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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第六章
184/515

情婦

「サヤ坊じゃ、ねえよな。この人は、カメリアさんだな⁉︎ あんた、なんでこの人に、こんな危険なことさせてんだ⁉︎

 男のなりさせて、連れ回して、護衛だの、乱闘だの、散々危険なことにも首突っ込ませてたよな⁉︎」


 バレ……た…………?

 何故…………。


 頭が働かず、呆然とルカを、見つめることしかできなかった。

 そんな俺の態度をどう解釈したのか、ルカが更に、腕に力を込める。


「お貴族様は、なんでもありかよ⁉︎

 女に危険なことさせて、自分は高みの見物か? 巫山戯んなよ……囲うにしたって、そりゃあんまりだろ⁉︎」


 言い返せなかった……。

 事情があるだなんて、言えない……。

 ルカの言うことが正しいと、俺は重々、承知していたから。

 ルカの知らない、危険なことも、沢山させた……今もさせている……そう思うから、言い返せない。


 ルカの腕が、俺を力任せに引き寄せる。

 目前の顔が、歯を食いしばって、俺を睨みつけていた。

 あぁ……これは、殴られるな……。でもそれは、仕方がないことなのだろう。

 好きな相手を、こんな風に扱われているだなんて知れば……俺だって、許せない……。

 そう思ったのだけれど。


「それ以上はやめておけ」


 まるで気配など無かったのに、ディート殿の声は間近にあった。


「レイ殿はとやかく言わぬだろうが、ハインが煩いぞ。

 それに、事情を知らぬ者が、口を挟むものではないしな」


 ゆらりと現れた人影が、ルカの腕を掴む。

 さして力を込めたようには見えなかったが、ルカが小さく呻いたから、とっさに制止をかけた。


「ディート殿」

「分かっている。だが他が来る前に、手は離せ。目溢しもできぬことになる」


 その言葉に、ルカは渋々手を離した。

 しかし、俺を睨む目つきは、揺るがない。


「…………」


 すまない。

 そう謝るべきかと思ったけれど、それも違う気がした。

 とりあえず、座り込んだままのサヤを、助け起こすため、手を伸ばす。


 …………伸ばして、良いのか?


 ルカが言った通り、酷いことを、させることになるのに……。

 そう思うと、腕が動かなかった。

 ただサヤを、見下ろすことしかできず、グラグラと不安定に揺れる気持ちを、持て余す。

 口にできないことは、俺が背負い、受け止めるしかないと、ハインにも言われた。

 けれど……。

 俺は、サヤと離れたくない我儘を、無理やり通しているだけかもしない……。


「レイは、なんも、悪ぅない!」


 深い闇に沈みかけた気持ちを、寸前でその声が、救い上げる。


「ルカさん、騙してたんは、かんにんや。

 せやけど、レイはなんも悪ぅない。全部私が、やりたくてやってる!

 あかんって、言われた……安全なところで、恙なく暮らしてほしいて、危険なことはやめてほしいて、散々言われてる!

 私が出しゃばる度に、ものすごぅ心配させて、かすり傷ひとつで、ものすごぅ悲しませて……。

 せやけど、私は嫌やから、我儘言うて、こうしてる!

 女やったら、なんなん? そんなん、私には関係ない。やれることをやって、レイを守りたいって思うの、何か間違うてる⁉︎

 大切やから、守りたいだけや……。私は、戦える。せやから前に立つ。それの何が、間違うてるって言うん⁉︎」


 座り込んだままだったけど、サヤは強い口調で、そう言った。

 怖かったはずだ。震える腕が、身体を庇うように抱きしめている。

 それでも俺を、守ろうとする。


「ルカと言ったか。

 其方の気持ちは分かる。この国では特に、女は守られて然るべきという風潮が強いからな。

 だがサヤは、異国の者で、武人だ。己をこの国の女の括りには収めたくないらしい。

 この者の強さは俺が保証する。近衛に推挙されてもおかしくないほどの腕だぞ。まあレイ殿は、俺やハインと鍛錬することにすら、蒼白になっているがな。

 だがそれでも……好きにさせてやる度量を、俺は評価するが」


 腕を組んで、口元を綻ばせる。

 ディート殿にも、サヤが女だと知られてしまった様子だけれど、やはりそれに対しては何も無かった。度量が広いのは貴方ですよ……。


「好きな女を好きにさせてやるのも、男の甲斐性ではないか?

 無理やりにでも、安全な場所に閉じ込めておくことだって、出来るのだぞ?

