●五章-11.挿話:フィールドモンスター討伐戦(中編)
やはり中編になりましたが、もう1話必要な事に気付いたり気付かなかったり
※前回のあらすじ
・ゴーレム倒そうぜ
-fate Free-
「様々な世界に繋がり、技術と知識を集積したクロスロードならば、如何なる怪物が待ち受けようとも討伐できるのは必然だ」
その言葉に相対する者は苦笑を見せる。
「何がおかしい?」
「『いずれ』という言葉を付けるのならば、肯定しよう。しかし常勝を約束されることは無いだろう」
「大襲撃の被害を指しているのか?」
「それもだな。クロスロードに無限のエネルギーも資材も無い。
先の大襲撃規模であればすでにクロスロードは外壁の突破すら許さないだろうというシミュレーション結果を得ているが、二倍になれば途端に怪しくなるし、空を使う怪物の量次第では町への被害が大きく変わる」
それから、と相対者は続ける。
「クロスロードに限った事でなく、あらゆる世界で当然と繰り返された事象だがな……」
-fate Free-
大質量がそこにあった。
一瞬前までは何もない、果てしない荒野が広がるばかりの光景だったはずなのに、見えない境界を一歩跨いだ瞬間、それは視界を埋めるように現れる。
王の前に膝を突く騎士のように、跪いても高さ10mを超える石の人形だ。100メートルを隔てても巨大であるというただ一点で凄まじい圧迫感を与えてくる。大きいという単純な脅威を目の当たりにした探索者達は一様に息を飲み、そしてこれからこれに挑む事への覚悟を問われていた。
「魔術砲撃用意! ロケットランチャー部隊も配置急げ!」
その束縛を拡声器越しに放たれた声が解き放つ。慌てて持ち場へと動き出そうとした探索者たちだったが、決心を認めないとばかりに巨人は動き出す。
ズ と腹の奥に響く音。断続的に、段々とその感覚を縮め、ゴという男に変わりながら石巨人が首を上げ、どれほどの重さがあるかもしれない腰をゆっくりと持ち上げ始めたのだ。
「目標は左右の膝だ! 合わせろ!」
元帥もエリアに踏み込み、声を放ちながらその巨体を目の当たりにする。それでもなお声に怯えも気圧された事もにじませない。腹の底に力を籠め、何もかもを払うかのように声を発する。その意気に背を押された探索者たちは動きを加速させた。
その光景に一つ頷き、彼は一歩後ろに立つ副官役のエルフへと問いを向けた。
「踏み込んだ瞬間、違和感があった。君はどうだ?」
「あのゴーレムの威圧感では?」
「それだけではないと思う。調査班の結果はまだか?」
様々な測定器、マジックアイテムで相手の性質を調べる準備も整えている。それらを担当する班は機材を並べている最中だ。
「速報で3分、一報で5分見てください」
遅いとは言えない。それで相手の特性を知れるならば十分すぎる。
元帥は頷きを見せてゴーレムと、そして攻撃を行うために展開している部隊を俯瞰した。
「……総員、構え!」
停滞は悪手と判断する。あの大質量が本格的に動き始めれば余波だけで吹き飛ばされかねない。立ち上がる前に倒せれば最善だろう。
彼は右手を大きく振り上げる。そしてゴーレムへの宣戦布告を兼ねて振り下ろす。
「撃てぇええええ!!!」
様々な属性魔術が、そして噴射炎で軌道を描きながらミサイルが飛ぶ。
美しくもでたらめな絵が中空に描かれる中、粘度を持つような数秒を固唾を飲んで待つ。その全てが動き始めた巨体に吸い込まれる瞬間を誰もが凝視していた。
そして折り重なる威力の音が響き、破壊力の余りが風となって探索者たちを緩く薙いだ。命中箇所からがあがる土煙が巨体のいくらかを隠す中、その向こうでゴーレムの上半身がぐらりと揺れるのを見て歓声が上がる。だが元帥だけは「分析結果を!」とどこか焦りの滲む声を放っていた。
「そ、それが……アカイバラノヤリが効果範囲外らしく……」
手にした短槍、対象の防御属性を診断できるというマジックアイテムを戸惑いながら確認する管理組合スタッフ。その申し訳なさそうな声に別のマジックアイテムを手にしたスタッフ達も同様の戸惑いを見せていた。
「セイレイノササヤキも、マジョノミツメも効果範囲外……!?」
「壊れているんじゃないだろうな!」
「……いえ、試しに使ってみましたが、近くなら使えました。確かに効果範囲外です!」
100メートルの壁があるこの世界で作られ販売されているこれらの鑑定アイテムは必然として100メートルを有効射程に設定されている。それはゴーレムを中心とした境界線と等しいはずだった。
「……どういうことだ?」
「被害確認。敵、損害軽微! 予想よりもはるかに低い被害値です!
