●二章-17.魂の共有
この世界にまつわる基本条項は大体説明できたかなぁと思うのですが。
何か分からない事ありますかねー?
一応三章以降は説明少なめで物語展開したいなとは思っていますが。
※前回のあらすじ
・俺じゃない俺が目覚める
・目覚めたけどやっぱそれ、ダメ
-fate アキヒト-
次のアドバルーンに到着してしまった。少し離れたところに停車したのはヴェルメの配慮だろう。
意気地なしの躊躇が鼓動を早めるが、このままじっとしていても何も始まらない。
「シノ」
「……はい」
意を決して名前を呼ぶ。
シノの強張った返事。俺は一拍の間を置いて言葉を続ける。
「もしかして、俺の思考が読めたりするのか?」
「「そっち?」ですか?」
シノとヴェルメの両方からの突っ込みに「え?」と言葉を漏らす。
「いや、重要なことだよな?」
「重要かどうかで言えばそうかもしれないけど、優先順位おかしいわよ?」
「いや、さっきの俺の行動が何かは、想像はつくし」
ヴェルメから降りてシノを見れば、ぽかんとした顔をしている。そこまで変なことを言っただろうか?
隠した特技も経歴も、親の秘密も何もない俺に秘められた力など存在しない。とすれば、さっきの自分の意識を無視した行動はシノの『守護者』として動いたのだろう。身を引いて、シノにぶつかって、「これ以上後ろに下がるわけにはいかない」と思った瞬間の出来事だからほぼ間違いないと思う。
結局道徳心と背反して動けなくなったから、強制力はそれほどでもないのだろう。
それよりも、それよりも、だ。
年頃の娘さんに男の頭の中をいつでも覗かれる可能性がある、という方が身の毛のよだつ大事件ではなかろうか。
一応、シノに顔向けできないような妄想はしたことは無いはずだが……はずだが、一緒に暮らしている子にですね、汚物を見るような視線を向けられる生活はしたくありません。
それにシノに対してだけでなく、配達をしているとですね、居るんですよ。ただでさえやたらと美形の多いこの世界で水着か下着か分からないような格好の人が町を歩いているんです! ビキニアーマーとか二度見したもの。「なんでそんなものが実用品として存在しているんだ!」と葛藤が胸を焦がしたもの!
……
……
……こほん。
そういう時でもガン見するような真似は避けていたけど、思考まで読まれると逃げ場がないのです。はい。
いや、うん。この思考も危ういか? リアルタイムで読まれてる? シノの困惑は俺の思考に対してじゃないよな? いや、だから、落ち着け俺。
深呼吸。
話を進めよう。
「今日はヴェルメが居たから必要なかったけど、居ないときには有用な物だよな。
それでも葛藤して動けなくなるくらいヘタレだから。俺」
「……否定しづらいわね。」
自虐的に言ってると、フォローだか追い打ちだか分からないコメントが胸に刺さった。
「……。
だから、いざという時はアレに頼れると思えば悪くないと思うぞ」
「アキヒトは……わかりません」
困惑ここに極まれりという顔でシノが俺を見上げる。
「わからないからって思考を読むのはマジで勘弁してください」
「……それができるかどうかはよくわかっていません。
私には必要のない能力ですから」
必要のない?
そういえば元々この守護者は死体から作る物だから、頭を覗いたところで意味がない、ってことか?
「ただ、意識の共有、と言いますか……感情の系統と、それがどこに向かっているかがなんとなくわかる程度です」
「細かいことはわからないけど、アキヒトが誰を見て興奮しているかとか分かるわけね?」
「ヴェルメさん。悪意ありすぎませんかね?」
「実例挙げてほしい?」
「やめてくださいお願いします。死んでしまいます」
ヴェルメさんが違う方向にも高性能すぎて困る。
二輪車の実験機にどうしてここまで情緒豊かなAIを積んだんだか。
シノ、その話題に興味を持たなくていい。
「あー、怒っているのか悲しんでいるかは分かるし、その感情を向ける先は分かるけど、詳細は分からないって事で良いんだな?」
「はい。
……例えばアキヒトが私を子ども扱いしている時は分かります」
視線を逸らす。慈愛とかそんな感情がシノに向けられているんですね覚えがあります。
「でも、それってアキヒトの方も分かるもんじゃないのかい?
『共有』なんだろ?」
「……おそらく条件は同じかと」
「いや、そんな感覚に覚えがないんだが……」
俺は困惑の表情を解いたシノの顔を見た。病院の時の会話と二週間のやり取りが過ぎり、一つの答えを導き出す。
「……あー、多分だけどな。
シノが強い感情を示す時って顔に出るから読む必要すらないだけじゃないかな。
それ以外の時は殆ど感情を動かしてないだろ?」
「……まだ、よくわかりません」
ぺたりと自分の白い頬に触れるシノ。単なる疑問程度では眉根の一つも動かない。
感情の動かし方に慣れていない。動いたとしても忘れたかの様に平常に戻ってしまう。道真館長の話の通りだ。
それでいて『まだ』という言葉が出る程度には変わる兆しを得ているのかもしれない
「そういえば図書館に行った後の確認とか報告、すっかり忘れてたなぁ。
次の休みにでも先生の所に行ってみるか……」
祭りがらみで忙しかったり、目まぐるしかったりしたせいで完全に思考の外だった。
流石に祭りの最中に押し掛けるのは気が引ける。次の休みくらいに行く事にしよう。図書館に行った結果も見てもらう必要があるだろうし。
「そういえば、あんたの酷いレベルの心配性もそのせいなのかね?」
「あー……どうだろうなぁ。
半分半分ってところじゃないかな」
行き過ぎていたと言われれば確かにそうかもしれないが、その発想をおかしいと思わず、推し進めたのは不安があるからだろうし。
「ひ弱な一般人としては、この街はやっぱり怖いよ。
さっきの連中なんて、ナイフを抜くことも、突きつけることも……俺を殺す事に何の躊躇も無かった」
それはもう強さ弱さの問題じゃない。倫理観、価値観が全く違う相手が普通に歩いている。
一般人枠を標榜する俺が、簡単に拳銃を入手できて携帯している。それを握る事すら吐き気と困惑に苛まれた俺はきっとこの世界では少数派なのだろう。俺の世界だけで見ても、海外旅行では「細い路地に入るな」「ガイドが危険と言う区域には近づくな」「夜一人で出歩くな」と注意されるらしい。自動販売機が置けるほど、異常なほどの平和な国で暮らしていたのだ。
「郷に入っては郷に従えとは言うけど、人殺しをしたいとは思わないし、仕方ないと容認することも多分俺にはできない。
だから、どっちかというとシノにごめん、だな。
いざという時は言い訳にさせてもらうと思う」
「アキヒトは本当にわかりません。
いっそ、思考が読めた方が良かったと思います」
「だからそれは勘弁してください」
「どうしてでしょうか?」
「説明するのも罰ゲームです」
こてんと小首をかしげるシノ。なんだろう。ヴェルメが笑っている気がする。いや、笑ってるだろうな。解説しないだけありがたいと思おう。ツッコむと藪蛇になることもいい加減学んだ。
「よし、じゃあ次のゲームに参加するか」
「あの、アキヒト?」
これ以上の追及を避けるためにシノの手を引きながらアドバルーンの下にあるテントに向かう。
題目は水風船釣り……か? 巨人種が物凄くやりにくそうにしている。
と、そんな風に思考を切り替えながらも、俺は先ほどの話題にまつわる事で一つ、いや二つの懸念を抱いていた。
……これも先生に相談だな。




