真の目的
応接室に戻ると、ギルは厳しい顔で長椅子に向かった。
俺とサヤに、向かい側に座るように言う。
「あのな……サヤもだがその前に、レイ……お前、先のことを、どう考えてる」
先……?
そう表現されたことに、警戒を強めた。
「成人したら、お前はカメリアの後見人になるんだよな?
それじゃ残りの一年半、サヤはカメリアとして、メバックで過ごすのか?
順当に考えて、お前はセイバーンを継ぐことになるよな。そうするとサヤは?
お前の成人後も一年半の時間があるとはいえ、立場を持つことになるなら、色々説明しておいてやるべきだろうが。このまま進めば、正妻ってことに、なるんだし……」
突然のギルの言葉に、サヤがビクリと跳ねた。
いきなり降って湧いた正妻という言葉に驚いたのだろう。
だが、そうならないことを理解している俺は、ただただ、ギルの言葉が苦かった。
「やめろよ……。そんな数年先のことを、今ここで決めておく必要ないだろう。
成人したからって、即婚儀だなんて風にも、考えてない」
俺にそんな先は無い。
どうあろうと、残せないものを、残さない道を、進むと決めたから。
だから……俺の先は、考えたって仕方がない……。
サヤと繋がる道は、俺にはもう無いのだ。
そんな俺の心情を知らないギルは、無精髭のある顎をざらりとさすってから、俺をギロリと睨め付け、口を開いた。
「お前はまたそうやって……。そりゃ、サヤの事情としても、焦らせるのは良くないって、俺も分かってるがな。
そうだとしても、数年先のことだとしても、話し合っておくべきだと思うから、口にしてんだぞ。
領主様が救出されたとしたら、当然魔女や、お前の兄貴……あの二人はこのままの立場にいるわけにはいかなくなる。どう考えたって、領地を継ぐのはお前だよ。
領主様だってもう、それほど長く職務を続けていける歳じゃない。五十歳を越えていらっしゃるんだぞ。そうである以上、お前の成人すら待たないかもしれない……猶予なんて、無いかもしれないだろうが」
「そう、なんですか?」
「今確か、五十四歳だよな。本当なら、もう兄貴の方が引き継いでいたっておかしくないんだよ。だから、救出しても直ぐに隠居だって有り得るんだ」
その言葉に、サヤの視線が俺の方を向いた。
「領主様の、奪還が難しい時は、吠狼たちを一旦帰らせるって言ったそうだな?
それは、領主様が重篤な病であったり、怪我であったりで、動かせない場合ってことだな?
じゃあその後は? お前は、どうするつもりだったんだ」
その場合は、もうセイバーン自体を、終わらせる……つもりでいた。
父上が健在であればこその、セイバーンの未来なのだ。
異母様と兄上が失脚したなら、俺は父上の補佐をする。もし俺が継ぐしかないなら、その道も受け入れようと思う。
けれど、二年……全く音沙汰のない父上が、無事であるとは思えなかった。
ジェスルの者で身の周りを固められていようと、父上が健在であるなら、きっと何かしらの手を打とうとなされるはずだ。
父上は、そういう方であるはずだ。それだけの矜持を、持っていらっしゃった。
だから、もう父上が職務を全うできないなら、今が続く未来しかないということになる。
異母様と、兄上の脅威が、ずっとセイバーンを蝕み続けるということ……。俺の大切な友や、配下、そしてサヤが、危険に晒され続けるということ……。
土嚢壁は、無理を通した。
皆が協力してくれて、他家からも指示や支援金を得られたことで、なんとか領地を整える手段にこぎつけた。
けれど、同じ手はそう何度も使えないだろう……。
つまり、立場の弱い俺に、皆を守り続けることは、無理だということなのだ……。
父上が戻るまでと、その望みがあったから、この状況にも耐えてきた。
けれどその望みが絶たれるなら……あの二人がセイバーンを支配する未来は、残せない。
だから…………。
「……その場合は、異母様方の不正や、職務放棄の証拠を集めるつもりだった。
マルに頼めば、ある程度用意はできるだろうし、何より母の撲殺と、父上を監禁した上で、それを偽装していた事実がある。
だから、あの二人がセイバーンを牛耳ることだけは、それで阻止するつもりだったんだ。
その上で、姫様に『セイバーンの今後』の采配を委ねるつもりでいた」
だけど、そんな甘い考えは捨てることにした。
下手をしたら、あの二人は残ってしまう……。伯爵家の圧力が、権力が、そうさせるかもしれない。
だから、絶対にそうならない手段を、選ぶ。
セイバーンの最後は、俺の手で幕を引く……。
「それは、爵位の返上も、視野に入ってるってことだな……」
視線を鋭くしたギルの言葉に、サヤが「え……」と、言葉を零す。
ギルの指摘に、内心ではホッとしつつ、顔は顰めてみせる。
