●一章-7.初出勤
並行して展開予定の作品も投稿しました。
時期を合わせて進行したいなぁと。
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※前回のあらすじ
律法の翼とかこの街の過去について説明を受けました。
過激派って……
-fate アキヒト-
さて、初出勤です。
え? 昨日の午後? ……まぁ、なんだ。うん。特に何もなかったんだ。
何も無くて、本当に辛かった。
うん。辛かったんだ。
「……?」
辛かった理由は二つ。
音が無い。そしてシノが喋らない。
今も俺の視線に「どうしたの?」的なつぶらな瞳で返してきているのだが、彼女の唇はほとんど音を紡がないのである。
テレビとかパソコンとか、いやラジカセでもいいから何か音があればまだ良かった。しかし現実は耳が痛いくらいに静まり返った室内でシノさんがじーーーーーーーーーーーーーーーっと見つめてくる。いくらシノが可愛くても無表情のままではホラーの領域に行きかねない。
何か言いたいこととか、主張とかあるのかもと尋ねても、首を横に振るだけ。本でもあれば視線を逃がせたのだけど、そういう類も一切ない。結局静かすぎる時間に耐えかねて。寝るには早すぎる時間だったが、自分の部屋に戻って早々に寝る事にしたのだった。
……ラジカセとか安く売ってませんかね。ラジオの機能は使えないからオーディオか。無駄な出費だけど無駄じゃない。何とかしたい。するためにもお金を稼ぎましょう。
……ああ、変なテンションになってるな。落ち着こう。
そんなこんなでエンジェルウィングス ロウタウン営業所に到着した。
「おはようございます」
「……おはようございます」
追従するように頭を下げるシノ。何やら新聞のようなものを読んでいたトミナカさんが顔を上げて「ああ、おはよう」と柔和な笑顔で応じてくれた。
「新聞、ですか?」
「はい。カグラザカ新聞社と言うところが発行していましてね。内容はスポーツ新聞に近いですが」
カグラザカとはまた日本風な名前だ。『神楽坂』だよな? 地球世界の人なのだろうか。
「それより、まず準備しないとですね」
新聞を畳んで置く。その隣にビニール袋に包まれた白いものが詰まれていた。
トミナカさんは新聞の代わりにそれを手に取ると、こちらに近づき、俺とシノ、それぞれに手渡す。
「これが制服です。そこに更衣室があるので着替えてくださいね」
ビニールの中身は白を基調にした上下の作業着。シノのも下はズボンかな。バイクに乗るのにスカートも無いだろうが。
特に見慣れない物は付属していない。というわけで、着替えたわけだが……
「……白、ですか」
「うちのカラーですからね」
自身を見下ろしながら自嘲的な笑みを噛み潰す。
どこぞのイケメンキャラが着る白ランじゃあるまいに、上下真っ白というのはちょっとキツい。
ポケットが多く、腰につけるポシェットが付属しているため作業服感がかろうじて醸し出されているが、せめて下は紺とか黒とかにしてほしかった。
「あれ? でもトミナカさんは着ないのですか?」
トミナカさんは普通の背広だ。夏が近いからか、上着はなく、シンプルなワイシャツにネクタイを締めている。
「それは配達用ですからね。
ほら、昨日言ったでしょう? いくらかの防護処理をしていると。
そこらの防弾チョッキよりも性能は良いですよ?」
トミナカさんが袖口を触るしぐさをする。何だろうと自分の袖に視線をやれば3本のラインが袖口にワンポイント……スリーポイント? として入っていた。
「何かあった時はそのラインが消える前に逃亡してくださいね。
それがその制服の耐久力のようなものですから」
よく目を凝らすとそれは模様でなく何かの文字がずらりと連なっているようだった。
あれ? 言語の加護で読めるはずなのに、まったく意味がわからない。
「これ、文字ですよね? 読めないんですけど」
「明確な意味になっていない文字は言語の加護では読めないのですよ。
それについては文字を使っていますが形が重要とかで、言葉ではないそうです」
アブラカタブラみたいなものだろうか。
袖口を撫でるようにしていると、ガチャリと扉の開く音。俺と同じデザインだが3回り小さな服を纏ったシノがちょこちょことと俺の近くに戻ってくる。
見た瞬間、浮かんだワードは「鼓笛隊」でした。「小学校の」とかいうワードは隠しておこう。
「お待たせしました」
「大丈夫だよ。問題ないか?」
「……大丈夫と、思います」
シノが元々来ていた服もズボンだったし、着方が複雑なわけでもない。多分大丈夫だろう。PBのフォローもあるだろうし。
「では、アタゴさんにこちらを渡しておきますね」
差し出されたのはPBだった。え、と思って自分の腕を見るが、落とした物を拾ってもらったわけではない。
「それは業務用のPBです。お店と自分の財布は分けておかないといけませんからね。
それから料金体系やうちのマニュアルなんかも入っています」
「……ああ、酒場にあった、お店用の情報端末ですか」
「ええ。それと同じ系列ですね。配達中に荷物の受け取りを依頼された場合はそれから料金表や注意事項を転送できます」
うわ、超便利だな……
俺はPBを受け取って空いている右腕に付ける。自前のと同じく、収縮してピタリと腕に付いた。
「それは業務の終了時に返却してください。制服も着替えたロッカーにお願いします。
定期的に加護の更新をしますので、洗濯とかはこちらでやります」
「わかりました」
「じゃあ、裏に行きましょうか」
裏口のドアを開けて車庫側へ。すると昨日と装備の違うヴェルメが待機していた。
なんか後輪の両サイドにミサイル打ち出せそうな箱が付いている。
「やっときたのね」
「おはようございます」
「挨拶はいいわ。早速行くわよ」
「行くわよって、まだ説明の途中なんですが……」
「PBに確認なさい。どうせまともに運転しないんだから」
そう言えばこの手のバイクの動かし方なんてさっぱりわからない。スクーターならわかるけど、確かもっと複雑だよな……?
