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●三章-6.掃除間近

ニコニコ動画でTRPG動画シリーズを再開してしまいましたので

こっちも週一は守れるようにがんばりたいです。


※前回のあらすじ

・地下の連中はだいたいマッド

-fate アキヒト-




「おや? もう始まったか?」


 話に一区切りついたタイミングで微かに爆発音のようなものを聞いた。あまりにも小さい音だったため気のせいかとも思ったが、彼の様子から確かに音はしたようだ。どうやらこの部屋の防音はかなりの性能らしい。


「いや、しかし……自爆しただけかもしれないな」


 冗談のつもりだろうが、先ほど見た光景からすると十二分にあり得る。


「同士討ちでなく、ですか?」


 先ほどの光景から想像できるのはむしろそっちか。

 しかし彼は苦笑を浮かべ、シノの言葉に首を横に振った。


「何故か必ず自爆装置を付ける人も居るからね」


 そういうロマンを現実に持ち込まないでいただきたい。

 ……この世界が現実離れしているのは否定できないけど意味合いと言うかベクトルと言うかが違うだろうと。ここ、一応公的な施設ですよね?


「乗り込んでくるにしてはまだ早い。

 君たちの件で出発を早めたにしても、部隊を送り込むのならもう30分は掛かるはずだ」

「地下に降りるだけで30分?」


 落下距離を把握する余裕はなかったが、天井が高いにしてもそんな時間がかかる距離とは考えづらい。とんでもなく深いなら俺が即死していた可能性があるし。


「地下一階層を集団が通るのは中々に難儀するからね」

「そこにも何か仕掛けたんですか?」

「効果的だけど、そんな命知らずは居ないと思う」


 そういえば……地下一階層は読んだら死ぬような呪いやタチの悪い魔法が掛かった危険な本を収容しているはずだ。命知らずというのは「そんな危険な場所で作業する事」に対してか、「本の収容場所に仕掛けをして本を傷める可能性を生む事」か。後者な気がしないでもない。


「あの通路は司書院でも適性のあるスタッフが案内しないと危険だからね。

 鎮圧部隊を送り込むなら司書院が総力を挙げて護衛しつつ前進となるから、どうしても時間がかかるのさ。

 君たちも彼らの迎えを待つ方が良い」

「……ここの研究者はどうやって行き来しているんですか?」

「通るだけなら慣れだよ。強制的に取り込んでくるような本は比較的奥まった場所に安置しているから、通用路を逸れず、本に興味を示さなければいい。ついでに強固な対魔法、対呪法、精神干渉耐性があればそこまで問題にならない」


 簡単に言うがその条件を満たしている人はこのクロスロードでも何人いるのやら。

 ……わりといそうな気がしないでもない。集められるかどうかは別として。


「しかし、私たちが落ちてきた穴があるのでは?」

「使わないさ。通路よりも遥かに危険だ」


 ……。

 ……。


「どうかしたかい? 何か言いたそうだけど」

「呪われた本の山より危険って」

「そりゃそうだよ。ここに用意された結界は主に外部への影響を遮断する目的だけど、一方向だけに作用する物とは限らないからね」


 そういえばとんでもない結界が張られているような事を言っていた。


「いや、死ななくて良かったよ。

 ……死ねるならまだ良い方か。一つでもまともに引っかかると多重属性封印で凍結されるか消失だからね」


 俺の困惑の理由を察したのだろうが言葉が軽い。文句の一つも言うべきか、なんて考えている時点で頭に血が上ることは無いだろう。むしろ今更ながらに恐怖に背中がぞわりとした。

 ……って、軽く死にかけてましたね、俺。


「彼女はそんな危険なルートを常用しているのですか?」


 態度が決まらないうちにシノが淡々とした声音で問いを作る。


「あのルートを常用できるのは27号くらいなものだよ。

 ここの研究者にとって対侵入システムのアルゴリズムは公然の秘密なんだけど、複数パターンあるそれのどれかを即座に判断し、回避、突破するのはなかなかに難易度が高くてね」


