●序章-7.異世界の町へ
結構書き直し書き直しやっているのでストック切れました。
更新は週2くらいにしようかなぁとか考え中。
※前回のあらすじ
少女=『神話食らい』 命名:シノ
路面電車で入市管理所へ向かえ!
-fate アキヒト-
医院の扉と言うと強化ガラス製を思い浮かべるが、ここのは木製だった。つまり外は見えない。
「どうかしましたか?」
「あ、いや」
扉の前で止まった俺にシノが問いを放つ。
開いた瞬間、核戦争後の荒廃した世界とか、原色の妖精さんが飛び交う森の中とかじゃないよな、と想像してしまっただけです。
流石に無いかと自分を宥め、戸を押し開くとそこには──────
「広っ!?」
大通りがあった。
確かに「大」通りだ。
しかし予想を遥かに超えてとにかく広い。向かいの建物まで何十メートルあるのだろうか。少なくとも狭い日本ではまずこれを見て道とは思わないだろう。競技場と言われた方がしっくりくる。
その道がまっすぐ左右に、果てしなく続いていた。それを目で追いかけた先で俺の視線は再び釘付けになっる。
「……何だアレ……」
答えは聞いている。だが、イコールで結び付かない。
どう見ても、壁だ。しかも天を穿つほどに高くそびえる壁。
どんどん顎が上がり、首の可動域を越えてなお頂点を見る事ができない。途中で雲がぶつかり、砕けるようにしながらも流れていく光景が重なって見えた。
「あれが扉の塔、ですね」
シノが俺の驚愕から洩れた言葉に律儀に応じる。
塔? 壁だろ? と、思いながら視線を左右に振れば、確かにその建築物の両端があり、その向こうに青い空が見えた。
端の陰影から曲面であることも見て取れる。あまりのサイズにはっきりしないが円柱状なのだろうか。
「塔……、確かに、塔か。どんだけでかいんだよ……」
「直径三キロメートル、高さ六キロメートルと聞きました」
「ぶっ!? 高すぎるだろ! 何で崩れないんだよ?!」
塔の見た目の材質は石で、本当に石なら耐荷重オーバーで崩落待ったなしである。
これもまた不思議パワーの賜物なのだろうか。便利だな不思議パワー。なんで俺の魂は治せないのか。
「あー、考えても仕方ないか。
うん、確かに間違えようがないな…… あとはあっち方面の電車にっ!?」
慌てて飛び退き、医院のドアに後頭部を打ち付ける。
シノも驚いたらしく同じく一歩後ろに下がっていた。もしかすると俺の突飛な行動の方に驚いたのかもしれないが。
俺の視線の先の驚いた理由、偶然通りかかった人物が、俺たちの奇行を不思議そうに見ている。
「どうかしました?」
とても穏やかで紳士的な声音なのだが、それを発した口からは育ち過ぎた牙が口内に収まりきれずに突き出ていた。
「え、あ、いや、目の前を何かが、虫か何かがですね!」
「はぁ、そうですか」
彼は特に追及もせず、肩を竦め、歩き去っていく。
その後ろ姿をしばらく凝視。十数メートル離れてようやくほっと息を吐く。
背中に備わった蝙蝠のような羽。
黒光りする後頭部。黒い肌、と言っても黒人のそれではない。まるでマネキンに黒い金属を塗り付けたような光沢で、おまけに角が数本飛び出している。
悪魔。
何故かビシッとスーツを着こなした彼は俺たちを忘れたようにすたすたと歩き去っていく。
「天使の次は悪魔か……
いや……」
道の広さ、塔のでかさに視線を奪われたが、改めて周囲を見渡すといろいろおかしい。
道の広さのわりにまばらな通行人。その大半は人間……型だ。
毛深いと思えば顔が犬猫の動物だったり、頭が二つ付いていたり、羽や尻尾が生えていたり、腕が二対四本だったり、顔の半分が一つ目だったりとバリエーションが豊かすぎる。加えて衣服も様々だ。民族風の見慣れないものや、うちにもありそうなTシャツ。中には上半身裸の者や、金属甲冑の者までいる。
ファンタジーかと思えば右腕が機械だったり、全身上から下までメタリックなロボ、半透明の女性なども居る。
え? 幽霊? 二度見したがもう居ない。見間違いか?