悟られたくなかったと演技しつつ、そのままそれが目的だと、思い込んでくれと願った。
「返上? それは、どういう意味ですか?」
「……領地を、国に返すんだよ。セイバーン領という名は、この国から消える。他の貴族が任じられ、その名の領地になるだろうな」
「…………意味が、分からない、です……。
セイバーンが、なくなってしまったら……拠点村は? 交易路計画は? レイ、は……」
「……国の関わる事業になったんだから、その辺は、次の領主に引き継がれるだろうな……。
レイは……最悪の場合、連座……だな。
まあ、そこまではいかないと思う。こいつは成人前だし、それでも色々と、国には貢献してんだし……姫様も、きっと配慮は、してくれるはずだ」
そこでギルは、また一つ、溜息を吐いた。
そしてぐしゃりと前髪を掴み、不穏な声音で「気にいらねぇ……」と、唸る。
「お前、それ分かってて、この手の話、避けてたな? だからサヤにも、先の話をしないのか?」
「あくまで仮定の話だろ。
父上の奪還が成功するなら、問題にはならないよ」
「違うだろ⁉︎ お前が、それが成功する可能性は低いって、自分で見積もってるってところだろ、俺が問題にしてんのは⁉︎
俺たちに伏せてたってことは、そういうことだよな⁉︎
連座は免れたとしたって、爵位も、役職も、お前が担う役割まで全部、手放すってことだよな⁉︎
それが気にいらねぇって言ってんだよ! だからか、なんか身辺整理まがいのことまでしてやがったのは⁉︎」
「…………ハイン?」
お前、気付いていただけならまだしも、ギルに報告までしてたのか……。
極力ハインには見せないように、サヤやシザーを伴っていたのが逆に勘ぐられたのかもしれない。舌打ちしたい心境でハインを睨むと、すごい形相で睨み返された。
「そちらが勝手にするのですから、こちらもします」
文句なんか受け付けないとばかりに言う。
いやでもそれって、従者としてどうなんだよ……。
「待って! 連座って、なんで⁉︎ レイは、セイバーンにいいひんかった、関わってへんかったやろ⁉︎」
「……二年、この状況に気付きもせずにいたのだからね。内部事情を隠蔽していたと思われても、仕方がないんだ」
「せやけどそれはっ! なんもできひん状況やったから……」
「外から見ればね、俺はセイバーンの者で、第二子なんだ。内情を知らないなんて、通じないんだよ」
領地との繋がりが薄く、国に使える配下の者にまで、俺の立ち位置は見えていなかったのだ。
ならば、外の者からすれば、異母様に与して、隠蔽を図っていたと考える方が自然というものだろう。
「お前、サヤはどうするつもりだったんだ」
そう口にしたギルに、ギクリとした。
サヤの両目が大きく見開かれる。
自分すら、切り捨てられる対象であると、やっと気付いた。そんな顔。
「……姫様には、極力サヤの、望むようにしてやってほしいと、お願いするつもりでいたよ。
大丈夫、きっと大切に、保護してくださる。サヤの知識は彼の方にとっても価値あるものだ。ルオード様にもお願いしておくから、きっと悪いようにはされない。だから安心して。
それからマルに……今一度、情報収集をおねがいしている。……帰り方を、探し直してもらって……もし可能であるなら、故郷に……」
「嫌や‼︎」
撥ねつけるように、サヤの声が跳ね上がった。
瞳が潤んで、泣きそうになっているのは気のせいじゃ、ないんだろう……だけどあえて、視線をそらす。
「もうそれは、しいひんといてて、言うた!」
「……まあ、連座は大袈裟なんだよ。そんな風にはきっとならないから。
でも……連座にならなかったとしてもさ、爵位返上となれば、俺はただの一庶民だよ。サヤを守れない……。
サヤの特殊な知識は、姫様方が黙って放置してくれるようなものじゃないんだ。何より、サヤ自身の身が危険にさらされてしまう。だからね……」
拠点村で開発されていくであろう、新たなもののうち、何割かはサヤの知識になるのだろう。
それを姫様は、きっと理解する。
拠点村の価値が分かれば、これごとサヤを守ってくださると思う。
やりたいようには生きられないかもしれない。だけど、無事で、幸せになってほしい。
「簡単に、言うんやね……」
違う。
絶対に失いたくないから、手放すんだ……。
貴族は、優先すべきものを選び、他を切り捨てる判断をするために、この地位を与えられている。
つまり、俺自身だって、例外じゃない。
皆を守るためなら、俺は切り捨てられたっていい。
あの夢の光景が、瞬間思い出されて、ズキリと胸が痛んだけれど、気付かなかったことにした。
「……あくまで、仮定の、話だよ。
最悪の場合はというだけだ。
準備だけはしておかなきゃ、他に迷惑をかけてしまうだろう?
