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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第五章
127/515

 リカルド様方と湯屋へ赴き、今日も風呂を利用した。

 本日の同行者は、騎士の方ともうお一人だ。我々が館を離れる間、残る一人を監視しておけないのが残念であったけれど、人手が足りないので仕方がない。

 それなりに恙無く過ごし、戻って来ると、部屋には来客があった。


「おい、残ってた奴、なンで見張ってねぇンだ」


 部屋の長椅子に、草が寛いでいた。

 ハインが腰の剣に手を掛け、臨戦態勢に入ろうとするのを、必死で宥めてやめさせるのに、少々苦労した。

 どこから入ったのだか、痕跡は全くなかったのに……と、首を傾げるしかない。

 気配も殺し、音も立てていなかった様子で、サヤも気付いていなかった。

 こういった風に忍び込まれた時、無防備だな……。ていうか、草が非常に優秀であるのだとは思うが。


「人手が無いから、仕方がなくてね」

「……てめぇ、ふざけてンのか?」


 正直に述べると、少年めいた草の顔が、怒気に歪む。

 どすの利いた声で、そう言われてしまった。なんで草がご立腹なのかが分からない。


「いつまで経っても、使いやしねぇ……何の為に渡したと思ってンだ」

「……何を?」

「犬笛だろ⁉︎ そこの獣に渡したろうがっ」


 ビシッとハインを指差す草。

 犬笛って、なんだ? と、記憶をひっくり返し……ああ。確かに貰ってたな。と、気付いた。

 万が一の時には、吹きならせ……だったか? だが、まだ万が一は起こってないと思うのだけど……。

 それに、ハインを獣呼ばわりするのはやめてもらいたい。


「獣じゃない。……ハインだ」

「チッ、ああそうかぃ。良かったな名前持ち。てめぇは主人に不誠実だが、てめぇの主人は馬鹿なほどに誠実で羨ましいぜ。

 てめぇが俺らをどう思ってようが構わねぇが、使わねぇンなら笛を返せ。

 主人の為に我を殺すことも出来ねぇ、駄犬が」


 草の言動に、ハインの顔がより険悪になり、殺気すら身に纏う。

 その様子に、俺は慌てて二人の間に割って入った。


「やめろって! 草、笛の件は悪かった。

 ただ、万が一の時にと言われていたし、今は使いどきじゃないと思ってたんだよ」


 すっかり忘れていたのだけれど、そう言って誤魔化しておく。

 すると草は、チッと舌打ちをして自身の胸元を弄り、引っ張り出したそれを、俺に投げつけてきた。


「もう良い、てめぇが持ってろ。

 あとな、俺らを忍にするって言ったんだろうが⁉︎ なら仕事を寄越せ!」


 どうやら、笛で呼ばれるのを待ってくれていた様子だ。

 用事がある時はマルを通すのだと思っていた……。俺が直接声を掛けて良いらしい。

 それをわざわざ言いに来てくれたのか?

 しかも、見張りとか、そんな仕事で呼びつけても良いと、言外に言っていた。


「……あ、ああ。ありがとう……」


 お礼を言って笛を握りこむと、なんとか溜飲を下げてくれた様子だ。

 苛々を押さえつける様に、言葉から感情をこそげ落とす。


「てめえらが出てる間に、接触してやがったぞ。

 例の偽装商団。ここから小一時間の場所まで移動して来てやがンだが、その斥候とだ。

 あんたをどうするかって伺いを立ててやがった」


 そんなことを言い出す。

 え? それってまさか……。


「草……わざわざ、見張っててくれたのか?」

「たまたまだ! 報告に来たついでだ……。

 おい、ありゃあ、やばい連中だ。正気じゃねぇ……さっさと狩るぞ。それだけ言いに来た」


 スッと、目を細め、標的を見定めた狼の如く、獰猛な殺気を滾らせる。

 かと思えば、サッと手探りで腰の短剣を確認し、席を立った。懐から頭巾と顔の上半分を隠す為の仮面を取り出し、装着する。今まで意識していなかったが……今日の草は、全身黒尽くめだった。


