●三章-10.封印書庫の戦い
原則自己満足でしか物を作らないので、こういう場に出すと面白いのかどうか不安になる事もあります。
でもやめることはできない性分。
※前回のあらすじ
・救助作戦、本番いくよー
-fate アキヒト-
「ヒィイイイハァアハハハハハハハ!」
小人種のような男性が壊れた笑いをあげる。
それに呼応するように、本から現れたのは蛸の足のような触手だ。しかも色はどす黒い紫。どう見てもSAN値持っていく邪神系のアレである。
なお、SAN値ってどういう意味か実はよく知らない。流石にPBさんが教えてくれるとも思えない。
『サニティの値。正気度です』
PBさんにデータ登録しているの、何者なのだろうか。
「ふんっ!」
俺が妙なやり取りをやっている間にドワーフさんが一撃で触手を断ち切る。それだけでなく断ち切ったところからその触手は崩れて灰になっていた。よくよく見れば彼の持つ斧には仄かな光が灯っており、つたない予想だけど聖属性で効果は抜群だというところか。流石は使徒ということか。
「本をぶった切ればいいのか!」
「それは最後の手段にしてください。私の方で干渉して封じます!」
「そんな事を言っている場合でしょうかね」
エルフの科学者が枝をより合わせたような弓を手に次から次に襲い掛かってくる闇の弾丸を迎撃する。
「十冊くらい起動していませんかこれ?
流石に数が多すぎますよ!」
涼やかな表情と口調だがその手は冗談のように動き続けている。
「少なくとも、2、3は減らさんと押し負けるぞ」
「承知しています。一冊処理完了」
妖妃さんの袖から平安時代の絵にある巻物のような紙を伸ばし、一冊の本を拘束していた。それが解かれポトリと落ちる。
「わー、ひっきりなしに干渉くるよー」
「君で対処できているなら結構。アキヒト君も気を抜かないように。
いざとなったら彼女を連れて全力で逃げなさい」
こちらを見たかと思えば放たれた一矢が耳を掠め、後ろから忍び寄ってきていたらしい幽霊のよう何かを消し飛ばす。いきなりの事に体が硬直して返事どころじゃないです。
「妖妃さん。魔術か召喚術、死霊術を扱っている本を優先的に封印してください。
遠距離がこう多くては」
「……探しているのですが……!」
本を左手に、武器を右手に襲ってくる憑りつかれたらしい探索者は分かりやすい。しかし魔術は突如空間に出現し、こちらへと襲い掛かってくる。その発生源は特定できない。
五人程度を一人で押しとどめているドワーフさんも凄いが、四方八方から現れる幽霊と魔術を迎撃するエルフの弓術も尋常ではない。
「均衡を崩すにもアキヒト君が要救助者に近付けないと話にならない。
さて、消耗戦の一番の被害者は乗っ取られている来訪者だけど、どんな塩梅だい?」
「提案なら受け付けますが、皮肉は結構です」
少し怒った風に返しながら司書院の制服にも関わらず妖妃さんが宙を舞う。
墨汁で空中に描いたような人型を巻物で包んで潰す。その勢いを利用して更に奥へ。それを迎撃するためにか闇の矢がほんのわずかに青紫の燐光で存在を明らかにさせながら妖妃さんへ殺到。その悉くをダティアマーカさんが撃ち落とすと同時に彼女は本棚の上層にあった一冊を捕まえ縛り上げる。
「魔術書、確保」
「よし、前進するぞ!」
ドンと自動車に人がぶつかった時のSEが響いたと思えば人間種の一人が真横に飛んで本棚に激突する。重厚な造りのため本棚がドミノになることは無かったが、数冊の本が吹っ飛ばされた男の上に降り注いだ。
そこに舞い降りた妖妃さんが男を操っていたらしき本を拘束。一冊を捕まえると残った本が幻のように消失した。あれが本体ってことか。
ダティアマーカさんがこちらを一瞥して前進し始めたので、シノの手を引いて続く。
「───────────!!」
遥か先で声を上げていた小人が何かを叫んでいるが意味が理解できない。
意味のない単語を叫んでいるのだろうか?
でも、なんとなく英語っぽいんだよなぁ……?
