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●四章-7.事のあらまし

事件の脇から一般人が見てる。

そんな感じにするのは非常に難しいです。ホント、難しいです。(吐血


※前回のあらすじ

・なんか勇者が家の近くに倒れてるんですけおd

・センタ君に回収してもらうわ

・センタ君女騎士に襲われてるよ!?

-fate アキヒト-




「やー、すごかったよ」


 翌日、エンジェルウィングスの事務所。俺とシノが配達順の組み立て作業を行っている横で空いた椅子の背もたれに留まったニーナが羽をバサバサやりながら楽し気に昨日の出来事を語っている。

 結局ニーナが帰ってきたのは夜九時頃だ。そのせいで夕食に出られず食べ損ねる羽目になってしまった。やはりインスタントでも良いから家に何か用意しておこうと決めた次第。

 そんな思いも露知らず、鸚鵡のようにベラベラと語られる話を整理すれば、勇者を攫った女騎士はニュートラルロードを走っているところでセンタ君破壊による緊急の賞金が懸けられ、居合わせた賞金稼ぎに囲まれ捕まったということだ。連れ去られた勇者と違い、それなりに善戦したらしい。

 本来賞金は掛けられた後に数日の猶予期間があるのだが、現在進行形で問題を起こしている人に対し緊急指定の賞金が懸けられることがある。これの場合捕縛が推奨され、生きていれば報奨額が増える仕組みになっていた。とりあえず止めて理由を確認しようという事らしい。

 主にニュートラルロードでの破壊活動や、特区での違法行為、浄水場やエンジェルウィングスといった公共性の高い施設や業務への妨害が対象となる。祭りの妨害に入った人達に対する賞金もこれが適用されていたのだそうだ。

 なお、うっかり殺しても特に罪に問われることは無い。もちろんその事に誰かが賞金を懸けない限りだが。


「その後どうなったんだろう?」


 浮かんだ疑問を口にしつつ郵便物のあて名を確認。PBさんのフォローを受けつつ広げた郵便物の間に差し込んだ。テーブルを挟んだ向こうでは滞ることない動きで作業するシノの姿がある。流石記録の使徒と言うべきか、地図もPBさんにも頼る必要が無いので早い。配達中はただ座っているだけという事を負い目にしていた事もあり、この作業には意欲的だ。俺の作業の遅さもあって八割近くをシノ一人で処理してしまっている。


「この件ですかね」


 横合いからトミナカさんが差し出した新聞。そこにはニュートラルロードで大立ち回りをしている写真が掲載されていた。


「ああ、この人ですね」


 先日見た女騎士が勇者を担いだまま賞金稼ぎであろう男と剣を打ち合わせた写真。意識の無い勇者が妙に滑稽だ。

 新聞を受け取って目を通す。ニーナの言う通り最後は賞金稼ぎに捕まり、管理組合が回収したとなっている。


「魔王討伐の武具を回収することが目的ってことか?」

「そのようですね」


 どうやって調べたのか不思議なくらい記事には詳細がまとめられている。

 彼は魔王討伐後に偶然扉に遭遇しターミナルにやってきた。しかし次の魔王に対抗するためには彼の持つ装備と力の回収が必須のため、女騎士が追ってきた。眉をひそめたのは『力』を回収するために彼を殺す必要があるという点だ。わざわざ抱えて連れ帰ろうとしたのはそのための儀式場があるのだそうだ。


「……なんだかなぁ」

「真っ黒だねぇ」


 頭に留まったニーナも記事を読んで「むーん」と唸っている。ふと視線を上げれば少しそわそわした感じのシノがこちらを見ていたので新聞を渡すと嬉しそうに目を細めて受け取る。なお既に作業は終了している模様。俺の出る幕無いな。

 俺は自分の手元に残った郵便物を再び手にしながら締めくくりの一文を思い出す。


『ターミナルにより異世界間の神種が交流を行うようになり発覚した誘拐について、また一つ闇が露になった事件と言える。召喚された男性に死を強制される最期が伝えられていない事が明らかになっており、管理組合は神種のコミュニティと対応を協議する見通しだ』


「あの騎士さんも世界のために行動しただけで罪悪感とか無いんだろうな」

「無いんじゃない?

 ますたぁだって神様に死ねって言われたから受け入れるつもりだったって言ってたし」


 『天の神様の言う通り』というフレーズを思い出す。

 神の意志の通り、世界を救うために勇者召喚し、魔王を討伐する。そして次の魔王に対抗するために勇者を殺して回収する。彼女からすればその世界と世界に住む多くの命のための正当な行為なのだろう。


「悪いのはその仕組みを作った神種って事になるのか?」

「どうでしょうねぇ。その神種が望んで魔王を生み出しているならそうかもしれませんが、自分の世界で対処不可能な魔王ならば成長のための出来レースとは違うでしょうから」


 流石の速度で読み終わったシノから新聞を返してもらいつつ、トミナカさんは、難しい顔をする。うっかりやりすぎて世界を滅ぼした神種も居るので断定はできないらしい。


「彼、どうなるんでしょうかね」

「わかりません。入市禁止処分としても彼自身の世界が不明ですからね」


 管理組合に捕縛された後の最大級の刑は入市禁止処分だ。望むならば罰金分を労働で返済する処置もあるが、更生の余地が無い相手には呪いなどの様々な手段で扉を潜らないようにして元の世界に送り返す。死刑にした方が手っ取り早いという意見もあるようだが、現状罰金か追放かの二択としている。


「あの勇者君って今は賞金ってなくない?」

「……ああ、そう言えばそうだ」

「それなら彼の自由となりますね」


 二度目について彼は被害者枠だ。記事の内容を知ったのならば、自分を殺そうとしている世界に戻ろうとはしないだろう。こちらとしてはストーカー疑惑の彼が町に残るというのは少し怖い。


「世界の存亡が掛かった話なら、諦めるとは思えませんし、どこか第三の世界に逃げるのではないでしょうか」


 今回は賞金のかかるような真似をしたから大ごとになったが、女騎士が勇者を連れ去っただけなら何一つ騒ぎになることなく終わった話である。この街に居るのなら今度は町のルールを加味した襲撃を行うだろう。彼の実力を俺が語るのもアレだが、とても対処できるとは思えない。


「まだ片付いたとは言えない状況ですから、一応気を付けてくださいね」

「ヴェルメに感謝です」

「うわ、丸投げだしー」

「分を弁えているだけです」


 身の安全に関わる事だ。虚勢を張っても良いことは無い。慢心ダメ絶対。

 しっしと頭の上の鳥を追い払い、いつの間にか完了していた郵便物の束を受け取って俺は本日の配達に向かうべく集配箱へと向かうのだった。

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