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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第五章
110/515

すれ違い

 その夜、体調が悪化した。

 夕刻くらいから寒気は感じていたのだ。だがまあ、一日の終わりもあと少しと、軽く考えたのがいけなかった。夜になって、急激に熱が上がって来だした様子だ。

 グラグラと頭が揺れる。横になっているのに、馬車で揺られているかのような、浮遊感。

 しばらくそれに耐え、そのうちにうつらうつらとしていたようだ。妙な息苦しさで意識が覚醒した時には、更に状況が悪化していることを自覚した。

 呼吸が苦しくて、胸から喉にかけて圧迫感がある。やばい。これ駄目なやつだ、吐く。

 夕食を無理して完食したのが裏目に出た。しっかり食べて体力をつければ、熱も退散すると思っていたのに……。


 早めに寝室へ引っ込んだのが功を奏し、このことに気付いているものはまだいない。

 なんとか寝台から這い出して、吐いても支障のない場所に移動しようと思った。とはいえ、どうせ、そのうちサヤにはバレてしまうのだろうなと考えていると、


「レイシール様? 眠れないですか?」


 サヤが部屋を覗きにきて、あっさりと見つかった。ちょっとご立腹顔のサヤが、一旦部屋を出て、盥に水を張って戻って来る。そこに手拭いを放り込んで、濡らしたそれを、俺の額に乗せようとするから、ちょっと待ってと、手で止めた。


「ごめ……今、吐きそ……」

「不浄場まで行ける?」


 無理。正直喋るのももう無理。

 限界。

 ぐらつく身体を折り曲げた俺に、サヤは風のように動き、盥の水を開け放った窓から捨てた。

 それを俺の身体と、寝台の間にねじ込む。

 胃が痙攣し、せり上がってきたものを、俺はもう吐くしかなかった。

 けれど、サヤの機転のお陰で、寝台を汚さずに済んだのは有難い。一通り吐き終えてしまえば、少し身体が楽になった。そこに、湯呑が差し出される。


「口すすぎ。気持ち悪いやろ?」


 言われた通り、湯呑を受け取って口をすすぎ、盥に吐き出す。人心地ついた。


「……ごめん、ありがとう……」

「ううん。けど……もう! しんどいなら早ぅ呼んで! 声上げてくれたら聞こえるのに、ギリギリまで我慢しない!」


 怒られてしまった……。

 だけど、久々に、顔を作っていないサヤが見れた気がする。

 謝っている最中もテキパキと動いて、俺を寝台に寝かし、先程の濡らした手拭いが額に置かれる。

 少し待っておくように言われ、盥を抱えたサヤが部屋を後にした。申し訳ない……吐瀉物の処理までさせてしまうとは。

 そのまま待っていると、盥二つを重ねて片手で持ち、もう片方の手には水差しを持った状態で、サヤが戻って来た。


「経口補水液作って来たし。水やのうて、こっち飲むんやで。熱も、だいぶん高い……汗と嘔吐で、脱水症状になりやすい。それ以上、体調崩したないやろ?」


 そう言いながら、その補水液が湯呑みに注がれ、飲むように促される。

 もたもたする俺に、サヤがしびれを切らして手を差し出した。抱き起こされて、背中を支えた状態で体勢維持。湯呑を手渡される。

 サヤに従い、それを飲み干した。甘みと、ほんの少しのしょっぱさが、妙に美味に感じたから、きっと身体が欲していたのだなと実感する。おかわりをお願いして、次はもっとゆっくり、時間をかけて飲み干した。


