●二章-13.露店と髪飾り
トマト祭りの作法を初めて調べました。世の中知らないことだらけです。
※前回のあらすじ
・祭りは夕方からと言ったな。あれは本当だが無意味だ。
-fate アキヒト-
速度を落としてもらい、ニュートラルロードを塔方面へと進む。
「基本、飲んで騒いでいるだけって感じだなぁ」
「祭りはそういう物では?」
シノの冷静なコメントに返す言葉が浮かばない。
花火大会でもなし盆踊りでもない。己の過去の記憶を掘り返しても祭りでする事といえば買い食い。つまり飲んで騒ぐくらいだ。もっと何かしていたような気もするんだけど、まとめるとそんな物らしい。神社のお祭りでもないので神輿なんかもないし、参拝するわけでもない。
「でも、特徴が無いなあ」
「祀っている物が不明確だからでしょうか」
「というと?」
「武神の神祭では奉納武闘が開かれますし、収穫祭では主神や自然神を祀って酒をふるまったりします」
「そういう意味ではトマト祭りとか牛追い祭りとか、わかりやすいよな」
ヴェルメとシノが疑問符を浮かべたのが察せられた。確かに特殊過ぎる事例だった。
「町中の人がトマトっていう植物を投げつけ合う祭りがあるんだよ」
「……なにその奇祭」
ヴェルメが半ば疑い、半ば呆れたように言うが、シノはしばらく考え込むと、「あぁ」と言葉を漏らす。
「似たような祭りはあります」
「え? あるの?」
「はい。ヴォルゲアナという植物を投げ合うお祭りがあります。
魔力流脈の異常でその地方のヴォルゲアナが大繁殖することになり、潰して肥料にする際の悪ふざけがきっかけだそうです。
以降もヴォルゲアナの繁殖は止まらず、年に一度国を挙げての祭りになったそうです」
ああ、プール掃除が水の掛け合いになる現象だな。それにしても国単位ってどんな量なんだろうか。
そういえばトマト祭りも同じような理由がきっかけなんだろうか? 町中の人が投げ合う量が余るとも思えないから、ちょっと気になる。
ちなみにそのヴォルゲアナ。とても苦い実で家畜の餌か肥料にしか使えないとのこと。ただその実のおかげでそのあたりでは随一の畜産国家になったそうだ。それでも祭りで投げつけるほどに余るというのは凄まじすぎやしないだろうか。ハーブテロどころの騒ぎじゃなさそうだな。
「この祭りじゃ百鬼夜行っていうのが目的なんだろ?
それまでは適当に飲んで騒げばいいんじゃないかね」
飲み食いしないヴェルメのもっともな意見を聞いているうちに中央部へと差し掛かる。この辺りは露天商がこぞって集まり、客足を稼ごうと声を挙げていた。確か屋台の募集地域はこの辺りだったか。縁日というよりフリーマーケットの雰囲気で売り物をゴザの上に並べている姿が多く目につく。ここで店を開いているのは飛び入り参加だろうから、食べ物屋を準備するのは難しかったのかもしれない。
「少し見て回ったらどうだい?」
「そうだな」
一旦停車してもらい降りる。ヴェルメは俺たちが近くに居さえすれば別に乗っていなくても追従が可能だ。スタンドが無くても例の力で倒れることも無い。
「シノはアクセサリーの一つでもねだったらどうだい?」
「何故ですか?」
「……何故と言われると困るねぇ。そういう物だろうとしか」
キョトンとして問い返すシノにヴェルメが困って言葉を濁らせる。
「ヴェルメってバイクっぽくないよな、前から思ってたけど」
「なんだい。悪いかい?」
「いや、全然。ヴェルメも何か飾りでもつけるか?」
「どうして先にアタシに言うかねぇ」
呆れた声音に苦笑いを浮かべ、丁度近くにあったアクセサリーを並べた露店を眺め見る。
素朴ながらも技巧を凝らしたという感じの金属細工だ。店主を見れば子供、ではなく多分小人族とかそういうやつなんだろう。ひげ面だし。
「お兄さん、高くしとくよ?」
「そこは安くじゃないのか?」
「彼女さんに贈るプレゼントに安物はいけないな」
だからって値段を吊り上げるのは違うだろうに。
折角だからと並べられている商品に視線を這わせていると赤っぽい金属の髪留めが目についた。
許可を貰って手に取る。金属といってもそれほど重く無い。シンプルだが、彫られた溝がうまく光を反射して花の模様を浮かび上がらせる。
「見かけに寄らず、良いセンスしてるじゃないか」
「客商売に向いていない口の悪さだなぁ」
まぁ、アルカさんからもらった指輪に関係する色とモチーフだったからなので、俺のセンスじゃないのは事実なんだけど。
「こういう市ならおべっかよりも軽口の方が良いのさ。みんな浮かれているからな」
俺が悪い気になっていないのがその証左だろうか。
「二万Cで良いよ」
片目を瞑り、言い放たれた値段は自分用ならまず戻しているだろう額だ。でもデパートで見たアクセサリーなんかはもっと値が張ったような気がするし、商品に対する価値としては安い買い物のような気がする。
「わかったそれで」
「んん? ……まぁ、良いなら良いんだけど」
「変な言い回しだな」
「いや、値切らない客は珍しいからなぁ」
そういえば外国では値切るのが当たり前って話だっけか。日本でも商店街が主流だった時代だと値切りやサービスが当たり前だったと何かの漫画で見た気がする。
値引き交渉をすっかりすることがなくなったのは町のいたるところにコンビニやチェーン店のスーパーマーケットが立ち、雇われた売り手の裁量で値引きする訳にもいかなくなったからだろう。外国ではおつりを勝手にチップとして取られるなんて話もどこかで聞いた。
「プレゼントは値切るものじゃないだろ?」
ここで値切るのもどうかと思い、かっこつけの一言を口にしてみたら商人は一瞬ぽかんとして、大笑いを始める。
「はは、こら一本取られた。
ま、値切ってきたなら逆に釣り上げてやろうと思ってたんだがね。毎度」
支払いを済ませてひらひらと手を振るホビットに軽く手を振り返す。
「おや、あんたにしてはセンスが良いね」
「それなら良いんだけどな。シノ」
「はい?」
「プレゼント」
流石に髪に触れて付けるような真似は俺には無理だ。差し出したそれをシノは俺の目をじっと見上げたのちに受け取った。
「良いのですか?」
「戻されても困るしな」
「ありがとうございます。でもどうして?」
「なんとなく。アルカさんの二番煎じでヴェルメの入れ知恵だけどな」
あまりジーっと見つめないでいただきたい。自分でも似合わない事をしている自覚はあるのだ。感情を浮かべないままの探るような視線は精神衛生上よろしくない。
「私も何か、買うべきでしょうか?」
「なんとなくで良いんだよ」
「難しいですね」
真剣に悩みながら周囲を見渡すシノ。
「変な組み合わせだな、あんたら」
そういえば店の前を占拠したままでした。
ホビットの興味深そうな声音に背を押され、俺はシノの手を取ると、逃げるようにそそくさと次の何かへ向けて歩き始めたのだった。
わりと恥ずかしい事をしてたよなぁ。俺。