「運がいい奴だ。俺が空いてるんだからな」


 頭巾の具合を調節しつつ、そう言う。

 嫌な予感しかしない……まさか。


「ちょっと、何してる?」

「てめぇは何も知らねぇことにしろ。まだ会ってもいねぇンだ、あっちも油断して……」

「おい⁉︎ 何不穏なこと言ってる⁉︎ その格好はなんだ、何をしようとしてる⁉︎」

「あぁ? 見りゃ分かンだろうが、この俺様が、自ら仕事してやるって言ってンだよ」


 小柄な身体に、不相応な殺気。

 何を聞いた⁉︎

 草は怒っているように見えた。何やら苛立ち、ハインに八つ当たりしていた様であったのも、わざわざ部屋に待っていたのも、その辺が理由であるのかもしれない。


「落ち着け、どうしたんだ?

 何がやばいのか、言ってくれなきゃ分からない。

 それに、俺と君らとの約定は、不殺が条件だ。草にそんなことはさせない!」

「はぁ? てめぇ頭沸いてンのか⁉︎ だから俺から言ってやったンだろうが。

 てめぇに頼まれちゃいねぇンだよ俺は!」

「尚のこと駄目だろうが!」


 つい声を荒げた。

 そんなことをして欲しくて約定を交わしたのではない。俺は、不殺を貫く覚悟は固めている。そもそも、草には俺の為に手を汚す理由なんて無い筈だった。

 それに俺は、約定の抜け道なんて、知りたくもなかったよ。


「何を聞いた。包み隠さず話せ。草が手を汚す必要は無い。そんな風にしない為に、情報を集めて、対処しようとしてるんだから。

 マルは今引きこもっているから、俺が聞く。さあ、話すんだ」


 有無を言わさず畳み掛けると、酷く戸惑った顔をされた。

 自分が始末して来てやると言っているのに、何故か反対された。こいつは何を考えている? 意味が分からない。と、そんな顔。

 だがこれは、前にも言った筈だ。


「草の命を天秤にかける様な事態ではない。相手は二十人近い、玄人なんだぞ!