 補水液を飲み終えたら、もう一度寝台に寝かされた。そして、濡らし直した手拭いが、また額に置かれる。

 盥の一つはまた水が張られていた。

 もう一つは、嘔吐用だろう。

 寝台横の小机では狭い為、机がすぐ横まで引っ張ってこられ、小机と入れ替えられた。

 そして椅子も引っ張ってこられ、サヤがそこに陣取る。


「……サヤ、あとはもう、大丈夫だから……」

「大丈夫やあらへん。そんな熱いのに、放っておけると思うん?」


 しかめっ面でそう言われてしまった。

 譲る気は皆無だ。まあ、ここまで体調を悪化させた俺が悪い。甘んじて受け入れよう。

 もう一度、謝罪と、感謝を伝えて、目を閉じた。

 目を閉じても、平衡感覚が揺さぶられ、まるでゆりかごの中にいるかのようだ。

 正直しんどいのだけど、なんとなく、くすぐったい。なんか、懐かしいなぁ……。


「なにが?」


 心の中で呟いたつもりだったのに、口に出ていた様だ。何が? うん。何が懐かしいんだろう。俺もよく、分からない。


「なんとなく、懐かしい、気がしただけかな……」


 だんだんふわふわしだした思考の中で、なんとかそう、返事を返す。

 うん。きっとそう、思っただけ。

 だって、俺の記憶の殆どは、このセイバーンに戻ってからのものばかりで、それより幼い頃のことは、もう、殆ど、覚えていないのだ。

 セイバーンでは、俺はずっと、一人だったから……。

 だから、懐かしいと思ったのは、きっと、錯覚。


「せやろか……。レイは、きっと覚えとるんやで?

