●二章-15.輪投げ
ほのぼの縁日。ノットほのぼのは裏でやる(キリッ
※前回のあらすじ
・ダイアクトーはまつりをのっとった。
-fate アキヒト-
「アキヒト、挑戦しないのですか?」
「無理」
俺は101メートル先の棒を見て、手の中の輪を持て余していた。
多種多様な種族が混在する世界で、公平性を持たせたゲームを行うのは難しいのは言うまでもない。種族特性がそのまま有利不利になるのだ。
これを解消する方法の1つ目が複数個の競技を用意し、各競技につき1つまでしか獲得できないという制限を設けた。
そしてもう一つの手段が目の前にある。つまり100メートルの壁を利用する事。魔法も異能もその制御が及ばなくなるこの世界のルールを介せば、この輪投げにしても、念力で飛ばしたり、いきなり目標の上に転移させたりはできなくなる。もちろん100メートルギリギリまで伸ばしてから、という手段を採れる者も居るだろうが、それはもう諦めるほかないのだろう。
それよりも100メートル飛ばす筋力が無いという問題に直面している俺が居るのだが。
「それ、フライングディスクだから届かせる分には問題ないぜ?」
全身黒タイツが的屋のおっちゃんのように猫背で座りながら気楽にそんなことを言ってくる。輪投げの輪にしては平たいとは思っていたが、そういうことか。
ちなみにおっちゃんの横には犬というには凶悪な面構えの獣が三匹控えている。彼らは回収役で、床に描かれた線を越えて外に行ったときにキャッチしてくるのだ。伏せの姿勢でこちらこちらをチラチラ見ている。外せという圧を感じる。喋れないようだが知能は高いようだ。
「なら、やってみるか……」
ちなみにシノは隣に設置された俺のよく知る輪投げをやって、メダル小をゲットしている。キッズ用のメダルは子供が無くさないようにするためかワンサイズ大きく作られ、銅のメッキがされていた。配慮が細かい。
さて、チャンスは3回。1つでも棒に入ればクリア。参加料は1回10C。
そう、タダではない。が、本当に小銭程度だ。気にする者は殆どいないだろう。
一個目を投げる。いきなり斜め四十五度の角度ですぐにラインを割る。投げたと同時に暴投を見切ったイヌモドキがダッシュして線を越えたタイミングで輪をキャッチ。てっこてっこと戻って来ながらこちらを見る。期待……じゃないな。もう少し遠くにしろとダメ出ししている気がする。
隣の触手ウネウネさせた人が大きめのフォームで突き出すように輪を投げると、真っすぐ進み、しかし勢い余って的にはじき返された。思いのほか真っすぐ進むのかな。落ちた輪もイヌモドキが拾いに行くのだが、その場合は少し詰まらなそうである。やはりキャッチするというよりも追い掛ける事が好きなのだろうか。
後ろが詰まっているので二投目。さっきよりも綺麗に飛んだが、だんだん右に流れて枠の外へ。イヌモドキが猛ダッシュしてキャッチ。戻ってきて俺に輪をくれる。イイゾと言わんばかりに尻尾が振られているが悪意は無い。頭撫でると喜びそうだが噛まれると手首ごと持っていかれそうな牙が怖いので素直に輪だけ受け取っておく。ルール的にこれは使えないのだけど。
そして三つ目。イヌモドキさん、準備するのやめてください。
自分なりの修正を加えた一投は回転の分、に緩やかに流れながら目標へ。届くか届かないか心配なふわふわ感でなんとか目標到達。それが良かったのか斜めに設置されている目標に当たって棒に引っかかった。
「おや、クリアだな」
カランカランとベルを鳴らせば視線が集まる。隣のウネウネさんが頭部らしき部分を上下させているのはどういう意味だろう。祝福してくれているというよりも、「なるほど」と感心しているのだろうか。威嚇じゃないよな?
「はい、メダル」
種族間の意思疎通の難しさに頭を悩ませていた俺の横合いからメダルが差し出される。
何千枚作ったのだろうか。ダイアクトー三世の横顔が刻まれた金色のメダルを受け取りエリアの外へ。ちらりと見ればイヌモドキがとても残念そうにこちらを見ていた。シノよりも感情表現豊かですね。一瞬で食い殺しそうな面構えなのに。
「アキヒト、おめでとうございます」
「うん。まぐれだけどな」
とはいえ、あれなら10回くらいチャレンジすれば一回くらいはまぐれ当たりできそうだ。恐らくその程度の難易度で設定しているのだろう。商品の大半は提供品らしいので、設備代+αを回収できる程度って事か。
周囲を見渡せば日も暮れた街に浮かぶアドバルーンの姿がいくつも見える。各ゲームの設置場所も適度に開けており、もっと言えば周囲に屋台を展開できる広場がある地域に分散している。ある意味管理組合の皆さんよりもいい仕事しているのではなかろうか。
今この瞬間だけを見れば確かにダイアクトー三世はこの祭りを乗っ取っている。本人が考えている乗っ取り方と同じかはわからないけど、終わり良ければ全て良しって感じだから問題ないのだろう。
それにしても悪の秘密結社なんだよな。彼ら。
いや、悪の秘密結社という名のイベント集団なので、本領なのか?
「だぁああああああ!! 遠すぎるだろあれ!!」
「もう一回だ! 並ぶぞ!」
よほどあの商品が魅力的なのだろう。一回のチャレンジ代金が安いというのもあるかもしれない。失敗すればすぐに列に並び直しチャレンジを繰り返す人が多く見られる。一歩離れた立場からすれば丸二日くらいあるのだからのんびりやればいいと思うのだけど、奥まった個所に設置されているゲームもあるため、移動を考えると折角来たならクリアしておきたいか。この辺り金額の安さもあって財布を緩くしているかもしれない。
「さて、夕飯食べて軽く回るか?」
「はい。もう一つくらいチャレンジしておきたいです」
「おや、シノさんはやる気だね?」
「アキヒトは目当ての物は無かったのですか?」
と言われても、あまり商品を覚えていないというのと、見てもよくわからなかったというのが現状。住民の方々も参加しているから、彼ら、つまり同じ立場である俺にも魅力的な商品はあると思うのだけど。
「あ、でも、アルカさんに防御用のアイテム作ってもらえるなら良いかもな」
「アキヒトは過度に心配性になっていると、私も思います」
「小心者だからな」
正直最終日にしてメインイベントの百鬼夜行も見たいとは思うけど、頼光さんたちの襲撃は確実だ。気楽に見に行っていい物かという迷いはある。場合によってはショッキング映像を目の当たりにする可能性も多分にあるわけだし。
「シノは百鬼夜行、見たいか?」
「はい。特別な催しには惹かれます」
「シュテンさんや金時さんが戦うとしても?」
「それも一つの経過であり、結果は何時しか訪れるものです。
我々が立ち会おうとも、立ち会わずとも。
ならば一つでも多くの物を見たいです」
すらりと出てきた言葉。それは彼女のありようなのだろう。
しかし、確かな意思で告げられた言葉に続くのは、泣きそうにも見える表情だった。
「もう、必要のない行為のはずですけどね」
「じゃあ、見たいか、見たくないかだろ?
惹かれるんなら見に行けばいいさ」
「アキヒトは行きたくないから問うたのでは?」
「迷いはあるけど、見るべきとは思う。ここまで関わったんだし」
「そうですか」
シノはしばらく目を閉じて、それから再び俺を見上げた。
「夕飯に行くのですよね」
「ああ。適当に屋台回るか。折角だし」
結果は何時しか訪れる。
ならば今は祭りを楽しむとしよう。




