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●二章-14.祭りの始まり(真)

平行してる「EXPLORER's~影を逝く者達~」の方もようやく「平行」と呼べるくらいに

更新できそうと思った矢先の残業地獄です。(エクトプラズム)


※前回のあらすじ

・シノに髪飾りをプレゼント。

-fate アキヒト-



「そろそろかな?」


 日も暮れ始めた午後六時前。塔前の広場にやってきた俺たちは準備万端で時間を待つばかりのステージを遠目に見る。

 人通りは相変わらず多い。しかし、ステージ前だからと集まっている人はほとんどいない。

 祭りはすでに始まっていて、今更開始の合図なんて必要ない。

 そんな空気をなんとなく感じる。


「おや、アタゴ君」


 ヴェルメに寄り掛かって時間を待つ俺たちに良く知った声が掛けられた。


「あれ? トミナカさん?」

「どうです? お祭りは楽しんでいますか?」


 スーツ姿のトミナカさんがひょこりひょこりと歩いてくる。その背の向こうにはエンジェルウィングス本社ビル。


「もしかして今日も仕事ですか?」

「はい。明日は休みの予定ですがね」


 よくよく見れば設置資材を片付けている人たちはエンジェルウィングスの制服を着ている。流石に肉体労働なので上着を脱いで腰に巻いたりしている人が多い。配達だけでなく設営にまで関わっているのだろう。


「楽しんでいるかと言われると……」

「おや、辛口ですね」

「大体露店か宴会かって感じですからね」


 ぐるっと回ったがどこもそんな感じだ。人によってはそれで良いのだろうが、物足りないというか、お祭り気分になるための何かが足りない。


「なるほど。しかしお祭りが始まるのは今からですよ?」


 にやりとした笑みを見せるトミナカさん。関連した仕事をしていた彼には何か情報が入っているのだろう。


「何か、催し物でもあるんですか?

 シュテンさんの百鬼夜行は最終日だけですよね?」

「さて、どうでしょうか。

 どれ、折角ですから私も開会式を見ていくことにしましょう」


 まもなく分かる事をわざわざ聞き出すこともあるまい。

 そう思っていると、舞台の照明が点いた。

 続いて舞台の袖からマイク片手に現れたのは管理組合の制服を着た女性だ。彼女は軽い足取りで舞台の中央へと向かい─────


「とぉおおおおおおおおおう!」

「きゃぁああああ?!」


 どぉぉおおおんという派手な爆音と衝撃が舞台中央に発生し、舞台袖へと吹き飛ばされた。え? 大丈夫なのとどうでもいい疑問を引き裂くように響き渡るのは重低音から始まる音楽。まるでボクシングかプロレスの入場曲だ。その思い付きを補強するかのようにライトが青と黒、暗色系の光に代わって踊り、そして舞台中央に着地した人影に集約する。音と光に包まれ、彼女は悠然と立ち上がる。

 黒いボディースーツに仮面。マントを翻す例の彼女だ。


「聞けぃ! 我が温情で安息の日々を送る愚民どもよ!!」


 いつもの恰好のダイアクトー三世は尊大にソプラノの声を響かせる。


「祭りは楽しいか?

 本当に楽しいのか? ただ、飲んで騒ぐだけで満足か?

 アタシは満足していない! お酒とか苦いだけだし!」


 最後のは要らんだろと内心突っ込む。口にはしない。あの人地獄耳っぽいし。あ、なんか舞台のどこかを睨んだ。同じことを考えたヤツが言葉にしたらしい。瞬く間に現れた黒服が連行していったんだけど……多分見えなくなったところで開放するんだろう。


「暴飲暴食大いに結構。それは欲望の開放であり、狂乱の先駆けである。

 しかし足りない! 全然足りない!

 だからアタシがさらに欲望を開放させようと言うのだ!」


 ばっと両腕を挙げてマントが踊る。


「さぁ、狂乱の宴を始まりよ!」


 月を仰ぎ見るようにして、数秒。

 そしてリアクションに困り目くばせする観客の姿。


「ちょっと! アタシを褒め称えるとか拍手とかするとこでしょ!」


 だんだんと地団太を踏むダイアクトー三世。コミカルなキャラだなぁ。


「ダイアクトー様。畏れながら申し上げます。

 愚民どもはダイアクトー様の慈悲を理解していない様子。ここは不肖、この私めにダイアクトー様のお言葉を愚民どもにわかりやすく伝える名誉をお与えください」


 そんなダイアクトーをフォローすべく、スススと近づいて跪いた黒服が観客側に良く響く声で進言する。


「チッ! これだから愚民は!

