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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第八章
230/515

荊縛の呪い

 良いと言うものをわざわざ確認させて欲しいと言うからには、本当に深刻なのだろう。

 ならば事情の分かっている者で出向く方が良いかな……。


「オブシズ。シザーと交代して、力仕事の方を担当してもらえるか。

 ハイン……は、そこを離れたらまずいか……うーん……」

「ギル、サヤを呼んでください。私は豚から離れられません」

「分かった」


 走っていこうとするギルを呼び止めて、サヤは道中で拾っていくからと、オブシズの案内をお願いした。

 彼にはまだ、獣人絡みのことは伝えていない。一瞬これを機会に……とも思ったのだけど、先ほどの瞳の件を考え、保留にした。

 もう少し、彼の獣人に対する見識を、見定めた方が良いように思ったのだ。


「できるだけ早めに戻る」


 それだけ言い置いて、俺たちは兵舎を後にした。


 先程は準備の進行具合を確認するため大回りしたけれど、今度はまっすぐ村門に向かうため、東に進む。

 その道中に先程お邪魔した長屋店舗があり、細い脇道から奥に向かい、直接共同調理場に顔を出して緊急事態だと告げると、サヤはさっと現れた。


「胡桃さん達が来たらしい。けど、だいぶ飛び火しているらしくて、本当に村に入って良いのか確認したいと呼ばれたんだ。

 ハインが持ち場を離れられないから、サヤが来てくれるか」


 そう言うと、はいと、返事。

 村の女性に後のことを任せて、俺に続いた。


「飛び火……というのは、感染が広がっている……ってことなのですよね……。

 この時期に流行ってる、飛び火で広がる病って、何が考えられますか」


 村門に向かう最中、サヤにそう聞かれ、俺は少し逡巡して……。


「……まあ、風邪かな。この時期はどこでもそうだ。越冬のためにひとところに人が集まるから、飛び火しやすい。

 可能性として一番高いのは、それだと思う。

 あとは……荊縛(いばらのいましめ)

