●三章-9.救助作戦開始
今年に入って一回も更新してなかったのでもう一つの方も書き書き。
いや、ホント、毎日更新したりする人すげえですよ。
書くネタがあっても手が動かないデス。あと文書が稚拙なので書き直しがですネ。
※前回のあらすじ
・掃除部隊が動けなくなっているので救助願います。
-fate アキヒト-
「本当に申し訳ございません。
救助に失敗したばかりかこのような事態に引っ張り出すことになるなんて」
エレベータで地下2階層に上がり、何もない通路を歩きながら妖妃は沈痛な面持ちで頭を下げる。
「妖妃さんが謝る事じゃありませんよ」
「そうじゃ。現況はこやつだしのぅ」
「それについては弁明の余地もないよ。せいぜい救出に尽力させてもらう」
心底呆れたとばかりのドワーフの言葉にエルフの青年は特に気負う様子も無く応じた。
「それで、状況どうなっておるんじゃ?」
「支配されなかった人たちを司書院スタッフが保護。恐らくどこかに立て籠もっていると思います」
「貴方はどうやってここまで?」
「私は……妖怪になっていなければ地下一階層に収められるような書ですからね。
敵意を向けなければ素通りさせてもらえたんです」
陰のある説明にダティアマーカさんは気まずそうに「なるほど」とだけ返す。
妖妃さんは影を振り払うように微笑みを浮かべて道の先を見た。
「掃除部隊の保護のため、動くに動けない状態です。
しかし数名を避難させる事ができれば均衡がこちら側へ傾くと思います」
「なるほどのぅ。
となれば……物理的な攻撃をしてくるのはおるのか?」
「……はい。魔術、特に召喚術を使う書物が厄介です。
条件が揃えば敵が無限に増えます」
「それはゾッとしないね。なんとかなるのかい?」
「スタッフが動けないのはそれらの書物を抑え込んでいるから、という事もあります。
対処を後回しにされている書物に対しては私が当たります。
あなた方は支配された人の対応、そして均衡を崩す事に注力してください」
どんどん進む作戦会議に付いていけない俺は黙って歩くのみだ。
ただ、その会話の中で一点気になる事があるんだけど……と思っていたら会話が途切れたのでちょっと聞いてみる。
「あの、この世界で召喚術って成立するんですか?」
「しませんよ?」
本が召喚して無限に敵が増える。しかしこのターミナルと言う世界は100メートルの壁が存在し、遠くから何かを連れてくる召喚術はその対象に当てはまるはずだ。つまり、対象が100メートル以内に居ないと使えないという事になる。
そしてダティアマーカさんはあっさりとそれを肯定した。
「しかし創成術にコンバートされている可能性がありますね。
その分呼び出す、いえ作り出す存在の数が少なくなったり劣化したりしているはずですが」
「じゃが、魔道具の類ならば、『扉による能力の相対的平均化』は適用されておらんのではないか?」
「それが適用されていなくても100メートルの対象外とはならないよ。
僕が懸念しているのは魔術によるものでなく、概念を扱っているものだ」
「……ふぅむ」
ドワーフさんが歩きながら顎に手をやり考え始める。
『概念』というのは『だいたい共通している大まかな特徴』で、「人間」であれば「五体あって」「二足歩行する」「言葉でコミュニケーションをとり」「集団行動を行う」といったものになる。連想ゲームでヒントになるワードと国語教師が説明していたっけ。
しかしこの世界では少し違った意味合いで使われる事がある。
例えば水。この世界のサンロードリバーを流れる水は『飲める水』という概念を受けているらしい。その為、ある世界の者にとっては科学的に有害であっても『飲める水』なので飲む事が出来る。空気についても同じで『呼吸可能な大気』だからあらゆる世界の来訪者たちが普通に生活できている。無茶苦茶な話だが現にそれが成立しているのだからそういう物だと思うしかない。
この事象が明確になる以前は、異世界でも水や大気の成分が変わらないと誤解し、ターミナルを経由して第三の世界に踏み入った瞬間即死したという事故が多発したそうだ。
話を戻して、『AをBの場所から呼び出す』という魔術は100メートルの壁に阻まれる。これは概念で固定されても100メートルの壁を超越することはできない。しかし『Aを呼び出す』という概念の場合、『どこから』が指定されていないため、その場で生み出す事になるのだそうだ。これも意味が分からないが、やはりそういう物として扱うしかない。
概念には強弱があり、もし「100メートルの壁」よりも上位の概念を構築できるならば、転移は可能になるとされているらしい。
……そういえば頼朝さんに貰った守り刀にも『斬る』という概念が宿っているんだっけか。
……いざと言うとき物凄く強そうだけど、妖怪種の妖妃さんや司書院の皆さんが居るのに抜けません。フレンドリーファイアどころの騒ぎじゃない。
「幸いと言いますか、流石にその手の書物は奥も奥、簡単に迷い込むような場所には保管していません。せいぜい魔術書止まりです」
「なら、良いのだけど。
さて、ここからは気を抜かないようにね」
先に灯る緑の光。非常口などについてある避難経路のピクトグラムがぼんやりと輝いていた。ここから地下一階層に上がれるようだ。
「彼女は『魔術書止まり』と言ったが、各世界でも有数の、ここまでの設備が無いと安心して保管できない魔術書が何冊も混じっている。持っていかれないようにね」
「……具体的には?」
「助ける事に注力しなさい。最悪シノ君と27号が止めるから」
「……了解です」
一番の不安要素はやっぱり俺らしい。
でも、シノは肉体労働的には言っちゃ悪いけどあまり役に立たない。魔術を使えるかと言えばそうでもない。シノ譲りの耐性程度でも他に居た研究者達よりもマシだったということだろうか?