ただそれだけ、他意はないんだよ。
ギルも、ハインも、サヤを怖がらせないでくれ。そんな大層なことにはならないさ」
ごめん。
だけど、これが一番正しいと、思うんだ。
あの人たちをここに残さないためには、こうするのが一番良い。
十数年にわたってじわじわと染み込んでしまった闇は、きっと根が深い。
だからもう、少々枝を払うくらいでは、駄目なんだ。
元を断つ。それを、俺の最後の仕事にする。そう決めた。
「ほら、もうこの話はお終い。
最悪のことばかり考えたって仕方がないだろ? 今は、前向きでいないと」
どの口が言うんだかなと、自分でも思いながら、俺は話を打ち切った。
◆
物分りよく理解してくれたとは思っていないけれど……。
それ以上の追求は、されなかった。
しばらく何か言いたげだったサヤも、普段通りになってホッとする。
その後、遠慮がちにウーヴェが戻り、結局あの鍛治職人二人ともが、所属を決めたことを教えてくれた。
女性の方がハンネ。男がロブランという名で、ハンネが姉弟子にあたるらしい。
女性の職人は嫌厭されがちで、ロブランと組んで仕事をさせられていたということなのだが、腕は確かであると、ウーヴェは言った。
「細やかな工夫をしてくれますし、繊細な作業も器用にこなします。
女性ならではの視点といいますか。何かを作り上げることよりも、試行錯誤を繰り返し、完成度を上げることに長けています」
ただ、女性であるがゆえに体力は劣るということで、結果、弟弟子のロブランがそれを担っていたのだという。
「レイシール様であれば、性別は問われないだろうと、思いましたので……」
俺を伺うようにしてそう言うから、苦笑しつつ、こだわりはないと伝えておいた。
そこにこだわってたら、サヤを男装させてまで従者にしている俺ってなんなんだって話だ。
「環境にだけは、気を付けてやってほしい。職人が増え、女性であることをとやかく言われるようなら、配慮してやってくれ」
ここでも何かしら、言われることがあると思うけれど、女性であることの前に、何ができるかだ。
まあ、ウーヴェが見つけてきた職人なのだから、彼ならばそこは、きちんと考えてくれると思う。
手押しポンプの一件が片付いて、あの一号基はバート商会に進呈するから、たまに試験使用させてやってくれとお願いしておいた。
先程の話のせいか、ギルは怖い顔のまま、あまり良い反応は返してくれなかったのだけど、夕刻頃起きてきたルーシーは、歓声を上げてサヤに飛びついた。
「叔父様、裏庭にお風呂、作りましょう!」
「………………あぁもう……分かったよ……」
「次の生産が決まったら、本店用にも購入しましょう!
