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●二章-8.武器

次くらいからイベントパートになりたい。


※前回のあらすじ

・猫無双

・この世界の成長の仕方

-fate アキヒト-




 結局雑貨屋では不足していた生活雑貨をいくつか購入しただけに終わった。

 俺は間違っていた。

 そもそも護身具は雑貨屋で買う物ではなかったのだ!

 ……ガンショップのある米国じゃあるまいし、日本人としては武器の確保先って雑貨屋というか、大型工務店だと思うんだよな。工具は兵器だとどこかの整備士も言っているらしいし。言ってない?


「アキヒト?」

「あ、いや、なんでもないです」


 思わず足を止めていたらしい。慌ててシノの横に並ぶ。


「それにしても見るのは二回目だけど……本当にでかいな」


 見上げる先には巨大な金属の壁。もとい扉。クロスロードをくるりと囲んで守る防壁に備えられた二つの出入り口の一つ、南の大門ヘヴンズゲードがある。

 ここは路面電車駅の南端であり、クロスロードの南端。数多の探索者が毎日行き来する外との境界だ。シュテンさんのところの仁王像では到底押し開けられないサイズの扉が今は大きく開いてその向こうの景色を見せている。


 荒野だ。

 見渡す限り、地平線まで、いや地平線の先まで続く果てしない荒野が門の向こうに広がっている。

 数百の探索者が行き来する影こそ見えども、草木の一つも見つけることはできない。果てに向かう探索者たちが地平に飲み込まれていくようで、どこか恐ろしいものを感じた俺は一旦視線を切り離す。


「本当に、何も無いんだな」

「そうですね」


 現在クロスロードの外にあるのはサンロードリバーとクロスロードの四方10キロメートルの地点に建設された四方砦と呼ばれる出城くらいだ。防衛任務に就く探索者たちは毎日四方砦のいずれかに赴き、そこから与えられた担当区域を巡回して戻ってくる。

 四方砦のその先、果て無き荒野では山も丘も川も海も、何一つ見つかっていない。しかし未だ至らぬ遥か先から怪物はやってくる。だから今は届かぬその先に何かがあると誰もが信じていた。

 イメージしたのは大航海時代。他の大陸の存在を知らず、海の果てが奈落に続いていると信じられていた時代。生きて戻るにはどこまで進めるかというチキンレースのような星の開拓の話だった。

 だが、そこで当然の疑問が浮かぶ。

 何故空から確認しないのか。

 近未来の技術をも網羅したクロスロードには航空技術も、飛行魔法も、恒常的に空を領土とする種族も居る。100メートルの壁があったとしても空を駆ける妨げにはならないし、圧倒的に速度が出る。光学的な確認は可能なのだからロケットでも打ち上げて写真を撮り、落ちてきたのを回収するだけでも結構な範囲を確認できるはずだ。

 俺が思いつくような事、誰かがとっくに思いついている。

 そしてここにもこの世界の罠が存在していた。


 『空に食われる』

 

 怪談のようなフレーズだが、実際起きたことも怪談じみている。

 空を飛ぶといつの間にか居なくなる。

 かつて三世界が覇権を争っていた時代。科学兵器を有するガイアスも、竜騎士を主力にするヴェールゴンドも、そして背に翼をもつ永遠信教世界も、空を戦場とする能力は十二分に有していて、当然制空権争いが勃発した。

 しかし、多くの空兵は人知れず消息を絶つことになる。それは必ず地上から空を行く者を見失った時に発生したため原因は不明。空は地上を補助するための戦域に成り下がったのだという。

 クロスロード発足後にも空の優位性を安易に捨てるわけにはいかず、消失現象の検証実験が行われたが、やはり観測範囲外に出た無人偵察機の多くが消失した。更に戻ってきた偵察機はどれも消失した機体だけは観測していなかったという。

 必ず発生しないことから、この世界の法則ではなく、空に潜む謎の怪物が犯人だという説もあるが、手掛かりの一つも掴めていない以上、空は危険だと警告するほかない状態だ。

 現在は扉の塔の上階からの監視網を構築していて一応クロスロードから10キロメートル圏内での消失現象は発生していないらしい。

 しかし空を封じられた探索者たちは地道に地を這いこの世界を調べるほかないというのが現状である。


 と、以前調べた話を脳裏に思い返しながら訪れたのはヘヴンズゲート前に集まった武具店だ。朝晩多くの探索者が通る門の前の広場では、彼らのための店が多く揃っている。飲み屋なども多く、戻ってきたらここで宴会に興じる者も少なくないのだそうだ。

 昼にも届かない時間帯は遅まきに出発する探索者の姿もあるが、それでも閑散としていた。店主たちも遅まきの朝食時間や休憩時間といった様子だ。


「すみません」

「ん? いらっしゃい。

 ……あんた、見覚えがあるね?」


 そんな中の一軒。クゥイラさんに紹介された店に訪れた俺を店主が不思議そうに見る。


「先日ここも回ったのでその時ですかね?」

「……ああ、エンジェルウィングスの坊やか」


 得心がいったように四つの目を細める店主。この方、頭部がまるでタコのような、古い火星人だか金星人のイメージを思わせるフォルムをしている。手足の形状は普通の人間ぽいが、肌の色は真蛸のような黄土色である。


「郵便かい?」

「いえ、クゥイラさんに紹介されまして。護身具みたいのが無いかなと」

「クゥイラが?

