●三章-12.身近のファンタジー
これにて三章おわりです。
※前回のあらすじ
・何とか収束しました。
・なんで俺の世界で見た覚えのある『人形さん』が動いてるんだ?
-fate アキヒト-
「なるほどのぅ」
コトリと茶碗をテーブルに置きつつ少女はこちらを見据えた。
ちなみに紅茶でなく緑茶、特に注文を取ることなく出されたもので俺にはコーヒー、シノにはフルーツ系の紅茶といつも注文している物が出されたところを見ると、彼女の好みなのだろう。
……いや、別に俺はコーヒーフリークでもなんでもないですけどね。そもそも銘柄知らないし。
「そういうわけで、アイツがどこの大学に行ったかも実はよく知らないんですよ。
高校卒業までは普通に居たことは分かってますけど」
「普通に、か?
ふむ。レイファは知っておるな?」
「……ええ、まぁ」
知らないわけがない。むしろあの町で彼女を知らない人間がどれほどいるか。
何しろ田舎との境界線ギリギリの町に突如建てられたメイドと執事まで備わった場違い甚だしい洋風建築物の主。その上ブロンドの超美人なのだからどこの大企業のお嬢様だと興味が無くても話題が耳に飛び込んでくるほどだ。
「アレが英国に引っ張っていったのではないのかえ?」
「……知り合いに聞けばわかるかもしれないですけど、なんでまたイギリスに?」
「レイファの地元じゃからな」
彼女が地元に戻る分には別におかしい話ではない。あんな建築物まで建てて?と思わないでもないけど。しかし立花を連れて行くのを当然のように言われると首を傾げてしまう。
「わしが居なくなれば戻るのも道理。ユウヤを弟子としておったから連れ帰ったのかと思ったのじゃが」
「……弟子?」
小学生の頃は幽霊屋敷の噂で割を食っていた立花だが、中高生になると特に話題にも上がらない、あまり目に付く事はしない脇役に徹していた。
そんな奴に急に注目が集まったのは突然現れた美少女がノータイムで立花と親しくなった事からだ。しかも当初、立花は彼女を避けるように立ちまわっていたから様々な憶測が学校中を、下手をすれば町中を駆け巡ることになった。
傍から見れば立花が言い寄られて押し切られたようにしか見えない光景に多くの男子生徒が殺意を抱いたものだけど……弟子ってどういうことだ?
「ああ、そういえばあの世界では魔術は一般的に存在していない扱いであったか。
そもレイファはわしがあの世界に渡った時の反応を追ってあの町に来た魔術師じゃよ。
『虚空』系統の結社の跡継ぎとか言うておったか」
自分自身こんな世界に足を踏み入れた今、彼女の言葉を疑う気は起きなかった。何よりもアイツが当初レイファさんを避けていた理由を納得できた。目の前の少女を匿う立場であるのならば、アイツはその義理を優先するだろう。真面目と言うより律義なイメージがある。
「なるほど、って言って良いかわからないですけど……弟子になったって、立花も魔術師なんですか?」
「あやつの祖父がそうじゃったようじゃの。
わしとレイファが手ほどきしたし、才能もあった。今ではそこそこの術師になっておるんじゃなかろうかの」
「……もしかして幽霊屋敷の噂ってマジだったんですか?」
「ユウヤの祖父が預かって封印しておる古道具の中に厄介な物がいくつかあったのは間違いないのぅ。
その類はレイファが買い取って然るべき場所に保存されておると思うが」
割とすぐ近くにあったファンタジー。空笑いをアイスコーヒーの苦さで飲み込む。
「さて、ぬしはあちらの世界で死んでおるという話じゃったな」
「恐らくですけど」
事前情報として俺のざっくりとした境遇と、俺の通う九州の大学傍に扉が繋がっているであろう事は伝えた。ちなみに実家は関東圏。関東圏って本当にその周囲に住んでいないと凄い都会に住んでいるように聞こえるんだよなぁ。
「二度と行けぬ地と思うておったが、奇縁よ。
暇があればちと尋ねてみるが、ついでにぬしの事も調べておこうか?」
俺の世界へ繋がる扉は常時開放型。だから渡ろうと思えばいつでも渡れる。
俺が事故に遭って一月も経てば、事故の事が発覚していなくても流石に大学から実家に連絡が入っているだろう。どういうことになっているか。時々もどかしさが脳裏をかき回す事はある。シノに勘付かれるのも好ましくないのでなるべく考えないようにはしているけど。
「良いんですか?」
「何時とも知れんし、確実に何かが分かるとも知れんから期待を持たせるわけにはいかんが」
「ええ、それでも構いません」
いずれは専門の業者にお願いすることも検討していたのだ。ついででも損にはならない。いつ帰れるかも分からない今、取り立てて急ぐことでもないし。
立花の家に居候していたみたいだから、アイツが居なくても親に聞いてもらえば俺がどういう扱いになっているかくらいは分かるだろう。
……とはいえ、見た目小学生が九州に降り立って関東圏まで行けるのだろうか?
これまでの会話から彼女はとても知的で、できないことを言うようには思えない。俺も思わず敬語になっているしな。数千歳と言われても納得しそうだ。
「よろしくお願いします」
「うむ。分かった時には館長殿にでも言伝しておこう」
席を立ちながらそう締めくくると「館長殿、また後日」とカウンターに声を掛けて店を出ていってしまった。
「なんというか、不思議な人ですね」
「お前さんの奇縁の方もよっぽどじゃと思うが」
湯呑を片付けに来た館長が呆れたように言う。
「偶然彼女と知り合いだったって事ですか?」
「それもじゃが……ふむ」
視線が逸れる。俺たちの方をぼんやりと眺めるシノへ。
何を指して奇縁と言われているかはもちろん分かっている。それは俺の奇妙な運命などでなく、シノの能力かもしれない、ってことか。そもシノは使徒と言う神に特別に作られた存在だ。ポテンシャルやら特殊能力やらは一般人の俺とは比べ物にならないのだろう。今日同行した二人の使徒もその戦闘能力はこの数か月で見た人たちよりも高く思えた。
「果たしてどちらの宿業かのぅ」
ホッホと笑いながら食器を回収していく館長の背中を見送り、シノへと視線を零す。
どこか困ったように見返す少女には心当たりでもあるのだろうか。
……だからどうという事はない。さて、俺たちもそろそろお暇するとしようか。
次の年以降7~8の月あたりがウォーカーズナイトになるんですが
初年度は何をしようかしらね。