「いばらのいましめ?」


 サヤは、困惑したように眉を寄せた。聞いたことがない病であるらしい。


「荊縛は、咳や頭痛に加え、高熱と、荊に囚われるような痛みに襲われる病だ。

 危険な病だよ。かつては、荊縛と知られたら、村から家族ごと追い出されたりもしたほどだ。

 強い呪いなんだ……人が密集して過ごすこの時期に、狙い定めて振るわれる、悪魔の呪い。

 特に、幼子や老人は、死に至る可能性が高まる」


 実は、これなのではないかと、考えている……。

 良いと言ったのに、確認を取りたいという胡桃さん。

 それは自身らを襲う病が、下手をしたら村を潰す可能性があることを、理解しているからではないか。

 けれど、もうこの時期に野営で過ごすなんて自殺行為だし、受け入れると言ってなお、到着までにこれほど時間がかかった状態を考えると、山城に出向くなんて、絶対に無理だ。

 もし荊縛だった場合どうしたものかと頭を悩ませつつ、足を急がせていたら。


「…………ちょっと、待って下さい。お二人は、手拭いをお持ちですか?」


 急に足を止めたサヤが、俺たちにそう問うた。

 シザーが懐から手拭いを取り出し、俺も隠しに入れていたそれを引っ張り出すと……。


「無いよりはマシ程度の効果ですけど、口と鼻を覆いましょう。

 飛び火する病というのは、前に話したウィルス性の病である可能性が高いです。ようは、飛沫感染……患者さんの咳やくしゃみで飛散した唾液などが原因で、飛び火するんです。

 当然それは、私たちの鼻や口から体内に入りますから、手拭いで多少は、防げるかと」


 そう言いつつ、手拭いを受け取って、手早くそれぞれの顔半分を覆い、頭の後ろで括ってくれた。

 そうして、自分にも同じようにする。


「……これで、少しはマシなの?」

「本当に、微々たるものです。

 本来は、患者さん……病の方がした方が、効果的なんですけど。

 くしゃみで人の唾液は、五メートルから九メートルも飛散すると言われています。

 マスク……これをしていれば、それが二メートル程度に抑えられる……。また、これに絡め取られた分がここで留まります。

 だから、マスクは病原菌の飛散を抑制するための道具。防ぐ効果は、あまり期待できないんです」


 期待できないのに、それでもやらないよりはマシだと、彼女は判断したのだ。

 そうした上で、至極真面目な顔で、もう一つの問いを投げかける。


「そのいばらのいましめは、薬でどうにかできる病ですか……」

「……」


 薬でどうにかできるものなら、吠狼と共に来る予定の薬師がどうにかしているだろうな……。

 だから、風邪ではなく、荊縛なのではと、考えたのだけど……。


 俺の沈黙で、答えは得た様子。サヤは表情を引き締めた。

 そうして、急ぎましょうか。と、俺を促す。


 村門まで来ると、その前でジェイドが待っていた。俺たちの出で立ちに片眉を上げて訝しげな表情になるが、サヤが俺を押し留め、馬車に近付いたのかと確認すると、否と首を横に振った。犬笛で知らせを受けたのだという。

 それを聞いたサヤは、ホッと息を吐き、ジェイドにも手拭いで鼻と口を覆うように指示すると、彼は言われた通りにした。

 彼女がそう言うからには、意味があることなのだと、理解しているのだ。

 門番の当番に当たっていたらしい騎士らが不思議そうに俺たちを見ていたが、とりあえずは保留。同じように手拭いで鼻と口を覆い、そのまま待機を言い渡す。

 ジェイドも準備ができたとため、足を進めようとしたのだけど……。


「レイシール様は、駄目です」


 サヤが、そう言って、俺を止めた。


「ウルヴズ行商団の病が本当に荊縛であった場合、レイシール様が病に近付くのはリスクが高すぎます。お父様……領主様に飛び火してしまうかもしれません。

 領主様は、今お身体が弱ってらっしゃいますから、少しの刺激だって、与えたくないでしょう?

 だから、彼らに接触する人数は、極力少なくしておく必要があると思います」


 至極真面目な顔で、サヤがそう言い、自身の身体を村門と俺の間に割り込ませる。

 嫌な予感がした……。


「…………だがそれでは、彼らの話を聞くことができない」

「大丈夫。私が一人で向かいます」


 そんなことを言いだすんじゃないかと、思ってたんだ……っ!


「そんなの、駄目に決まってるだろ⁉︎」

「選択の余地はないです。

 だってレイシール様は、胡桃さんたちの病がその荊縛だったとしても、受け入れるつもりでしょう?」


 サヤにそう指摘され、もちろんそれは、そのつもりで……言葉に詰まった。

 受け入れないということは、彼女らを見捨てるということになる。そんな選択は、できるはずもない。

 でもだからって、サヤ一人を危険に晒すなど、そんなこと!

 眉間にしわを刻んだ俺に、サヤは目元を柔らかく、和ませた。


「良かった。レイシール様なら、見捨てないと信じてましたけど、それを聞けてホッとしました。

 なら尚のこと、この判断を正しいものにしなければいけません。

 危険な病の者を引き入れたことが、後々の禍根になっては駄目でしょう?