「恐らく『大いなる者の到来を告げる使徒たる我が生贄として汝らの生を収穫する』と言っているのでしょう」
「分かるんですか?」
妖妃さんがやや呆れたように翻訳してくれる。
「呂律が回っていないというか、発音がめちゃくちゃ過ぎて言語の加護では翻訳できないのでしょう。英語ですよ」
「ダジャレとか語呂合わせとかも上手く翻訳されずに首を傾げる事がありますね」
「お前ら随分と余裕じゃな!?」
新たに現れたのは身の丈3メートルほどのゴーレムだ。それを力任せに吹き飛ばしてドワーフさんが怒りの声をあげる。
「援護は続けているよ。ただ、そいつには矢は効きが悪い。
それに、そいつは君の領分だ」
「ふん!」
追加で現れた二体のゴーレム。それを真横に振るった斧の一撃でまとめて両断する。
「わしに土のゴーレムとは舐めておる!」
「流石は地妖精の王」
「五月蠅い。さっさと仕事を果たせ!」
この二人とても仲が良いなぁ……そしてそう言われると否定するタイプだ。
「あっきー。しのっちが なんかしてんだけど」
「え?」
余計なことを考えていた俺に上から降ってくる気の抜けた声。
慌てて振り返れば、シノが宙に浮く一冊の本に手を伸ばしていた。
「って、シノ!?」
「なぁっ!? おい、あの嬢ちゃんは耐性高いんじゃなかったのか!」
「僕たち以上のはずですよ! シノ君! 不用意な行動はやめなさい!」
「大丈夫です」
慌てて駆けだそうとした俺は思いの外冷静な、いつも通りの声音が返ってくる。
本は待っていましたとばかりその手を受け入れるが……それで終わりだ。特にこれといった変化は生じない。
「シノ? 操られているわけじゃないよな?」
「はい。本に操られることはありません」
人の頭を殴り飛ばせそうな重厚な一冊にどす黒いオーラが浮かんでいるが、シノは気にすることも無い。暫くして諦めたように消えた。
「……ああ、強いどころじゃなく、魔導書にとっては天敵だったか」
苦笑いをしつつも手は止まらず、こちらを伺う浮遊霊を打ち抜いていく。
「魔導書の類も記録対象です」
事態についていけない俺をシノが本を胸に抱きながら見上げる。
「支配されては読む事が出来ません」
俺が呆気にとられている間に妖妃さんがこちらへとやってきてシノから本を受け取る。紙を巻いて封印完了。
「死霊術の魔導書です」
「まぁ、結果的には良しじゃな。
一気に前にでるぞ!」
立ち上がる直前の新たなゴーレムを無慈悲に両断し、その奥に居た獣人種の顔面に拳一発。歯が折れて飛んでいるのだけど大丈夫なのだろうか……
転がった本を拾い上げ妖妃さんへと投げる。妖妃さんは前へと進みながらそれを受け止めて封印。俺たちも続く。
「────────!!!!」
小人族がまた理解不能な言葉を叫び、数多の触手が突如至る所から繰り出されるが、全ては矢にあえなく縫い留められた。
走り抜けざまに見た矢は樹皮の付いたままの枝だ。矢じりまでもが木製、というよりもこれ一つが生きている木のようだ。何処からこんな大量の矢がと思っていたのだけど、その場で作り出しているらしい。
「見えたぞ!」
「クォ・リ・ガヴェアの魔術奥義、地神ラヴォリに捧げる聖句、ロクモルフォルクロ秘文書を封印しました! 残りは!」
先を見れば十数人が固まり、その周囲を数冊の本、それから本を手にする人に囲まれている光景があった。そこに向かって妖妃さんが声をあげれば「分かっているのはアヴェラからの異界録、センテモール神言、螺湮城本伝、終末回顧録よ!」という回答が来た。
何故だろう、中身が予想できないのに寒気が走る。
「終末回顧録が起動しておるのかや!?」
驚きと共に妖妃さんの言葉遣いが妙な物になる。慌てるほどの事が起きているらしい。
「ほとんどそっち対応で動けていないわ。御こちらからの攻勢は期待しないで!」
「碌でもない言霊が詰まったタイトルですね」
彼もまた俺の感じた嫌な予感を感じたのだろう。妖妃さんに解説を求めると彼女は少し言葉に迷い、ややあって口を開く。
「ある世界の終末をいくつも記録した書よ。さるは限定的な再現も為す代物なれば」
「世界の終わりがいくつもとはどういう事ですか?」
「創生系神種の主目的は世界の発展による自身の成長。
