●二章-22.死霊王との語らい
ようやくこの章もクライマックスに突入しそうです。次回。
裏サイド側の記述とごっちゃになり、無い記述探してたのは秘密です。
※前回のあらすじ
・ノーライフキングとカフェで語らう昼下がり(夕)
-fate アキヒト-
ノラ夫妻。
誰が付けたかノーライフキング夫妻の略称であり、本人たちが気に入って愛称となったもの。今となってはその愛称を知る人は多いが、それがノーライフキングの略であること、彼らがアンデッドである事を把握している人は少なくなってしまった名前。何故なら彼らは門前会議の後からずっと、そのほとんどの時間を町の外で過ごしており、以降にこの街に訪れた者は出会う機会すらなかったから。
傍目にはジェントルメンのコスプレをしたスケルトンと貴婦人の幽霊なのだが、その一挙手一投足、纏う雰囲気には優雅さや風格が確かにある。
「実は、長年私に仕えてくれていた愛馬が引退を決意してね」
馬を引退させるでなく、馬が引退を決意するという不可思議な言葉に首を傾げざるをえない。
「愛馬、ですか?
そういえば町の外は草も生えていないと聞いていましたけど」
「友人の死霊騎士から受け継いだ死霊馬でな。我らと同じく食事は不要なのだよ。
だが、そんな彼も思う存分走り回って満足したらしい」
なるほど。そんな死霊の馬が満足して引退を決意するという事は、成仏したいとかそんな意味か。
「だが我々はまだまだこの世界を楽しみたくてね。
それで新しい足を探しに舞い戻ってきたというわけだ」
「それでヴェルメと同じものを?」
「うむ。ドゥゲスト殿の魔道エンジンについては前々から話だけは聞いていたのでな。
もしかしたらと思えばまさか景品になっているとは思わなかった」
「残念ながらもう当選者が出たようでしたけどね」
「まぁ、ドゥゲスト殿と交渉をするつもりだよ。
で、そんな折、君たちを見つけてな」
そんな状況でヴェルメを見かけたのならば、見てみたいと思うのは当然だろう。
「でも、ようやく二号機というのに、簡単に受けてくれるんですかね?」
「彼らの依頼なら優先的に作る可能性は高いと思うわ。
なにしろ町の外、探索済み区域の三分の一は彼らの実績よ?」
俺の疑問に応じたのはヴェルメだった。怪物からの町の防衛も重要だが、不思議なルールに支配されたこの星の調査も同等以上に重要な項目だ。この未開で不毛で、更にはいつ怪物と遭遇するかもわからない土地の多くを調査してしまうような人ならば、管理組合が優遇したいのは分かる。
「はっはっは。それは言い過ぎだ。せいぜい五分の一程度だよ」
「五分の一でも充分凄いと思います」
確か周囲二百キロメートルだかが探索済み地域のはずだ。つまり単純計算でも二百平方キロメートル以上を踏破したということになる。距離に直せば如何ほどになるのだろうか。
「単に我々がこの世界の探索に適していたからに過ぎない」
「のんびり巡っているだけでしたものね。
時々遭ったヒャッハーズの方が広く調査していると思うわ」
「ヒャッハーズ?」
「もう一つの有名な未探索地域探索隊よ」
なんだろう。モヒカンで世紀末な絵面が思い浮かんだんだが。
……いや、どっかの世界の意味のある言葉かもしれない。
『だいたいモヒカンでトゲ付き肩パットです。
チーム名は掛け声から付けたとの事です』
PBさんから何故か伝えられた情報が眩暈を齎し、思わず頭を抱えてしまった。いや、まぁ、悪いって事は無いんだけど。流石に種籾を奪っていくような人たちではあるまい。
「おや、どうかしたかね? まだ影響があったかな?」
「いえ、大丈夫です。何でもありません」
「そうかね?