 人の脳は、結構沢山、覚えとる。ただ、思い出すきっかけがないと、ずっと奥の方にしまわれたままになってしまうから、忘れた気ぃが、してるだけなんや。

 懐かしいって、思うんは、きっと、そんな悪い、思い出やない。レイも、慈しまれた、大切な時間が、ちゃんとあるんや思う」


 ゆらゆらする思考に染み渡る様な、サヤの優しい声。

 優しくて、柔らかい何かが、俺の頬を撫でて、髪を撫でてと、あやす様に動く。

 心地良い。これもなんだか、懐かしい。なんだろう、思い出したいんだけど、もう、眠い。


「おやすみ……」


 最後に、そう言ったサヤの声と、柔らかなものが頬に触れた感触を最後に、俺の意識は途切れた。




 ◆



 まただ。

 今日はなんだかおかしい。

 いつも見る夢がやってこないのだ。


「フェルくん、ダメだよ、飛び火しちゃう。

 それに、お母様に、怒られちゃうでしょう?」


 そんな話し声がしている。

 僕は、その優しい声の元を探すべく、重たい瞼をなんとか押し上げた。


「あっ、ロレッタ、レイが起きた」

「え? あ、本当。レイ、しんどい?」


 好きな声。二つ。

 知ってる。母と、兄の声。

 母は、僕がこの前まで、入っていたお腹のひと。

 兄は、よくわからない。でも僕を、好きでいてくれるひと。

 まだよく見えない目で、声の方を見る。ちょっと遠くなるとぼやんとして、もう分からない。

 それがなんだか不安で、苦しいのも不安で、寂しくて母を呼んだ。


「あついねぇ、しんどいねぇ。おっぱい飲める?」


 抱きかかえられて、ホッとする。あったかくて、やわらかい。

 正直お腹は空いていなかったけれど、母に触れていられるのが嬉しいから、促されるままに胸を口に含んで、おざなりに吸った。


「レイ、大丈夫かな……。氷室の氷、もらってきちゃだめなの?」

「うん……だめなの」

「母上、ずるいよね。レイが苦しいのに、ちょっとくらい氷、分けてくれたっていいのに……」


 ちっちゃくてふくふくの手が、母の胸に吸い付く僕の手を優しく撫でる。


「フェルくん、触っちゃだめだよ。フェルくんまで病になったら、お父様が悲しむよ」

「飛び火した方が、早く治るって言うよ。

 僕はレイより大きくて強いもの。ちょっとくらい大丈夫だよ。

 だけどレイは、こんなにちっちゃいもの……きっとしんどいよね……」


 うん。しんどい。しんどいってよくわからないけど、体が重くて、いつもより動けなくて、なんだか怖い。

 だけど、ふくふくの手が、僕をなでてくれると、ちょっとほっとする。なでられるのは気持ち良いし、うっとりするから好き。


「……ロレッタ。レイは、なんで病になったのかな……」


 兄が、僕の手をにぎにぎとしながら、そんな風に、重たい声音で母に問う。


「レイは、寝て、泣いて、おっぱい飲むしかしてないよ。悪いことは何もしてない。

 なのになんで、病になったのかな……。泣くのがだめなのかな? でも赤ちゃんは、泣くしかできないのに、それをしちゃだめなら、意地悪だよね」


 きゅっと僕の手を握って「母上みたいに、意地悪だ」と、言った。


「神様は、ちょっとのことですぐに罰をお与えになるのに、良いことしても、褒めてくれないよね。

 レイは、良いこといっぱいしてるよ。僕を慰めてくれるんだ。レイを見ているだけで、なんだか心が軽くなるんだよ。笑ってくれたら、もっとたくさん嬉しくなる。

 悪いことより、たくさん良いことしてるよね。なのに、病にするなんて、おかしいよ」

「フェルくん、病はね、悪魔が弱い子につけ込むからなるんだよ。

 神様はちゃんと守ってくださってるの。だから、そんな風に言っちゃだめ」


 母が、兄にそう言って、僕を抱えてた両腕の一つを外した。支えてくれる手が離れて、少し怖くなったけど、我慢する。その手が、兄を撫でるために外されたのだと、知っているから。

 だけど、次に兄の口から溢れた言葉で、母の手は、兄を撫でる前に止まってしまった。


「違うよ。神は、罰をお与えになるんだ。母上が、そう言ってた。

 悪いことをしたら、罰せられて当然だって。

 病になるのは、神の与えたもうた罰だって。レイがすぐ病に犯されるのは、大きな罪を犯しているからだって」


 僕を支える、母の手が震える。


「けどさ、僕はレイが生まれた時から毎日を知ってる。レイは罪なんて犯してない。寝て、泣いて、おっぱい飲んでるだけだもん」


 それまでの重い声音を振り払うように、兄はそう、明るい声で言った。

 母がその言葉に、眉の下がった、少し悲しいみたいな笑みを浮かべる。


「フェルくん……ありがとうね。ずっとレイと、仲良しでいてくれる?」

「うん! 僕、レイ大好きだよ。僕は兄だから、レイを守ってあげる。父上にも、そうお約束したんだ」


 そう言って、また僕の手をにぎにぎとしてくれる。

 うん。僕も好き。兄は、僕をうれしくしてくれる人。


「レイ、早く元気になるんだよ。病になんて負けちゃだめだよ。元気になったら、また遊んであげる」


 そう言って、頬にチュッと、口づけを落としてくれた。

 うん。元気になる。

 元気になったらきっと、兄と母は、笑ってくれると思うから、僕はがんばるよ。



 ◆



 なんか、すごい変な夢を見た……。

 あり得ない……なんだあれ。

 しかもなんか左頬に、やたら生々しい感触が、残っている気がしてならない。


 しばらく呆然と天井を見上げていたのだが、気付いてみると身体のだるさが随分とマシだ。

 額に手をやると、温まった手拭いがのっかっている。ああ、だいぶん調子が戻っている感じだ。

 少し頭を浮かせて、周りを見渡すと、左腰の辺りに黒髪の頭がチラリと見えた。サヤ、寝ているみたいだな。

 きっと、夜中じゅう、額の手拭いを取り替えたり、汗をぬぐったりしてくれていたのだと思う。サヤを起こさない様に、ゆっくりと上体を起こして、身体の節々を確認した。

 まだちょっと、頭は重い。けれどまぁ、ここ数日に比べれば幾分かマシだ。夢も、飛び起きるほどの悪夢ではなかったし……いや、ある意味悪夢か?

