●二章-6.マジックアイテム
また結構な文字数いきそうだったので一旦区切る。
今月は残業地獄で帰っても書く気にならぬ(_。。)_
※前回のあらすじ
・金太郎さんの背中を押す(心理)
-fate アキヒト-
「うーん、護身用の道具ねぇ……」
すっかりおなじみの雑貨屋のおばちゃんことクゥイラさんが悩むように周囲を見回す。
相変わらず表情はぬぼっとしたトカゲヘッドなので読み取れないが、声の調子や首の傾げ具合である程度判断できる気がする。
「アンタ、戦ったことはあるのかい?」
「喧嘩の経験すらほとんどないです」
ここで見栄を張っても仕方ない。案の定クゥイラさんは「やっぱりねぇ」と言いながら、上から下へと俺の体を見回す。
「『鎧に捕まった貴族』って人間の言い回しだったかね。下手に何かを持つと逃げる事すらできなくなるよ?」
聞いたことは無いがなんとなく意味は分かる。知っている言葉だと「生兵法は大怪我の基」かな。
「ああ、そうだ。
ここには売ってないが、南門の所で良く売っている『ウサギノアシ』なんてのは良いかもね」
「兎の足? 足でどうするんですか?」
「飾りなんだけどね。幸運をもたらす効果があるんだよ」
まさかのお守りである。いや、まぁ、本当に神様が居る世界なのだから神頼みは……100メートルの壁に阻まれて無意味ですね。
「この街のマジックアイテム屋が作っていてね。命を救われたって話も多くて、お金に余裕のある探索者はみんな持っているって話さ」
「……マジックアイテム? じゃあ、本当に効果があるんですか?」
「聞いた話だけど、効果はお墨付きらしいよ。
でも、自動的に使われてしまうから、扱いが難しいそうだね。
あたしなんかが持つと物を取り落としそうになった時とかに自動で使われそうだよ」
それは命のやり取りをする来訪者には是が非でも欲しいアイテムだろうけど、普段から身につけるにはコストパフォーマンスが悪すぎるようだ。普段使いできるくらいの値段ならそれでもクゥイラさんは身に着けている事だろう。
「やっぱりマジックアイテムとかになると値が張るんですか?」
「モノによるねぇ。例えば灯りなら探索者はマジックアイテムの方を好むよ。いざという時燃料切れにならないからね。
それに、初級魔法程度のマジックアイテムなら量産している世界もあって、それなりに安いんだよ」
おばちゃんが陳列棚から取り出したのは火を点けるアイテムとのこと。見た目はただの棒だが、その先に火が灯る。特に詠唱も無く念じるだけで火が着くらしい。100円ショップで買える程度の性能だが、ほぼ永久に使えるそうだ。
「魔法使いみたいですね」
「世界によってはこういうアイテムを使う人を魔法使いと呼ぶらしいね」
道具を使うだけでも才能が必要……なのは別に魔法に限った事じゃないか。
「あれ? じゃあそれ、俺には使えない可能性が?」
「特別に魔法の行使に対する障害が無いなら、そんなことは無いらしいよ。
問題は自分の世界に持ち帰った時だからね」
汎用性が高すぎるこの世界の不思議パワーはあらゆるマジックアイテムの燃料になってくれるが、その他の世界ではそうはいかない。海外の電化製品を何の処置も無く日本のコンセントに差すが如く、動かない、下手をすれば壊れるような事が起きるらしい。
クロスロードが町として成立して最初の大きな騒ぎがこれに起因するものだったそうだ。何処からともなく現れた、今では『行者』と呼ばれる世界間貿易を行う商人たちが、この世界で購入し持ち帰った各種アイテム。それらが動作不良を起こし、詐欺だと怒鳴り込んできたのである。
幸いと言うべきか、動作不良を起こしただけのアイテムはターミナルに戻ってくれば普通に動く事が確認されたこと、それから『界渡り』と呼ばれるこの世界が見つかる前から様々な方法で世界間を行き来する者の証言ですぐに事の真相は明らかになった。
それでも商魂たくましい商人たちの大騒ぎを経ての落着というのは、関係者の皆さんお疲れ様だ。
「それにしても、あたしから言わせてもらえば、気にし過ぎじゃないかね。
死ぬときには死ぬもんだ」
「そりゃそうですけどね。フィルさんにも気にし過ぎって言われましたよ。
ただ、この一週間で三度、四度、死ぬかもって場面に遭遇しているんで……」
とはいえ、何を用意すれば安心になるのやら。いっそ何の変哲もない交通安全のお守りの方が良いのかもしれない。気休めに変わりはないって意味で。
「アキヒトは、力を求めているのですか?」
いつも通り、事の次第を眺めていたシノが不意に問いを放つ。
「力、って言うか……安心だな」
「安心……?」
「そう、安心。絶対はなくても比較的安心な環境の方が良いだろ?」
「安全なねぐらを探すようなもの、と言えば理解できなくもないかねぇ」
立派なお店を持つ店主であらせられるリザードマンが、モンスターっぽい納得をしていらっしゃいます。やっぱり故郷は沼とかなのだろうか。
「わからないでも、ないです。
でも、この街は十分安全なのでは?」
「平和すぎるくらい平和な国のもやしっ子ですみません」
多分ファンタジーな世界の人間からすると、この街は平和すぎるほど平和なんだろう。
だが、高速道路を歩くような感覚ですよ。こちらとしては。
「自分を鍛えようって発想はないのかい?」
「鍛えてなんとかなるんですかね?」
同じ人間が相手なら方法もありそうだけど、天災と何ら変わりのない存在がうようよしている街なんですよここ。
「なるんじゃないかね」
しかし、おばちゃんの答えはドストレートな肯定だった。
「あんたと同じ人間種が、オーガとやり合っているのは以前見たね。
あんたよりかは鍛えてはいたけど、魔法とかは使っていなかったよ」
「それ、本当に人間なのか?」
世界によっては某有名少年誌な住民も居るだろうし、当てになる情報とは思えないのだけど。筋トレしてマッチョマンになってもドイルフーラさんと対等に力比べできるわけがない。
しかし振り返って道を見れば、人間種は他の種族に比べて比較的多い。むしろ三割以上は人間種ではないかと思われる。その人たちの多くは探索者として町の外に出て、別の種族の人たちと肩を並べて戦っている。俺の世界の住人が一際弱いということなのだろうか?
「この世界の特殊ルールのおかげにゃよ?」
「へぁあっ!?」
変な声が出た。
突如背中にぴとりと張り付き、耳元に囁かれるアニメボイス。そしてこの独特の語尾。
気配も足音も、ついでに重さも無く、猫娘が俺の背中から腕を回し、首にぶら下がっていた。
「なーになになに? 男の子しちゃってるのー? 英雄願望?」
純白の酒場の臨時応援、自称人妻猫娘のアルカさん。
突然現れた彼女は、とても楽しそうにそんな事を問いかけてきたのだった。




