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●一章-12.守護者

今回上げた量の十倍は書いて、消してを繰り返しました。

まだちょっと首を傾げています。

難しい。本当に難しい


※前回のあらすじ

 いや、死んだとか言われましても俺は俺ですし。

 ……あれ? 割り切り過ぎですかね、俺。

-fate アキヒト-




 目の前には湯気を立てるコーヒーが一杯。

 こっちの世界に来てから喫茶店とコーヒーにやたら縁があるよなと。


「そこらでコーヒーを見ますけど、何か理由があるのですか?」

「カフェイン中毒じゃな。文明的に刺激物が少ない世界も多いからハマる輩が多いんじゃよ」

「えっ?」


 中毒という単語はインパクトが強いが、カフェイン中毒なんて日本でも良く居る……自称する人は多いけど、医者にかかったって話は聞かないようなシロモノだ。登山家が山でコーヒー淹れるとかあるし、似たような活動をする冒険者には人気が出てしまうのだろうか。


 さて、このコーヒーを淹れた人である菅原道真さんは館長なのにこの喫茶店の店長でもあるらしい。しかし堂に入ったエプロン姿といい、他に店員が居ないことといい、どう見ても図書館の方はサンドラさんに押し付けて、こちらをメインにしています。

 先ほども楽しそうにCMか何かで見た事のあるポットを高く持ち上げてカップに注ぎ込むアレをやっていた。何の意味があるのかと問うのは不興を買いそうなのでやめておく。


「それにしても、随分とおぬしの方は余裕があるではないか。

 そちらのお嬢ちゃんは蒼白だと言うのに」


 ちらりと、正面の席に座るシノを見れば、膝をじっと見続けたまま身じろぎすらしない。

 白い肌は完全に血の気が失せて青みがかっているようにすら思える。


「余裕というより、お手上げなんですよ」

「少しは自分で考えた方が良いのでないのか?」

「昨晩悩みました」


 自分が深入りしないようにしていたこともあって、結論を出すにはヒントが少なすぎて断念したわけですが。


「あまり突っ込むべきじゃないのかなって最初は思っていたんですよ。

 でも、100メートルとはいえ、思ったよりも近くに居るって感覚がですね」

「耐えられなくなった、か?」

「何も考えないようにするには距離が近かったです」


 昨晩のあの謎沈黙時間が無ければ、次の診察まで先延ばしにしていたのかもしれない。


「初対面で申し訳ないんですけど、館長はそういう相談に乗ってくれそうだなって感じたのもあります」

「ほっほっほ。

 確かに、そういう相談役をしておったこともあったがの」


 高校時代、定年間近の先生がよく相談を受けていたのを思い出す。何と言うか、相談しやすい空気を持っているのだ。


「巻き込んで申し訳ありませんけど」

「良い良い。年寄りにしか分からない事は確かにある。頼る事は決して悪い事ではない。

 が、しかし……」


 自分の分の……そっちは緑茶ですか。を手に席に加わった館長がシノをじっと見る。


「シノ君。女性にこれを聞くのも何だと思うがね。

 おぬし、何歳じゃ?」

「……一時稼働不可能状態もありましたので正確ではありませんが、稼働開始から2700年ほど経過しているはずです」


 ……

 …………にせん?


「わしらよりもずっと年上じゃな」


 館長はあっさり受け入れてますけど、三千歳近いって意味だよな?

 三百年を四捨五入して良いのかどうかってレベルだけど。


「シノって、俺よりも年上だったのか……」

「年上とかそういう次元ではないと思うがのぅ。

 それに、ある意味年下と思うが……」

「ある意味って?」

「精神年齢的に、じゃな」


 確かに、シノが年上の可能性を一度は考えたが、その後の立ち居振る舞いからそんなことは頭から消えていた。基本、行動が幼く感じるのだ。


「さて、シノ君。アタゴ君に掛けた術式を、『今』、他の者にも施せるかね?」

「……いいえ」

「じゃろうな。

 うむ。大よそ事情はわかった」


 頷いて茶を啜る館長。


「分かったんですか?」

「こういうものはテンプレじゃからな。特に神種に係る事象はテンプレが当てはまる場合が多くての」

「テンプレって、お約束って意味ですか?」

「そうじゃよ?」


 真面目に頷かれて言葉に窮する。冗談ではない、らしい。


「使徒というものの多くは与えられた役目のみにまい進する、いわば単一作業のロボットじゃ。

 例えば自動掃除ロボに気分で仕事をさぼられては困るじゃろ?」


 あの円盤のヤツですか。「今日は気分じゃないのでお休みします」とか主張する機能を付けられても困る。面白いかもしれないけど、そんなのは初めのうちだけだ。


「次に、アタゴ君の魂の状態を見る限り、彼女の守護者を作る術は本来『空っぽになった死人に魂を分け与える』ものじゃろうな。使い捨ての分身を作るようなものじゃ。

 だがその際、対象に魂の残滓があるなら、それを一旦自分に取り込んでしまうのじゃろう。

 おぬし、アタゴ君の記憶を閲覧できるじゃろ?」

「はい」

「ちょ、まっ!?」


 館長の言葉を理解しようとしていた俺は椅子を倒す勢いで立ち上がる。 

 俺の記憶が見れる? マジで!?


