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●一章-17.イベントのお知らせ

書くことは山ほどある。

展開にも困っていない。

困っているのは、自分の表現力SA☆


※前回のあらすじ

・妖怪種の本拠地へ

・酒呑童子と茨木童子

・威圧で死にそうになったのですがそれは。

-fate アキヒト-




「おかえりなさい。どうでしたか?」


 戻ってきたロウタウン営業所。ダンボール箱を空いている机に置いた俺は、そのまま崩れるように膝をつく。思いだしたらまた膝が笑い出した。


「……死ぬかと思いました」


 俺の行動と返答にトミナカさんは笑みを凍り付かせ、俺とシノを交互に見る。


「あー、虫の居所でも悪かったのですか?」

「……ドイルフーラさんと間違えまして」


 ああ、とトミナカさんが苦笑いを浮かべる。どういう状況になったのか察したらしい。


「教えておいてほしかったですよ」

「いや、君がドイルフーラさんを先に知っていると思っていなかったからね。

 なるほど、同じ服で並ばれたら私も区別できる自信はないが」


 朗らかに笑っているが、こちらとショック死しかねなかったんですよ……?


「まぁ、彼は本気で怒ってないよ。

 もし彼が本気で怒ったのなら、ヴェルメの防護すら通用するか怪しいね」

 

 席を立ったトミナカさんが手早くコーヒーを淹れる。なんとか立ち上がった俺にはそのまま渡したが、シノには少し考え、砂糖を二つほど入れて渡す。


「彼も妖怪種の本拠地でまさか人違いをされるとは思っていなかっただろうね。

 あそこには結構な数の妖怪種が住んでいるし、流石に笑って済ませられなかったってところか」


 確かに建物は多くあったが、出会ったのはシュテンさん、イバラギさんと門番の石像くらいだ。他に妖怪種が居たのだろうか。全く気付かなかったけど。マッハババアは特区の外なのでノーカウントで。


「すぐにイバラギさんが取り成してくれたんじゃないかな?」

「確かにそうですけど……」

「彼には私からも謝りを入れておくけど、必要ないかな。

 君、気に入られたようだよ」


 言ってトミナカさんが自分の右耳の下くらいを指でとんとんと叩く。なんだろうと目を凝らせば伸ばした三角形のような赤い痣がそこにある。


「君にもこれ、付いているよ。しかも二本。

 イバラギさんが初めて会った人にそれを付けるとは珍しいね」


 自分の右耳の下あたりを撫でるが特に変わった様子は感じない。トミナカさんが胸ポケットからスマートフォンを取り出し、写真を撮って俺に画面を見せてくれる。確かに右耳の下あたりにトミナカさんにあるような痣が2つ付いていた。余程注視しないと気付かない程度のものだ。


「これが付いているとどうかなるのですか?」

「大よその妖怪種は君にちょっかいを掛ける事が無いね。

 あと、酒に強くなるらしいけど、これについては私もよくわかってない」


 それは、元々鬼に誘われるほどの大酒飲みだから、ってことだろうか。


「酒は飲んだこと無いですね……」

「おや珍しい。って、まだ未成年だっけ?」

「ええ。大学一年です」

「その辺りはきっちりしているのか。珍しいね」


 それについては友人にも言われたことがある。煙草ならともかく酒についてはどこも結構緩いらしい。勿論大っぴらに飲酒を喧伝したりしないが、仲間内の集まりで普通にビールをあけているやつは普通に居た。

 

