を含んでみたら、まだ熱いものよりは我慢できる感じだったんです。雪で冷やすと、だいぶん食べやすくなりました」


 それで、見ていた時と、こうして感じている今とを比較すれば、他にも何か気付けるかもしれないと、思ったのだそうだ。

 そして、発病して六日目にさしかかろうかという時、痛みの中に、固定された箇所があることに気が付いた。


「常に全身が痛いんですけど、その痛みは筋肉の動きに合わせた感じだったんです。

 肉体を動かす時の筋肉の収縮……脳から送られる電気信号……それが神経に入る刺激と連動してしまっているような……もしくは、その電気信号自体が針になってしまったような……」


 デンキシンゴウ云々の部分はいまいち理解不能だが、筋肉の収縮が痛みに直結しているという部分には、周りがざわめいた。


「あぁ、幼い時の記憶だが、確かにそんな感じだ」

「お前荊縛経験があるのか」

「あれはマジで酷いぞ。全身に針がぶっ刺されていくみたいなんだ。

 幸い俺は、比較的軽くで済んだけど……あの人あれに、何日も耐えたのか……」


 使用人の中からそんな話し声が聞こえてくる……。

 そちらに気を取られている間に、サヤの話は先に進んでおり、慌てて意識を引き戻した。


「けれど、体の動きとは関係なく、痛い箇所がなんとなく……喉と胸の痛みが強まってきているような違和感を……。

 それで、亡くなった幼子が、胸をやたらと痛がっていたのを思い出して……」


 ゾワリと身の毛がよだった。

 それはサヤが、死への旅路を歩み出したと、同義であったから。


「これはもしかして、肺炎を併発しているのかなと……。まだその時は半信半疑というか、確信が持てなくて……。

 そうこうしている間に咳がまた、増えだして、痰が喉に絡むようになって……」


 恐怖のあまり、顔が強張る。

 サヤを失わずに済んだけれど、それは本当に、運が良かっただけだと、嫌という程分かったからだ。

 その段階でやっと、ユストを呼び、自国の病について説明したのだという。

 そうしたら、急ぎ喉を保護する薬湯を用意してくれた。しかしこれがひたすら、苦痛であったらしい……。


「熱いものは、痛いので……はじめのうちは、もう 岩漿(がんしょう)(マグマ)を飲み込まされているようで、本当に拷問かと……。でも熱いうちに飲まなきゃいけないって言われて……」


 聴衆の中からも呻き声のような、同情の声が聞こえてきた。

 先ほどの使用人など本気で顔を引きつらせているから、本当に相当なものなのだろう。


「けれど、飲みだしてから少しずつ、痰と咳が改善されだして……八日目には、熱が下がりだしました。それくらいになると、痛みも然程ではなくなってきて。

 私だけではなく、重篤であったり、重篤化の懸念がある他の患者にも与えていたのだそうです。そうすると、早期の方々には比較的効果があったようで」


 これはいけるぞと、確信を持ったのだという。


「それで、検証を繰り返した結果、荊縛のみの段階からの摂取が一番有効となりました。

 荊縛は、全身の痛みに翻弄されがちですが、喉を重点的に治療することで、重篤化はほぼ、防げるようです。

 小さい子は本当に泣いて、可哀想だったのですけど……」


 針や岩漿を飲むような痛みを耐え忍んで、薬湯を日に一度摂取したのだそう。それを三日も続ければ快方に向かうと分かってからは、皆が嫌がらず、ちゃんと薬湯を飲みきるようになったという。


「……熱い……薬湯。

 それ…………養生っていう名前のにがぁい薬湯ですか?」

「それです。

 ユストさん、不味いって言いながら、何故かいつも飲んでらっしゃいますよね……」

「それ、うちの家訓で、冬場に医師の仕事をする間は毎日飲まなきゃいけないんです。喉の保護が目的なんですけど、何せ味が悪くて。

 でも普通のお茶より安価で、お茶がわりに丁度良いんです。苦み走ってて、すごく渋いんですけど、慣れれば癖になりますよ。

 あっ、季節ごとに何故か別のお茶に変わるんですけど、それもまた全部凄い味なんで、これが一番苦しい修行だなんて言う弟子もいて、面白いんです」


 にこにこと笑ってナジェスタはそう言うが、後ろに控えた助手の二人は憂鬱そうな渋い顔をしたままだ……。医師である間中、不味い茶と戯れるとは……慣れるほど飲むには相当な年月がかかりそうだな……。

 サヤの話を一通り聞いたマルが、ふむぅ……と、手元の資料を見つつ唸る。


「経口補水液……。これがあったから、冷たい飲み物をこの時期に与えてたんですよねぇ。

 本来、この時期は普通白湯です。病人はとくに、身体を冷やすわけにはいかないと考えますから」

「その補水液というもので水分補給ができていることが、とても良かったのだと思います。

 サヤさんのおっしゃっていた通り、極力水分を取らなければいけないのに、白湯や汁物を患者は飲みたがりません。これもこの病の特徴なんです。

 そのため脱水が急速に進んでしまうので、早い人は三日目には意識が朦朧となって、四日目には昏睡……みたいになりがちなんですよ。

 でもここの患者さん……皆全体的に、熱に耐えている期間が長いです。だから、死亡者も他と比べるととても少ないですよ」

「ですね。五人に一人の比率を覚悟してましたけど……格段に違います。

 初期の死亡者を含めても……十人に一人もいないのですか……素晴らしい!」

「肺炎の兆候にしても、全身が痛いでしょうに……よくサヤさんは、胸と喉の痛みに注目しましたね!