恐らく一部の属性攻撃は無効化されている模様!」
眉根を寄せているうちに別の報告が入るが、初撃の威力、効果が予測よりもはるかに低い事に彼は気づいていた。停滞することなく巨人が起き上がる音が響く世界で、元帥は答えを探しつつも撤退の選択をそっと脳裏に加える。
「……無傷ではないのだな?」
「はい。損傷は確認できます。
……敵の材質は安山岩に近いようですが、小さな剥離が見られます。」
「ミサイルは胴部を照準に。魔術砲撃は引き続き膝を狙い第二射用意!」
逃げるにせよ敵の足を奪っていれば猶予はより大きくなると彼は指示を飛ばす。虫の知らせ、嫌な予感。良い将は言葉では言い表せない多くの情報を無意識に集め、不安要素の大きさを予感として感じる。彼も戦場にあって胸中が独特の疼きをする事があり、その時は例え有利な状況下でも酷いどんでん返しに苦しめられた。エリアに踏み込んでからというもの、小さく感じたそれは次第に大きくなりつつある。
「それから輸送部隊は撤退を前提に準備を開始」
「元帥!?」
管理組合の誰かが驚きの声を上げる。まだ一撃入れただけで何かしら被害が出たわけではない。その判断は余りにも弱腰過ぎると考えるのも仕方の無い事だろう。
だが撤回はしない。これが軍隊であるならば彼はそんな命令を下さなかっただろうが、彼らは傭兵のようなものだ。死ねと命じるような主に雇われる道理がなく、「次」という機会を潰す結果にも繋がる。この戦いだけでなく、クロスロードの関わる将来的な戦い全てのだ。
「第二射、準備良し!」
「撃てぇえええ!!」
再び放たれる力の軌道。しかしそれを他所に彼は視線を周囲に走らせ、不安の現況を探し続ける。
「何か体に異常のある者は居ないか! 何でもいい! 報告しろ!」
唐突な言葉に軌道を目で追っていた周囲の探索者たちが困惑の表情を作った。
その直後に着弾。遅れて響く轟音。彼に注目していた者は盛大に上がる土埃に不意を突かれ身をすくませる。
「……ふ、腹部へのダメージ認められません!」
「物理属性無効……か?」
「『無効』でなければ高い防御力を持っている上で『耐性』を有していることになります」
この世界では2種類の属性で存在を分類されている事が明らかになっている。
1つは地水火風などの象徴属性。魔術師にとっての得意属性やサラマンダーなら火、水生生物なら水といった種族的な得意属性などの事だ。中には『奇』や『蟹』などといったネタのような属性もある。
もう1つは『物理』『魔術』『加護』の3つに区分される原理属性。
端的に言えば『物理』は剣や銃弾などの物理法則を基にした力、『魔術』はこの世界に満ちる不思議パワーを操作して起こす力、そして『加護』は精霊術や式神など、何かの力を借りて行使する力だ。見た目、発生方法が似通った攻撃でも行使者によって違う属性になる理由は目下研究中だが、成長の三法則が常識のように扱われている現在、この属性決定も本人の自覚と他者の感覚との折り合いで決まっているのではないかとされている。
ミサイルは象徴属性を持たない物理属性の攻撃だ。ならば必然としてそれに対する高い防御力を持っていると推測できる。
元帥は拡声器のマイクを握った。
「対象は物理属性への強い耐性を有している可能性が高い。
物理属性の者は支援部隊からエンチャントを受けろ。魔術砲撃は第三射用意!」
「元帥、数名の探索者から出力が規定値まで上がらないと報告が」
「出力?」
見ればロボット然したロボットと、人間サイズのアイアンゴーレムが管理組合員の後ろに立ってこちらを見上げていた。
「この戦域に踏み込んだ時からコアの出力が5割落ちました」
「ワタシの魔法核も類似する状況デス」
「……それは全力を出せないのか? それとも出しているのに利用できないのか?」
二人の探索者は顔を見合わせ、小さくいくつかの言葉を交わす。そして頷き合いロボットの方が元帥を見上げた。
「共に後者です」
「違和感はそれか!
エネルギーの減衰? 違う、俺たちにも影響がある……
おい、エンジンを吹かしてみろ! 回転数はどうだ!」
観測スタッフを乗せている駆動機の運転手に指示を飛ばすと、エンジンが空吹かしされる。何度か繰り返した後、驚きの表情と共に運転手が声を上げた。
「え? あ……あれ? いつもより全然低いです!」
緊張と威圧感に隠された自分の不調を再認識する。恐らくこれは機械だけの事ではない。測定系マジックアイテムも効果範囲が減少していたのだろう。一方で魔術砲撃やロケットランチャーの射程は本来100メートルを大きく超す。故に着弾そのものには影響はなかった。
「第三射撃て! それから各輸送部隊は撤収準備を開始。このままだと逃げる事さえできなくなるぞ!」
「し、しかし!」
「物理属性持ちは急いでエンチャントを受けろ! 射程の届く者は即時攻撃開始!」
慌てて反論しようとする管理組合員を無視して指示を飛ばす。
「このエリア内で力を抑制されている可能性がある。調査できるか!」
「調査結果出ました。元帥の推測通り、弱体化に類する効果が掛かっています!」
観測班の出した同意の回答を聞いた誰もが息を飲む。
「それから威圧の効果も。これらを考慮した観測値から、魔術砲撃のダメージはほぼ減衰なしで被害を与えていると思われます!」
「……厄介な。このまま攻撃を続ければどうなるか、分かるか」
「……膝を砕くまでにおおよそ20分は必要かと」
数多の光がゴーレムへのラインを描く中、彼はゴーレムが完全に立ち上がる前の撤退を最善手と定めた。出直せばそれこそあっさりとあの岩山を砕くことも可能だろう。クロスロードにはそれだけの技術がある。
後退。その指示を発しようとしたその時、決断をあざ笑うかのような叫びが届く。
「報告! 資材置き場のスタッフがゴーレムを見えると……!」
「何!?」
ゴーレムは引き続き立ち上がろうとしているが位置的には変わっていない。一報の資材置き場のスタッフは討伐後に備えて待機している部隊だ。戦闘も終わらないうちにわざわざ近づいてくる理由は無い。物見遊山と能天気な事を言わない限りだが。
「まさか、エリアが広がっているのか?