まぁ、そういうわけで補給要らずという魔道エンジン付き駆動機を求めたわけだ」
「まさか会話ができるとは思わなかったわね」
頬に手を当てうっとりとヴェルメを見るエターニアさん。本当に美人なんだけど、青白く透けた頬、隈の浮かぶ目元、映像の乱れのように動く目が次の獲物を狙う悪霊のそれにしか見えない。
「その機能が付くかは分からないわ。
私の知性は実験データを採るための特別仕様と聞いているし」
「なるほど、そこも要相談だな」
「ふふ、娘みたいな子が良いわね」
「結構な金額らしいですけど?」
一度調べて諦めた理由を思い出して口にする。二人は多少困ったような顔をするが、ヴェルメが呆れたように口を挟む。
「要らない心配よ。彼らの得ている報奨額ならね」
未探索地域へ行くと、その確認エリアに応じて報奨額が出ることになっているのだそうだ。その額は決して少なくないが、そろそろ距離から生じる補給の難しさ、危険度が報奨金に見合わなくなっているという問題も生まれているのだそうだ。その上報酬でなく、単に旅行気分で未探索地域の調査をしている彼らが居るのだから、後塵を拝する者も生まれにくいだろう。
「そういえばそういうのもあったな。
使うあても無いから丁度良い」
「ですわね」
「どちらかと言うとメンテナンスと消耗品の方が問題と思うわ。
ただ走るだけなら半年くらいどうと言うことは無いけど、戦闘になれば話は別だから」
「ふぅむ。機械はそういうのがあるか。
故障で置き去りなどにはしたくはないな」
「この際覚えてみては如何かしら?
あなたはそういうのもお好きでしょう?」
「それもまた一興だな。それに半年で町も随分様変わりした。しばらく滞在するのも良いだろう」
門前会議の直後ならば、まだこの街並みは存在していなかったのだろう。多種多様な種族が行き交う街を感慨深げ……と思われる風にゆっくりと見渡す。
「この世界、この街では君のような普通の人間と語ることも可能だからな」
「この街では?」
「おや、知らんのかね?」
注文したお茶のカップを手にわずかに首をかしげるスケルトン。どう見ても伽藍洞の骨なのだが何故か飲んだお茶は零れない。
「大体の世界において、アンデッドは生きている者を憎むようにできているのだ。
しかしこの世界にそれは無い。これに限らず世界に定められた衝動や宿業による圧力が大いに緩和されるのだ」
眉根が寄ったのを見られたのか「ふふ、人間種には分かりづらい感覚ですものね」と奥さんの方が頬に手を当てて微笑む。
「わかりやすいのは吸血種の吸血衝動か。あれはおおよそ『血を飲みたい衝動』ではなく、『生き物から血を吸いたい』衝動なのだ。だがこの世界では代替品でも十分事足りてしまう。
他の例だと、そうだな。ああ、魔王だな」
「魔王……そういえば邪神や魔王も居るって言ってましたっけ」
「ああ。彼らは世界に混乱と破壊をもたらす宿業を得ている。故にそのための行動を行う。
世界を滅ぼした後の事など考えもしない。世界の脅威になる事が役割であり全てなのだから」
「同時に、英雄に倒される宿業を得ているものです。
そんな圧力と開放により魂の大きな成長を狙うのですね」
何そのマッチポンプ、と内心で呟くが、実際マッチポンプとして用意されているのだろう。ゲームの魔王はまさにそんな感じだ。弱いうちの勇者を直接攻撃せず、育ち切ってから対決する。それはクリアできることが前提のゲームとしてのお約束だが、魔王を用意したのも神様なら当然だ。
それで英雄が魔王を倒せば、遣わした自分が称えられるのだから、酷いけど効率的だ。
「かく言う私たちもそういう宿業を与えられ、地下大迷宮に居座っていたのだがね。
場所が悪かったのか一度たりとも神の使徒たる英雄とまみえることが無く、何代もの魔王が消えていった」
「そうしているうちに人間が勝手に滅んでしまいまして。
世界を終わらせると創世神が決めたところで扉が現れましたの」
「……それは、お疲れ様です」
人類の脅威として倒されるためだけにアンデッドとして生み出され、その役目を一度も果たさぬままにお役御免というのは流石に酷いと思う。しかも知らないうちに人類が滅ぶなんて神様に文句の一つも言いたくなる事だろう。
二人は顔を見合わせると、旦那さんはまたカラカラと骨を鳴らしながら大笑いをし、奥さんの方も口に手を当てて笑い始める。
突然の大爆笑に俺は目を見開いて二人を交互に見る。何かおかしなことを言っただろうか?