 君はそんな軽々しく、自分を差し出すな。金にもならないのに、大損だろうが」

「なっ……ば、馬鹿だろお前⁉︎

 お前の命は、あっちが勝手に天秤に掛けちまってんだぞ⁉︎」


 ああ、やっぱり。そういうことだろうと思った。


「だからなんだ。こちらが同じ盤上に足を乗せなければならないなんて道理は無い。

 心配しなくとも、そう簡単に殺られてやるつもりはないし、こうして情報を得られたからには、対処出来る。

 だから、心配するな。草は、それ以上をする必要はない。もう充分だ。

 さあ、俺の生存率を上げる為にも、得られた情報を、与えてくれ」


 そう言って詰め寄ると、草は「あんた本当馬鹿だよな⁉︎」と喚き、長椅子へヤケクソ気味に腰を下ろした。


「……ありゃ気狂いだ。今の王家にゃ、後継が一人しかいねぇのは、誰でも知ってるこった。

 なのにあいつら、そのたった一人が、最悪死ンじまっても換えがきくらしい。

 とりあえず生かして王都に連れ帰るつもりではあるンだが、生きてさえいりゃ良いってよ。

 ンで、あんたに至っては、口封じが視野内だ。

 リカルドって野郎を、あんたたらし込ンだのか? どんな手管だって盛り上がってっぞ。

 あの猪を、男の色香で傀儡にするなンて手段で来るのは想定外だって、けど、姫様すら籠絡してンだから、とンでもねぇ魔性だって。

 まんまとハマっちまってるから、のめり込み過ぎる前に始末しとけだとよ。

 ンで、帰ったら、似た感じの見目麗しい小姓を確保しろって」


 膝が崩れた。

 なんだそれは……。誰がそんなことしたよ……。腹黒い策謀を巡らせてると思われるなら想定していたが、たらし込むとか……どんな想像力だ⁉︎ こっちこそ想定外だ‼︎


「さもありなん。軍門に下れとか言われてましたしね」

「騎士団だろ⁉︎ そんな目的で人選してたらいざって時どうするんだよ⁉︎」

「さあ? 美しく散るのではないですか?」

「美しいか⁉︎」

「見た目だけなら、忠義に厚い部下ですよ。甚だ役には立ちませんが」


 しらっと答えるハインだが、サヤはなんと反応したら良いやらと言った感じに、表情が抜け落ちてしまっている。

 ぶっ倒れやしないだろうかと心配になった。

 だがそう思ったことで、少々気持ちが落ち着く。


 まあ……後半の内容はとりあえず無視しよう。

 学舎でも、そういった陰口はちらほら聞いたしな。

 まさかここまで身長が伸びても言われるとは思わなかったが……。


 それよりも重要なのは、姫様のことを、生きてさえいりゃ良い……くらいの感覚でいることだ。王家の者をあまりに軽視しすぎている。異常な程だ。

 リカルド様との婚儀だけ、体裁が整えば良いと? それとも、それすらどうでも良いのか?

 なんでそこまで、思い切れる……? 後継が亡くなれば、王家は……フェルドナレンは終わるんだぞ?

 二千年という長い年月の間、守ってきた様々なものが、崩壊するというのに……。


「今夜は下準備だろう。明日以降は知らねぇぞ。

 あのリカルドとかいう猪が当てにならねぇから、強硬手段だって話になってる。

 あいつらの引いてる馬車の一つは、ご大層に格子付きだ」


 ……なんだと?


 草の言に、耳を疑った。

 王家の方を、格子付きの馬車に乗せるつもりなのか⁉︎

 人を……罪を犯してもいない人を、獣みたいに檻に押し込もうとするのか?

 このまま時が経てば、姫様はリカルド様との婚儀を挙げることになる。

 本人の意思なんて関係なしに、その道しか進めなくなる。待っていれば、象徴派の望みはほぼ叶うんじゃないのか? なのになんで? 足掻くことすら、許さないというのか?


 それとも……そもそも、人を、人だと思って、いないのか……。


 象徴派というのは、どこまで、卑しい思考をしているんだ……っ!

