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●五章-5.巨大怪物の影

※前回のあらすじ

・アキヒトはまだ生きている判定@出身世界

・生きてることにするか死んだことにするか、選ぶように。

 なお、こっちのスタッフが記憶操作とかで生きてる判定復旧もできるよね。

・あっちの人が来たら案内してやって

-fate アキヒト-




「荒野で確認された謎の巨大怪物、か」


 今日のカグラザカ新聞の見出し記事が唇から漏れる。

クロスロードで刊行されている唯一の新聞。その内容は一部真面目な政治経済の記事はあるものの、大半はゴシップ誌やタウン誌と呼ばれる物の内容に近い。おおよその公的情報はPBを通じて管理組合より広報されるため、そっち方面に力を入れているのだろう。

『情報の入手』が特性というか、ライフワークというかのシノが居るのだからと購読を始めたのだが俺としても街角系の情報に恩恵を受けている。特にニーナが来てから色々とダメ出しをされることもあるので。うん。一番年下なのになぁ。この鳥。


「確認されたのに謎?」


 逸れた思考が引き戻される。

 完全に俺の頭の上を定位置にしたニーナが上から覗き込んでいた。最近肩こりを感じるようになってきたのだが、十中八九こいつのせいだと思う。


「巨大生物の影を見た、って感じらしいな」


 まとめると、クロスロードから南方に50キロメートルあたりの場所で、身の丈20メートル以上の巨大な何かが目撃された。

 この地点ではかつてより探索者が行方不明になっていて、今回目撃したのもその地点の調査に向かった探索者だそうだ。すぐに逃走したため戻る事が出来たが行方不明者はその巨大怪物に殺されたのではないかという推測が書かれている。


「怪物って扉を壊しに来るんじゃないの?」

「聞かれても知らん」


 怪物は扉を壊しにやってくる。先日南砦に言った時にも確認した事柄だが、記事の通りならばその怪物は例に漏れてその場所に留まっているという事になる。これが怪物なら状況証拠でしかないその説が覆されるのかもしれないとも書いていた。

 さて、今回の一件が大きく取り上げられている理由として、未探索地域の確認方法が改められることが挙げられる。これまで未探索地域の調査というのは主に目視で行われていた。『探索者Aさんの居る場所から周囲見渡せる限り何もなし』なら見渡した範囲を探索済みとしていたのだ。しかし探索済み範囲が周囲百キロにまで広がり、その内側で探索者が壊滅する事態が少なくなってきた昨今、その半ば程度である当該地点を通過中であったと推測されるパーティが異様に多いことが浮き彫りになったのだ。

 ここで出てくるのが100メートルの壁。「もしかしたら100メートル以内に踏み込まないと分からない事があるのではないか」と調査済み範囲を通過位置から100メートルと縮小したところ、問題の地点にぽっかりと穴があることが判明。調査隊を派遣するに至った。


「管理組合で大規模な調査をする予定があるとか書いているし、じきにわかるんじゃないか?」

「大規模だと輸送とかで行くことになるんじゃない?」

「ヴェルメじゃ運べる量が少ないから、俺たちの担当にはならないと思うぞ」


 未だクロスロードで見ることの少ない車などの駆動機だが、あるところには当然あるし、ガソリン車だけでなく魔法的な何かで動く車両を管理組合は結構な数揃えている。運送のプロであるエンジェルウィングスはそれに匹敵する運搬力を有しており、そんな状況でバイクのヴェルメを大規模遠征の物資輸送のために持ち出す意味がない。


「量より速度とか。伝令役にすると思うけど?」

「それならヴェルメよりも速く走れる人が居るだろ?」

「ヴェルメほど安全な伝令は居ないと思うけど?」


 すぐに反論が浮かばずに唇を結ぶ。

 勿論探せば居るのだろうが、そういった面々はおおよそ戦闘能力が高く今回のケースからすれば伝令で使うのは勿体ないと言われる人たちだろう。運ぶしかできないが、その防御力はクロスロードの基準からしても高い方らしいヴェルメはニーナの言う通り『安全で確実性の高い伝令』であることは間違いない。