「ヴェルメ。焦っても何も変わりませんよ」
「焦ってなんて……」
「当面はアタゴさんが貴方のパートナーです。主を変えろなんて言いませんが、それなりの対応はしてください。貴方も社員なのですから」
顔色と言うものは存在しないが、どことなく不満げな気配を感じる。
だが、それを飲み込んだのか「わかったわ」と、少し不貞腐れた感のぬぐえない返答。
「昨日も言った通り、俺、運転の仕方はわからないのですけど」
「問題ありません。基本的にはヴェルメが操縦、と言うか、自分で走らせます。
今日の配送ルートも先ほどのPBに登録済みですので、移動に関しては特に問題は無いでしょう」
あれ? 俺、必要ですかね? と思うが、俺かシノか、どちらかが近くに居ないと動けないから意味はある……のかな。降りた後の対応もあるし。
「荷物も積み込んでいますので、すぐに出られますよ。
何か質問はありますか?」
「……休憩とかお昼とかはどうすればいいですか? 一回戻ってきた方がいいですかね?」
「適宜自由で構いません。今日の分を今日中に、遅くとも17時には戻れるようにはお願いします。
今日は少なめにしていますので、大きな問題がなければ掛かっても14時程度には終われると思いますが」
郵便局のアルバイトをしていた時に、途中で家に帰って休憩しているヤツとか居たなぁと思い出す。
エンジェルウィングスでは日当+1通あたりの追加報酬だから、仕事が完了さえすれば、速度も休憩もお任せということか。
……まぁ、ゆっくりしようにもヴェルメさんが積極的に回転率を上げるだろうけど。
「あと、シノってどこに乗ればいいんですかね……?」
一応メインのシートは長めで二人座るには十分だが、横のボックスのせいで足が当たってしまいそうだ。
「ヴェルメの防護があるので、立ってても平気のはずです。乗りやすいところに乗ってもらえれば」
「え? どういう事ですか?」
「それは乗った方が早いでしょう」
「そういうこと。早く乗りなさい」
二人に急かされて俺はバイクにまたがる。案の定シノが困ったように周囲に視線を送っているが、さてどうしたものか。
「シノ、とりあえず俺の後ろに、同じように座れるか?」
「……はい」
てこてこと近づいてきてよじ登ろうとして、苦戦。その両脇に手を入れてトミナカさんが持ち上げてくれる。
ぽすっという音と共に俺の後ろに座ったシノが腰のポケットあたりをぎゅと掴んできた。
「シノは原則降りない方がよさげだなぁ……」
補助なしで跨るのは難しいようだ。
座席の広さはシノの体が小さいせいか、それほど窮屈ではない。元々このシートが長めに作られているのだろうか?
「ヴェルメ、お二人の事情についてはくれぐれも注意してくださいね」
「わかってるよ。じゃあ、行くよ!」
「いくよって……」
こちらの心の準備など待ってやるものかとばかりに響く、「シィイイイ」というモーターのような音。
そしてキュと、タイヤが地面を噛んだ音を出した瞬間────
「うぉっ!?」
───周りの景色が吹き飛ぶ。
「……おぉ」
シノの珍しく感嘆の籠った声音に我を取り戻す。
加速の圧が無い。風圧も無い。まるで周囲で画像が流れているように景色がどんどん後ろに流れていく。これ、覚えがある。ゲームセンターとかにある実際にまたがるバイクゲーだ。
「シノ、大丈夫か?」
「はい」
興味は景色に向かっているのだろう。とりあえず危機感とか焦りは無いようなので良しとする。
「これ、風とか全く来ないんだけど、どうなってるんだ?」
「全部弾いてるよ。アンタもアヤカと同じで風を受けないと納得しないの?」
「いや、シノが飛んで行っても困るからありがたいけど、実感が無いのは確かかな」
どういう理屈かは分からないが、「立っても平気」の意味はよくわかった。確かにこれなら座席の上に立っても問題なさそうなくらいだ。
「慣性とかどうなっているのか心配だけど。
ブレーキの時にいきなり前に放り出されるとか無いよな?」
「慣性制御とか言ってたね。攻撃とかもこれで止めるんだと」
すげえな不思議パワー。あと、自分の機能なのに他人事のように言ってるこのバイク、大丈夫だろうか。
完璧な余所見運転をしている間に知らない通りに入っていた。景色はぶれることなく相変わらず等速で流れている。
ニュートラルロードはお店ごとに個性を出しているため特徴というか、見分けがつくが、一つ奥に入った瞬間、ずっと続く同じ風景に遭遇する。チープな背景画が繰り返し流れているようだ
「そろそろ一件目だよ」
ヴェルメのアナウンス。ほんの少しだけ、彼女が配達ほったらかしで町中を駆け巡るのではないかと不安を覚えていたのだが杞憂だったらしい。
思った以上に楽な仕事になりそうだ。彼女に呆れられないように、自分のするべきことはきっちりするとしますか。




