●三章-7.補償……?
DX3rdの動画の投稿をしちゃったりなんかしたり。
ルーチンワークを作ると早く、前倒しをができなくなるのはデメリット
※前回のあらすじ
・なんやかんや話をした。
・それはともかく補償の話をしよう
-fate アキヒト-
「補償、ですか?」
正直先ほどの話をしてもらっただけでもシノ的には十分だと思うのだけど。
いや、何を措いても彼の笑顔が怖い。一点の曇りもないのにどす黒く感じる何かが怖い。
「というわけで、ドルフェッカ。
鳥で眷属を作ってくれないか?」
「藪から棒になんじゃ」
ドワーフが不機嫌そうに応じる。彼の名前らしい。
「動物を生み出すのは君の方が上手いからね」
「……貸しじゃぞ?」
ちらりとこちらを一瞥し、胡坐のまま左手をお椀を持つようにすると、その掌に光が生まれ、収束したかと思うと再び膨らみ、成形。翼を広げた鳥の形だ。それに下から色が付いていき猛禽類のスマートさを持つ大き目の鳥の姿を彩る。カラスよりも少し大きいくらいのサイズだろうか。
「さて、27号」
彼の呼びかけに筒の扉が開き「はぁい」と気の抜けた返事と共に俺たちをここに連れてきた少女が顔を出す。
「まだ全快じゃないよ?」
「良い。こっちにおいで」
彼の言葉に首を傾げつつも素直に従う少女。彼女がダティアマーカさんの前に立った瞬間
「あたっ!?」
いきなりその頭部にチョップを叩き込んだ。
直後に響いたのは渇いた木の音。『糸の切れた人形』の表現の通りその五体から力が失せただけでなく関節の方向もあったものではない崩れ落ち方をした。
驚いて凝視すれば今まで普通に見えていた27号の耳や髪が消失し、マネキンのようになったつるつるの頭部がそこにある。なんか怖い。
一方、チョップしたダティアマーカさんの手の先に仄かに光る何かが残っていた。彼はそれを無造作に掴むと、ドワーフの手の上で周囲を見渡していた鳥の頭を握るように押し付けた。
鳥が驚いて暴れるのも一瞬
「ちょ! ますたぁ、なにするの!!」
鳥が27号と同じ声で抗議し始めた。
……今の光が人造魂魄? それを鳥に押し込んだのか?
「……無茶苦茶な事を」
「できることは確認済みだよ。まぁ、僕らが作るような眷属の魂モドキが相手だから可能なんだけど」
同じような存在であるはずのドワーフが呆れた顔をするが、彼はさも当然とばかりに笑みを作り、席に戻る。
「首痛い!」
頭を掴まれたまま暴れれば首も痛かろう。むしろ痛いで済むのだろうか。
ダティアマーカさんは思い出したかのように手を放すとぼてりと床に落ちた。
やや苦労しながら起き上がって主を見上げる鳥は俺の知っているそれと同じく、くりっとした真ん丸の目からは感情を読み取る事はできないが、ばさりと広げ掲げられた翼には強い抗議の念がありありと見て取れた。荒ぶるなんたらのポーズである。
だが、そんなのは知った事でないとばかりに彼は告げた。
「27号。お前には彼らの配下として働く事を命じる」
「いきなりなんなの?!