「俺が運転手じゃなければな」

「へたれ?」

「ヘタレですよ。命は大事に」


 非難するようにてしてしと地団太を踏むように頭を蹴るので手で追っ払う。


「お前は巨大怪物見たいだけだろうが」

「うん。シノも見たいよね?」

「……興味はありますが、安全であることは重視すべきです」


 こちらに気を使ったであろう文言を受けてニーナが降り立ったテーブルの上からこちらじっとこちらを見あげる。


「プロの探索者がいくつも壊滅しているようなところに借り物かつ貴重品のヴェルメを持ち出す事なんてできないし、自分の身も守れない俺たちがそんなところに顔を出したら迷惑以外の何物でもないだろうが」

「正論でぶん殴るの良くない」

「正論って思うなら素直に聞けよ」


 非難のつもりか、バサバサとやるので薄い新聞が風に音をかき鳴らす。鷹くらいのサイズがあるのだから普通に迷惑だ。


「上手くいけば映像記録とかで見られるだろうし、上手くいかなきゃこっちはどうしようもない。そもそも野次馬がウロウロして良い話じゃないだろ?」

「つまりアッキーが強くなれば問題ないね!」

「どうしてそうなるんだ?」


 間違ってはないが、俺が強くなれるという点で大間違いである。いや、自信満々に言う事じゃないけど。


「大丈夫。三分でお手軽に改造できるから!」

「なんで改造好きなんだよ、お前らは」


 アルカさんといい、地下の人といい、どこかの悪の秘密結社並みの気軽さで人を改造したがるのはどういうことなのかと。そういうのはダイアクトーとかの領分だろうに。


「ロマンだから?」

「何に影響されたよ! ロマンって言葉が出る時点でなんか察しが付くけど!」

「魔法の無い科学世界なのに発想力がおかしいってみんな褒めてた」

「正しく褒められてないな。間違いなく」

「でも、アッキーの世界には魔法はあるし、扉以外でも世界間移動ができるんだから地球世界でも魔法の影響ゼロって方がレアなのかも?

 神種だって当然居るんだろうし」


 確かに『科学世界』と言われていても神種と魂と世界の原理からすればしっかりファンタジーなのかもしれない。いや、現実ならファンタジーではないか。ややこしい。


「だいたい、俺でも強くなれるような改造なら、強い人間に施した方がよっぽどいい結果が得られるんじゃないか?」

「それはそれ、これはこれ。ロマンロマン」

「ロマンで全て片付けるな」

「じゃあ、一人の超人を超超人にするより千人の一般人を達人にする技術の方が有用」

「いきなり生臭くなったな……」

「それに強い人は勝手に強いし、現状を最適化することで成立しているから、手を入れると逆に弱くなるのが常だよ」

「そういうものなのか?」

「そういうものだよ。だからアッキーが不具合起こしているんでしょ?」


 余計な事を言う鳥の首を掴んでぶんぶんと振る。いつもなら避けるのに素直に捕まったのは失言と認めての事だろう。


「不自由はしてないし、俺は非戦闘員の一般人だよ。餅は餅屋に任せる」

「ソダネー」


 苦しくなったか羽ばたいて逃げ出すニーナを見送りながら脇目にシノを伺うとばっちり目が合った。

 いつも通りの、ガラスのような綺麗な目。しかし眉尻は少しだけ下がり、口の端にも苦笑のような物が浮かんでいた。


「……えと」

「はい。大丈夫です」

「お、おう」


 あれ? 俺の気の回しすぎがシノさんの負担になっているってこと、無いですかね?

 ふと沸き上がった疑惑に胸を抉られつつも、仕事に行く時間になったことをこれ幸いと新聞を畳み、俺は家を出るための支度に逃げるのだった。

最近ちょっと絵を描くようになってきました。

うん。そしてふがいなさに血反吐を吐くんだ。

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