「いや、俺、酒に滅法弱いんですよ……。洋酒の入ったケーキで前後不覚になるくらいに」

「それはまた極端だね」

「ええ」


 なにしろそのビールを空けてたやつの傍にいただけなのに「お前も飲んでるの?」と言われたほどだ。顔が真っ赤だったらしい。


「未成年者に飲んで確認しろとは言わないけど、丁度いい具合になったのかもね。

 まぁ、この街で未成年もあったものじゃがないが」

「人並みになったのなら、嬉しいですけどね」


 親父に「お前と酒を飲むのは無理そうだな」と残念そうに言われた身としては、地味だが有り難いかもしれない。


「さて、話は変わるけど」


 と、トミナカさんは机に置いた例のダンボール箱を開封する。

 そこには結構な数の封筒が入っており、一番上のものに『エンジェルウィングス ロウタウン営業所殿』とあて先が書かれている物がある。

 ペーパーナイフで開けばA4サイズの紙が折り畳まれて入っていたようだ。さっと目を通し、それから俺に寄越す。


「ウォーカーズナイト?」


 A4サイズのそれはまるでアマチュアバンドが貼り出すポスターのようだった。黒を基調にしたややおどろおどろしい雰囲気ながらも、コミカルさのあるデザインだ。


「ハロウィンパーティに近いものですかね。

 それを妖怪種主体で大体的に行うとのお知らせですね」

「妖怪がハロウィンパーティですか?」


 それはどちらかというと百鬼夜行ではなかろうかとも思うが、妖怪種以外も仮装などをしてウォーキングパレードに参加可能とのこと。確かにハロウィンパーティだこれ。

 ちなみに本当のハロウィンは日本のお盆のようなものらしい。お化けの恰好をするのは同時期に彷徨う悪霊や魔女から身を守るためだとか。こういう風習は地球世界に限らず存在するそうで、その時には顔を隠し、身を隠し、死者に連れ去られないようにするというところも共通するとの事。


「でも、管理組合でなく、どうして妖怪種が主催するんですかね」

「彼らにとって必要になる行事だからでしょうね。

 彼ら妖怪種は神種と同様、『認識され、想われる』ことが必要なのだそうです」


 驚いたことで嬉しそうにしていたマッハババアを思い出す。あれ、ドッキリ成功で笑ってたんじゃないのか。


「神種の場合は信仰。妖怪種の場合は畏れ。一部の魔族系や悪鬼悪霊の場合は恐怖や悲しみといった感情を受ける必要があるのだとか」

「不便そうですね……」

「それでもこの世界では随分と緩和されるそうですよ。普通の食事で維持できる程度には。

 ただ、無いよりはあった方が良い物だから、盛大に回収する方法として催したいのでしょう」


 しかし、ハロウィンパーティになってしまって『畏れ』とやらを回収できるのだろうか? 笑って済ませてしまいそうなものだが。


「夜道を歩けば『誰かが付いてきているかもしれない』。

 何か物音がすれば、『何かが潜んでいるかもしれない』。

 その『かもしれない』に名前がついたものが妖怪種だと言われています。『現象の精霊化』と定義する人も居るそうです。

 そしてその『かもしれない』という思いが『畏れ』なんだとか」


 幽霊の正体見たり枯れ尾花、だったか。その枯れ尾花に名前が付いたものが妖怪種。そしてそれが存在すると知ってしまえば、同じ状況に遭遇するたびに「それ」かもしてないと考えてしまうだろう。

 実際、後ろから何か追ってきたらマッハババアを疑うよな。今の俺。


「百鬼夜行とはまさにそれが目的だったらしいですよ。

 妖怪は居る。たくさん存在し、潜んでいる。

 それを知らしめることが、彼らの存在を助けるのだそうです」


 そのためのお祭り、か。

 

「じゃあ、明日からこれの配達になります。

 期日は一か月後のようですし、まぁ、三日くらいに分けて配達しましょうか」

「はい。じゃあ、今日は上がりで」

「ええ。ご苦労様でした」


 と、シノが俺の服を引っ張る。


「どうした?」

「診察の日です」

「……あ、そうだ」


 完全に頭から抜けていた。そうか、もう明後日か。


「明後日でしたか。

 申し訳ないけどこの量ですからね。午後からでも出られたらお願いします」

「すみません」

「いえいえ。あらかじめ聞いていた件ですからね。私もすっかり忘れていましたよ」


 館長にある程度解き明かしてもらったとはいえ、命に係る事だからないがしろにするわけにはいかない。


 たった五日。されど五日。

 死ぬような目にも遭ったけど、なんとなく馴染んできているのは喜んでいいのだろうか。

 まぁ、まずは明日できる限り配れるように頑張ろう。

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