 だからレイシール様は、近付くべきじゃないんです。

 幸い今、この村は中心部と、館周辺にしか住人がおりません。

 なので、そのまま南を大きく迂回して、宿舎に皆さんを案内しようと思います。

 飛沫感染の病であれば、感染源に近付きさえしなければ移らないんです。ですから、きっちり隔離することが大切。

 一番避けなければならないことは、アウトブレイクを起こすことですから」

「……あうとぶれいく?」


 アウトブレイクというのは、集団感染……予想以上に広がる、感染拡大のことです。と、サヤは言った。

 今、病の元はウルヴズ行商団の中のみにある。

 だから、彼らをきっちり隔離すれば、村の中に広がることはない。

 けれど、不特定多数が彼らに接触し、病原菌もらってしまえば、そこから急激に、広がる場合があるのだという。


「だから、まずこの接触は、最小限の人数だけで、極力速やかに行わなければいけません。

 つまりこの場合は、感染症への対処が可能な私と、ウルヴズ行商団の者たちのみで、行うべきなんです」


 そう言われ、唸るしかない……。

 そんな俺を、サヤはシザーの方に押しやった。

 俺が暴走しないように、シザーはしっかり、俺を見ておくようにと言い含める。

 間違っても、病気の側に近付けてはいけないという彼女に、シザーは神妙な顔で、コクリと頷いて返事を返した。

 次に、ジェイドの方に視線をやると彼は……。


「俺は同行する。他の事情を知らない連中を関わらせる必要は無い。けど俺は部外者じゃない。俺は行くのが無難だろ」


 そう言い、サヤを睨め付けた。

 引く気は無い……と、態度で示す。

 それに対し、サヤは少し、困ったように逡巡して……。


「……そう、ですね……。

 けれど、一緒に来ていただくなら、ジェイドさんも、しばらく身動き取れなくなりますけど、良いですか?」

「……どういう意味だ?」

「荊縛が私の国の、私が思っている病とは限りませんけど……この手の病が広がる原因に、潜伏期間があります」

「……なんだそれ」

「病に罹っていても、それが表層に現れていない期間です。

 病の人と接触しても、元気で問題無いなら、動き回りますよね? その間に病をばら撒いてしまうんです。

 また、熱が下がり、治ったと思っている時も、実はまだ病が保有されています。こちらも、治ったつもりで動き回り、病をばら撒きます。

 つまり、病であると見た目で分かる期間だけが、病ではありません。むしろ、飛び火が起こってしまいがちなのは、その前後が問題なんです」


 サヤの言葉に息を呑む。

 病の前後に、病が広がる原因がある……。それは、考えてもみなかったことだった。

 確かに飛び火は、病の者の周辺に起こる。けれど、そこに法則性は無く、病の者の周りで、どういうわけが引き起こされる。きっと加護の薄れたものが患うのだろう。そういう認識だった。

 だが、それではどうすれば良いんだ? 見た目で分からないのなら、何をもって判断すれば良い?


「ですから、一度でも病の者と接触したならば、他の人との接触を断ちます。病に罹っていないと判断できるまで、病の者とも、それ以外の方とも、接しない期間を設けるしかありません。

 とはいえ、潜伏期間は病によって様々なので……荊縛が、私の思っている病とは限りませんし……。

 だから、病の方々が全員完治したとしても、十日間程は、隔離した方が良いかなって、思ってます。

 なので、下手をするとひと月くらい、宿舎に閉じこもっておいてもらうことになります」

「え……それって……」

「はい。勿論私もです」


 そう言われ、愕然とした。

 それは、言うなれば病の巣に、サヤをひと月も放り込んでおくということではないか…………。

 荊縛は、強い呪いだ。その中に、サヤを、一人で⁉︎


「私の国の似た病に、インフルエンザがあります。

 高熱と、強い咳。それから、関節や筋肉に痛みが出るのが特徴の病で、潜伏期間……病が体の中に一旦潜り、症状が現れだすまでの期間が、だいたい一日から三日と言われています。

 熱が平温まで下がってからも、四日間は自宅謹慎をしなければならないので……体温計の無いこの国では、平熱の判断もあやふやですから……長めに隔離するしかないと思うんですよね……」

「けど、どちらにしろお前一人で対処するなンて無理だろ。俺一人だとしても、人手はいるンじゃねぇの」

「……でも……」

「つーかよ……お前……自分が危険だってのも、分かって言ってるか?

 荊縛だったら、下手すりゃ、死ぬンだぞ」


 ズグリと、心臓が妙な動きをした。


 死ぬ。


 そうだ……荊縛は、そういった病だ。

 それが蔓延しているかもしれない場に、サヤを向かわせる……。


「重篤化すれば、です。そのリスクが高いのは、幼い子供とご老人。私はまだ、大丈夫な方ですし、極力移らないよう、対処する手段を持ってますから」

「……それを、俺たちに伝えて、お前は引っ込んでりゃいいンじゃねぇのか」

「いけません。ちゃんと見ないと……分からない。

 母に聞いたり、日常を漠然と過ごす中で得ただけの、ただでさえあやふやな知識なんです。だから、思い込みだけで口にしているかもしれません……。

 全く関係ないことを、言っているかも。それを、誰かに委ねてしまうなんて、できません」

「お前、医師でもなンでもねぇだろうが。

 責任持つ必要が、あンのかよ? ねぇだろ? やり方を教えてくれりゃ、それで充分事足りる。後は自分たちでなンとでもするから……」

「いけません! これは、本当に大変な問題なんです!