 いいわ。やりなさい」

「光栄です。さて皆さん。周囲をご覧ください」


 パチンと黒服が指を鳴らすと部隊を含め中央の明かりが一斉に消える。夕暮れより少し暗くなりかけていた町。その少し上空にいくつかの青白い球が浮かんでいる姿が見て取れる。アドバルーンとかいうやつだろうか。風にゆらりと動いていた。


「あの下には我々が用意したゲームがあります。

 ルールを順守し、クリアできたならダイアクトー様メダルをプレゼントします!」


 スポットライトが点き、黒服がメダルを掲げている姿が目に入る。ここからでは良く見えないが模様の施されたただのメダルのようだ。


「これらはパレードの直前まで、ここに設置されるクジの参加券となります。

 そしてそのクジの景品がこちら!」


 もう一つのスポットライトが点き、いつの間にか用意されていたボードに当たると周囲から驚きの声が上がった。何か凄いものでもあるのだろうかと目を凝らす。


「……トライアングル……ってアルカさんのお店だよな? 製作権?」

「彼女らの店は基本オーダーメイドで、性能が高いのですけど、なかなか依頼を受け付けてくれないらしいですね。探索者憧れの店という事です」


 へぇと漏らしながらシノの指を見る。これはただのアクセサリーだから別枠ということだろうか。

 ただの気まぐれだな。うん。


「それよりも、ドゥーゲストさんがこういう所に出してくるとは思いませんでした」

「ドゥーゲストさん?」

「上から四番目、ドゥーゲストモーターズはヴェルメを作った工房なんですよ」


 商品の大当たり一覧には確かにその単語がある。続く言葉は『特殊車両1台』。


「特殊車両ってヴェルメの姉妹機が作られるってこと?」

「おそらくはそうでしょうね。耳聡い人ならエンジンの事は知っているでしょうし」


 周囲ボルテージがどんどん上がっていくのを感じる。トミナカさんの解説によると並ぶ景品のお店は雑多なクロスロードでも高い評価を得ているのだそうだ。あ、アラクネのお姉さんの店名もある。


「なお、キッズ用のゲームも併設されているので、子供達も楽しんで、もとい、享楽に溺れることになるだろう。

 ルールについては管理組合の協力、もとい、ジャックしてPBにルールを配信させた。よく確認するように」


 もとい、もといとわざとらしく間違える黒服さんの説明が続く中、目の前を集団が走って行った。すでに行動を開始する人まで現れたようだ。説明はPBで聞けるからだろう。それほどまでに駆り立てる商品ということか。


「なお、すべてのゲームにおいては再挑戦可能だが、クリアしたら同じゲームで報酬は貰えないことは注意するように。また、メダルの強奪、ゲームの妨害、順番待ちの横入り等を確認した場合は物理制裁をするのでよろしく。以上だ!」


 ちなみに子供用の景品はお菓子や玩具のようだ。聞いたことにない玩具名が並ぶ中、有名なテレビゲーム用筐体の名前もあった。


「シノ。キッズ用の方に参加してみるか?」

「……アキヒト。それはどういう意図での提案でしょうか?」


 ジト目になるシノに俺は「違う違う」と首を振る。


「だってメインのゲームの報酬に興味あるか?」


 ちょこんと小首をかしげ、大当たり一覧に視線をやるシノ。大当たり一覧をまとめると「探索者が喜びそうな品物」を揃えたように思える。『施療院謹製ポーションセット』とか『補助アイテム詰め合わせ』とか。あって困るものでもなさそうではあるが、町を守る探索者の皆様に使ってもらう方が良いんじゃないかなと思う。うん。言い訳です。一般人がクリアできると思えません。


「確かにヴェリュジュフリアンのお菓子なんかは商人が小姓を夜から並ばせて確保するので、なかなか手に入りませんね」

「……」


 俺たちの会話を聞いてキッズ用景品を確認したトミナカさん。

 その言葉はシノさんの琴線に触れたらしい。

 ややあって、シノがこちらを見上げた。


「アキヒトの提案は適切だと思います」


 無表情でそう告げてくるも、少し目が泳いでいる。笑っちゃだめだ。


「だろ? 探索者相手が前提っぽいゲームをクリアできるとも思えないしなぁ」

「そうでもないと思いますよ。1つのゲームで1回しかクリアできないというのは種族特性上非常に簡単になってしまうものがあるからです。

 競争なら難しいでしょう条件達成でクリアですからね」

「なるほど……」


 まぁ、行けそうならチャレンジしてみようかな。折角のお祭りだし。


「さて、では私はそろそろ」

「ああ、お疲れ様です」

「疲れるのは今からと思いますけどね。

 それとシノさん、その髪飾り似合っていますよ」


 言いながらコップを傾けるような仕草をする。そして歩くのは塔方向。

 ああ、これからシュテンさんの所か。疲れると言いながらも楽しそうなので苦笑と共に頭を下げて見送る。トミナカさん、若い頃はモテた感があるなぁ。去り際に褒めるとかイケメンの所業です。


「さて、俺たちはどうしようか」


 髪飾りに触れていたシノがぴくりと肩を震わせ、こちらを見上げる。


「いくつかゲームを見ましょう」

「やる気ですねシノさん」


 表情が余り変わらないのはいつも通りだが目が真剣なシノに微笑ましさを感じる。

 さて、近いアドバルーンはどこかな。

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