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●一章-10.大図書館の司書長と館長

登場キャラクターの半分くらいは、かつてTRPGで使ったりPBWで使ったキャラだったりします。


※前回のあらすじ

 自分の世界に手紙を送れるのでは?

 ……って何書いても警察沙汰ですよね?

 とりあえず受け取りました。仕事に戻ります。

-fate アキヒト-




 クロスロードをサンロードリバーとニュートラルロードで四分割して、その南東側ブロックのほぼ中央が本日最後の配送先だった。路地というには大きな道を快調に飛ばしているとすぐにその建物が見えてくる。


「大図書館、か……

 『大』って付くだけあってでかいな」


 高さこそ3階建てほどだが、広さはかなりあるようだ。まだ数百メートル先ではあるのだが、周囲が住宅地なのでその威容は十分に見える。

 他の家々と違ってどこか古めかしさを感じるのは外壁に植物が絡みついているからだろうか。……中央のビルなんかも新しかったのだが、なんでこの建物だけ年季を感じさせているのだろう。確か特別な建築は受け付けないって話じゃなかったっけか?

 一応PBに確認したところ、回答無し。


 ……回答無しって、管理組合の管轄じゃないのか?


『大図書館は管理組合に属していますが、建物そのものの管理は司書院となっています』


 とても引っかかる回答が出てきました。

 そうこうしているうちに敷地に入る。敷地内でバイクを飛ばして良いのだろうかとも思ったが人気はほとんどない。道の両脇に立ち並ぶのは見慣れた樹木。夏を前にして青々しい葉を茂らせたそれは間違いなく桜の木だ。

 ……この世界で間違いなくって信用できないよな。


「これってピンクの花を付ける木で合っているか?」

「桜、って言ってたかね」


 当たっていました。……言っていたのはアヤカさんだろうか。

 地雷踏んだかなと気が引けているうちにエントランス前に到着。

 すると丁度一人の女性が出入り口から顔をのぞかせた。ウェーブの掛かった金髪。浅黒い肌とメリハリがしっかりついたボディ。一言でまとめると『ラテン系美人』だ。そう、また美人さんなんだ。

 女性用スーツにも似た司書の服は単体では大人しいデザインなのだろうが、胸やら腰回りやらの主張が激しいせいで別の何かにしか見えない事は心の中にしまっておこう。


「久々にヴェルメが来たと思いましたが……アヤカさんではないのですね」

「久しぶりだね、サンドラ」


 ヴェルメがサンドラと呼んだラテン系お姉さんは、俺を見てほんの少しだけ悲し気な表情を浮かべた。彼女もヴェルメとアヤカさんのコンビを、そして事情を知っているのだろう。


「ヴェルメだけでも元気に動けるようになったのは喜ばしい事です」

「ああ。でも諦めたような話はなしだ。あたしもアヤカを探すよ」


 どこか慰めを感じる言葉を払いのけるように、決意を込めてヴェルメが言い放つと、サンドラさんは嬉しそうに、慈愛を感じる笑みで頷いた。それから置いてけぼりの俺とシノを思い出して笑顔を向けてくれた。


「初めまして。大図書館の司書長、サンドラと申します」

「初めまして。今日からエンジェルウィングスで働くことになったアタゴと、こっちがシノです」


 後ろでシノが頭を下げた雰囲気。バイクに跨ったままというのも何なので、降車してシノの補助をする。それからボックスに入っていた数冊の本を取り出し、サンドラさんの前に立った。


「お届け物はこの本ですね」

「お疲れ様です。……貴方はここに来たのも初めてですね?」

「ええ。というか、一昨日この世界に来たばかりですので」


 あ、正確には三日前か。まぁ、大差ないけど。


「それは……行動力があるのですね」

「そうですかね……成り行きのようなものですけど」


 流されるまま、という感じだっただけだ。お金があればもう少し余裕を持って行動していたと思うし。


「おや? ヴェルメ君じゃないか」


 本の受け取りと共にPB経由の受領を貰っていると、一人の老人が確かな足取りでこちらへと近づいてきた。サンドラさんと雰囲気の同じ制服を着ているので恐らく司書院の関係者だろう。


「館長も久しぶりね」

「ふむ。その子が……新しい主、という感じではなさそうじゃな」


 館長? ネームプレートが読める距離まで近づいた老人のそれには『館長 菅原道真』の文字があった。漢字だ。

 ……って


「菅原道真って、菅原道真!?」

「む? お前さん、日本人か。奇遇じゃな」

「……え? まさかホントに神様ですか?」


 菅原道真って学問の神様だよな? いや、元々は島流しにされた役人だっけ?


