●二章-7.猫は語る。猫は作る。
話の区切りが非常に下手、というのが最近感じたことです。
昔はどうやってたっけな……
※前回のあらすじ
・護身具ほしいけど何かないかな。
・鍛えたら行けるって(精神論)
・猫登場
-fate アキヒト-
「アルカさん!?」
「はいはーい。アルカさんですよ?」
何だろうこの違和感。見た目とかはシノと同じくらいの少女なのに、話好きのおばちゃんみたいなノリだな、この人。でも行動は幼児のそれである。従妹の幼稚園児がやたらぶら下がるの好きなんだよな……
「なんですかいきなり!?」
「やー。なんか面白そうな会話が聞こえたからさー。
おばちゃん、おはー」
「はい、おはようさん。しばらくぶりだねぇ」
「最近忙しくってさー。ちょっと気分転換に逃げてきたにゃ」
俺の肩越しに堂々とサボり宣言をする猫娘。って、あなたの本業ってあなたが店長じゃなかったか?
「で、強くなる話だったにゃよね?
この世界の強さの特殊ルール、知らない?」
「知りません」
「そっかー。簡単に言えば経験値稼げば強くなるにゃよ」
いきなり何ゲームみたいなことを言ってるんですかね?
確かにステータスがある異世界物を見た事があるけど、この世界にもそんなシステマチックな物があるのだろうか?
「この世界の強さは3つの要素で構成されているという説があるにゃよ。
一つは元の世界での強さ。これは知識や技術、魔術の構成の仕方や体の動かし方のような『経験』のことにゃ。良い教科書を持っていれば勉強も捗る的な物にゃね」
解説を始める前に降りていただけないだろうか。薄いとはいえ、当たっているのですけど。あなた自称人妻でしたよね? 旦那さんに怒られないんですか?
あと、なんかシノが俺というよりも俺とアルカさんの接触点を凝視しているような気がするのは気のせいですよね。気のせい、ですよね?
と、関係ない方向に思考が加速している間にもアルカさんの説明は続く。
なお、口に出さないのは役得と思っているからでなく、自分の首を絞めそうだからです。絶対分かってやっているよ、この人。
「二つ目はさっき言った経験値。この世界での活動記録。あるいは自己の認識する自分の成長。理想の自分を描いてそこに近づこうとすれば近づける。そういう物にゃ。
自信過剰な人ほど成長が早いらしいにゃよ」
「……じゃあ、俺、強くなれそうにないですね……」
「そこで断言しちゃうかー」
楽しそうに笑うのは良いのですけど、耳元はやめてください。
「で、三つ目は他人の評価。こいつ強いなーって思われている人は強くなるにゃ。
一番目が世界投影、二番目が自己投影、三番目が他者投影と呼ばれるにゃね」
二番目と三番目の通称はなんとなくわかるが、どうして一番目が「世界」投影なのか。
あと、他人の評価で強くなるってことは見掛け倒しも強くなる要因なのか?
「君、自分がオーガと力比べで勝てると思っていないでしょ?
世界の常識が縛るから世界投影にゃよ。動きを知っているってことは逆に辿り着けない場所も把握しているということ。一番目は強さの縛りでもあるにゃ」
見掛け倒しをしても自分が強くない、強くなれないと知っていると結局強くなれない、ってことか。
「誇大妄想を持てばどこまでも強くなれると?」
「理論上はね。でも三番目の他者投影があらゆる世界から見ても『異常』過ぎる力を逆に抑制しちゃうから、どこが天井になるかは謎にゃね。
これが特異すぎる異能に制限がかかる理由じゃないかとも言われているし。
まー、そもそもこの論が正しいかどうかもこれから検証するんだろうけど」
「……でも、つまりそれって、俺が強くなれないという結論では?」
「そうでもないにゃよ。
限界まで鍛えたらその一歩先までうっかり届きうるのがこの世界ということにゃ。
一回届きそうという感触を掴めば、自己投影が成長させるし、世界投影の枷は緩むにゃよ」
努力が必ず結実する世界ってことだろうか。努力できる人には素敵で、できない人には残酷な世界だ。努力も才能だと思います。
「……あれ? その条件だとダイアクトーって物凄くこの世界に適しているのでは?」
「あー、うん。あの子強いにゃよ。多分このクロスロードでトップレベルの一人にゃ。
なにしろたまに過激派の隊長格数人と渡り合ってるもん」