 だがそれは、サヤにとっては羽根をもがれたも同然なのであろうな。彼女は自らの居場所は、自ら決める気性の持ち主だ。公爵家にだって楯突いた。そんな女を、其方はどこぞに、閉じ込めて守れというのか?

 本人の意思を無視してそうするのが、其方の正義か?」

「ディート殿……もう……」


 それくらいで……。

 ルカの気持ちは痛いほど分かるから、そんな風に責めないでやってくれと思う。

 俺だっていまだ、相当な葛藤の中にいるのだ。できることならと、いつも考えている。

 だから、ルカの言葉は、俺の心の声でもあるのだ。

 ルカの視線が、辛かった。けれど、これだけは、伝えておかないといけない。


「……偽りを伝えていたことは……本当にすまない。

 けれど、どうか、伏せていてもらえないか……。俺のもとにいる以上、男である方が、安全なんだ……」

「おい……っ⁉︎」

「分かっているよ! 分かっているけど……堪えてもらえないか。頼む」


 たとえどんなに責められようと、それが今、サヤにとっては最善なんだ。

 それをどうか、分かってくれ。

 あと、少しの間だけだ。セイバーンを離れるまで、どうか……。


 俺にできることは、ルカに頭を下げることだけだった。


 そうこうしている間に、休憩を終えたのか、人のざわめきが聞こえてきだし、俺たちはこの話を続けていられないことを知った。

 いまだ座り込んだままだったサヤに、やっとのことで手を差し出す。サヤは、躊躇なく、その手を掴んだ。

 小刻みに震える手は、力がうまく入らない様子で、反対の手で支えて、サヤを立たせる。


「そんな顔、レイがする必要、ない」


 サヤにそう言われ、口元を無理やり笑みの形にしたけれど、彼女の表情は晴れてくれなかった。

 なんとか場を取り繕ったところで、ウーヴェが俺たちを探していた様子で、こちらに駆けてくる。

 近付くにつれ、何か良からぬ雰囲気を察したのか、表情が曇った。


「レイ様……何か……」

「いや…………」


 どう言ってよいやらと言いよどんでいると。


「なんでもねぇ」


 ルカはそれだけ口にして、ふいと、立ち去ってしまった。

 身体中から怒気を立ち昇らせるようにして、なんでもないは通じないだろうけれど……とりあえず、サヤのことを伏せてくれたことだけは、分かった。

 不安そうにするウーヴェに、一応事情を伝えておくことにする。

 ルカの性格だと、全部隠して仕事をするって、無理だろうしな。


「……ルカに、サヤの性別を、知られてしまったよ……。

 それで、何をさせているんだって、怒られたんだ。

 ウーヴェ、ルカの言い分はもっともだから……それは俺が重々承知しているから。彼は悪くないよ。

 だけど、サヤはまだ、女性であることは伏せなきゃならない。

 ……ルカが、ここの仕事を辛いと思うようだったら……配慮してやってくれ。

 あと、彼の話を、聞いてやってもらえるか……」


 秘密を一人でひた隠しにしておくのは辛いだろうし、それはウーヴェにしても同じことだと思ったから、そう伝えておく。

 ウーヴェは、畏まりましたと言葉少なに言って、ルカを追いかけて走っていった。


「……戻ろうか」


 今日はちょっと、このまま視察を続けられる、雰囲気じゃないしな……。

 きっと俺がここにいたら、ルカの怒りは収まらない……。お互い、落ち着く時間が必要だ。


 帰り支度をしていたガウリィたちに、先に戻ると伝え、俺たちは帰路についた。

 帰りの馬車の中で、サヤは「申し訳ありません」と、俺に言った。


「祝賀会の時……でした。

 ロビンさんが、私をサヤって……おっしゃったあの時…………気付いたって…………。

 全部、私です。私が招いた。私が悪いんです。レイは……なんも、悪ぅ……ないのに…………ごめんなさい……」

「サヤも悪くないよ……。そんな風に、考えなくて良い」


 肩を抱いて、腕をさする。

 震えはだいぶん治ってきたように思うけれど、サヤが思いつめてしまっていないか心配だった。

 サヤが悪いんじゃない……たまたまここで発覚したというだけで、遅かれ早かれ、似たようなことは起こったと思う。