 なんか凄く、支離滅裂だった。母がサヤと変わらないくらいにしか見えない年齢って、兄上が子供って、そんな頃の記憶がある筈ない。

 一体、何を思ってあんな夢になった……。正直ほんと、意味が分からない。

 意味は分からないけれど…………なんだろうな、この感じ。

 兄上にも、母にも、縁が薄かった。だけどもしかしたら、生まれた当初くらいは、望まれていたのかもしれない……。


「……ん。ごめんなさい、寝てました。おはようございます」


 俺がもそもそしたから、起こしてしまったようだ。サヤが、目元をこすりながら顔を上げる。


「ごめんはこっちの台詞だ。まだ早いから、部屋に戻ってゆっくり休んで。俺はもう、大丈夫だから」


 空はまだ東雲色だ。朝も早い時間。もう一時間くらいは、寝てても大丈夫。

 しきりに目元をこすっているサヤ。だいぶん疲れている様子だ。


「いいえ。レイシール様は、胃が荒れているご様子ですから、朝食は別に作ります。

 賄いではちょっと重たいんだと思います。あの食事、重労働仕様ですから」


 そう言いながらサヤが、ふらりと立ち上がる。ヨタヨタと、なんだか足元がおぼつかない。そのままガツンと足を椅子にぶつけてしまった。

 よろけたサヤを、とっさに引っ張って寝台の上に引き倒す。机の方に突っ込みそうだったのだ。


「危ない。俺の食事は良いから、まずは休むんだ。

 そんな様子じゃ、俺の体調不良をとやかく言えないぞ」


 俺の膝の上に倒れているサヤにそう言い、頭にぽんと手を置いた。そのまま括られていない髪を、さらりと梳く。

 夢の中の母は、サヤと変わらないくらいだった。あり得ないことだが、もしあの夢が俺の記憶の一部であるなら、あれは俺が生まれて間もない頃となる。……こんな幼さで、母は、俺を、産んだ。


「お願いだ。無理をしないでほしい。

 サヤのお陰で、俺はもうだいぶんマシだから、そんなに無理しなくて良い。

 食事が重いと言うなら、汁物と麵麭だけにしておくし、食べる量も減らす。わざわざ作らなくて良いから、その分寝て」


 子供が、子供を産んだのだ。

 それは、どんな重圧だったろう。それなのに、囲われているとはいえ、父上の庇護下を離れ、俺を守り育てなければならない。たった一人で。

 それが、どれ程に母を苦しめたことだろう。

 笑っていられるわけがない……。恨まずに、過ごすなんで無理だ。母はきっと苦しんだ。苦しくてどうしようもなくて、俺を恨めしく思うようになったんだ。あの日、あの方法を、選ぶまで、追い詰められて……。


「…………レイ? どないしたん?」


 膝の上のサヤが、俺を見上げてそう問うてきた。

 今までフラフラだったのに、大きく目を見開いて。

 そのサヤの手を見る。夢の、母の手を重ねた。俺を抱いたのは、こんな風に、細く、小さな手だったはずだ。


「……うん。ちょっと、変な夢を見てね……思うところがあって……」


 やめようと思った。

 母を恨むのは、もうやめよう。

 事実はなんだって良い。もう、疎まれていたとしても、構わないとすら思った。

 母は苦しんだ。そしてもう死んだんだ。これ以上あの人は、何も得ることができないのだ。


「そんなに、悪い夢じゃなかった。

 だから別に、苦しいわけじゃないんだ……」


 夢の中で優しかった母と兄上。まるで普通の家族のようだった。

 そんな時間があったかもしれないと、そんな風に思うのも、悪くない気がした。

 そう思ったら、勝手に一雫だけ、涙が溢れたのだ。


 十年、会わないうちに、母は儚くなった。

 父上は? もう十二年、お会いしていない。病に伏され、快復されるかも定かではない。

 このまま、ずっと会えないままなのだろうか……。それで、俺は、本当に、納得出来る?