思い付きの言葉が肯定されてしまった。そんな人を自由気ままに町で遊ばせておいて大丈夫なのだろうか。取り巻きの皆さんの頑張りに期待するしかないが。
「話を戻すけど、訓練したら強くなれるし、強くなりやすい。
一方で出身世界でも突出し過ぎている力は制限されちゃうから、スタートラインは結構近いところから始まっているはず、ってのが有力な説。
それで今この世界で実力者に数えられている人たちは、それなりに活動してきたってことにゃ」
「だから経験値ですか」
「そういうこと」
「で、降りてくれませんか?」
できるだけ平静を保ちつつ続けざまに言うと、アルカさんは一旦言葉を飲み込み、ぐいっと唇を耳元に寄せてくる。
「あら? 嬉しくないのー?」
「もっぱら困っています」
「意外とストイックにゃね。
なになに、シノちゃん一筋?」
そんなセリフを残しながらもすんなり首のホールドを外して着地。足音一切しないのは猫だからかこの人の身体能力も実力者と呼ばれる人たち並みだからか。
多分後者だろうな……
「そういうわけじゃありませんけど、気まずくなるようなのは困ります」
「んー? ……ほむ」
「ひっ?!」
不意に小さな手が腰を触る。その瞬間ぴりっと電気のようなものが体を駆け巡り、思わず前に跳ねた。
「なんですか今度は!」
「ちょっと確認。
そかー。まぁ、今は良いでしょ」
「気になるんですけど!」
「にふふ」
答える気は無いらしい。でも、この人に何言っても勝てる未来が見えない。どこまでもマイペースを壊さずつかみどころがない。不思議の国のアリスにこんな感じの猫がいた気がな。キャシャだかキシャだか。もしかして元々ソレだったりするのか?
「で、強くなりたいの?」
「安全に生活したいです」
俺の断言に目をぱちくりさせるアルカさん。
シノとクゥイラさんを見て、否定が無い事を確認し、俺に視線が戻ってきた。
「ちょっと軍隊式トレーニングとかしてみよっか?」
「なんでいきなり体育会系ハードなんですか!?」
爽やかで可愛らしい笑顔。こてっと首を傾げつつ甘ったるい声音で放たれたスパルタな一言に命の危機を感じて後退る。
「いや、貴族のボンボンじゃあるまいし、流石に男らしく無さ過ぎっていうか?
タマ付いてんのかなって?」
「女の子のセリフじゃないですよねそれ!」
いきなり何言い出すんだこの人。
「大丈夫、大丈夫。
疲労って一線超えたら世界の常識とかどうでも良くなるから」
「大丈夫の要素が見当たりませんよ!
だいたいあなたって技術畑の人じゃないんですか!」
「ステゴロ大好きにゃよ?」
「え? 何言ってるの当然じゃん」と言わんばかりの真顔で断言。
この人、見た目と実力の不一致さがまさにクロスロードという環境を象徴している。
「だ、大体、俺が素手の戦闘を鍛えたところで役に立つはずが無いじゃないですか!」
「まぁ、それもそうにゃね」
「あ、あっさり肯定されるとそれはそれで悲しい……」
筋トレくらい始めるべき……なのだろうか。
「んー、ねぇねぇ、シノちゃん?」
「……はい?」
軽く落ち込む俺を捨て置き、猫のフリーダムさでシノに矛先を変える。
「この子、改造して良い?」
「はい?」
「ちょっと待てぇえええええ!?」
きょとんとするシノに任せていたらなし崩しに説得されそうだ。慌てて間に入る。
「改造って何ですか?!」
「手っ取り早く?」
「答えになっていませんからね!?」
「だめ?」
拳を顎の下で握って首を傾げる、一昔前の可愛いポーズをする猫娘。それを見た感想が「頭痛」のみなのは何故だろうか。ヴィジュアル的には完璧なのに。
「ダメです」
「シノ?」
「アキヒトを改造するのは許可できません」
シノが一歩前に進み出てきっぱりと言い放つ。
その表情は見えないが、向かい合うアルカさんが少し驚いたような表情を作った。
「うん、まぁ、ならいいや。」
それをすぐにニヨニヨとした笑みに変えてシノと俺を見る。いつものどこかほわっとした雰囲気が警戒する猫のように変化しているシノ。そして見守っていたおばちゃんは「あらあら」とか言いながらどこか楽しそうだ。
チラチラこっちに視線を向けてきて居心地悪い。
「ま、ちゃんと男の子しないと、本当に近衛騎士団式極限訓練にぶち込むからね?」
「なんで俺、脅されているんですかね?」
「こんなかわいい子のエスコート役やってんだから、それなりのことはできないと格好つかないにゃよ?」