 ルカを怒らせ、傷付けてしまったことは悔やまれるけれど……俺の示せる答えは、あれ以外、無かった。


 セイバーンに戻り、しばらくは通夜のような状態だ。

 サヤは落ち込んでしまっていたし、俺も、気分が塞いでいた。

 だけどとりあえず、執務室に戻って一番初めにしたことは、ディート殿への謝罪。


「サヤの性別を偽っていたこと、申し訳ない……。

 姫様方は、ご存知ですが……その…………色々、事情がありまして……」

「気にするな。姫様が伏せておくことを認めたのだろう? なら俺がとやかく言うことはない。

 いや、無理やり風呂に誘わなくて正解だったな。危ないところだった」


 場の空気を明るくするよう努めてくれているのか、ディート殿がおどけてそんな風に言う。

 そうして、いつも通りの態度でサヤに「茶が欲しい。お願いできるか?」と、言った。

 サヤはコクリと頷いて、調理場へ向かう。

 それを見送ってからディート殿はにこやかに笑いつつ、俺を見た。


「どおりでな……姫様の影が、勤められたわけだ。

 それにしても、俺はてっきり、レイ殿は男色の方かと思っていたぞ。

 サヤに対してあまりに過保護であったし、距離も近いように感じたのでな。

 まあ、友人の好みをとやかく言うつもりはなかったのだが、誤解ならば溶けた方が良い」


 何やら回りくどく言われた。

 聞き捨てならない誤解も含まれていたが、溶けたならとやかくは言うまいと、我慢する。

 そして、最後に一つ咳払いをしてから。


「……で、もう将来は誓ったのか? 耳飾は与えてないように見受けられるが?」


 …………なんでそれを聞く……。


 じっとりとした視線になったのは仕方がないと理解していただきたい。


「……それ、言う必要あることですか……」

「言っておく方が良いぞ? でないと、俺がまた、色々気を使ってしまうかもしれん。

 サヤは情熱的だったな。其方が大切だから守るのだと大見得切っておっただろう? 女の身で、それほどする覚悟は、一つしかあるまい?

 なのにまさか、貴殿が気持ちを伝えてないなどと、初心なことは言わぬよな?」


 満面の笑顔で物騒なことを言わないでくれ……。

 調理場だと、聞こえてしまっているかも、しれないというのに…………。


 とはいっても、これ以上の秘密があることを、ディート殿に言うのは憚られた。

 とりあえずやらないよりはマシかと、隣の応接室に招く。扉をきっちりと閉めてから、ディート殿に向き直り、小声で伝えた。


「俺たちは、そういった関係は結んでいません」

「…………手を付けていないと言うのか? ここに住まわせているのに?」


 大抵のことに驚かない様子のディート殿が、何故かこれに限っては、驚いた顔をする。

 そして剣呑な表情になった。


「まさか……あそこまで言わせておいて、あれだけの態度を取っておいて、その気はないと言うのか?

 それではルカがあんまりだぞ⁉︎」

「違います!」


 くそっ、結局、全部言わなきゃ駄目なのか……。


「……サヤには、魂を捧げています。

 けれど、俺は親族と縁が薄い。父上とも、お会いできない状況です……。

 異母様にサヤのことは、言えません。それはサヤの身を危険に晒すことになりますから。

 それに……サヤ自身の問題もあります……」

「サヤ自身の問題とは?」

「…………無体を、働かれたと、言ったでしょう?

 幼き時に、恐ろしい経験をしているようなんです。だから彼女は、そういったことを求められることが、恐怖に直結します。

 異性に、女性として見られるだけでも怯えるんです……。だから、男装でいる方が……、男と思われていた方が、身の安全にもなるし、彼女も落ち着ける」


 俺の言葉に、ディート殿が渋い顔をする。

 これはだいぶんややこしいぞと気付いた様子だ。

 そして、額に手を当てて、少し思案しつつ……。


「それは……多分ルカに、誤解されているぞ?

 サヤは、レイ殿の情婦だと、そう解釈されていると思う。

 だから、あれ程まで、怒りを露わにしたのではないか?」


 …………え?

