●序章-6.神話食らいのシノ
投稿ペースについてはまだ検討中ですが、自分が物理的に停止しない限りはエタらないつもりです。
あと、本作PBW用に作ったTRPGシステムがあるのですけど、データ組んだ方か良いかしら。
ナビ二人は最後まで弱キャラ予定ではありますが……予定なんて、ねぇ?
※前回のあらすじ
町の真ん中に異世界に繋がる扉がある。
その付近にある入市管理所で説明を聞いてこい。
何があった我が祖父よ。
-fate アキヒト-
「……よし」
医者から貰った服は俺のサイズより一回り大きいものの、ベルトで締めれば問題ない程度のサイズだった。
ワイシャツにスラックス。ラフなビジネスマンを思わせる服装だが、マッチョメンの私服ではないだろう。無理すれば彼の上着の袖に俺の腰が入りそうなサイズだし。
病院にある、誰のものか分からない服……?
……俺は考えるのをやめた。新しい服を早く買おう。お金ないけど。
カーテンを開くと少女がこちらへ振り返る。
そういえばこの少女、きらきらとエフェクトが付きそうなほどに整った容姿をしているが、着ている服はファンタジーなゲームの村娘Aである。汚れの目立つ白の上着は俺の知っている服の数倍厚ぼったく、ズボンも丈夫さだけが売りですとばかりに重そうだ。
麻とかでできているのだろうか? なんか葡萄踏んでそう。
そんな彼女の手には大きめの頭陀袋が一つある。これも麻袋の親戚のようなシロモノだ。
「医院はニュートラルロード……この町一番の大通りに面している。
路面電車が走っているので塔方向に走っているのに乗れば入市管理所前に行けるので使いなさい」
「路面電車って……道にレールが敷いてあるアレですか?」
サンフランシスコだかを走っている絵面が脳裏に浮かぶ。日本にもあるらしいけど実際に見たことは無い。
「そうだ。……ああ、それも無料だ。
乗る時に入市管理所前と告げておけば停まってくれるだろう」
「なるほど……」
異世界。そう、ここは異世界だ。何度見てもマッチョメンの背中には純白の翼が確かに備わっている。
しかし、それを無視すればここは俺の知っている病院そのものだった。10人分のベッドのある入院患者用の部屋といった感じで、マッチョメンがただの人間であったなら、未だに異世界というワードを冗談と捉えていたかもしれない。このマッチョメンだけが俺の常識からは異質過ぎるのだ。悪口ではないよ? うん。
「寄り道をせずに向かうように」
「子供じゃないんですから」
「……そうなのか?」
真顔で問い返された。そういえば日本人は幼く見られるとかよく聞くが……マッチョメンの世界だと子供サイズという意味かもしれない。
「ふむ。まぁいい。
ああ、それから、五日ほどしたら一度診察に来なさい」
専門家を探しておこう」
魂の傷を視たり癒したりする専門家というのは一体何だろうか。セラピスト?
考えたところで俺の知識の外だろうと割り切り、「わかりました」と返す。
「……じゃあ、行こうか。
……えっと」
そういえばこの少女の名前を聞いていなかったことを思い出す。
……ついでにマッチョメンの名前も聞いていない。今さら過ぎるのでこっちは次の機会にでもしよう。
「君の名前は?」
俺の問いに、少女の動きが固まる。
え? 何その反応。思わず周囲を見回してしまう。
「術系統のない地球世界の出身者だ。
君に対する忌避感は無いだろう」
マッチョメンのよくわからないフォロー。少女は数秒縋るようにマッチョメンを見て、それから清水の舞台に飛び込む手前の葛藤を見せてから俺に向き直る。
「……名前はありません。
…………『神話食らい』と呼ばれています」
「しんわぐらい?」
それは『そういう設定』を持つ系の女の子ということだろうか?
……いや、マッチョメンの直前のフォローを考える限り、そしてここが不思議パワーがある異世界だとするならば、それなりに意味のあるワードなのだろう。
「その辺りは道すがらでも説明するといい」
「あ、やっぱ説明が必要な話なんですね」
「命に係る事でもある。理解はなるべく深めておくべきだろう」
100メートルの壁によりちょっとした不注意で死にかねないのが俺である。
結構広そうで、気を抜けば越えてしまいそうな距離の中で付き合う必要がある以上、マッチョメンの言はどこまでも正論だ。
「で……神話食らいって呼ばないとダメか?
流石に呼びにくいというか長すぎると言うか」
「……いえ、そんなことはありません」
「そうか? じゃあ……シン、は男っぽいからしんわ、……シノ? シノって呼んでいいか?」
何故か驚く少女。うっかり隠している名前を当てた、とか?
「ダメだったら言ってくれ」
「いえ、良いです! シノで、良いです!」
あれ? 食いつき良いですね?
とても喜んでくれたようであるが……会ったばかりの男につけられたあだ名が嬉しいとはどういう心境なのだろうか。
……『神話食らい』って言うのを躊躇っていたくらいだから、実はその名前が出るのは嫌だとか?
だからそれ以外の名が嬉しいのだろうか。
「……じゃあ、シノ。行こうか」
「はい。アキヒト」
一気に好感度が上がっている模様。チョロインとか呼ばれますよ、そんな事じゃ。
あと、俺から先に呼び捨てにしてしまったのだが、彼女もこちらを呼び捨てにしていらっしゃいます。
……この子実際は何歳なのだろうか。実は年上という展開もあり得るんだよな……
「さん」付けするにはどうにも似合わず、「ちゃん」付けするほど幼くも見えない。特にイヤそうな顔もしていないし、このままでいいか。
「じゃあ、先生。改めてありがとうございました」
俺が頭を下げるとシノもマネするように頭を下げる。いちいち動きが小動物じみていて、かわいらしい。お姉さま方に囲まれて撫でられるタイプだな。
「ああ。気を付けてな」
マッチョメンの言葉を受けて俺たちは部屋を出る。
……目覚めてから二時間ばかりか。
長かったような短かったような時間を経て、俺は異世界の町へと繰り出すのだった。