待て、脱出は試したのか!」
「え? おい、エリアから出て見ろ!
……ダメです。外から中へは入れますが、中からエリアの外に出られないようです。
現在中心から500メートルまでエリアが増大した模様!」
この場所に居るフィールドモンスターがゴーレムと報告した探索者が居る以上、エリアからの逃亡は可能だったはずだ。
そう、最初のうちは。
「切り替わったのは……あのゴーレムが動き始めてか。
性根の悪い……!」
何処までエリアが広がるかは不明だが、周辺に待機していたチームはあらかた飲み込まれただろう。確認して帰ってこられたという事実が、これまで探索者たちが数多く行方不明になっている理由を見誤らせた。調べるために不用意に近付き、不意打ちを受けたと推測していたのだ。
「総員に通達!」
「元帥!?」
この事実を伝えようとする男を副官役が慌てて止めようとする。そんな事をすれば士気が瓦解しかねない。だが彼はそれを押しのけて声を発した。
「フィールドモンスターが有するエリアの性質が変化し、脱出不可能となった。
我々はあれを倒す以外に帰る術を失った!」
数多空を飾っていた光が薄れる。その言葉を呑み込むまでの数瞬。不気味なまでの静けさが生まれ、しかし石巨人の動く音だけが臓腑を揺らす。
そして「どういうことだ!」と叫ぶ者が居た。
確かめるために外苑へ走る者が居た。
それらを咎めることなく彼は続ける。
「観測班の予測では今の攻撃を20分継続することで膝の破壊が可能となる。
しかし20分もあればゴーレムは立ち上がれば確実に被害が増大するだろう。
よって、攻撃の密度を増し、アレが立ち上がる前に移動力を奪う」
彼へと詰め寄ろうとする者が居る。だが、それはほんの少数だった。
故に、理不尽な状況に激高した者は走り出そうとして、しかし周囲が正面を、ゴーレムを見据えている事実に困惑する。
「君たちを生かして帰す最善手だ。
資材部隊も使える物は何でも使え。管理組合から全権は与えられている。
目標は右膝の破壊。攻撃再開!」
応じるように、幾条もの光がより強い力を込めて奔った。
「回復材もケチるな。時間を惜しめ。攻撃手段が無い者は回復材を持って走れ。とにかく手を緩めさせるな!」
なんでだよ、と立ち尽くす者が居た。
その言葉を偶然耳にしたカエル頭のガンナーが高圧ジェット水流を打ち出す銃を手にニヒルに笑う。
「そりゃここがエンデだからだ」
意味が分からない。それはそうだろう。立ち尽くしている者には「エンデ」と呼ばれる事に実感を持たない者がほとんどなのだから。
「これくらいの絶体絶命、経験してきたやつがほとんどだってことだよ。
理解も文句も終わった後にしろ。手を動かせ。死にたいのか?」
ゲゴと喉を鳴らせてカエル男は銃を乱射する。左手で腰の水筒からガマ口に水を流し込んで魔力と能力で圧縮した一撃を膝へと叩き込む。
「なに、元帥殿がなんとかなると言っているんだ。なんとかしようじゃねえか若造」
管理組合員の背を叩くドワーフが居た。彼はそのまま荷台に上がり、とりあえず手に付いた物を呆然とする組合員に投げた。
「地面に並べろ! 使える物を探せ! なんなら即席で投石器をつくったらぁ!」
「よっしゃむしろ物理でも構わんだろ! 慣性の法則を信じろ!」
「信仰を語らないでいただきたい! 科学者なら有効な手段をですなぁ!」
やけっぱちにも聞こえる賑わいが加速する。鉄火場が住処だった者達から熱が広がっていくのを見て元帥は笑みを浮かべる共に謝罪の念を胸に刻んだ。
「勝利はいつでも奪い取る物だ。撃てぇえええええ!!」
そして、熾烈な10分間が始まった。
-fate Free-
相対者は言葉を続ける。
「初見殺しは何時だって最悪だよ。心の準備すら許さない事もあるからね」
さて、なんだかんだ1年やっておりますが
ちょっと迷い中デス。