「それは……」
俺は本来シノの護衛を作る術で生かされている。それどころか無理に助けてもらったせいでシノにまで不自由を与えている。格好がつかないと言われれば返す言葉も無い。
「おや、思ったよりも深刻な顔をしたにゃね。
君の安全志向はシノちゃんのため?」
「……どうでしょうかね。自分の基準で考えているだけかもしれません」
「生真面目君にゃね。
君は平和な世界の出身みたいだし、いきなり命のやり取り前提の覚悟なんて無理でしょ。
あ、おばちゃん、これ頂戴」
慰めっぽい言葉を放ちながら近くにあったややゴツ目の指輪を手に取る。
「はいよ」と応じるクゥイラさんとの間でPBでの支払いがあったのだろう。数秒の沈黙。気が付けばその間にどこから取り出したのか彼女の左手にはハンマーがあった。
日曜大工で使うようなものではない。建物の打ち壊しにでも使いそうな、しかも金属のハンマーだ。赤を基調にしたカラーリングに炎を思わせる細工が走り、武骨なデザインながらも見るものを引き寄せる魅力を備えている。間違ってもどこかに仕込めそうなサイズではないのだけど、本当にどこから取り出したのか。
「にゃっと!」
右手に持っていた指輪を無造作に宙へ放る。頭一つ上あたりで落下軌道に入ろうとしたそれが不意に赤い『しゃぼん』に包まれた。
中空で制止する赤いボールを正面に据え、アルカさんが金属ハンマーを大上段に構える。
位置関係はアルカさん、ボール、シノ、俺、クゥイラさん。ハンマーが直接当たる距離ではないが─────
「にゃぁああっ!!!」
何のためらいも無く、裂ぱくの気合を込めた一打!
事の成り行きを見守るしかなかった俺は慌ててシノを引っ張って庇うように背の方へ送る。こちらに飛んでくることを覚悟して顔を守るが、数秒経っても何も起きない。ゆっくり目を開けると赤いボールに包まれたそれはハンマーを受け止めて中空から動きもしていなかった。
どういうことだと眉をひそめた瞬間、ボールの中に細い光が走る。
カカカカ……
「なんだ?」
カッガっガガガガガガガ!!!!!
連続した打撃音。そして金属を削る音。
目を凝らすと赤いボールの中で何条もの紅の光が踊り、指輪に襲い掛かっているように見える。それは綺麗と称して良い光景なのだが、とにかく音が不穏だ。
「……あの指輪って何か特別なものなんですか?」
「いいや、安物の飾りだねぇ」
店の中で凶器を振り回されたというのに気にする様子も無く、物珍しそうに空中のボールを見つめるリザードマン。そうしているうちに音は金属のカップをはじいた時のような、涼やかな物に代わり、そして不意に音も無く弾けた。
割れたボールから零れ落ちた赤。アルカさんの掌の上に落ちたそれは幾重もの花弁で構成されたバラのような深紅の花細工が乗る、元となった物が思い出せないような指輪だった。
「ふぃ。シノちゃん。これあげるにゃ」
「……何をしたのですか?」
「何って鍛冶だけど?」
当然のように言うが、クゥイラさんの様子からして普通の範疇ではないのだろう。
「さっきの指輪を打ち直したって事かい?」
「そうにゃよ。即席だから大したものじゃないけどね」
滑るような動きで俺の脇を抜け、貴婦人の手を取るような動きでシノの手を取ると、人差し指にそれを通す。
白い指先に赤い花が咲いていた。
赤というより深紅。その花弁の一枚一枚に目を凝らせばレーザー加工でもしたのかというレベルの細かい線が複雑な模様を描いている。その一つ一つが鮮やかで、どう評しても「大したものじゃない」と言えない代物だ。
「これは?」
「気まぐれのプレゼント?
さーてと、長居し過ぎたにゃ。そろそろ行かないと。
んじゃねー」
「え? あ、ちょっと!」
現れた時と同様、制止の声も聴かず、颯のように去ってしまう猫娘。すでにその手にあのハンマーは無く、彼女は疾風のように若草色の髪と二本の尻尾を躍らせて去ってしまった。
シノがどこか困ったように俺を見返してくるが、俺とて答える言葉が無い。
結局あの人、何をしに来たのだろうか?
……いや、本当にサボり途中の気まぐれのかもしれないけれども。
世界投影:TRPG熟練度によるキャラ作成の差
自己投影:経験値
他者投影:GMがどこまで許すか+後で追加しようと思ってたSWの名声とかまよキンの勲章システム的なもの。
つまりそういう事である。




