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●一章-20.立ち位置

動画が一応終了して気が抜けていたら一週間経過していた。

最低でも週1で行こうと思います(=ω=;

あと一章のラストです。


●前回のあらすじ

・シノさん超凄い

・管理組合に機密保護される模様。

・休みの日に図書館行ってこい

-fate アキヒト-




「お疲れさまです。

 何事も無く終わって何よりですね」


 イベント郵便配達三日目も無事終了。

 少しだけ懸念していたダイアクトー三世の襲撃も無く、配達を終える事ができた。


「ええ。お祭りの事、結構広まっていましたね」


 今日は大小ある中規模な企業や団体が対象だった。

 ちなみに企業の大半は商事、貿易を取り扱っている。というのもサービス業関連はクロスロードが町の管理として一手に引き受けており、残るは各種小売店、飲食業か夜のお仕事関連くらいしか残っていな い。

 その前に基本となる一次産業、二次産業はどうなっているのかというと、クロスロードには存在していない。

 一番の理由は『土地が無い』。すでに区画整理を終えたクロスロードの中に大規模農場も大規模工場も立てるスペースは存在していないのだ。

 では町の外ならどうかというと、怪物の脅威があることはさておくにしても、一次産業は実際に確かめて失敗したらしい。なんでも肥料を撒いても魔法を使っても町の外で植物が根付くことは無かったらしい。

 この世界の植物しか受け付けないのかといえば、そもそも『この世界の植物が扉の園の茨以外に見つかっていない』というのが全てだ。

 そう、この街をぐるりと囲む壁の向こうには草木の一本も生えていない不毛の荒野が広がっているのである。少なくともこれまで周囲100キロメートルにわたって調査がされたが人工物はおろか、自然物でさえサンロードリバー以外見つかっていない。

 もし木を見つけたらドライアードやウッドマンという系統の怪物と疑えというのが探索者の常識になっており、もし原生種なら発見をフイにしかねないのだが、その心配すらもう探索者の口に上がる事が稀だという。

 何もないと言っても過言でないこの世界。水を除いた唯一の物資補給元こそが皮肉にも怪物だ。それこそゲームのような話だが、多種多様な怪物の中には様々な用途に使える物資が取れるとあって、それの買い取り、輸出を行う企業もいくつか存在している。


 その他ではチームを組んで戦う傭兵団や戦士団、その係累で警備会社が目立つ。飲食チェーン店もありそうだなと思ったが、町の開発初期に多くの飲食店ができたため、またマニュアルでは対処できない事例が多すぎたために展開しなかったらしい。バイトの面接に受かったら勤務地が異世界ってラノベだな。うん。


「騒ぐ感じの娯楽はまだ少ないですからね。

 ケイオスタウン側にはコロッセオがありますが」

「コロッセオって……闘技場ですよね?」

「ええ。結構見ごたえはありますが、血が苦手なら避けた方が良いですね」


 うわ、と思わず顔をしかめる。血を見て気絶するほどではないが、積極的に見たいとは思わない。むしろ自分の惨状を思いだしそうで嫌だなと。でも、死ななきゃ治してもらえそうだから、派手な戦いをやっていそうである。リアル格ゲーの世界だよな、きっと。ダイアクトー三世なんて普通に屋根の上までジャンプしてたし。


「戦うなら、外で戦えばいいのに」

「防衛任務は怪物と当たらないこともありますからね。

 戦いが文化だったり、儀式だったりする人たちも居ますから、そういう人たちのために作られたそうです」


 何その物騒な文化……。

 ゲームみたいに常に敵が湧き続ける世界とかだろうか……ってこの世界もそうだっけ。密度は違うけど。


「色々あるんですね」

「色々ありますねぇ。さて、今日はあがって結構ですよ」

「はい」


 本日分の給料を受け取る。いや、ほんと。一気に桁が増えた。こんなにもらって大丈夫かとも思ったが、一通あたりの郵送料は日本と比べようもなく高く、宅急便までは行かない程度だ。足が出るようなことは無い。

 オフレコで教えてもらったのだが、今回の大量配達についてはイベントへの協賛込みで割り引いているらしい。それでも数が数だ。シュテンさんお金持ちだなとしみじみと思った。桃太郎ってどれだけの宝を持ち帰ったんだろうか。それは違う鬼か。


