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●三章-8.救援要請

一週間のルーチンワークが出来上がってしまうとなかなか加速も難しいもので。

うーん。もう少しなんとか


※前回のあらすじ

・27号を暫く預かっておいて。

・おや、何か始まったようだ

-fate Free-




 掃除部隊に起きた事故。その原因は突き詰めればアキヒトとシノが攫われたことに起因する。

 司書院のスタッフは一様に本好きである。同時に本を愛する者を愛する存在も多い。つまり、大図書館の常連で本を熱心に読んでくれるシノへの好感度は特筆して高い。その彼女が攫われた事による司書院スタッフの動揺は自身らが思うよりも大きかった。

 掃除部隊の突入は即時開始された。その上進行は予定よりも相当早いものになっていた。駆け足とは言わないが競歩未満と言うべき速度だ。非戦闘員が巻き込まれた瞬間を見ていた掃除部隊も緊急事態と見てそれに異論を述べなかった。


 だが、ここは封印されるべき本の魔窟である。


 当然司書院スタッフはこの場所がいかに危険かを十分に理解している。

 しかしその認識を掃除部隊と共有できているか、その確認作業をすっ飛ばしてしまった。

 いかに歴戦の探索者とはいえ、本の呪力に対しては素人揃い。スタッフらは部隊を守る事が最重要任務でなければならない。

 焦りと慢心。油断と無知による前のめりの行軍は今回特に保つべきであった注意力を大きく削ぐことになった。


「っ?

 おい、何をしている?」

「……」


 通路を往く事五分ばかり。不意に、本当に何気なく、一人の探索者が棚へ手を伸ばした。

 疑問も迷いも無い。ごく自然な動きで棚に、本に触れる。そのすぐ後ろにいた別の探索者はぎょっとして、その数舜を無駄にして慌ててその手を止めようと掴んだ。

 注意力の欠如だけではない。この空間は常に本の呼びかけに満ちている。認識しなくてもそれはゆっくりと精神を擦り減らしていた。


 すでに本に触れてしまったその腕を掴んでしまった。


 常時であるなら、その本が放つ呼び声を司書院にスタッフは真っ先に感知し、行動の前にその男の動きを 制していただろう。だが彼女らが気付いて振り返った時には手遅れだった。


「下手に動かないでください! 逃げないで!」


 その声をあざ笑うかのように二人が取り込まれた。


 スタッフの声よりも早く、探索者たちは生じた危機に反応していたのだ。そして今回ばかりはそれが災いした。

 離れてください。本来はそう言うべき状況だがここは四方八方危険物に囲まれた空間。動かず対処を司書院スタッフに任せる事が最良の選択肢であるが、彼らはそのセオリーをきちんと説明されていなかった。だから察知した目下一番大きな危険から各々距離を取った。


 獲物の接近に本が歓喜する。

 見えざる数多の手が彼らに伸びる。


 そして、増えた起点と共に連鎖は広がり、のちに司書院にて必ず教訓として教えられることになる『スタンピード』が始まった。




-fate アキヒト-




「ダティアマーカ、緊急事態だ。

 ドルフェッカも居たか。丁度良い」

「なんじゃ? 誰かの装置が暴走でもしたか?」


 先ほど会った馬頭の科学者が扉を開けるなり二人の姿を見止めて声をかける。


「上でトラブルがあった。掃除部隊が遭難中。

 司書院の一人が緊急でこっちまで来てヘルプを要請してきた」

「え?」


 予想外の言葉に俺は声を上げた。この場所のエキスパートであるはずの司書院に何が起こったのだろう? 

 答えの出ない疑問に陥っている間にダティアマーカさんは冷静に問いを作る。


「上というと、地下一階層ですか?