 …………だけど、考えたって、仕方のないことだ。

 俺がどう思おうと、誓約は絶対なのだから。

 一瞬の葛藤を、頭から振り切った。そんなことより、サヤだ。


「……サヤ、休んでおいで。夜番を随分続けているのに、更に徹夜までしてたら、体調を崩すのはサヤだよ」


 俺がうなされる度にサヤも起きるのだ。サヤだって、俺と同じく寝不足だ。

 そう言った俺に、サヤは何故か、傷付いたような顔をした。


「……話して、くれへんの?」


 話す? 俺の、夢の話を?

 あれはちょっと、口にするには恥ずかしいな……。そう思ったら、つい苦笑が溢れた。


「大したことじゃないよ」

「……なぁ、レイ。

 前、レイにカナくんとは似てへんって言うたけど、最近、たまに似てるって思うようになったわ」


 唐突に、怒りを孕んだ声音でそんな風に言われ、戸惑う。

 俺の膝の上から身を離したサヤが、握った拳を震わせながら、俺を睨みつけてくる。


「そういうところや!

 私には、教えてくれへん。適当にはぐらかして、本心は隠す。

 本当は笑ってもいいひんのに、適当な笑顔であしらわんといて! 迷惑なら迷惑って、言うたらええやんか⁉︎」


 急に声を荒げて怒り出したサヤに戸惑う。

 迷惑なんて思ってない。本心を隠していたつもりもなかった。だから戸惑うしかない。声を荒げたサヤも、俺の困惑を見て取ったのか、急に勢いが萎んだ。そして、居た堪れない沈黙が続く。


「……なんでやろ。私があかんのんやねきっと。

 私に原因があるし、同じ様に、なっていくってことやろね……」


 そう言ってから、身を起こした。

 立ち上がって、小声で「寝て来ます」とだけ言って、寝室から逃げるようにして出て行ってしまう。

 それで改めて気付いた。サヤとの、距離の取り方が、分からなくなって来ているのかもしれないと。

 サヤの表情が読み辛くなって、なんとなく顔を合わせる機会が減っていた。

 夜番で毎日顔を合わせるとはいえ、部屋も分けたから、言葉を交わすことも少なくなった。

 サヤが何かを隠すから、俺もつい、身構えてしまっている。……いや、言い訳だな。サヤが隠すからじゃない。サヤがそうするようになった原因は、きっと俺なのだから。


「…………はぁ」


 溜息を吐いて、寝台に倒れ込んだ。

 朝から、サヤと険悪になってしまった。なんかもう、こじれてよじれて、よく分からない。このままどんどん、サヤと距離が開いていくのだろうか。そしてマルが言っていたみたいに、サヤがいつの間にか、俺の前から姿を消す様なことに、なるのだろうか……。


 突っ伏したまま、顔を枕に埋めた。

 サヤに、カナくんに似てると言われ、こんなに傷付くとは思わなかった……。

 俺、どうすれば良かったんだろう……? 夢の話をすれば、サヤは納得したのかな……。

 でもきっと、そんな簡単な話じゃない。夢の話はたまたまで、切っ掛けであっただけなんだろう。


 枕を握りしめて、溜息を噛み殺す。それすらサヤに聞こえるのだろうから。

 そんな時、手に触れた違和感。

 枕をどかしてみた。すると、見覚えのあるものが、何故かそこにある。

 赤に、白の筋が入った丸紐。それが複雑な形に結わえられている。

 こんな不思議な結びをするのはサヤ以外いない。けどそれが、何故ここにあるのかが分からない。

 枕を戻した。結ばれた丸紐は気付かなかったことにする。

 だって、きっとこれも、俺の為。聞くまでもなく、それ以外に思い浮かばないのだ。


 本当は、サヤにこれは何かを、聞きたいと思っていた。

 だけど当面、出来そうにない。

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