されど失した事を探究とし、『失敗する条件』を探し世界の破壊と創成を繰り返した神が居った。
己を壊しすぎて果ては狂った神種の書よ」
世界とは神様その物とは聞いたばかりの話だ。まともなやり方じゃないのだろうし、実際狂ってしまったというのだから、悍ましい限りだ。
「そんな危険な本は別に保管しておると言っておらんかったか!?」
「その筈……否、今は封印が先よ!」
「チィっ!?」
ドワーフさんが舌打ちと共に吹き飛ばされる。そのまま転がることなく両の足をしっかり床に付けて体勢を立て直すが、追撃はすぐそこまでに迫っていた。まだあの触手を操る本は封印されていない。
「面の攻撃は勘弁してください!」
「黙ってやれ!」
先ほどと密度が余りにも違う気色悪い色の蛸足の群れ。手の動きが霞む速度で矢が放たれるが数本が弾かれたところで勢いは止まらない。
「ゴーレムの残骸!」
「おぅ!」
迫りくる触手の波に両刃の斧を横にし、刃の側面を盾のようにして受け止める。それでも物量と勢いはずんぐりとしたドワーフの体をその場から弾き飛ばす。
「どっせい!!」
だがこちらもタダで飛ばされない。弾く様に左へ受け流し、勢いを回転に。後続の数本を力任せに断ち切り再び襲い掛かってくる触手をいなす。
「芽吹け!」
弾かれた方、その触手群は先ほどドワーフさんが倒したゴーレムの残骸へと激突していた。しかしそれがどうしたと動き出した触手が動きを止める。
「腐らなきゃ良いんですけどね」
気持ち悪い触手の表面を食い破って現れたのは植物の芽。次の瞬間、その緑は恐ろしい速度で広がり、根本へと駆けのぼっていく。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」
ズンと腹の底に響く音。ドワーフさんの足が床を叩き、丸い体を砲弾のように前へとはじき出す。
「収穫の時間じゃ!」
両刃の斧を弾頭に。植物に自由を奪われた触手の壁を一直線に裂き、勢いを失うタイミングで地面を蹴る。
「見つけたぞぉ!!!」
体を捻って周囲から殺到しようとした新たな触手をはじき散らす。その向こうにいた女性の手には禍々しい紫のオーラを放つ本が一冊。ドワーフさんはほんの少し表情を歪め、斧をその直前に振り落とす。当たっていない。そう思った時には斧の接地面を軸に体を前へと送り出し、本を横に叩き落とした。それと同時に触手が幻だったかのように消えた。
「って、女性? 小人は?」
「右上です」
シノの言葉に妖妃さんが空を駆けた。相対するように現れる闇の矢を袖から伸びる巻物が迎撃していく。ただ、その巻物が傷付くたびに妖妃さんの表情に苦痛が増えていくように見えたのは気のせいではないだろう。もしかして、あれ、あの人の本体の一部?
俺の心配を他所に本棚に片手で捕まった小人に巻物の一つが絡みついた。新たな闇の刃が十数本発生するがその全ては彼女を追い抜いた矢が迎撃しつくす。
「センテモール神言を捕えた!」
「残りは向こう側よ」
先ほど応答した声が妖妃さんに応じる。どうやら要救助者までの道は開けたようだ。
「救助に移りましょう。逃がせるたなら楽になるらしいですから」
「終末回顧録をいち早く封じねばならぬ。すまぬが救助は任せた」
言葉遣いがおかしくなっている妖妃さんは鬼気迫る顔で前へと駆けだした。
「了解です。27号、警戒を厳に」
「ほーい」
「護衛を担当します。アキヒト君、そこのグレムリン種を抱えてください」
「はい」
先ほどの小人がグレムリン種だったらしい。拾い上げるために近付けば、ゲームのゴブリンみたいな強面でぎょっとする。
……いきなり目覚めて喉元掻っ切られたりしないよな?
ほんのわずかな逡巡ののち覚悟を決めて背負う。その間に回収してきたのだろう。ドワーフさんが二人抱え、それ以外に3人、恐らく掃除部隊の人を引き連れこちらへと駆け寄ってきた。
「一旦戻ります。止まらず付いてきてください。
ドルフェッカ、先陣を」
「おう」
ドワーフさんがドスドスと走り出すのを見て、こちらに来た三人が続く。
「行きましょうか。均衡が崩れれば彼女らのホームです」
「……分かりました」
心配は心配だが俺が言うのは戦力的な面でおこがましいのだろう。
大人しくダティアマーカさんの指示に従い、俺たちは来た道を戻るのだった。