 万が一でも、アウトブレイクを起こすわけには行かない……。

 また、繰り返してしまったら……そんなことになったら、レイの立場だって悪くなる! せやから、私は行かなあかんの!」


 その言葉に、横っ面を叩かれた。

 そうだ……彼女がこんな風に無理を押し通そうとする時は、いつも、俺のためなんだ。


 サヤの手首を掴んだ。そのままぐいと引っ張って、引き寄せる。


「ちょっと、こっちに来て。

 すまない、二人は少し、待っててくれ」


 その場にジェイドとシザーを残し、俺はサヤを建物の影に引っ張り込んだ。

 俺たちの会話が聞かれない程度の距離を稼ぎ、振り返ると同時に、腕が振り払われる。

 警戒を表情に出して、サヤはじり……と、後方に下がる。俺が、サヤの行おうとしていることに反対なのだと、それが、分かっているから。


「サヤ」


 一歩を踏み出すと、また一歩、彼女は下がった。そして……。


「私は行きます!

 アウトブレイクを起こしてしもたらあかん、そんなことになったら……っ」

「数代前の領主の、二の舞になる……ということか」


 そう問うと、サヤは口を噤んだ。

 先程は失言してしまった……言ってはいけないことを、自ら零してしまったと、ほぞを噛む表情。どうやって誤魔化そうかと、瞳を複雑に揺らして、思考を必死で手繰っている。

 それだけ彼女は焦っているのだろうし、必死だということなのだろう。

 ……それだけことが、重大である……と、いうことなのだ……。


「わ、私の世界の医療は、ここより、ずっと先に進んでいます。

 だから、私程度の知識でも、ちゃんと、お役に立てると……」

「そこを疑ってはいない」

「私が行かなきゃ、駄目なんです!

 行かなきゃ、分からないことが沢山あります。気付けることも、きっと沢山あるから……」

「…………」

「ナジェスタさんや、ユストさんを頼るわけにはいかないでしょう?

 だって、獣人の方にも罹患者がいるって……だから……!」

「……………………」


 必死で言い募るサヤを、壁際まで追い詰めた。

 腕を伸ばすと、びくりと小さく震えて、身を硬くする。

 頬に触れると、首を縮めるみたいにして、俯いた。


「分かってる……」


 サヤの温もりに触れたその手を拳にして、やるせない気持ちを、そのまま壁に叩きつけた。

 大きな音に、ビクリとサヤが跳ねる。


「分かってるけど! それでもサヤをそんな場にやりたくないって思ってしまうんだから、仕方がないじゃないか⁉︎」


 覆いかぶさるみたいにして、感情のまま、言葉をサヤにぶつけてしまう自分の不甲斐無さ……。それにまた、苛立ちが掻き立てられる。

 行かせたくない。

 だけど、今選べる最善が、それなのだということも、分かってるんだ!


「それでもサヤに頼るしかないって、分かってるんだ……」


 悔しさを零して、サヤの肩に、額を乗せた。

 彼女の言う通りだ。

 父上は、弱っている。

 病の種を近付ければ、飛び火してしまう可能性が高い。

 だから、ナジェスタらに頼ることは、できない……。

 それになにより、俺の影が獣人を含む一団であるということを、まだほとんどの者が知らない。

 下手な相手に知られれば、胡桃さんらを村から追い出すどころじゃ済まない事態にだって、なりかねない。

 そんな中で、事態に対処できるとすれば、それはサヤ以外、ありえない。

 分かってるんだ…………。


「……お願いがあります。

 ギルさんに、綿紗の在庫がないか、確認していただけませんか?

