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●序章-8.言語の加護

小説を書くのは随分久々なのですが、やっぱり難しいなと思います。

私、余計な事書き過ぎやねん……


※前回のあらすじ

 これはハロウィンパーティですか?

 いいえ、異世界です。

-fate アキヒト-



 異世界の車窓から。

 今日は見知らぬ街よりお送りしております。


 それはさておき。

 窓の外を通り過ぎていく商店はどれもこれも同じ造りの建物で、それに店舗ごとのアレンジを加えているようだった。

 花屋、洋服屋、雑貨屋

 色とりどりの看板を眺めながら、俺は隣の少女に声を掛ける。


「なぁ、シノ」

「はい?」


 今さらだと思う。

 どうして今まで気づかなかったのか。気付いてしまえばこれほどおかしなことは無いと言うのに。


「なんで、俺たちの会話、通じているんだ?」


 窓の外、同じ感覚で並ぶ商店の、売り物を示す看板が流れていく。

 その大半が、どう見ても日本語なのだ。

 見知らぬ文字の看板もある。だが、これらについても見た瞬間に何故か意味が分かった。漫画の設定なんかじゃ良くあるが、実際に起きると違和感が凄い。


「今から向かう塔がありますね?」


 俺の問いかけにシノは進行方向を見た。


「ああ」

「扉の塔は地球世界の神話にあやかった別名があるそうです」


 シノの顔を見る。医院でのおどおどした感覚は薄れ、人形のような、澄んだ表情で言葉を紡いでいく。

 ピンク色の唇がゆっくりと動き、小さくも良く通る声が車内に広がる。


「バブ=イルの塔。

 扉を通り、この世界に来た者には『言語の加護』が与えられ、あらゆる意味のある文字、言葉を理解し、コミュニケーションが可能になります」


 バブ=イル……バベルの塔。かつて一つの言語を使い、協調していた人々が神の世界まで届く塔を協力して建てようとし、それに怒った神は塔を崩し、協力できないように言語を分けた。そんなお話だったか。


「不思議パワーの一つ、か。

 でも、今、シノが喋っているのも日本語だよな?」

「日本語?」


 シノが不思議そうに問い返す。


「この言語は日本語と言うのですか?」

「知らずに話しているのか?」

「はい。もしかして……アキヒトの母国語なのですか?」

「……そのはず」


 自分としては日本語を使っている感覚しかないし、シノの言葉も日本語にしか聞こえない。だが、その言語の加護とやらでそう感じているだけなのかもしれない。


『この言葉は分かりますか?』


 不意のシノの問いかけは先ほどまでとは異なり、聞き覚えの無い音だった。しかし頭は意味のある言葉として受け入れる。


「それが……シノの故郷の言葉?」

「故郷の、というわけではありませんが。私の世界で使われている言葉の一つです」


 含みのある言い方だが、さっきも見た、どこか後ろめたそうな様子に追及は避けることにする。俺的には英語とか中国語も俺の世界の言葉のような意味だろうし。


「言語の加護の一つに今使っている言語、……日本語、ですか。

 これの言語理解能力が付与されるという効果があるそうです。

 それに伴い、この町ではこの言語が公用語として使われているそうです」

「……いや、それにしたって」


 なんで日本語?

 言葉が分かるようになる。多種多様な異世界人が共存できている理由の一つなのだろう。

 そこまでは分かる。でもどうしてここで日本語が出てくるのかさっぱりわからない。


「ここ、実は日本だってオチ、無いよな?」

「日本という場所は知りませんが、アキヒトが扉から出てきたところは目撃しました。

 したがって、アキヒトがこの世界の住人で、あの扉がこの世界の別の場所に繋がっていない限り、アキヒトの故郷ではないと思います」


 落ち着いたシノは随分と理知的だ。そういえば病院を出る辺りからこんな感じだっだような気もする。もしかして入れ替わって……いたら俺はもう死んでいるはずだ。

 馬鹿な想像はさておき……

 扉の塔のような超巨大建築部なんて聞いたことが無い。今や世界中の航空写真が携帯から見る事ができるのだ。あれば話題にならないはずがない。

 つまり俺の世界ではない。

 では何故日本語が公用語になるようなことになっているのか。


「うん。わからない」

「何がですか?」


 俺の唐突な言葉にシノの表情が困惑に崩れる。


「どうして日本語なのか。でもヒントも何も無いし……」

「確かに、違う世界で自分の母国語が使用されていると不思議に思います」

「この数時間で山ほど不思議にぶち当たって何一つ理解できてない俺に解ける謎じゃない」


 死にかけたまま異世界に飛ばされ、一日で復帰し、路面電車に揺られている。

 意味が解らない。夢にしたって支離滅裂だ。


「だから、分かりそうな人が居たら聞くことにするさ」

「……そうですか」


 不思議の一つ、恩人シノは、どう答えたものかと困った顔で俺を見ている。

 感情が浮かぶと途端に幼く見えるよな、この子。

 疑問を放り投げてそんなことを思いつつ、前方の窓へと視線を投げれば、一面が灰色の壁で埋め尽くされていた。


「扉の園前です。入市管理所へお越しの方はこちらでお降りください」


 ボールの丁寧なアナウンスと減速。完全に止まるのを待って立ち上がると、シノもそれに追従する。

 ドワーフのおっちゃんは沈黙したままだ。ここで降りるのは俺たちだけらしい。


「さて、今日はあと何回驚けばいいかな……」


 正直頭は良い方ではないので、明日知恵熱で寝込まないためにも、そろそろ優しくしていただきたいところなのだが。

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