●一章-14.ケイオスタウンへ
スローペースですが、戦闘&ダークサイド話中心の話を同時展開中デス。
『EXPLORER's~影を逝く者達~』
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※前回のあらすじ
一日目の仕事終了
〇Dコンポ購入。みんな知ってる?
-fate アキヒト-
「今日もお疲れ様です。快調だったようですね」
「ええ」
仕事二日目が終了した。
特に問題らしい問題は発生せず、14時頃には配達が完了。昨日の詫びも兼ねて一時間ほど適当にうろついて帰還してきたところだ。
「ヴェルメが無茶を言っていませんか?」
「逆に気を使ってもらってます」
「なら良かった。
……ああ、まだ時間はありますか?」
「え?」
PBを返そうと腕に触れていた俺はトミナカさんの言葉に顔を上げる。
「もしもう少し仕事ができるなら、一つ受け取りをお願いしたいんですよ」
「ええ、急ぐ用事は無いはずです」
シノの方をちらりと伺うと、頷きを返す。今のところ用事らしい用事はマッチョメンの所に行くことくらいだ。
「で、場所なんですが。
ヴェルメと一緒なら大丈夫と思いますが、ケイオスタウン側なんですよね」
「え?」
特に用事もなく、行かない方が良いとさえ言われていた町の北側。
「ああ、といっても、ニュートラルロードからそんなに離れていませんし、すぐに特区に入るから危険は……それほどありませんよ。運転はヴェルメですし」
「気になる言い方ですね?」
トミナカさんの目は笑っているので冗談交じりの脅かしと思うけど。
「行ってもらいたいのは妖怪種の特区、その元締めが住む家です。
結構な数の手紙、と言いますか、ダイレクトメールみたいなものを配信したいそうでして」
「妖怪が、ですか?」
妖怪は世のしがらみに捕らわれない的な歌があったと思うが、世界が変われば妖怪も変わるのだろうか。確か純白の酒場に居たアルカさんも猫又とか言ってたっけ。
「ええ。詳しくは聞いてはいませんが、話を聞く限り、ウチ宛のものもあるみたいなので、受け取ればわかるでしょう」
「特区って、その場所の特別な法律がある地域でしたよね。
その妖怪の特区はどんな法律があるのですか?」
「アタゴ君は色々とマメに調べているようですね。
いや、その質問が来るとは思っていませんでしたよ。さて、どう答えたものか」
「気になる言い方しないでくださいよ」
特区に指定されているのならPBに問い合わせれば答えは出る。
だがそれよりも前にトミナカさんは答えを口にした。
「『妖怪種の特性上の行為により生じた問題は妖怪種にてその処遇を判断する』というものですね」
拙いながらもそこは日本人。怪談話の10や20は脳裏に浮かぶ。
「それは……脅かしたりとか、ですか?」
「ええ。死に繋がるような特性持ちは特区側のルールで規制がありますから、PBの案内に従っておけば大丈夫です。
そう身構えずにお化け屋敷にでも良く気持ちで行ってください」
それで『運転はヴェルメだから』か。
確かにヴェルメなら……ん?
