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●序章-5.扉

もう少しで病院出られそうです。


※前回のあらすじ

 少女のお陰で助かった俺の名前はアタゴ アキヒト

 なお、少女の使い魔のような状態とこと。

 さて、これからの話をしよう。

-fate アキヒト-




「今から『扉の園』へ向かい、入市管理所で住民登録をしてきなさい。

 この街で生活するためには必須事項でもあるし、それが一番手っ取り早い。」

「入市管理所……?」


 名前からして、空港などにある検査のための施設だろうか。


「扉の園というのは?」

「この町の中心にある広場だ。ここから出れば塔が見えるので嫌でもわかる」

「……あれ? 町に入る人の確認をするための施設ですよね?」


 どうしてそれが町の真ん中にあるのか。


「そうだ。

 ……ああ、『扉』の説明をしていなかったな」


 何度かその単語は出てきていた。

 扉を潜れば故郷と言うべき世界に帰れるとも。

 

「世界と世界を繋ぐ門みたいなもの、って事ですか?」

「その認識で大よそ問題ない。

 この町の中心に『扉の園』と、『扉の塔』がある。

 どちらにも別の世界に繋がる『扉』があり、この世界に訪れる者は必然的に扉の園を通過することになるのだよ」

「……俺も死にかけて気を失っているうちに通ったはず、ということですよね?

 でも、俺が落ちたのは山の斜面ですよ? そんなものがあればとっくに見つかっていそうなものですけど」

「こちら側では明確に『扉』の形をしているが、相手側はそうでない。

 扉以外にも、闇の渦であったり、鏡であったりすることもあるそうだ。私の世界では天より降り注ぐ光であった。

 君の状況から推測すると、古井戸、或いは何かが堆積して隠された洞あたりが『扉』になっていて、そこに転がり込んだというところではないかね?」


 怪談や都市伝説で、気が付けば見知らぬ場所に居たという話はいくつか聞いたことがある。今の俺はまさしくそんな神隠しの状態だ。


「この街というよりこの世界への出入り口だな。

 管理組合は扉の園の南北両端に入市管理所を設置しており、この世界へ訪れた者は、最初にそこでこの世界とこの街についての説明を受ける事になる」

「緊急搬送された俺は例外ということですか」

「そうだ」


 ファンタジックな不思議パワーの話題から一転、『管理組合』だとか『入市管理所』だとか、随分と現実的……と言って良い物か。ファンタジー的にはコレジャナイ感漂うフレーズが出てきた。

 いや、横文字並べれば良いと言うものでもないのだが。


「ええと、それで住民登録、ですか?

 身分証明とかそういうのも無いのですけど。

 ってか、俺の荷物は?」

「服は患部確認のために切らせてもらったので破棄した。破損が酷く血と泥塗れで洗濯してどうにかなる状態ではなかったからな。

 それ以外に君が所持していたのは所持品は財布らしきものと、壊れた機械だな」


 と、腰のポケットから取り出した物を俺に投げ寄越す。


「げ……って、まぁ、当然か……」


 買ったばっかりのスマホが見事に砕けていた。画面がどころではない。背面も砕けて、いくつかの部品は無くなっている。不思議パワーは機械には通用しない、のだろうなぁ……


「財布の中に君の身分証らしきものはあった。それは確認しておきなさい。

 ここでは無意味だが、君の証明にはなるだろう」


 言われるままに財布を開くとぼろぼろと乾いた血がベッドの上に落ちた。鳥肌が立つ感覚に震えながらも目的の物を引っ張りだす。


『愛宕 明人』


 ラミネート加工により血から保護された大学の学生証には、名前が顔写真付きで記載されている。もう一枚、保険証カードもあり、そちらにも同じ名前が刻まれていた。

 間違いなく、これは俺の名前だ。なのに、まったく実感を持てない気持ち悪さをぐっと飲み込む。


「とはいえ、身分証などある方が珍しいし、別に求めてはこないがね」

「……確かに保険証やら学生証を出されても困りそうですね。

 ええと、住民登録は行けば誰でもできるって事ですか?」

「そうだ。この町の住人になる事を望めば登録される」

「……それって一度登録したらこの世界から出られないってことは無いですよね?」

「無いな」


 うーむ?

 

「登録料とか脱退料を取られるとか?」

「それもない。住民には住居が貸与されるので、この世界から離れると決めた時はその旨を伝えるように求められるがね」

「貸与? えっと、家賃は?」

「無償だ」


 え、なにそれ。凄いとかいうより怖い。

 タダより高い物はないは死んだ爺ちゃんの口癖だったので強く刷り込まれているのだ。

 ……過去に何かあったのだろうか、亡き祖父よ。


「この町は開拓村のようなものだ。新規住民を歓迎しているのだよ」


 何かのお話で開拓村に参加したら数年は税金が無いとかあった気がするが、それと同じだろうか。


「もちろん生活費の面倒などは見てくれない。自分で稼げ。

 仕事の斡旋も管理組合が一部受け持っている。尋ねれば何かしら案内してくれるだろう」

「……至れり尽くせりですね」

「半年前にできた町だから求人は多いのだよ」


 そんな新しい街なのか。

 ……マッチョメンの説明に一応の納得はできるが、はやり「タダ」というのは色々と怖い。

 善意に値段は付けられない。というのも爺さんの口癖だった。だから何があった爺さんよ。


「……後で請求されるとか無いですよね?」

「そういう話は聞いたことが無いな。

 なんにせよ町の事については入市管理所に行きなさい」


 説明は終わりだと口を閉ざすマッチョメン。

 胸中に浮かんだ不安や疑問をこれ以上ぶつけても迷惑なだけ、ということになりそうだ。


 決心を付けるための数秒。そこで俺は未だ病院のベッドの上に居る事を改めて思い出す。

 一度大きく深呼吸をして足を床に下す。冷たい床の感覚はあれど、足腰に痛みは全くない。

 立ち上がり、とんとんと軽くつま先で床を叩くが、ぎこちなさも感じなかった。こうなると乾いた血の付いた財布が異質に感じてしまう。


「あ、今更ですけど……マッチ、じゃない。先生も、ありがとうございました」

「仕事だ。だが感謝の意は受け取っておこう」


 少しだけ満足そうな気配にほっとして、これからの事を思い……

 そして俺は重要な事に気付く。


 モスグリーン色の病院着。俺の今の装い。

 ズタズタで血塗れになったため捨てられたという俺の服。

 俺は今から外を出歩く。もちろんこの病院着はここの備品か何かだろう。つまり、だ。

 無意味に視線を彷徨わせ、しかし答えなど浮かぶはずもない。意を決してマッチョメンの強面と向き合った。


「どうした?」

「何でもいいんで服、貸してもらえますか?」


 俺の切実で真剣なお願いにマッチョメンは眉をわずかに、訝しそうに動かす。

 それから半瞬遅れてその意味にようやく気付いたのか、「ああ」と言葉を零し、頷いたのだった。

 言わなければ俺、裸で放り出されたのだろうか……下着すら無いんだが。

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