 あれば、なんでも良いですから、安価な飾り紐と、針と縫い糸、鋏を一緒に。マスクを作りたいので。

 それから、純度の高いお酒も欲しいです。強いお酒は消毒に使えるので、極力こまめに消毒して、移らないよう、注意しますから……。

 ちゃんと、注意しますから……お願い、レイ」


 サヤがそう言い、俺の背に、腕を回す。ぎゅっと力を入れて、抱きしめてくる。

 サヤのお願いは、俺のためのことばかりだ…………。

 本当なら、俺が言うべき言葉。皆を、守ってくれと、そう、言うべきなのに……。


「立派な領主様に、なるんやろ?

 なら、私はレイに、切り捨てる人を選ぶ領主には、なってほしくない……。

 せやから、今レイが選ばなあかんって思うてる道が、ちゃんと正しい。私もそれを、望んでるんやしな?」


 言い聞かせるみたいに、そんな風に言わせてしまう。なんて不甲斐ない……!

 サヤの背中に腕を回して、力を込めた。

 ただ、行かせたくないと駄々をこねたって、なんの意味も無いんだ……。

 行かせなければならないなら、彼女の安全のためになることを、助けになることを、一つでも多く、積み上げる。


「他には……。

 どんな些細なことでもいいから。他にも、俺にできることを……お願い」

「補水液を大量に作ることになる思うし、塩と砂糖が必要。

 それに着替えとか、取りに戻られへんし……近くに、置いてもらえたら、回収する。

 あと……手紙を書くから。その道具も一色。必要なものや、やって欲しいことも、それで、ちゃんと知らせる……。

 私も消毒して書くけど、レイも、気をつけてな。手紙を触った後は、手洗いや、うがいをしっかりしてくれな、あかん」

「うん……」

「……それから…………し、しばらく顔が、見られへん思うし、ちょっとちゃんと、見ておきたい、かなっ、て……」


 思いがけないお願いに、驚いてしまい頭を上げたら、すぐ横にあるサヤの顔は、見たいと言っておきながら、そっぽを向いていた。

 手拭いで覆われた顔は隠れて見えず、けれど晒された耳やうなじが、ほんのりと赤い。


「……手拭い(これ)はまた後で括り直すから、外すよ?」

「う、うん……」


 手拭いの、上の結び目を外す。

 顔を晒すと、サヤが俺に視線を向けてきて……。


「え、あの……私は……」

「俺だってサヤの顔、ちゃんと見ておきたいんだけど」

「……はぃ……」


 サヤの手拭いも外した。

 首に手拭いをぶら下げた、なんだか滑稽な姿だ。

 俺もそんな、しまらない状態なのだろう。

 無言でサヤを見下ろしていたら、そのうちふっと、彼女は笑って。


「……泣きそうな顔になっとる……」

「仕方ないだろ⁉︎」


 不安を隠せない俺と、それを笑って誤魔化すサヤ。

 その対比に、また胸が苦しくなった。

 本当は、サヤの方こそ、不安でたまらないはずなのに……。


 分かっていないはずがない。

 胡桃らを襲う病が、己の知るものではないかもしれないことや、それが自身に降りかかるかもしれない可能性を。

 未知の病であった場合、彼女はただ、病の中に取り残されるのだ……。

 それに恐怖が無いはずがない。だからこんな、らしくないことまで要求してきた。

 これが、触れ合う最後になる可能性だって、零ではない……。

 そんなことを彼女はきっと、俺以上に、理解して、こうしている……。

 だから、瞳は俺から離れない。ずっと見上げてくる。真剣に、焼き付けるみたいに。

 その彼女の(おとがい)に指を添えて、もう少しだけ上に押し上げた。


「あっ、ここ、外……」

「誰も見てない」


 見てたって止めない。

 壁際に追いやられているサヤは、逃げることもできず、そのまま俺に唇を塞がれた。

結局まだ明日の分書き上がってないっていうね……。

今日夜と明日を使って頑張る。まあ、先週みたいなことにはなるまい。更新は問題なくできると思われます。

……昨日からの進み具合を考えると、ちょっと不穏な空気になるけども……うふ。

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