 あまりにも腹が立った。そんな、馬鹿らしいこと、許されると思うなよ⁉︎


「……草、その偽装商団の主犯、ヴァーリン家の長老で間違い無かったのか?」

「あ? あぁ、ブリアック様って、呼ばれてた。同名だ。年齢的にも間違いねぇだろ」


 ヴゥーリン家の長老は、ブリアックと言うのか……。

 目標が定まった。このまま、好きにさせてなるものか。

 俺は執務机に移動し、先程考えをまとめる為に書きなぐっていた紙を取り出す。

 はじめから、真っ当な答えなど、求めてはいけなかったのかもしれない。

 王家の方を囚われの身とすることすら辞さない様な連中が、まともな行動を取るわけがなかったのだ。

 考えていた可能性の中で、引っかかりのあった部分。その、王家の方を蔑ろにする、象徴派という存在。

 その存在が派生しているのは公爵家だ。しかもヴァーリン内部に関係者が多い。

 リカルド様は、ことを荒立てたくないとお考えで、十年もの時間を掛け、傀儡派の中に潜り込み、その頭となった。

 そこまで周到に準備をする必要のあることなんて、そうそう、無い。

 つまり、一番、ありそうにないやつから、潰していけば早い。


「草、仕事を頼めるか。

 偽装商団を、見張っておいてくれ。多分、日中には動かない、早朝か、夜半だ。

 こちらの命など頓着していないだろうけれど、人目は気にする様子だから、人の活動時間には動かないだろう。動きがあれば、即、知らせてくれ」

「……分かった。ちょっと笛を貸せ」


 そう言った草が、俺が投げてよこした笛をまた受け取る。

 そうしてから、大窓まで移動し、霧雨の降る夜空に向かい、それを吹いた。

 俺の耳に届く音は、特に無い……。耳の良いサヤにも、聞こえていない様子だったが、ハインは耳を押さえ、顔を歪めた。

 しばらく待つと、またピクリとハインが反応する。何か聞こえたらしい。


「これで良い。返す」


 笛を投げ返された。

 笛で連絡を取ったのか? 器用なことだな。


「草はあの笛の音、聞こえるのか?」

「獣ほどには聞こえねぇよ」


 少なくとも、何かが聞こえてはいるのだな。

 獣人を獣と言うのは気にくわないが、彼には彼の価値観があるのだろう。

 では、次だ。


「ハイン。マルに引き篭りは終了だと伝えてくれ。今すぐここに連れて来てほしい」


 思考回路を全力で働かせ、多分これだろうという結論を導き出す。

 うん……サヤも言っていたのだから、可能性は高い。公爵家内でだって、起こり得る現象だ。


「あれは動かないかもしれませんが……」

「ああ、じゃあ、ヴァーリン家の秘密が絞り込めたと言ってくれ。多分白化だ」

「?」

「そのまま言えば、マルなら何か引っかかるんじゃないかな?」


 これが一番、可能性が高いと思う。

 きっと、ヴァーリンにも産まれたのだ、白い方が。

 そしてそれを、隠して来ている……。

 何故隠すのか、その理由は簡単だ。王家の威信を揺るがしかねない。王家にしか、白い方は生まれて来ていないことに、なっているからだ。

 サヤが教えてくれた、劣性遺伝というもの……あれの性質を考えれば、王家にあの頻度で白い方が生まれるくらい、血が濃くなっているならば、他で生まれない方が、おかしいくらいなのではないか。


 そして……白く生まれた方を傀儡にしようなどと考える奴なら、王家の方が滅びた後、その白い方を後釜に据えるくらいのことは、忌避感なく考えそうだ。

 リカルド様が、ことを穏便におさめたいと思っているのは、そういったことを考える者たちと、相容れない思想の者たちもいるということではないだろうか。そして、そちらの発言権が低かったなら、身を守るために出来ることは、沈黙しかない。そう、反撃の準備が、整うまでは。


「サヤ、後ほど、伺いたいと姫様に言伝をお願いしたい。

 マルと話を詰めてからになるから……一時間後くらいかな」

「畏まりました。お休みの場合は?」

「起きててもらってくれ。緊急事態だからって」


 不敬にも程があるが、それくらい切迫している可能性がある。彼の方は、聞き届けてくださる筈だ。


 二人が部屋を出て行き、さて。と、考える。

 リカルド様……彼の方を、どうにか話し合いの席につけたい。

 その為にはあの部下二人が邪魔だ。

 だが、あの二人をどうにかしてしまうと、森のブリアックらにこちらのことが気付かれてしまう可能性もある……。どうするかな……?

 残っている草に視線をやる。

 彼は、見張りを頼んだ時、そのまま出て行くと思ったのに……わざわざ笛で知らせを出しただけで、残っている。

 まだ何か、俺が頼みたいことがあるなら、動いてくれるということか?


「……なぁ、草。リカルド様についてる者らは、ブリアックとどうやって連絡を取っているのか分かるか?」

「特定の木に、目印を刻ンでンな。

 斥候が巡回して来て、それを確認してる。目印は数種類あるみたいだな、意味までは知らン」


 思っていたより具体的な答えが返って来た。

 ふむ……ここから馬車で一時間ほどの場所に潜伏しているなら、定期連絡の頻度はそう多くないな……。

 印の意味が分かれば相手を出し抜けるが、そう簡単に解読は出来ないかもしれない。


「定時連絡の頻度は?」

「基本となってそうなのは日に二度。朝と、夕。だが、急に時間外に接触していることもある」


 結構しっかり見張ってたんだなぁ……たまたまなんて言ってるのに……。

 なんだか只働きさせてしまっている気がする。情報分は、後でちゃんと支払おうと心に決めた。

 印の意味で時間を調整するのか? それとも……?