 ふむ。護身具ってのは、まぁ……わからんでもないが。ビュルゴラ神の腕も斬られては届くまい?」


 慣用句をつい使ってしまう気持ちはわかるんだが、言われた方はさっぱりわからんよな、これ。というか、何があったんだビュルゴラ神。


「……ああ、そうだ。

 坊主、丁度いいものがあるんだが」

「ものすごく嫌な予感がする言い方ですね」

「悪い話じゃない。お前さん、最近広まってきている『強くなる方法』について、知っているか?」

「……なんとか投影って話なら、ついさっき聞いたばかりです」

「それは好都合。そいつは愛用している武具にまで影響するって話は聞いたか?」


 それは初耳だ。というか、


「武器とか防具が成長するんですか?」

「言ってしまえばそういう事だ。

 以前から使っている武器の切れ味が良くなったとかそういう話は出ていたんだよ。だが、成長はそんな早いものでもないらしくてな、なら確認しようって計画なんだ」


 言いながら手に取ったのは拳銃だった。おもちゃのように小振りでシンプルなシルエット。うまく掌で隠せば見えなくなる、スパイ御用達と言われると納得しそうなシロモノだ。


「こいつ、持ってみないか?」

「……何か特別製なんですか?」

「特別と言えば特別だな。何一つ特徴が出ないように作っている」


 ……それを人は量産品と呼ぶのではなかろうか?


「何人かの探索者に渡したんだが、お前さんのような奴が持つのもサンプルとして良いだろうと思ってな」

「いや、まともに使うかも分からないんですが」

「構わないよ。持っていれば影響は受けるはずだし、受けないならそれも結果だ。

 代わりにメンテナンスはこちらで受け持つ。壊れた時か、月に1度くらいのペースで持って来てくれればいいよ」

「……はぁ」


 渡された銃はやはり小さめだ。持ちにくいという事はないが、思ったよりも軽く、頼りない。


「できればもっと実用的な物の方が良いんですけどね」

「お前の頭くらいなら余波で吹き飛ばす銃もあるが、その腕じゃ撃った反動で両手が砕け散るぞ?」

「極端すぎませんかね?!」


 マグナムか何かは撃った反動で肩が外れるとか聞いた覚えがあるが、いろいろ万能なこの世界、無反動銃くらいあるのではなかろうか。


「何かしらメリットをつけるってことは、ほかにメリットをあきらめるか、何かしらのデメリットを負うという事だ。

 そういう意味でも武器が成長するならば理想のものになるかもしれん」

「理想、ですか。狙わなくても当たってくれる銃とかですかね」

「ああ、誘導能力を持った弾とかもあるが、ああいうのは軌道が単調で、そこそこ以上の実力者は紙一重で避けたり斬り落としたりするから使わなくなるのよな」

「上を目指す気はありませんけど、最低限ってどこなんですかね」

「相性とシチュエーションと環境で最強も最弱も二転三転するものだ」


 ごもっともな意見なのだが、戦闘をする予定のない最弱まっしぐらの俺は貰い事故的なアクシデントをから逃げる時間稼ぎの手段があればそれで充分なのだ。


「お前さんがそういう願いを持ってそいつを使うならば、応じた能力を得るかもしれんぞ」

「……その時に間に合えばいいんですけどね」

「そればっかりはわからん。祈れ」


 100メートルの壁のある世界で何に祈ればご利益があるのだろうか。


「せっかくこんなところまで出向いてこっちのお願いばかりじゃアレだな。

 よし、こいつも付けてやるから」


 調子良く嘯いて取り出したのは五百円玉程度のメダルのストラップが2つ。


「付けると皮鎧程度の防御膜を発生させるマジックアイテムだ。

 ま、無いよりマシ程度だがお前さんが求めてたのはこういうのだろ?」

「先に出して交渉すべきでは?」

「お前さん、流されやすそうだったからな」


 さらっとひどい事を言うが、今までを振り返ると否定しづらい。

 それにこの話は俺に全く損が無い。しかめっ面を見せながらも「わかりましたよ」とそれを受け取り、一つをシノに渡した。


「あ、そういえばこれの弾丸は?」

「要らないよ。

 成長次第でどうなるかはわからんが、使用者を媒介にして力を集めて放つ仕様で、消費も少ない。連射したって大丈夫のはずだ。

 あと、弾丸の威力は……まぁ、お前さんなら急所に当たれば一発だから安易に振り回すなよ?」


 殺傷できる武器。当たり前の事実を自覚した瞬間、緊張で胃がズンと重くなり、視界がぼやける。

 護身と称し安易に買い求めに来たが……これは間違いなく人殺しの武器だ。


 今更ながらに「どうしてこんな物を?」という言葉が脳裏を埋めて、深く息を吐く。


「安全が欲しいだけなんだけどな」


 俺はこいつに、何を願うのだろうか。

TRPGルールでは武器防具も能力の一つとして成長可能です。

壊れて持ち替えてもなぜか新しい武器に引き継がれる安心投影システム。

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