 さっと着替えを終わらせると挨拶をして事務所を出る。

 流石に配達数は多かったのですでに夕方。外に出ていた探索者の多くが戻ってくる時間だ。多種多様な人々が行き交うこの光景にもすっかり慣れた。


「シノ。夕飯どうする? いつもの所でいいか?」

「はい。お任せします」

「……シノ、味の好みとか無いのか?」


 いつものお任せ発言が出たのでいつも通りのルートを歩きながら、問いかける。


「美味しい物は好きです」

「……辛いとか甘いとかの差は?」

「痛いのは嫌ですね」


 辛いでなく痛いと感じるくらいなのは俺も勘弁である。ちなみに先日間違えて唐辛子のような香辛料をドバッとかけてしまい、食べた時の事だろう。涙目だったので取り換えてあげたんだが……水でお腹いっぱいになったくらいだったなぁ、あれ。


「コーヒーは苦手だよな?」

「砂糖とミルクを入れれば平気です」


 子供舌というほどでもないのだが、好き嫌いは無く、甘い物の方が好み。苦い物は警戒する、という感じだ。苦い物には毒物が多いから避けるべきとのこと。実際子供が苦みに敏感なのも生物的な仕組みだったっけか。保体の授業で聞いた気がする。旅暮らしのシノにとっては重要な事なのかもしれない。


「って、シノって神の遣いみたいな種族なんだろ?

 毒とか効くのか?」

「毒で死ぬ事はありませんが、一定の効果は受けます。

 痛いのも苦しいのも嫌いです」

「……そりゃそうか」


 さらっと死なないと言いましたね、この子。

 毒で、とわざわざ言っているので、どうやっても死なないわけではないのだろうけど、寿命が存在しているかは疑わしい。


「でも、それなら完全に効かなくすればよかったのに中途半端だな」

「その場合、薬も効かなくなります」

「ああ……」


 薬も過ぎれば毒となる。その反対というべきか。

 ……いや、うん。なんだろうこの違和感。


 おとといの話。シノは管理組合が注目して、その能力を秘密にするように言われるくらいの特殊な存在ということは分かった。神様にも簡単にはできないことをやってのけるというのだから相当なんだろう。

 でも、身体能力は大よそ人間と変わらないように思える。食事も必要だし、夜遅くなると、眠気に負けてふらふらしていることもある。


 シノを創った神様はシノの事を凄いと認識していないということだろうか?


 ……実際、この世界に来る間際、シノは迫害されていたと言う。大事にしていたようには思えない。俺の世界に一緒に来るかと聞けば喜びの感情を見せたくらいだし。


「どうかしましたか、アキヒト?」

「あー、えっと。今までの護衛の人、シノの事どういう風に扱っていたのかなって思って」

「……」


 足が止まった。振り返って見ればほんの少し眉根が寄っている。


「アキヒトは今まで通りで良いと思います」

「……偉い人扱いは窮屈?」

「今は滑稽だったと感じます」


 透き通るような瞳が俺を伺うように見上げる。


「そんなに嫌?」

「悲しいです」


 胸にグサッときた。

 何の思惑も無い、純粋な感情というものにこれほどの攻撃力があるとは……。思わず胸を押さえてしまう。


「わ、悪い。そんな風に扱うつもりはないから」

「はい」


 あっさり頷き、すたすたと先を行く。館長が言っていた通り、感情が長続きしないだけなのか。こちらとしては意地悪のつもりも無いので今の反応の方がありがたい。

 早足に追いつき、横に並ぶ。


「どうして急にそんなことを?」

「世の中、地位相当に扱われないと不満に思う人も居るからな」

「……心当たりはありますが、私は違います」

「了解」


 何か思いだしたのか、再び不快そうに寄る眉根。貴族がどうとかって言ってたし、居たんだろうなぁ、そういうヤツ。

 結論としては、とりあえず「このまま」ということで。


 空を見上げる。

 まだ夕暮れだが月は地球よりも大きくその姿を示し、地上を照らす準備をしている。今は半月。どうやら満ち欠けはあるらしい。しかし、星に詳しくない俺にとって空は自分の居場所を教えてくれるものではないようだ。


 今、俺は異世界に居る。

 本当の俺は死んでしまったようなものらしいけど、今の俺にとって気にしても仕方ない事だ。いつか、素知らぬ顔で家に帰る事を目指して明日もそれなりに頑張るのだろう。


「アキヒト?」


 小首を傾げる少女を連れてかどうかは分からないけど、言い訳は今のうちに考えておくべきだろうかね。


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