それにこの体で!?」
「そうだ」
文句は当然だろう。俺よりも何倍も動けるボディから不自由極まりないであろう鳥の体に押し込められたのだ。魂の性能は体に制限される。その理論からすれば神話に残るレベルの仕置きということになる。
「配下ってどういうことですか?」
「君たちは行動の距離的な制限があり、それで不自由を感じることがあるのではないかね?」
思い当たる事は山ほどある。100メートルと言う距離は思いの外近い。俺ですら10秒足らずで離れることができる距離だ。しかも安全を考えれば50メートル以上離れることは好ましくない。PBさんの距離管理は追加できたが、ちょっとした買い物に出かけるにも同行せざるを得ない。
「まぁ、問題にする程ではありませんけど」
「使い魔として使ってくれて構わない。見ての通り、会話も可能だし知性もそれなりにある。
お遣いくらいならできるからね」
「それ、この体になった意味あるー!?」
翼をバサバサとさせながら文句を言う27号(鳥)
ダティアマーカさんはやれやれと肩を竦め、「ある」と断言した。
「実験でもあるからね」
「えー!?」
「アキヒト君との会話で気付いたのだがね。弱さというのは成長に必要だ。
それなのに体の性能を不必要に高性能にしてしまった。これはいけない」
「それ、元の世界におったときに既に分かっていたことじゃろうが。
更に言えば、そのボディに関してはお前の悪乗りで設計したんじゃろうに」
冷静かつ的確な突っ込みにダティアマーカさんの目が泳ぐ。
「……研究にインスピレーションを欠かしてはいけない。君にも理解できることだと思うけど」
「聞き苦しい言い訳じゃ」
ばさばさと抗議の羽ばたきも無理はない。
彼はコホンと咳払いをする。
「次に『生命』であることだ。
思えばこれまで生命に宿らせたことは無かった。僕の権能では植物系しか生み出せない事も理由なんだが……思えば魂とは生命に宿る物だし、付喪神の例を見るに魂が宿るというのは生命が宿るに等しいのではないだろうか」
「知らないしー!」
27号の叫び。確かにそうかもしれないが、彼女にとってみれば、ねぇ。
「これは君が完全なる魂に近付くための実験であり、完全なる魂に近付くことは君の生まれた本分だ。
ぜひ全うし、私に新たな地平を見せてほしい」
細めた目。その奥に輝く英知を求める輝き。絵画のように整った顔立ちで言い渡される願い。
その瞬間を写真なりで切り取れば神々しくもある光景かもしれない。
しかし、
「酷い親じゃな」
「酷いよ!」
今の流れを知っている人から言えばその通りだと俺も思う。
締まらない。まぁ、それは置いておいて。
「うちに来ること、確定ですか?」
「おや、気に入らないかい?
君たちにとって悪い話ではないと思うのだけど」
「そりゃ……そうかもしれませんけど」
不満バリバリの子を引き取れと言われましても。
「君たちとしても僕の研究が進むことは決して悪い事じゃない。
それに、今回のような件を避けるためにもこの子を預かってもらいたい」
「……受け取らないと、また攫いに来るとかですか?」
「違うよ。まだ断言できないが、事故防止の算段を思いついてね。
その為にも暫くはこの子に暫く君たちの傍に居てもらいたいんだ」
今回の件は確かに肝が冷えた。館長の咄嗟の判断と、それに応じられる人が居たから100メートル以上離れずに済んだが、街中で同じように彼女に襲われていたらあっという間に終わっていただろう。
「せめてホムンクルスとかにしてよー!」
「お前の態度次第だ。
危うく彼らを殺しかけた事は間違いないのだから、反省して尽くしなさい」
「うー」
「……なんか、そういう事になりそうだけど、シノ的にはどうだ?」
「どう、と言いますと?」
「……良いとか嫌とか」
鳥になった27号と俺を交互に見て、それから数秒考えた彼女は「特に問題は無いと思います」と結論を述べる。予想通りではあるが。
「わかりました。お預かりします」
「こき使ってやってくれ。食費とかはこの子のPBに入れているからそこからで」
人形となった少女からPBの腕輪を取り外し鳥の足に通すと、きゅっと小さくなってしっかりと嵌った。
「対策については纏まったら管理組合経由か、館長に言伝ておくよ。
君たち、図書館には良く来るんだろ?」
「ええ」
「27号は彼らが図書館に来たときにはこちらに顔を出す事」
「……はぁい」
決定は覆らないと悟ったか、やや不満そうに27号が応じたところで、先ほどの爆発よりも随分と大きな音が鳴り響く。一発や二発ではない。連続した様々な音が合わさっている。
「始まったようだね。静かになれば帰れると思うからもう少しゆっくりして行くといい」
「撃退に成功したりしないんですか?」
「しないよ。管理組合が用意するメンツを甘く見てはいけないし、司書院も本気だろう。
研究者達も殺しはご法度で設置物を選んでいるからね」
「事故の方が怖いくらいじゃな」
「……大丈夫なんですかね、ホント?」
二人の使徒は意味ありげに視線を通わせ、それから気まずそうに壁や天井に視線を泳がせた。
……無事に帰れるのかな……?