私、家にも欲しいです。お母様がきっと喜ぶわ!」
いや、ちょっと待って……拠点村から外に出すのはまだちょっと、ここは試験的にって前置き付きなんだから。
それに貴族関係で色々あるから、一基だけで勘弁してください。職人が増えて、木栓の性能がもう少し向上したら、また知らせるから……。
と、そんな感じで夕飯の時、日中に調理場を借りたサヤが作った菓子がふるまわれた。
「かっ……可愛い!」
「卵プリン……もしくは、ウフプリン って呼ばれてるんですよ。
今回は、カラメルソースと生クリームを用意しましたから、お好きな分量を加えてください」
確か、生クリームは乳脂を泡立てたやつだよな。前にフルーツサンドというので食べた覚えがある。
カラメルソースというのは初めて聞く。
「カラメルソースは、少し苦いですから、掛けすぎると大変ですよ」
甘い菓子に苦いものを掛けるのか……。不思議なことをするな……。
とはいえ、サヤが用意したものは美味だと理解している皆は、まずはそれぞれを少量試し、一口味わってから、あとは好みの調節を行なった。
ハインはソースが凄く気に入った様子。シザーは乳脂の方が良いらしい。ギルは両方の配分に拘っている。ジェイドは……プリンそのままを堪能する様子だ。
俺は断然、カラメルソースだ。甘いと苦いが程よく合う。びっくりするくらい、美味。
「なんで卵の殻って思ったが……これは、良いかもな……」
「捨てられる器だと思えば、処理はまあ、それなりに手間ですが、使えますね」
卵割り器も使わせてもらったのだが、これも結構面白かった。
卵を安定する台に乗せ、帽子状の方を卵に当てて、棒に貫かれた錘を持ち上げ、手を離すだけ。するとカツンと小さな音がして、卵の上部だけが丸く割れているのだ。
たまに失敗して他まで砕けてしまうこともあったが、概ね成功した。これは面白い。
「温泉卵……半熟の卵を食べたりするのにも使えるんです。
美味しいですよ。とぅるっとしてて。塩やコショウをちょっとだけ振って、匙ですくって食べるんです。故郷では、お醤油でしたけど」
……なんでだろうな……サヤが言うと美味な気がしてならない……。食べたくて仕方がなくなる……。
「明日の朝食はそれだな……」
「畏まりました。料理長に伝えておきます」
ちなみに、ワドたち使用人や料理長にも、卵プリンは振舞われた。本当に沢山、作ったらしい。
特に女性ウケが良かったとのこと。
あえて卵の殻に入れる必要もないんじゃないのかという、男性使用人の一言に、場が震撼したと、後でルーシーが教えてくれた。
可愛いことは正義である。ということが、女性の共通認識だと分かったそうだ……。
◆
「サヤさんのご注文でした品、一つ試作が到着したのですけど……本当にこれで、良かったかしら?」
翌日、今日もカメリアの装いであるサヤのもとに、ルーシーが小箱を持ってやってきたのは、昼手前の頃。
「見せて頂けますか?」
そう言ってサヤが受け取った小箱の中に入っていたのは、随分と長い紐だった。
紐……というより、縄か? いや、その中間といったところだな……。
太さはさほどでもないのだが、紺色に染めてある紐は、随分と長い様子。飾り紐の長さではない……。
サヤはその紐を持ち、グッと、引っ張った。
「うん。良いように思います……。
ありがとうございます。ちょっと、確認してみますね」
そう言って、何故か呼ばれたのはジェイド。
どうやら忍道具の提案である様子なので、ルーシーには申し訳ないが退室いただいた。
「如何ですか?」
「……あぁ……思ったよりだいぶ細いが……強度は案外、しっかりあるな。確かに普段使ってンのより、軽いしかさばらねぇが……。
素材は? これ、麻の手触りじゃねぇンだけど……」
「髪の毛を一緒に編み込んでもらったんです」
サヤの言葉に、少々驚いてしまった。
髪を……編み込んだって?