 司書院の庭で何が?」

「詳細は今から確認。で、貴方たちに同席してもらいたい」

「わしらに?」

「今この地下に居る中で対精神干渉、対呪能力が高いのはあんたら二人だ。

 仮にも使徒種だろ?」

「仮にもは余計です。つまり我々に救助に迎え、と?」

「その辺りも含めて今から検討になる」


 矢継ぎ早に交わされる会話に唖然としていると、ダティアマーカさんは俺たちを見て「君たちも付いてきてください」と告げて席を立つ。俺の横を通り過ぎる際に押し付けるように27号を頭に載せる。「むぎゅ」と潰れた声が頭上で発せられる。


「27号は役目を果たすように」

「おーぼー!」


 頭の上でばさばさと、あと爪を立てないでいただきたい。痛い。モデルが猛禽類なのだから、鷹匠とかと同じで腕にガードを巻いて受け止めるべき物ですよソレ。


「これ、何か意味があるんですか?」

「それなりに。過信はできないけどね」


 背中越しに応じるダティアマーカさん。こちらを待つ気は無いようなので立ち上がって追い掛ける。

約20名ほどだろうか。多種多様な装いの多種多様な種族が奇怪なオブジェクトが詰め込まれていた通路に集まっていた。

 何故かいくつかの機械が煙を吹いている。そう言えばさっき爆発音したよな?


「シノさん、アキヒトさん、ご無事で!」


 人垣の向こうから嬉しそうな、しかしどこか余裕のない声が届く。研究者達をかき分け現れたのは黒髪美女の文車妖妃さんだ。彼女は安堵の表情を浮かべ、こちらへと駆け付けた。


「ご心配をおかけして申し訳ありません」

「アキヒトさんたちが悪いわけではありません。

 それよりも申し訳ないのはこちらです。今すぐ地上にとはいかなくなりました」

「何があったのじゃ?」


 キーマンらしい二人の到着を待っていたのだろう。ドワーフの問いかけは周囲の研究者の問いかけでもあった。

 文車妖妃さんは渋面を作ったあと、振り返って研究者達を見渡した。


「十数冊の本が起動し、掃除部隊の数人が支配されました。

 同行している司書院スタッフは無事な人員の保護のため、また支配された人から身を守るためその場から動けない状態です」

「貴方たちが同行してど……コホン」


 ゾワリと寒気が駆け抜ける。

 肩越しに振り返った、いつも柔らかな笑顔を浮かべているイメージしかない彼女の目に闇が宿っていた。ほんの一瞬、垣間見ただけの俺でも体を硬直させ、冷や汗が背中を伝う。

 凍り付いた場を動かすために既知の間柄のドワーフが仕方ないとばかりに口を開く。


「如いてはおぬしのせいじゃろ」

「追い打ちはやめてくれないかな?」


 その威圧と怨念の対象となったはずの使徒は多少顔を引き攣らせつつドワーフさんを睨む。どことなく感謝が滲んでいるのは気のせいだろうか。


「上から追加の救援が来るんじゃないのかい?」


 動き出した空気を止めぬように、馬頭科学者が発した問いに文車妖妃さんは表情を曇らせた。


「その手配も行っていますが……正直確保できるかどうかは怪しいです。

 本日対応可能人員の大部分を投入。それが拘束された形になっています。

 非番の人員をこれから集めても数時間は必要でしょう」

「それまで持たないってことね」

「本に支配されている人が完全に侵食されてしまえば手の施しようがなくなる可能性もあります。なるべく早い対応が必要です」

「それで、この場所に居る、救助活動に参加できそうなのは……機械系と使徒系かね?」


 馬頭が周囲を見渡すのに合わせて視線を巡らせれば数人ロボットとかアンドロイドとか、そんな風体の人物が混じっている。


「対呪、対精神汚染は必須です。一冊凶悪な精神汚染を及ぼす本が起動しています。

 いかに機械であれ自我を持つ種では影響下に入ります」

「理不尽じゃな」

「この世界の『人』に関する概念が悪く働いているね」


 髭をしごきながら厄介そうに言葉を漏らすドワーフにダティアマーカさんが顎に手を当ててつつ応じ、天井を見上げた。


「無人機ならどうだ?」


 話を聞いていた一人が問いかける。


「一応人間を運べる程度のパワーがある無人機なら数台用意できるぞ」

「それが……」


 文車妖妃さんは周囲を見て溜息一つ。


「皆さんがこんなことをしているだろうと思って妖魔種グレムリンの方を連れてきていまして」


 周りに広がる「あちゃー」という雰囲気。あと視線を外したのはそこら辺に転がる設置物の主だろう。

 それはともかく『グレムリン』は聞いたことある名前だなとPBさんに確認して、俺は頭を抱えた。うん。話の流れからするとそのグレムリンの人も本に乗っ取られるなりしているのだろう。