 そう指摘され、びっくりしてしまった。

 いや、そんな不誠実なこと、許されるわけないじゃないか……。


「そもそもな。共に暮らしていて、手を出していないとはどういうことだ……」

「サヤも俺も成人前ですよ⁉︎ 将来が保証してやれないのに、そんな不誠実なこと!」

「いや、そうだが……それは理想としてはそうなんだが……だからこそというか………………レイ殿の胆力はここにも発揮されるのか?」


 何やらとても不可解といった様子だ。

 そして真剣な顔で「興味が無いとか、言わないよな?」と、聞いてくる。


「あのですね……それも、言わなきゃならないことですか……」

「もうこの際だから全部吐け。でないと俺の心が休まらん」

「…………無いわけないでしょう……。俺だって色々……頑張ってるんですよ……」


 溜息交じりに伝えると、そりゃそうだと納得の様子。

 分かってるならあえて聞かないでもらいたかった……。


「……サヤは何も言わぬのか? 貴殿はそれで良いと?」

「サヤは、すごく頑張ってくれてますよ。

 故郷では……恐怖故に、好意を寄せる相手と気持ちが通じてすら、拒絶せざるを得なかったそうですから……。

 だけど俺は、随分受け入れてもらえてます。触れることもできますし、なによりこうして、傍にいることを、承知してくれた……」

「そこから⁉︎」


 驚愕されてしまったが、サヤからしたらこれは、相当な覚悟を伴うことだ。

 ただ俺を受け入れるという話ではない。全てを捨てて俺を選ぶということだ。これからの人生全てを犠牲に。

 知らないディート殿からしたら大したことではないように思うのかもしれないが、俺はその覚悟を知っている。

 だから、そんな風に軽く考えてほしくない。

 キッと睨むと、自分の態度がまずかったと気付いたらしい。

 咳払いをして、すまんと、謝罪してきた。ついでにこれからのことについても注意しておくことにする。


「ディート殿も、サヤを女性だと知りました。だから多分、サヤは貴方が怖くなる。

 貴方を間合いに入れなくなります。今まで通りといかずとも、どうか許してやってください。

 それから、鍛錬以外でサヤの間合いに踏み込んだり、急に触れたりすることは控えてください。

 それすら彼女にとって苦痛なんです。彼女の恐怖は、かなり根深い。

 俺は、サヤを追い詰めたくない。焦らせたくないんです。彼女は天涯孤独の身で、更には十七になったばかりだ。そういったことを急がされるような年齢でもない。

 だから……耳飾は、求めません。お互いが成人するまでと、サヤの気持ちが整うまで。そういうことをするつもりは、無いんです」


 きっぱりと言い切ると、ディート殿は天を仰いで大きな溜息を吐く。

 こんな状況に至った事情に、呆れているのだと思う。


「難儀だな……。まあ、俺にはレイ殿の誠実さが嫌という程伝わったが……ルカに説明するわけにもいかぬか。

 サヤの名誉を汚すだろうし……だが言わないでいることも、サヤにとっては不名誉だな……」


 ルカやディート殿が真っ先にそう考えたように、世間もきっと、そう解釈する。

 それは、囲われていた時、母の陰で囁かれていた言葉が、サヤにも降り注ぐということだ。

 聞こえてしまうサヤにとってそれは、地獄以外のなにものでもないだろう…………。

 だけどルカは、なんでもないと言って、立ち去った。彼はきっと、口を閉ざしてくれると思う。


「ルカは、きっと我慢してくれます。サヤが女性であることを伏せてくれるなら、彼女の名誉はまだ、守られる。

 ルカには…………申し訳ないですが……」


 俺たちと共にいたことが、そんな風に見られる……。

 事情もあったし、そうせざるを得なかったのだけど、結局、拠点村に移ったとしても、彼女の性別を明かすなら、そう解釈されることになるということだ。

 それが分かり、俺の気持ちは更に沈んだ。

 耳飾を与えてやれれば、彼女の名誉は守られる。俺が娶ると、世間に示すことができれば、妾だ、囲者だと、蔑まれなくて済む。

 けれど、父上にお会いできない以上、それは無理だし……お会いできたとして……許可をいただけたとしても、関係を進めるというのは……サヤには難しいだろうと思う。

 なにより、彼女は天涯孤独の身の上だ。庇護者がいないからといって、こちらの一存を強要したくない。そんな理由で彼女に無理を、させたくなかった。


「それはともかくな、実際問題として、あと何年だ? サヤの成人まで三年待つのか?