 いや、それだけ分かればなんとかなるか……。


「その印、写して来てくれるか。

 並び順も正確に、あと、どれが何個あるか。

 ああ、待って、あともう一つ聞きたいことが……」


 自らの足を向けようとしたのを慌てて呼び止める。


「……なあ、草たちの扱う道具の中に、外傷無しで人を眠らせたりできるものって、ある?」

「ある。なんだ、いるのか?」


 うーん……他に手段があれば良いのだけれど……無かった場合、それに頼ることになるかもしれない。


「数種類ある。今は持ってない、取りに行ってくるから、少し時間がかかるが……」

「あ、じゃあ無理かな……あまり時間に余裕無いし……」

「そこまでじゃねぇ。食事処にある程度の道具が保管してある。そこに行って取って来るだけだ。

 どんなのがいる、数種類あンだがな?」


 そんなことをしてたのか⁉︎

 だけどまあ、どうせマルの差し金なのだろう。この調子なら、アーロンの所にも色々置いてあるんだろうな……。まあ、お陰で今回、助かるのだけども。


「使用方法と、効果を教えてくれ、適切なのを選びたい」


 話し合っているうちに、サヤが戻った。

 姫様は是であるという。

 よし、あとはマルか。

 思っていたより時間が掛かっている様子なのが、少々気になった。


「……遅いな、出て来ないのか?」

「いえ、もういらっしゃいます」


 サヤがそう言い、扉を開くと、程なくしてハインに引っ張られたマルがやって来た。


「一日すら篭らしてもらえないとは思いませんでしたよぅ」

「悪いな、だけど正直、もう時間は無さそうなんだ」


 まだ一日だから、マルの様子にそう大層な変化はない。

 それでも一日食事は抜いている筈で、体調は大丈夫かと確認すると、


「ああ、問題ありません。

 それよりも白化ですって? 裏は……」

「取っていない。だが、可能性は低くないと思うんだ」


 マルが篭ってからの状況を伝え、俺の憶測を述べる。ふんふんと聞いていたマルは、そのうちにまにまと笑い出した。


「まあ、概ね僕の方の推察と合ってますねぇ。

 白化、可能性は高いと思いますよ。

 該当しそうな者は二名います。

 死産だと報告された者が一名、病弱だと言われ、人目に触れずにいる者が一名。

 面白いのが、そのどちらも同一の女性が母親とされているんですけどね、その方も、ヴァーリン家に嫁いでからこっち、全く人目に触れておられぬという、大層変わった方なんですよぅ。