「み、見たのか?」

「積極的に確認はしていません」


 まずはセーフ?

 いや、いつでも開けられる箱をそっとしておいているだけ、という意味に過ぎない。

 こちらと特殊な性癖やら趣味やらを持っていたとは思っていないが、思春期を駆け抜けた頃のアレやコレやら、女の子に見せてはいけない事の十や二十が脳裏を過るわけで。


「ふ、封印でお願いします」

「……? はい。

 人の記憶はみだりに見るものじゃない、と分かっています」


 ご理解いただけて幸いですが、何の解決にもなっていない件。


「話を戻ずぞ?

 シノ君の精神年齢は非常に幼いが、ここ数日で感情を得たとも思えぬ。

 前任者がアタゴ君と同じく死者でなく死に掛けで、その魂を取り込んだことで感情を得てしまったというところじゃろうな」


 二千ウン百年の記憶はあっても、ほとんどが情感のないロボット状態だった。

 目の前に居るシノが始まったのは前の守護者さんを得てからってことか。


「シノ君は前の守護者を作ってしまい、己が感情を得た事を『失敗』だと考えておるのかね?」

「……はい。結果、私は間違いました。主の使命を果たせず、彼女も失うことになった。

 なのに、私はまた、彼女と同じ存在を作ってしまった」

「それが、俺か」


 失敗と言いつつ大切な人だったのだろう。いや、大切という感情を教えてくれた人、かな。

 その人を失った直後に死に掛けの俺を見つけてしまって……


「代謝行為としてアタゴ君を助けてしまった。使うべきでないとした術を再び使ってしまった。それがもう一つの罪悪感じゃな」


 予想をはるかに超えて重い話に何と言っていいかもわからず、コーヒーカップを手に取る。苦みが舌を撫で、熱が胃に落ちるのをゆっくり感じながら言葉を探すが見つからない。


「爺から言わせてもらえば、その感情を大切にしなさい。じゃな」


 困惑の視線が館長に向けられる。


「思い出せば苦しい、悲しいと思うが、長続きしない。

 喜ばしいことがあればそれらを忘れたかのように喜びを感じる。その喜びがまた苦しみを誘発する。

 そんな感じじゃろ」

「……はい」

「今のおぬしにはそれをどうにかすることはできん。

 だからその一瞬一瞬の感情を大切にしなさい。そうすれば、いずれ答えは出る」

「……そう、なのでしょうか?」

「実例を多く見てきたからの」


 その一言には確かな時間の重みがあった。


「付喪神系とよく似ておる。長い時を経て周囲で起きた事は知識としてあるが、感情としてうまく表現できない。持ち主を失った悲しみは思い出せば湧き出してくるのに、別の事に気を取られれば霞のように消えてしまう。それに悩む者は多くてのぅ」


 生まれた時から泣き叫び、我儘を言って笑って怒られて成長する人間には分からない感覚なんだろう。


「この世界に到った以上、おぬしを縛る役目は存在していないはずじゃ。

 儂から言えるのは、素直に感じて、素直に表現しなさい。

 そうすればいずれ、おぬしがうまく掴めない「それ」が分かるようになるじゃろう」

「……本当、ですか?」

「保証しよう。

 詩歌を詠んでは情緒を謳い、怒りに任せれば都を恐怖に陥れ、日本三大怨霊とまで言われた儂の感情論は生半でないぞ」

「……それ、誇っていい話なんですかね?」


 野暮な突っ込みをするでないと窘められました。


「で、アタゴ君や」

「え? はい」

「人間種は感情をあまり大きく見ぬが、憤死という言葉がある通り、感情とは制御を外れれば己すら殺しかねんものじゃ。

 彼女を良く見てあげなさい。今のおぬしは彼女の守護役なのじゃからな」

「……わかりました。って言っても非モテには荷が重いですね」


 苦笑いと共に言うと、館長は少し眉根を寄せ、神妙な面持ちになって俺に顔を近づける。


「ちなみに、未成年じゃないとわかったからと手を出さんようにな」

「いきなりなんですか!?

 流石に見た目中学生に手を出したりしませんよ!?」

「ほっほっほ。合意の上なら問題はないが、今のシノ君はそれを判断できんと見えるからの」


 と、不意に視線を感じて振り向けば、シノがじとりとした目でこちらを見ている。


「え? シノさん何か?」

「……アキヒト。子ども扱いはどうかと思います」


 あ、そこは不満に思うのですね。

 しかし、館長の言う通りシノの表情にはほんの数分前の沈痛さは微塵も見られない。薄々感じていた違和感はこれだったんだなと再認識する。


「って、シノ。中学生って単語はPBで調べたんだよな?」


 そっと、視線を逸らすシノ。


「……お互いのこれからのために、もう少し話し合おうか」


 もう少しここを使わせてもらう必要があるようだ。

 役目は終わったとばかりに席を立つ館長に軽く会釈をして、俺はシノへと向き直るのだった。

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