すると旦那さんの方が膝をバシバシと叩いて俺の方へと向き直った。
「いやはや、『お疲れさまでした』と言われる日が来ようとはな! しかも人間にだ!」
「ふふ、本当に。
どうせでしたら創世神殿に言ってほしかったですわね」
「あれがぬけぬけとそんな戯言をぬかしたならば、千年以上ため込んだ全呪力と呪詛でぶん殴っていたがね!」
二人のコメントに俺は改めて先ほどまでの話と自分の発言を思い返す。
彼らは人類の敵として存在していたのだ。そして、場所が違えば俺はそのターゲットとなるべき存在……というより気付かれないままに殺される役どころの人間である。そんな人間から上から目線ともとられかねない言葉を貰うとは思わなかった、って事か?
……笑って貰って助かった。
「ククク……ああ、こんなに笑ったのは初めてかもしれんな。
君は科学系世界の出身だね?」
「え? ええ、まぁ」
「だろうな。うむ。
ああ、やはりしばらく滞在しようではないか。異世界人の魔法や奇跡の通り科学系世界の価値観と言うのも興味がある。
我らを畏れぬ生者と語らう日が来ようとはな。この世界は本当に素晴らしい」
「ふふ、最初は怖がっていましたけどすぐに慣れましたね?
貴方が特別、度胸があるのかしら?」
「……どちらかというと、この街に慣れたせい、ですかね……?」
姿かたちでどうこう言う時期はとうに過ぎている。じゃないと毎日郵便配達なんてやってられません。
……あれ? 警戒し過ぎとか言われている割には警戒心がかなり危うい状態にある気がしてきた。
「なるほど。確かに。
ここの店長も最初はゴブリンだからと随分苦労したらしいな」
「あの子、進化に進化を重ねた異常種ですのにね」
「酒場の主というのは腕っぷしが必要と聞く。それを生かせたと思おうでないか」
「いや、うち、カフェですから。
あと荒事が苦手なんでこういう道を選ばせてもらったんですよ?」
お代わりを持ってきたゴブリン店長さんのツッコミに「そうであったな」とまた呵々と笑う。この人、結構な笑い上戸なのではなかろうか?
……いや、もしかするとずっと地下に人間の敵として居たため、笑いのハードルがかなり低いのかもしれない。
「いや、駆動機の事といい、現状の事といい、随分と参考になった。
感謝するよ」
「いえ、こちらの話も聞いてもらいましたので」
「ふふ。ついぞ英雄は我が元に来ることは無かったが、欲深き魔術師が数多我の元を目指したものだ。私が礼を言うような事になれば目の色を変えて法外な要求をしてきただろうに」
「喫茶店でのおしゃべりにそんな大層なおまけを付けられても困ります」
「それを心地よく感じず、不敬不遜と見下すような輩にはこの街は合わないのであろうな。
いや、有意義な時間だった。ありがとう、アキヒト君」
席を立つスケルトン……うん。この街の一番の問題はやっぱり名前だな。
『ヴァニシッシュ・レイ・ヴォーンドウルグです』
ありがとうPBさん。いつも助かります。
「いえ。
パレードは見ていかないのですか?」
「顔を出さねばならないところがあってね。別の場所から見物させてもらう事になるかな。
ではまた語らおう」
続いて立ち上がり、小さく手を振るレイスの奥さん。こっちは覚えている。エターナル……あれ? 違う
『エターニアです』
重ね重ねありがとうございます。
口に出さずにそんなやり取りをしている間に、紳士服の背中は増えてきた人混みの向こうに消えていった。
「アキヒトは変な縁が多いね」
「今のはどっちかと言えばヴェルメだろ?」
「そう言われるとそうね」
時間を確認すると間もなくヘルズゲートからパレードが出発する頃合いだろう。昨日の宣伝が功を奏したのか人の流れもぐっと多くなってきた。
「アキヒト」
「ん?」
町の変化に目を向けていると、いつも通り大人しく聞きに徹していたシノが不意に声を掛けてくる。
「金時さんです」
応答する前に続けられた言葉。彼女の視線を辿れば道を挟んで向こう側の店舗の上に大柄な男が鎧を着て仁王立ちしている姿が確かにある。
「ここで、やるのか?」
問いかけは届かないし表情も見えない。
しかし遥か北、門より来るそれを待つ雰囲気には覚悟と緊張がそこにあるように感じるのだった。