「しかし、ある意味そいつは幸運だな。

 ここでグレムリンの能力を使ってみろ。きっと大惨事じゃぞ」


 グレムリン。機械を狂わし、壊す妖怪。この奇怪なオブジェクトとなり果てた装置群を壊すだけなら問題はないだろうが狂わしたときにはどんな大惨事が巻き起こっていたことか。


「そもそもあなた方が……!」

「まぁまぁ、結論からすると、救出にすぐさま向かえるのは……君を除いて四人ということか」

「四人?」


 馬頭さんが訝し気な表情で周囲を見渡す。


「シノ君も使徒だろ? しかも精神干渉系には非常に強いはずだ」

「そうなのか?」

「そうなのでしょうか?」


 俺の問いかけに首を傾げて問い返してくるシノ。


「干渉する側は総じて抵抗力が高いものだ。でなければ接続した瞬間自分が染まって壊れかねない」

「それ、一般論でシノがそうと判明しているわけではないですよね?」

「では試してみよう。『魅了』」


 掌を見せるように不意打ちで放たれた魔法にシノは驚いた顔をするもののそれだけだ。


「いきなり何をするんですか!」

「確認だよ。

 ほら、エルフ種の長として設計された僕のドライアド系統の魔術が僅かも効果を発揮していない」


 俺の方を見上げるシノはすでに無表情だ。……魔法にかかっているかどうかとか分からないのだけど……


「大丈夫なのか?」

「ええ。大丈夫と思われます。

 精神干渉を確認しましたが、彼の言う通りレジストできました」


 淡々と答えを返すシノ。……確かにいつも通りには見える。


「しかしそのお嬢ちゃんでは人足にはならんじゃろ。

 それに四人と言うのは?」

「アキヒト君ですよ。彼はシノ君の使い魔です。レジスト能力は相応ですし、27号で補助をさせます」

「はぁーい」


 頭の上の鳥がやる気のない声と共に片羽を広げた。


「危険です! 二人とも住民なのですよ」

「彼らだけに任せると言うなら無論僕でも止めます。

 しかし今回は緊急事態である事を前提に、僕とドルフェッカ。そして貴方が同行します。

 対応は僕と貴方、救助はドルフェッカとアキヒト君という役割分担が妥当でしょう」

「……」


 とても承服はできないと睨みつける文車妖妃さんだが、十数秒の沈黙の後、「くっ」と小さく漏らして俯き、ややあって俺たちを見た。


「アキヒトさん、シノさん。申し訳ありませんが助力願えますか?」

「シノ、構わないか?」

「はい」

「話は決まったね。では早速救助に向かおう。

 司書院殿、何か注意事項はあるかな?」

「妖妃です。

 アキヒトさん、呼び声には決して応じないように。

 いかに抵抗力が高くても自ら本を開けば抵抗できない場合があります。

 本には絶対に触れないでください」

「フラグっぽくて怖いですね」

「や、やはり彼は外すべきでは?」


 俺の軽口に途端に不安度が急上昇したことが表情に出る。

 迂闊な発言に反省。いや、フラグを折りたかったんです。信じてください。


「良いじゃないですか。下手に気負うよりは」

「……アキヒトさん。危険と思ったら迷わず申し出てください。

 最悪応援が間に合う可能性もありますので」

「わかりました。無理はしません」


 それは俺の大前提。なにやら精神異常耐性があるらしいが、ダティアマーカさんは俺には魔法をかけてみることはしなかった。俺の抵抗力はおこぼれ程度と考えておく。


「では早速行きましょう。状況を見ない事には始まりません。

 ポーションの類はここに色々ありますから、いざと言うときの反撃も躊躇わないように」

「はい」


 正直それが一番難易度高いと思う。あのモードに入るのはシノの危険が前提かもしれない。迷うくらいなら最初から逃げに徹する。あのモードに入れたらその時はその時で考える。

 うんと一つ頷きシノの手を取る

 さて、どんな光景に出くわすのやら。

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