 それは、耐えられるものなのか…………」

「俺だけの問題で済むことならどうとでもします。

 耐えれば済む話なら、耐えますよ」


 そう答えると、ディート殿はまるで首を絞められたような顔をし……。


「……レイ殿の偉大さがよく分かった……」


 しかつめらしい顔をして、頑張れ。と、肩を叩かれた。



 ◆



 ハインが戻ったのは夕方、明日のための食材等も色々買い付けて、食事処に届けてきたらしい。


「来るそうです」


 誰がとかは言わなかったが、まあ分かった。

 サヤの気分転換になれば良いのだけどな……。そう思いつつ、今日起こったことをハインに報告したのだが。


「さもありなん。

 今日でなくとも、近くどこかで起こっていたことでしょう」


 なんでもないことのように、そう言われた。


「うん……そうだな……」


 やはり、サヤの性別は、もう晒さなければならないのかもしれない……。

 例えそれが彼女を苦しめるのだとしても、ひた隠しにしていれば、不意に知られた時、余計に色々詮索されるだろう。


「異母様にももう、知られてしまっている可能性が高いのです。

 なら、こちらから公表して、先手を打つのも一つの手ですよ」

「…………だが、まだ拠点村に移るのは、無理だ……」

「異母様方は出立されたばかりですから、当面安全です。

 戻られたとしても、サヤを一人にせぬよう気をつければ良いだけです」


 どうせ我々は、大体一緒に行動するのですし。と、ハイン。

 不審な物音なりあれば、サヤ自身気付くだろうし、ジェイドたちだって知らせてくれる。


「あちらが何か握ったのだとしても、こちらはそれ以上の隠し手を有してますよ。

 前とは違います。

 そもそも、こちらが異母様方の探りに気付いていることを、異母様は知らない可能性もあります。

 彼の方自身が動くわけがないですから、人を使ったのでしょうし、それが使用人であれば、多少家探しが雑だったのも頷ける。

 そうであれば、先手を打てるのはあちらではなく、こちらです」


 そんな風に言った。


「寝室の準備が整いました」


 話がひと段落した折に、隣室にいたサヤが、戻ってきた。今日は落ち込んだまま、ずっと元気が無い。

 ロビンが切っ掛けだったということが、サヤをずっと苛んでいるようで、視線を落とした姿が痛々しい。

 サヤのことについて俺たちが色々思い悩んでいること自体が、彼女には、俺たちの手を煩わせているように感じるのだと思う。


「サヤ」


 声を掛けると、こちらにやって来る。


「サヤ、もう気にするな。ハインだって気にしてないよ」

「ええ。たいしたことではありません。どうとでも、対処できますし、それで済む話です」

「はい……」


 返事はあったが、視線はこちらを見ない。だから、サヤの手をとって、引き寄せた。

 両手を握って、俯くサヤを見下ろす。


「……サヤ、ロビンは、俺たちにとって何?」


 急にそう聞かれて、戸惑ったのか、視線が泳ぐ。

 答えを導き出せないサヤをしばらく見つめて待ったけれど、返事はないまま。だから、答えを言葉にした。


「ロビンは、メバックで唯一、俺たちの事業に賛同してくれた、職人だ。俺にとっては、大きな希望。その縁は、今回のことがなかったら、きっと俺に繋がっていない。

 サヤが繋げてくれた縁だ。これは、そんなに悪いことかな?」


 そう聞くと、しばらく沈黙した後、ふるふると、首が横に振られた。


「彼は、頑張ると言ってくれたよ。それに俺が、どれだけ救われたか。

 確かにルカのことは、辛いし心配だよ。だけどね、これから先、どうとだってできる。彼との縁だって、切れたわけじゃないんだ」


 そう言うと、サヤの視線が、やっとこちらを向いた。


「私……ご迷惑ばかり、掛けていませんか……。

 私のことで、色々、嘘を重ねて、レイシール様を……」

「それ以上のことをしていただいてますけどね。

 貴女がいなければ、ここは今頃ただの泥沼でしょうし、人死にも出ていたかもしれない。

 異母様方の脅威は、貴女がいてもいなくても同じでしたし……感謝こそすれ、迷惑などと……」


 ハインにしては珍しく、サヤをまともに慰めた。

 一生懸命頑張って言葉を選んだのだと思う。それはサヤにも通じているようで、ハインがそこまで自分に心を砕いてくれていることに、感謝の視線を送った。


「……ありがとう、ございます」

「もうサヤの抜けた生活は、成り立ちません。我々の歯車は噛み合っている。これが、今までの中では最良です。

 ですから、少々の問題も織り込み済みです。分かりましたね?」

「はい……」


 ハインの言葉の方が説得力ある……。

 俺が何を言っても納得してくれなかったのに……。

 ちょっとハインに嫉妬を覚えてしまったのだが、そこに拘るのも大人気ないと、自分を戒めた。

 とりあえず、サヤの様子からして、ディート殿との話は聞かれていないと思う。

 彼女の態度に不信なものは無かったし、これ以上彼女を振り回したくもないから、ホッとした。


「ルカのことは、また今度、拠点村に赴いた時に、様子を見よう。

 何かあればウーヴェが知らせてくれるだろうし、時間が解決することもある」


 この話はそれで締めくくられた。

 とりあえず、今日は色々あったから、ゆっくり休もうとサヤに伝え、俺たちは明日に備えた。

えー、どうも……もう一日更新できそうかもしれん。

明日もう一話更新します。

今週すごいな私……。感想効果抜群。

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