 ついでに、長老の娘にあたる可能性がありますねぇ。彼の方、かつては結構浮名を流してらっしゃって、至る所に恋人がいらっしゃいましたから。

 養子に出されているので、血縁の無い子爵家の者となってますけれどね」


 …………何を、どこまで、調べたんだ……。


 たった一日未満を、片田舎の小部屋で過ごして、なんでそんな話がホイホイ出て来るのか……。

 相変わらずというか、流石というか、マルの情報網は意味不明だ。

 長老の娘にあたる可能性がある……? 公にできない相手との関係……? ううぅぅ、聞きたくない……ていうか、サヤには絶対に聞かせたくない。


「マル、詳しくは、良い。後で個人的に聞くから。

 それより、この状況をどうするかって部分なんだよ。

 あちらはもう我慢の限界らしいんだ」

「ああ、我慢の限界というか……元からまともな方向には考えていらっしゃいませんよ。

 あの長老、病を患っているらしく、自分の目が黒いうちに目的を達成しようって、躍起になってるんだと思うんです。

 ですから、遅かれ早かれ、似たような騒動にはなってたんじゃないですか?」

「……リカルド様は元気で手に負えない的なこと言ってたけど……?」

「病は伏せてますから。薬物で痛みは中和しているそうですし」


 こいつに隠し事って、無理なんだな。

 とりあえずその結論に達した。

 いや、前から知ってるし、再確認しただけか。

 こういう奴だって思わないと、身がもたない……。


「リカルド様が事情を伏せて行動している理由は分かるのか」

「十中八九、ハロルド様の為でしょうね。

 彼の方の母親は、長老の母親と同じ子爵家出身です」


 ここで彼が出てくるのか……。

 その子爵家の名が出れば、ハロルド様にも飛び火しかねない。それを懸念したのか。

 ふむ……なら、ハロルド様に累が及ばないなら、リカルド様との交渉は成立する?


「……ならば、ハロルド様を巻き込まない形であるなら、交渉の席に着いてくれそうかな?」

「……レイ様がそうだと思うなら、そうしてみては如何です?

 僕の、彼の方の認識より、貴方が接して得た感覚の方が、僕は重要だと思うので」


 笑顔でそう言ってくるが、まるで「お手並み拝見」と言われている気がした。

 こんな風に、何事でも探ろうと思えば探り出してしまうマルが、リカルド様の演技は見破っていなかった。

 だから、俺の判断に信用を置いてくれているのだと思う。

 それと同時に、公爵家との交渉に、彼は出て来てくれる気は無い様子だ。

 彼の手腕なら、公爵家のリカルド様が相手であっても、あの手この手で言いくるめてしまいそうなのに、そうしてくれる気は無いらしい。

 まあ、俺の与えた印は未だ身につけていないし、そうなると彼は、ただの一般人だ。貴族のゴタゴタに首は突っ込めないか。


「……分かった。なら、俺が思いつくやり方で交渉するよ。

 とりあえず……姫様を踏まえ、三人で話が出来る場を設けたいから、まずは説得をしてくる」

「ああ、なら、こちらは場の調整をしておきましょう。

 良い方法がありますよ。

 睡眠作用のある毒物なのですけどね? 少量ならちょっと長く眠るだけです」


 マルの視線が草を見る。彼は了解したと頷き、動いた。

 大窓を開け、隙間から露台へ出たと思うと、そのままサッと、飛び降りてしまう。


「すぐ戻ると思いますよ。

 明日それを利用して、時間を作りましょうか」

「今晩はともかく、明日の早朝、相手が動くかもしれない」

「動けませんよ。

 丁度良いので、土建組合の面々と辺りを散策します。

 河川敷作りの視察を兼ねて、ね。削ってた丘、もう随分目減りしてしまいましたし、新しく土嚢に出来る場所を探しておく必要がありますし。良いですよね?」

「あ、ああ……危険が無いのなら、構わないが……」

「了解です。危険のない様にしますね」


 ヘラヘラと笑って安請け合いをするマル。

 まあ……彼がそう言うなら、大丈夫なんだろう。だけど、その前に……。


「俺が姫様のところに行ってる間に、食事を取れ。動いて良いのはそれからだぞ」

「……はぁい」

盛り込もうと思っていたところまで到達せず……っしかもあと二分しか時間がない!

というわけで今回はここまで。次回は怒涛の展開にっ⁉︎とか、言ってならなかったらやだなー。なるだけ頑張ります。


来週も金曜日の更新予定です。

今回も、見て下さってありがとうございます。また来週も見て頂けたら嬉しいです。

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[良い点] 100話弱読んだ感想です。 この作品、書籍化されてないのでしょうか? されてなければ、されていないのが不思議なくらいいい作品です。 書籍化して、できればアニメ化までしてほしい作品です。
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