「私の国では、古来よりよく使われているんですよ。
東本願寺……えっと、私の国の、古い神殿なのですけど、その建立の際にも使われていたそうで、今もその毛綱が残っているんです。
髪の毛って、10本もあれば酒瓶くらい持ち上げてしまえますしね。
お伽話にも、ラプンツェルというお姫様が、長い三つ編みをロープがわりに王子様に垂らしたりしてるんですよ」
とのこと。
「通常の縄より細くても頑丈です。同じ長さなら軽くできますから、忍道具に如何でしょう」
「……採用」
「これ、どんな理由を付けて作ってもらったんだ?」
縄に髪の毛を編み込むだなんて、一種異様な依頼……よく受けてくれたなと思う……。するとサヤは……。
「えっと……さる高貴な方の依頼で、と、……その…………」
あ、詮索しないでくださいの方向か……。
「……とンでもない用途で使われる紐だと思われてそうだな、これ……」
若干嫌そうに、手の中の紐を見るジェイドが印象的でした……。
◆
冬支度のための幾日かをメバックで過ごし、セイバーンに戻ると、程なくして山城の一団が拠点村に到着した。
「な、なんですかここは……」
「水路? なんで村に、こんなに水路が?」
「いや、これ……村の規模じゃない……よな?」
村は随分と形を成してきた。
主筋通りの長屋店舗はほぼ完成したし、主筋通り先にある広場の周りにも、食事処と湯屋に続き、宿が作られ始めている。
ブンカケンの店舗兼、俺たちの館は。門前に「大災厄前文明文化研究所」と書かれた板が張り出されており、一応はもう、運営を開始していた。
とはいえ、まだ本館も完成しきっておらず、使える部屋を無理やり使っている感じだが。
所属職人が作った作品が、どんどんと持ち込まれ、買い取られているので、館というより倉庫としての利用が主だ。
また、洗濯板など、この現場で使えそうなものは試験的に使ってもらったのだが……。
「絹とか繊細なものは無理だと思うけど、あたしら庶民の服はガシガシ洗って平気だからね、これ良いよ」
「私、この小さいのが好きだわぁ……泥はねとか、食べこぼしとか、袖口とか綺麗になると、達成感が違うのよねぇ」
使用感を聞いてみたら、欲しいから売ってほしいとせがまれた……。
洗濯板は大変好評だ。住み込みとなった女性陣は、服を洗う効率が格段に上がったと、とても喜んでいる。ちゃっかり髪留めも購入し、前髪をさりげに飾っていたりもするのだが、髪が邪魔にならず良いらしいので、装飾として使っているわけでもない様子だ。……いや、両方の用途かな。男性陣の視線が熱いし……。
まあそんな現場の人たちを紹介しながら村の中を案内し。
「しばらく、この村の警備を担当してもらえるか」
そう伝えると、ジークらは不思議そうに首を傾げる。
セイバーンの衛兵を何故利用しないのか、それが分からないといった様子。
ただ、半信半疑ながらも了承してくれ、その後、俺がセイバーンとの関わりを極力絶っていた理由も理解してくれた。
「くそっ……ジェスルはどこまでも祟るな……」
ジークがそんな風に悪態を吐く。
俺が今まで、ほぼ孤立していた状態であることは、全く知られていなかったのだという。
「思惑を感じますね……。レイシール様を孤立させることも、計算の内だった?」
アーシュは何かしら思うところがある様子。
とにかく旅続きで大変だったろうと労うと。二年放浪し、潜伏を繰り返したことに比べれば、大したことないという返答。人数が少ないうちは良かったが、多くなるとやはり無理が出てくる。傭兵団という形に落ち着くまで、それなりに大変であったそうだ。
とりあえず彼らには、村の館に併設した宿舎を、当面利用してもらうこととなった。
「それはそうと、エルランド殿より、書簡を預かっております」
彼からの連絡は、かつて所属していた学舎出の傭兵は、ヴィルジールという名であったということ。家名は捨てていたため省略するとある。
取り急ぎ報告だけ、詳しくはまたそちらに伺った時にとされており、本当に急ぎ、まずは名前だけでも知らせようとしてくれたのだろう。
「ヴィルジール…………」
あの人は、ヴィルジール……。
名を噛み締めた。
もう、貴方のような犠牲者を出すのは、ごめんです……。
絶対に、ここを、皆を、セイバーンを守ってみせる。
十二の月に入り、年が明けるのも間近となった頃。
「時が来ましたよ」
と、マルが言った。
拠点村の館のうち、本館がほぼ完成し、その一室でのことだ。
「…………サヤ?」
支度を整えたと言い、ジェイドと一緒に現れたサヤ。
その服装に、唖然とすることになった。