階段に足が触れる。そして一歩。
「え?」
ぞわりと、何かが体を駆け抜けていく。一斉に鳥肌が立ち、動きが止まってしまった。
「それは防御機構の一環で本の攻撃では無いよ」
俺の動きに気づいたダティアマーカさんが苦笑交じりに言う。
「こ、ここにもあるんですか?」
「当然じゃろう。勝手に動き出して三階の廊下に転がられれば大惨事じゃぞ?」
「あくまで逃亡防止用ですので、地下一階層と地上階の間にあるセキュリティと比べるまでもありません」
言われてみればもっともな話だ。いや、本が勝手に逃亡する事を想定するのは普通ではないのだけど。今更だな。うん。
気持ちを新たにするは図書館特有の香りに加え、なんとも言い難い複雑な匂いに気づいた。余りにも色々と混ざりすぎて眩暈がするほどだ。これに気付けないくらいに緊張していたのか……
「これ、瘴気の類が溢れていないかい?」
「そのようじゃな。ほれ、さっさと浄化せい。小僧には毒が過ぎる」
ダティアマーカさんが手を振り払うようにすると匂いがかなりマシになる。瘴気って言えば小説や漫画で度々見たワードだけど……
「冥界系か異界系の魔導書が動いているようですね」
「掃除部隊の連中、まだ生きておるのか?」
「死んだならスタッフは動き出しています。それに浄化の専門家が居るはずですから毒や瘴気で全滅する事は無いでしょう」
「掃除部隊、か。グレムリンの件といい、皮肉が利いておるわい」
階段を上り終えればそこは本棚の森だった。
天井ぎりぎりまでという背丈の本棚は石か金属か、少なくとも木製でない何かで作られており、その中はおおよそ空だ。
そう、本の森でなく本棚の森である。薄暗い不気味な雰囲気の中、重厚な本棚の威圧感は相当なものだが、スカスカの本棚がどこか寂しい。
「……本、全然ないですね」
「当然と言えば当然ですけどね。ここに収めるべき本なんて一つの世界にせいぜい十冊程度でしょうし」
「そんなものですか?」
「勿論文明の長さや人口によって増減はしますが……ここまでの封印に近い処置が必要な本が数百も数千もある世界なんて完全な保管法ができているか、狂っているかですよ」
ごもっともです。
「それに我々がここに回収する本は持ち主が居らず、その上管理されていないようなものです。むやみやたらと色々な世界から持ってきたりはできません」
「それ以外は諦めているのですか?」
「写本は作りますけどね」
写本では危険性のない物は上での管理になるとの事。ちなみに写本でも危険極まりなくここに保管されている物もあるのだそうだ。うちの世界で有名なネクロノミコンも写本だったような……いや、あれ創作内のシロモノだっけか?
「アッキーに干渉ありー」
不意に頭の上で27号が鳴いた。
それにしてもアッキーって。まぁ良いけど。
「見つけました」
即座に周囲へ視線を走らせた妖妃さんが次の瞬間一冊の本を掴み白いガムテープのようなものを巻く。
封印の札のようなものだろうか。そんな便利な物があるなら最初から巻いておけばいいのにと思った矢先、その白い帯が一部分から茶色に変色し始めた。どうやら時間制限アリのようだ。
「小僧、大丈夫か?」
「大丈夫も何も……」
別段おかしなことはなかったはずだ。変な声が聞こえたとかでも無いし。
「27号はファイアウォールのような役割を付与しました。
上手く動いているようですね」
「あの、図書館内で火の魔術を使うのは……!」
ダティアマーカさんの満足げな言葉に妖妃さんがびっくりして駆け寄ってくる。
「ファイアウォールってインターネットの用語で、ですよね?」
「はい」
「え? ……ああ、コホン。すみません」
どうやら知ってはいたらしい。インターネットが使えないこの世界では魔法の方を想像して然りだろう。むしろどうしてダティアマーカさんがその言葉を知っているのか……と思ったけど、13号はノートパソコンだった。弄っている間に知ったのだろうか。
それにしても確か意味合い的には『防火壁』と訳されるはずなのだけど、『炎の壁』と伝わったのは彼が日本語として称し、妖妃さんが音のまま捉えたからだろうか?
「とはいえ重ねて言いますけど万全ではありません。
気づいたらすぐに申告を。他の人もアキヒト君の動きには注意願います」
「俺、足手まといになってませんか?」
先ほど抱いた疑問を丁度いいので述べてみる。
「27号抜きでもあの中では耐性が高い方なんですよ。
迂闊な行動だけは控えてください。それで充分な戦力です」
「肝に銘じます」
繰り返されるとフラグにしか思えない。
うん。迂闊な行動はしない。乗っ取られて全力で逃げた日には死しかない。そう思えばやはりこの100メートル以上離れられないという縛りは非常に危険な状態だ。
数か月、なんとなく無事だったけど、本当に偶然なだけだったのかもしれない。
「……間もなく目的地です」
先ほどの嫌な臭いが強くなっている。それ以上に何と言うか、嫌な風が全身をまさぐっているような感覚に襲われる。この先は危険だと俺程度の感覚でも分かってしまう。
27号からのアラームは無し。恐らく魔力とか瘴気とか、そういう物の類が広がっているのだろう。
そんな事はお構いなしと笑みを浮かべた使徒が、うんと一つ頷きこちらへと振り返る。
「よし、ではまず現状把握といきましょう」
一般人の不安はさておかれ、その宣言と共に救助作戦は始まりを告げたのだった。