「……ハロウィンパーティ……なんて目じゃないな」
「不思議ですね」
シノの、憧憬をにじませる声が背に当たる。
「これだけ違う種族が、特にいがみ合うことなく行き来しています」
その言葉の意味を測りかねて、しかし地球に当てはめれば納得した。
人種どころか思想が違うだけでもいがみ合い殺し合っていると言うのに、姿形すら異なる者が当たり前のように同じ空間に居る。
「シノから見ても不思議なのか?」
「はい。……どういう意味でしょうか?」
「いや、俺の世界ってさ。喋る動物なんて人間くらいなものだから。
シノの世界には色々な種族居そうだし」
「はい。居ます」
トーンダウンした返事にシノを見れば、わずかに俯いているのは何か悪い事を思い出させてしまったか。
「何か悪い事聞いた?」
「いえ、それよりも早く向かいましょう。日が暮れる前にすませてしまった方が良いかと」
確かにその通りだ。
と、丁度目の前を一両編成の電車が通り過ぎていく。その天井になんか翼の生えた獣が伏せて寝ているのだが、ああいう乗り方もアリなのだろうか。
塔とは反対方向行きのそれが一時停止した箇所をよく見れば10センチくらい高くなったホームがある。あそこが駅扱いなのだろう。
「横断歩道とか無いのか?」
往来は広さに反して密度はスカスカだ。もう一度左右を見るが、横断歩道どころか、道路標識も信号も無い事に気付く。それから自動車やバイクの類を見ない。馬や馬車も無い。路面電車があるから使わないのだろうか。バイクくらいの速度で走り抜ける人は居たが。
「……これ、どこ渡ってもいいのか?」
「その様ですね」
シノが指さしながら応じる。その方向を見れば目的の駅に向かって横断する人影があった。
「……じゃあ、行くか」
「はい」
左右確認しつつ小走り。特に問題なく駅に到着するが、看板も時刻表も何もない。ただ、同じ駅で待っている人……ドワーフかな? も居るのでじきに来るのだろう。
「あ、来ました」
「ホントだ。って、シノは電車を知っているのか?」
「馬車の馬がないモノですよね?」
確かにその通りだ。そういえば電車と言ったが本当に電車なのだろうか。電線なんてどこにもないけど。レールに電気を通すのは流石に危ないからやっていないと思うけど。
疑問を浮かべているうちに一両編成のそれは駅の傍で減速し、停車する。
先にドワーフらしき男性が乗り込み、何も言わずに近くの席にどかり座った。座席は壁に沿って設置されており、横並びに座れるようになっている。
続いて乗り込むが、運転席らしきところには誰も居ない。車掌っぽい帽子だけが置かれている。
「あれ? ……運転手は?」
「この方かと」
シノの視線を追ってみると運転席に鎮座しているのはボールに行きつく。帽子が置かれているボールだ。よく見ればそこから蛇腹パイプのような伸び、その先にソフトボールのような球がついており、それが電車のハンドル……名前は知らないそれに添えられていた。
「ボール?」
「全自動選択機センタ君です」
ボールからややメカメカしい声音が応じた。どうやらロボットらしい。しかし全自動洗濯機が何故運転をしているのか。それとも何か聞き違えたか。
「……ええと、入市管理所前で降ろしてください」
「わかりました。発車します」
言うなり加速が始まるので、それ以上の追及せずに空いている席に座るようにシノに促す。
つり革まであるんだが……立ち乗りしなければならないほど混む時間帯でもあるのだろうか? 見渡したが俺たちと一緒に乗り込んだドワーフっぽいおっちゃんしか乗ってない。
……まぁ、立っていても仕方ない。
俺はシノの隣に腰かけて、車窓の風景に意識を傾けることにした。