 それも、サヤさんが痛みに耐えられるだけの体力を養ってらっしゃったからだと思います」

「サヤくん猛者ですからねぇ。鍛えぬいた筋肉と体力があってこそ、気付けたのかもしれませんねぇ」

「いえ、そんな…………たまたまです」


 マルとナジェスタに褒め倒されて縮こまるサヤ。

 一旦切り上げて、ここまでの報告書をまとめますとマルが言ったため、休憩となった。


 後方の聴衆らのざわめきが大きくなり、俺も慌てて立ち上がる。

 ほっと息を吐くサヤの元に急ぎ駆け寄って抱きしめると、グイグイと押しのけられてしまった……なんで⁉︎


「人、前、ダメですっ」


 口づけじゃないのに、抱きしめることすら拒否された……なら。


「じゃあ一旦部屋に帰ろう!」

「それ、宣言してるも同じや!」


 真っ赤になって抵抗するサヤ。言葉すら訛りが戻ってる姿に、周りが笑って場が和む。


「あんな話を聞いて、俺が平静でいられるとでも⁉︎ 無事を確認したくて当然だろ!」

「見て分かるやろ⁉︎ 何日前に完治してる思うてるん⁉︎」


 そこで「サヤ」と、父上の声が上がり、俺たちは動きを止めた。


「は、はぃ……」


 緊張した表情で返事をしたサヤが、手招きされて、父上の座る席に向かう。その際心細そうに、ちらりと俺に視線を寄越したので、俺もそれに付き合うことにした。

 会議室を出ようとしていた面々まで、足を止めてこちらの様子を伺っているのが雰囲気で分かる。

 机越しに、父上の前に立つサヤは、とても不安そうだ……。今まで、サヤが一人呼ばれたことなど無かったというのに……なんだ?


「……危険を顧みず、自ら率先して、レイシールの意思を汲んでくれたそうだな。

 実際話を聞いてみて、本当に……なんと礼を言って良いやら、言葉が無い……。

 もう、体調は問題無いのか? 随分と、(やつ)れてしまったな……」

「お見苦しい姿を晒し、申し訳ございません。

 荊縛はもう、随分と前に完治しておりますので、問題はございません。

 それよりも、長らく従者としての仕事を離れまして、ご迷惑をお掛けしましたことをお詫び致します」

「其方以上の働き者はおるまいよ。

 この様な献身に、誰が文句など言うものか」


 父上の言葉に、聴衆らの中にも肯定的な雰囲気が広がった。

 流石のガイウスも、身を晒して危険に立ち向かったサヤの行動を、非難しはしなかった。

 今も表情を動かさず、ただ視線を伏せて、父上の背後に立っている。

 父上は、こちらにと更にサヤを手招いた。机を迂回して傍に来いという意味だ。サヤの緊張が、更に高まったが、言われた通り、ぎこちなく足を進める。

 父上の座る椅子から三歩という距離で立ち止まったサヤに対し、父は思いがけない問いを投げかけた。


「これの妻になることも、承知したと聞いたが、相違無いか」

「っ⁉︎」


 すぐ間近で、不意に聞かれた言葉に身体を強張らせるサヤ。

 荊縛の話ならある程度心も固めていたことだろう。しかし、全く予期していなかった質問に、きっと頭が真っ白になってしまったのだ。

 少し和んでいた部屋の空気も、一気に緊張で染まった。


 なんで今それを聞く⁉︎ と、咄嗟に止めようとした俺を、父上は手で制し、視線で強く、黙っていなさいと制止する。

 その鋭い眼光に、一旦は言葉を飲み込むしかなかった……。けれど、サヤを一人重圧の前に立たせるなんて……そんなの許せるはずもない。

 止めはしない。だけど、一人にもしないと、サヤの横に並ぶ。姿勢正しく立つサヤの手に、掠める程度触れて、一人じゃ無いのだと、それだけは忘れないでと、伝えた……。


 父上はサヤの返事を待った。周りの者らもだ。シンと、静まった部屋の空気が痛い……。


「……………………は、はぃ……。

 あ、あの……私には、庇護者が……おりません。自国の場所すら、正しく、お伝えできません……。身元を保証するものが何一つ、無いですし、財産と呼べるものすら……。

 本来そのような私が、立って良い場所ではないと、それは……重々、理解しております……」


 サヤの言葉に、父上はただ黙って頷く。

 サヤは、ぎゅっと手を握り込んで、更に身を硬くした。


 父上が、あえてそうしているのは明白だった。

 言葉を詰まらせた彼女が痛々しくて、今すぐにでも抱きかかえて、この場を立ち去りたいくらいの気持ちを、グッと堪える。

 サヤを、まるで試すみたいなことを……っ。サヤの領主の妻たる資質なら、この荊縛においての献身で、充分証明されているだろうに!

 父の制止など振り切って口を挟むべきかとも考えた。けれど……。

 けれど、横から見つめている彼女の表情は……まだ、凛としている……。


「でっ、です、が……。私の、学んできたこと……身につけてきたこと……、微々たる、些細なものでしかありませんが……それを全て、レイシール様に捧げ、ます。

 なので、どうか…………お許しを頂きたく、存じます……」


 認めてほしいと、そう言った彼女の言葉に、胸が詰まった。

なんかね、長くなってしまったのですよ……。

それで二つに分けなきゃならなくなりました。ちょっと、一つにするには長すぎて……。

なので明日もアップですよ。

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