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●二章-16.守護の思い 平和の呪い

※前回のあらすじ


・犬かわいいよ犬(作者の感想)

・なんか輪投げ成功したのでメダルゲット。

・百鬼夜行は見に行こう。

-fate アキヒト-




 さて、二日目のお昼。

 昨日よりも町を行き交う人は圧倒的に多い。


 昨日は昨日で多かったが、多くは酒場で昼間から騒いでいる人だらけだった。しかしそんな酒場ですら地図を広げて情報交換や作戦会議をしている姿が目立つ。アルコールの類は……飲む人は飲むんだな。

 更に目立つのは走り回っている人たち。そういう人たちはヴェルメを見て物凄く羨ましそうな顔をする。それどころか譲ってくれ、貸してくれと声をかけてきた人すらいる。「エンジェルウィングスの備品だ」と言うと驚いて引き下がっていったのだが、それでもと食い下がる人はヴェルメが一蹴していた。


「エンジェルウィングスって影響力あるんだな……」

「そりゃそうでしょ。食料はもちろん、彼らが日々消費する弾薬やポーションの類、その原料を日々輸入しているんだもの。まさしく生命線よ」


 エンジェルウィングス以外にも多くの『行者』────クロスロードに定住せず、世界間を渡る行商人が数多の品物を流通させているため、無くなったら即町が行き詰まるということは無いが、町が日々消費する品目を重点的に大量輸送しているこの会社が機能停止すれば影響は大きなものになる。

 特に食料への影響が大きい。なにしろこのクロスロードの食料自給率はほぼ0%なのだ。

 クロスロードの周囲を取り囲む果てしない荒野。ここに魔法や奇跡も含めたあらゆる手段で農作物を育てようとしてみたが失敗。現状クロスロードの壁の中のみが植物が育つ環境と認識されている。

 唯一この世界で採れる食料は怪物の肉。しかし怪物の肉は魔術薬などには使えても食品として適さない物が多く、また人々の生活を支えるほどの量を確保するは不可能と考えられている。そのため需要のなく嵩張る肉よりも角や目、一部の内臓など魔法や薬品に使えて価値の高い物を拾って帰ってくるのが探索者の常識になっている。

 クロスロード内なら育つのなら、クロスロード内に農場を作ればいい、とも行かない。都市を支えるほどの農場は都市の数倍の広さを必要とする。とても足りないし、コストパフォーマンス的にも輸入の方がよっぽど安い。俺の出身世界のように、200円も払えばお手軽に食事が採れる世界があるのだから。

そういう背景があって、エンジェルウィングスの価値は他の団体よりも一段高い。その上、その評価に驕らず、最初の目標である「故郷への道の捜索」を重視している点で更に好感を得ている。

 以上、PBさんの解説とかより。


「制服着ていないのに分かる人が多い事に驚いたけどな」


 自動二輪が珍しい上に二人組で片方が美少女という組み合わせはすでに町の記号の一つになっていると割って入ってくれた象の頭の戦士が笑いながら言っていた。片方は冴えなくてすみません。


「虎の威を借る狐ってやつだな」

「格言ですか?」

「バックが大物だからって、自分の力が強いみたいに威張るヤツに使う言葉だな」


 起源となった物語的にはうまく虎を利用した賢い狐だったはずだけど。あれ? 誤用になるのかこれ?

 その件はまぁ、横に置いておいて。

 思いのほか自分たちは知名度があるらしい事が分かった。必要以上に気負う必要はないと思うけど、気にはしておこう。少なくとも雇い主に怒られる事態は避けないといけない。


「大人しく寄こしやがれ!」

「ふざけるな! なんでお前なんかに!!」


 アレコレ考えながら次の目的地に向かうべく路地を走っていると、争いの声に遭遇する。正面の道に男が三人。人間種だがやたらパンクな格好をしていかにも悪役という感じだ。その前に尻餅を着き、睨み上げているのは頭が犬の、多分子供。身長は中学生並みでグルルと威嚇の唸りが喉の奥から漏れている。


「あんな子に情けない奴らだね。跳ね飛ばしてやろうか」

「ちょ、ヴェルメ!?」


 残念ながら操縦権は俺にない。ぐんと加速したヴェルメが少年の横を過ぎてブレーキ。前輪を支点として後輪に大きく弧を描かせながら、有言実行とばかりに男の一人を弾き飛ばす。


「げぶぉ!?」

「な、なんだ!?」


「いい歳して恥ずかしい事してるんじゃないよ!」

「ンだとコラ! 男のくせに、女みたいな声出しやがって!」


 俺じゃないですって言葉を発する間もなく被害を免れた一人が殴り掛かってくる。思わず目を閉じるが、すぐに「痛ぇえええ!?」という悲鳴が響き渡った。薄目を開ければ拳をぱっくり割って悶える男の姿がある。


「なんだコレ! 魔法使いか!」

「畜生、嘗めやがって!!!」


 三人目の男がナイフなのか鉈なのか分からないような大ぶりの刃物を腰から抜き、こちらへと向けた。簡単に刃物を抜くとか、ここは……ここは無法都市ですね。逃げたい。


「ほら、アンタ。ぼぅっとしてないで逃げな!」

「え? あ、ありがとう。お兄ちゃん?」


 俺の言葉じゃないんだが……

 たったったと響く足音で獣人が逃げ去った事はわかるが、目は正面から離せない。ギラギラと輝くナイフの光が、それを奮う事に欠片の躊躇もない血走った目が俺の体をこわ張らせる。