「ヴェルメが驚くとかいうオチは無いですよね?」
「……それは盲点でしたね」
「ちょっ!?」
この二日の付き合いで分かったことだが、はっきり言ってヴェルメの方がシノよりも感情表現が豊かだ。はっきり言ってシノの方がドッキリには強いと思う。
「とはいえ、驚いたから制御を失敗するようなことは無いと思いますよ」
「そう願いたいですね。
今からすぐですか?」
「はい。場所はヴェルメも知っていますから。
今日は受け取ってくるだけで構いません。仕分けもありますしね」
「わかりました」
俺たちは踵を返して裏の車庫へ。点検を始めようと工具箱片手のミュスフェルさんと鉢合わせする。
「何か忘れものか?」
「トミナカさんから、妖怪種の特区に集配に向かってもらいたいと言われまして」
「あー、なんかそんな通達来てたっけか。今から行くのか?」
「ええ。そういう指示です」
「わかった。じゃ、こっちは後回しだな。あそこらなら変な事も無いだろうが気を付けてな」
やはりケイオスタウン側だからだろうか。そんな言葉を受けつつヴェルメの傍まで行けば、話を聞いていた彼女はすでにエンジンを再始動させている。
「そういうわけでよろしく」
「わかったよ」
シノの補助をして、自分も乗り込むとこちらがしっかりとハンドルを握る前に急発進。目に入る光景とと体にかかる力が一致せず、最初は取り乱したが、これにももう慣れた。
あるかどうかわからないけど、将来普通のバイクに乗る事になった時が怖いとは思うが、その時はその時だ。
ニュートラルロードに出て北上。速度は時速100キロをあっさり振り切るが、広いこの道では危なげもない。
「そういえばアンタら、あっち側には渡ったことは無いんだっけ?」
「ああ。危ないから用が無いなら行かない方が良いって」
「まぁ、騒ぎの発生数はあっちが段違いに多いしね。
じゃあ、橋も見た事が無いのか」
「橋……ああ、そっか。川があるんだよな」
サンロードリバー。クロスロードを東西に横断する巨大な運河。そこを陸路で渡るならば橋があって当然だろう。
「じゃ、行きは木の方にするかね」
ヴェルメの発言を訝しがっている間に入市管理所前に到着。左右に分かれる道を左折する。扉の園を迂回するように伸びる道をしばらく走る。
「なんだあれ? 教会?」
川よりも先に目に入ったのは巨大な白亜の建造物。
いくつもの建物が連なり、荘厳だかカオスだか分からないシロモノになっている。
「聖魔殿だね。
宗教派閥とかメンドクサイから、全部そこでまとめてしまえって感じで作られたらしいよ」
「良くそれで納得したな……」
歴史の授業で学んだ血生臭い宗教戦争はこの世界には無いらしい。
「納得してないのが騒動を起こしたりしているね」
前言撤回。どの世界も同じようだ。
『神聖なる』という言葉にどこか虚しさを感じていたのだが、橋へと突入するとそれも一気に吹き込んだ。
「これ……」
「これが西側の橋、名前はそのまんま『木の橋』だね」
確かに木の橋である。が、『木材で作られた橋』ではなく、『生きた木が橋の形を形成している』のだ。それなのに道の面は凹凸すら感じさせないほどの平面で、路面電車のレールが当たり前のように続いている。一方欄干からは枝葉が伸びて、夏に近い日差しを存分に受けていた。
「これ、なんで凸凹にならないんだ?」
「凄い精霊術師が作ったって言われているけど、PBにも情報は無いらしいね」
大図書館に引き続き第二の謎物件らしい。
「東側もこうなのか?」
「あっちは……まぁ、お楽しみと言うほどでもないか。
石の橋と言って、名前の通り石造りの橋だよ」
へぇと右側を見れば扉の塔がその威容を示しており、その姿を確認する事は出来ない。
それよりも、扉の塔がサンロードリバーをせき止めるように水の中へ続いている姿に違和感を覚える。塔の幅が川幅とぴったりなのだ。
「あれ、水が通る場所があるんだろうけど、それでも水の流れは悪くなるよな……?」
これだけの水量だ。少し流れをせき止めただけでも東側では相当な水量が川から溢れてしまうのではないだろうか。
って、そもそも扉の塔そのものが、耐荷重とか軽く無視した不思議物質。水も何か分からない理由でせき止められることなく流れているのだろう。不思議パワー。不思議パワー。
わずか数日にしてこの世界にも慣れたなと、皮肉気な感想を浮かべている間に橋の終わりと、扉の園に沿って迂回する道が見えてくる。
少しの緊張。さて、ケイオスタウンとはどのような場所なのだろうか。