 よくぞ聞いてくれた的な目の輝き。あ、これ、自慢する流れだ。


「丁度27号を作っている時にその突破チャレンジで盛り上がっていて、組み込んだんだよね。完全突破率34%は今のところ一位の成績だよ」

「魂の研究どこに行ったんですか」

「それはそれ、これはこれだ。

 なに、優秀な身体能力は多くの経験を獲得する手助けになるしね」


 いかにも取って付けた理由にこの人もこの場のアレな研究者の一人だと確信する。さっきの神話じみた昔話の彼はもう居ないのだろう。神様は怒っていいのかもしれない。


「その完全突破率というのはどういう意味でしょうか?」

「無傷と言い換えるべきかな。突破率で言うとほぼ百パーセントだね。ああ見えて演算能力は非常に高いんだよ?」

「……よく俺とシノを抱えて無傷でしたね……」

「うん。手足の二、三は消し飛んでも不思議じゃないから、幸運だったね。

 荷物を持っている時の使用は厳禁と命じていたのだけど、魂としての自意識と計算能力が大胆な判断を下している可能性があるなぁ」


 平然と話す美青年の顔を信じられない物を見るような目で凝視してしまったのだろう。それに気づいた彼は、一瞬訝しそうにして、それから「ああ」と小さく零す。


「手足の一つ二つ生やす手段はわりとあるから軽く言ってしまったが、確かに死ぬ可能性が高かったか」

「軽い……」

「大事には至らなかったからね」


 非常に楽しそうに、あるいは興味深そうに目を細める。本当に手足の一本程度ならかすり傷のように扱った挙句に生やす人も少なくないからなぁ……この街。


「と言うのは君たちに納得できる論では無いか?」

「最近『普通は』って言葉が使えなくて困ります」

「三千世界に渡っての普通が存在するのであれば、それもまた大発見だろうね」

「それが『魂』なのでは?」


 笑顔を凍り付かせ、一瞬でまじめな顔に変化した研究者は、たっぷり十秒ほどシノを凝視した後、「参ったね」と苦笑する。


「他者にその答えを提示されるのは名折れだよ。

 その通りだ。故に僕の研究は果てしないだろう。

 これに関しては不老不死でお創りになられた父なる神の意志に感謝するよ」

「感謝は良いのじゃが、帰る気あるのかのぅ。その発言」


 不意に扉が開き、物凄いひげ面で低身長────ドワーフのような男性が入ってくる。厚手で頑丈がコンセプトな薄汚い服にはいくつものシミが見て取れるし、僅かに油の匂いが漂ってくる。料理のでなく工業用のものだ。


「もちろんだとも、父なる神に叛意は無いよ。地妖精の王」

「ここでその呼び方はやめろ駄エルフ。耳に痛い」

「駄エルフなんて呼び方をする君に言われたか無いよ。

 どうしたんだい?」

「どうもこうも、そやつらの安否確認が来ておる。

 あと、流石にもう少し申し訳なさそうにするべきじゃと思うぞ」

「なるほど。先達の言葉には従おう」

「従う気無いじゃろそれ」


 息の合ったようなやり取りだが、どことなく刺々しい。

 というか、『地妖精の王』って……


「彼が先ほどの話に出てきた地妖精の使徒ですか?」

「そうだよ。扉は消えたわけじゃないから当然追って来ることも可能でねぇ」

「いろいろあって最終的には監視役として派遣されたんじゃよ。いい迷惑じゃ」

「思いっきり楽しんでいる癖に」


 さらに言い返そうとして口を噤む。彼の言葉の真偽は服の油シミが物語っている。『耳が痛い』理由だろうか。

 

「上からの安否の問い合わせが来ておる。無事であれば部隊と一緒に戻るようにとな」

「わざわざありがとうございます」

「そやつの人形のしでかしたことじゃろ。すまんな。

 親が親じゃからあの人形は割と迷惑を省みらん」

「それは父なる神への冒涜かな?」

「よぉし、表に出ろ。ちぃとその頭を直してやる」


 どこから取り出したかウォーハンマーを手に笑顔を引きつらせるドワーフさん。

 うーん……シノは何も突っ込まなかったけど、さっきの話、かなり美化されてたりするのか?


「お客さんの前だからそろそろ矛を収めようか。

 さて、もう三十分はある。補償の話合いでもしようか」


 フンと華を鳴らし矛ならぬ槌を収め、どかりとその場に胡坐をかいて座るドワーフを横目に、ダティアマーカさんはにこやかなままそう、提案したのだった。

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