「あー、ヴェルメ。これ、大丈夫か?」

「構えがなってない。外用の装備でも無い。探索者にもなれないチンピラよ?」

「チンピラにもなれない一般市民ですけどね、俺」


 思わず腰のポーチに追加したホルスターに触れる。撃つ覚悟は無いのだけど、あれ以来一応と携帯しているのだ。まともに抜いたことすらないけど。


「だぁりゃぁああああ!!」


 男が大きく振りかぶり、俺の顔面を目掛けて振り下ろしてくる。脅しもなにもあったものじゃない。殺すつもりの、容赦のない一撃。ぞわりと体が震え、身を引いてシノを軽く押してしまう。


 ───ああ、ダメだ。これ以上下がれない。


 すぅと心が冷えた。

 右手がそれを掴もうとして、一度失敗。二度目にチャレンジしている間にヴェルメの障壁が刃を受け止め、弾く。

 脅威が遠のく。右手がそれを掴み、引き抜く。


 最初にひき飛ばされた男立ち上がっていない。拳を割った男もこちらを睨んでいるがすぐに動く気配はない。脅威はナイフの男。

 セーフティもない、ハンマーを引く必要もない。

 ただ、引き金を引けばいい。


 くらりと、脳の奥が揺れる。吐き気がこみ上げる。平和な世界で、平和な日常で、教え込まれた倫理観が、殺人への忌避感が腹の中をかき乱す。目の端から涙が零れる。

 それでも、


「アキヒト、違います」


 それでも人差し指が動く。あと数ミリ。この武器は弾丸を吐き出すまでのラインに至る寸前、小さな手が俺の上腕を掴んだ。


「ぅあ?」


 狙いを付けるために止めていた呼吸が許される。

 思考を固めていた何かが霧散し、銃と、その先に居る男。人殺しを為す直前の自分を認識する。


「なっ!?」


 銃口を向けられているというのに、俺の狼狽を見て男が再度斬りかかってくるが、ヴェルメの障壁に簡単に弾かれる。まるでテレビの向こうの光景のようにその姿を見ながら、俺は自分のやろうとしていたことを反芻し、二の腕を握り続ける手に視線を向ける。


「反応がおかしいけど、どうしたんだい?」


 目の前の存在を脅威とも思っていない。こちらを心配する声音を向けてくれるが、状況を把握しきれていない俺には返す言葉がない。

 ただ、シノの手に少し力が入った。


「私のせいです」

「ん? 

 ああ、そういえば、シノを守る使い魔みたいなのだったっけね」

「……ああ、そういう」


 日本に溢れかえる数多の創作物の中に似たような展開はいくつもある。なんとなく我が身に起きた事は想像できた。多分、実際に撃たなかったし、殺すことも無かったから落ち着いて飲み込める。

 ちなみに……中二病とは違うよな?


「ぐへぇっ!?」


 懲りずに三度襲い掛かろうとした男が上からの力で押し潰されていた。こちらが油断しているとでも思ったのだろうか。その根性はもっと別の所に使ってほしい。


「ヴェルメ、ここから離れよう。あの子ももう遠くに行っただろうし」

「……あんたもアヤカやトミナカと同じ価値観だったわね」

「説明の手間が無くて助かるよ」


 急速発進。


「ぎゃぁっ!?」


 足を踏んだのは絶対にわざとだ。重量を考えると足首を粉砕骨折していてもおかしくないだろう。同情する気持ちは全く湧かないけど。


「ああいう手合いは生かしておくと後々面倒だっていつも言っていたんだけどね」

「多分ヴェルメが正しい。でも悪い、割り切れない」

「アンタの国の教育って恐ろしいわね」


 人を殺さない。殺してはいけない。そんな当たり前を彼女は『恐ろしい』と称した。

 殺意を、凶器を持った人を前にして「反撃して殺してしまう可能性」に怯える事は呪いにも見えるかもしれない。


 深く、深く息を吐く。ほんの一分も経過していない過去。或いは人を殺してしまったかもしれない出来事を思えば全身にどうしようもない怖気が走り抜ける。

 ゲームや漫画の主人公のように、一回悔恨を経れば人殺しを許容できるようになるとは思えない。

 でも、もしヴェルメが居なければ、俺は血だまりに沈んでいたかもしれない。

 可能性を思うだけで震える。確かにこれは呪いだ。自分の身を危険に晒してなお心を抉る呪い。

 この世界では早く投げ捨てるべき楔。

 でも、


 未だ右腕を掴んだままの小さな手にそっと触れる。


 彼女は止めた。だから今はそれが正しかった。

 先延ばしかもしれない。でも、良かったと俺は思う。だから今は良い。先のことは先の俺が考える。


 だから、今俺が思い悩むべきは別の事だ。

 きっと、泣きそうな顔をしているんだろう。

 制限時間は次のアドバルーンの下に着くまで。

 ゆっくりと体の熱が引いていくのを感じながら、俺はシノに告げる言葉を探して目を閉じた。

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