「ほっほっほ。そうであり、そうでない。

 儂は『菅原道真』というイメージが集約して生み出された模造品じゃよ」


 イメージの集約? 模造品? どういうことだ?


「まぁ、深く考えんでいいわい。そうさな、同姓同名の別人と思っておけばよい」

「はぁ……」


 散々意味深なことを言われてそれは無い気もするが、考えても分からない事は明白だ。

 単なる同姓同名の別人とも思えないが……仮に彼が本物の菅原道真であっても……


「お祈りしたら頭良くなりますかね?」

「勉強しなさい」


 ごもっともな意見をありがとうございます。


「しかしヴェルメ君が動けるようになった理由は君かね?」

「それは……わかりません。俺かシノかどっちかが理由と思いますけど」


 口ひげを撫でながら俺とヴェルメを交互に見る。アヤカさんとやらと同じ、あるいは似た世界の出身だからってのはありそうなんだけど、それだとトミナカさんでも動きそうなんだよなぁ。


「ふむ? どちらか離れて見ればわかる事じゃろ?」

「それがですね……」


 と、今更ながらシノとの関係について、人に簡単に言いふらして良いものなのだろうかという疑問が浮かぶ。

 仕事上トミナカさんやヴェルメは仕方ないとしても、命に係る事だし。


「この二人、100メートルの壁で接続が切れると死ぬんだとさ」

「ちょっとヴェルメさん!?」

「大丈夫さね。それに、この人らはあんたの助けになるかもしれない」

「ほっほっほ。それは買い被りが過ぎるわい。

 それにしても、随分と奇妙なことになっておるようじゃな。どれ、知識を頼られたとあっては少し節介でも焼かねばな」


 言うなり老人は俺に手を伸ばす。嫌な感じだが避けたら機嫌を損ねそうだし、甘んじて受ける事にする。

 老人の枯れ枝のような指が俺の額に触れた。次の瞬間、ぐらりと世界が揺れる。

 眩暈? いや、なんだ、これ?


「……ふむ。シノちゃんと言ったかね。

 おぬし、神種か、その眷属かな?」


 音がぐわんぐわんと頭の中に響いて煩い。頭の中で除夜の鐘を連打されているかのようだ。


「館長、彼が辛そうですが?」

「おっと、すまない」


 手が外された瞬間、バランスを保っていられずに膝をつく。車酔いした時のような吐き気が胃の中をかき回し続けている。吐くのはまずい。我慢。我慢……


「な、なにを、したんですか……」


 何度目かの波を乗り越えてようやく臨界点の突破は無くなった俺は顔だけを上げて老人を見上げる。先ほどまでの柔和な笑顔は無く、真剣な面持ちで俺を見返している。


「ちょっと君の魂をみていたのじゃよ」

「魂を、って……」


 この人、マッチョメンが言ってた『専門家』に当たる人か?


「荒魂と和魂を経験した身上、ざっくり状態を見るくらいならできるのじゃよ。

 それにしても……随分と……不可思議な状態じゃな。何があった?」


 老人の視線は俺でなくシノを睨み据えていた。シノもまた言葉を紡げずにだんだんと顔色を悪くしている。


「……俺が事故で死にかけたままこっちの世界に飛ばされたところを、シノに助けてもらったんです」


 絞り出すように告げた言葉に菅原道真は片眉を動かし、俺とシノを交互に見比べる。

 ややあって、険のある表情を緩めると、「ほっほっほ」とわざとらしい笑い声を響かせる。


「ああ、なるほど、これはそういうことか。

 得心がいった。運が良かったようじゃな」

「シノに助けてもらえたことが、ですか?」

「うむ。ただの治癒術師なら死んでおったじゃろうからな」


 マッチョメンと同じ見解、か。ちらりとシノを見ると震える瞳でこちらを見ていた。目が合いびくりと体を震わせる。

 ……次の診察まで待つのも選択だけど……


「……なんでシノがこんなに罪悪感を得ているか、わかりますか?」

「アキヒト……っ!」


 今までにない反応を見せるシノを横目に俺は館長をまっすぐ見て問う。

 いずれ分かることだし、どういう理由であっても共同生活はしばらく続くのだ。なら、早く知っておくことはマイナスでないと思う。


 「ふむ」と髭をしごきつつ俺を観察する老人は、たっぷり十数秒の黙考を経てゆっくりと口を開くのだった。

菅原道真とサンドラはガープス妖魔夜行のマイPCです。

百鬼夜翔ではありません。妖魔夜行です(遠い目

ちなみにヴェルメとアヤカはパンツァーリッターのキャラが元です

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